【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったのなら(連載版)   作:taisa01

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第4話

四日目夜 カルネ村

 

 エンリ・エモットは、今は誰も居ない部屋、先ほどまでラインハルトと共にいた部屋で、一人物思いに耽る。

 エンリにとって生涯、今日という日を忘れることは無いだろう。

 

 今日の朝は、いつもの日常の延長だった。一生続くと理由もなく感じていた日常は、バハルス帝国と思われる騎士にカルネ村が襲われたことで全てが終わってしまった。今でもエンリの瞼の裏には、両親が必死に叫ぶ姿が浮かび上がる。でも震える心と冷静に俯瞰する心の二つが、自分の中にあることに気が付いたのもその時だった。

 

 村外れまで妹のネムを連れて逃げていたところで、ラインハルト・ハイドリヒ卿にお会いした。必死だった私は、何も考えず助けをお願いしてしまう。その代償はエンリ本人であったが、後悔はしていない。

 

 その後は、まさしく吟遊詩人が歌う英雄譚そのものであった。

 

 その槍で賊を打ち倒し、傷ついたものを癒やす。しかし目的のために、歩みを止めない後ろ姿。もしかしたら貴族や豪商が見るという演劇とは、このようなものなのかもしれない。

 

「は~。かっこよかったな」

 

 でも非日常は、ここで終わらなかった。

 

 賊を追って現れた王国戦士長ガゼフ・ストロノーフが到着した時、襲われた辺境の村々を罠とした策略であると言われた時、冷静な私は賞賛した。辺境の幾つもの村を贄にせねば、目の前の人を殺すことができない。ならば、人の情さえ絡めとって確実に逃げれないように実行する。そんな策略にもう一人のエンリは間違いなく賞賛していた。

 

 だからラインハルトがガゼフを説得し、二人で打って出るといった時、エンリが真っ先に反対した。

 それでは囮ではないかと。均等に配置された戦力を対処せずに動くなら、それこそ包囲の弱い森側へ一点突破か、指揮官の首だけ狙い打ちにして敵の混乱を誘発しないといけないと、まくし立てたのだ。

 

 今朝までただ(・・)の村娘であったエンリ・エモットがだ。

 

 その時、ラインハルトは楽しそうに笑いながらエンリを導いたのだった。

 

「卿の渇望は平穏でありながら才は将か。その歪さは私に通じるものが有る。ゆえにこれを与えよう」

 

 そういうと、ラインハルトはエンリに二種類三つのアイテムを与えた。珍しい模様が描かれた小さな角笛が二つ。もう一つは、赤い卵のようだが、表面には目や鼻、口がばらばらに付いている。質感から卵というより何かの種のようにも感じるものだった。

 

「まずゴブリン将軍の角笛が二つ。一つは今すぐ吹くと良い。他は常に持ち歩くように。私と共に歩む覚悟ができたら使うと良い」

「わかりました」

 

 エンリはラインハルトの言葉に一切の疑問を挟まず角笛を吹くと、森から19体のゴブリンが現れた。

 まわりの戦士は慌てて武器を取ろうとするも、ゴブリンはエンリの前にひざまづく。

 

「ジュゲム以下19名、角笛の呼び声に参集しやした。どうぞよろしく、姉さん」

「そのマジックアイテムがあれば、このゴブリン達は卿の力となってくれるだろう」

 

 この言葉に周りの者が一応に安心する。ゴブリンはいわば辺境に生きるものの敵。しかしアーティファクトで制御されているならば、少なくとも敵でないと思える。なにより、それを保証してくれたのが村の恩人ならと、皆一様に納得するのだった。

 

「では、ジュゲムさん。皆さんで森の中に包囲している人間がいないか確認してきてください。そして安全が確認できたら、戻ってきてここの防衛に協力してください」

「分かりやした姉さん。いくぞおまえら!」

「おう!」

 

 エンリはゴブリン達に、戦略の上で重要な確認を命令した。その命令する姿は、それこそ小隊長ぐらいは余裕でこなせる貫禄があった。

 

 同時にエンリも分かってしまった。自分はもう村娘のエンリでは無くなったことを。

 

 その後のラインハルトとガゼフの活躍は、ラインハルトが出撃する際に広場で発動した魔法の水晶を通して、村の全員、ガゼフの部下、ゴブリン達が一様に見守った。

 ガゼフの奮戦に部下たちは拳を振り上げる。しかし勇戦虚しく一歩及ばぬ時は悔しそうに、そしていつか自分たちも一緒に戦えるように強くならねばと誓いを立てていた。

 ラインハルトの戦いは英雄そのものであった。数多のモンスターをやすやすと退け、巨大なモンスターさえ黄金の槍で一撃で粉砕してしまった。村の人たちはその姿に助けてもらえた幸運を噛みしめるのだった。

 

 そこからは単純だ。

 

 村長は何をするのにも明日だろうと言うと、村の蓄えを一部放出し、その場にいた人たち全員参加の簡単なお祭りになった。

 

 エンリは村長の勧めという名の命令で、ラインハルトと村長の家の一室で眠ることとなった。

 

 エンリも村長の考えていることはわかっている。表向きは世話係といっても自分も子供ではない。なにより、この人だけは、もう一人のエンリを見てくれる。

 

 エンリはベットに座り、ラインハルトの方に顔を向ける。

 月明かりだけなので、部屋は暗い。しかしラインハルトの黄金の髪はまるで輝く星のように、僅かな光を反射し輝いていた。

  

 時間を忘れ見惚れていたエンリにラインハルトは声をかける。

 

「すまぬな。アインズ・ウール・ゴウンに戻る用事が出来た。夜明けまでには戻るゆえ許せ」

 

 そう言うと、まるで霞のようにラインハルトの姿は消えてしまったのだった。

 

「はい。いってらっしゃい」

 

 エンリは誰もいない部屋で一人つぶやくのだった。

 

 

 

******

 

四日目夜 ナザリック地下大墳墓 第九層会議室

 

 白亜の城を感じさせる美しい内装のナザリック第九層。

 そこに今、モモンガと守護者が集結している。

 

 いや、最後の一人が扉をくぐったのだから、いま集結したというのが正しいのだろう。

 

 巨大な円卓。その主が座るべき場所にはナザリック最高支配者のモモンガが座る。その左右には守護者統括アルベドと防衛時の指揮官を兼任する知恵者デミウルゴス。そしてシャルティア、コキュートス、アウラ、マーレと続き末席には、今部屋に入ってきたパンドラズ・アクターが優雅に腰を下ろす。そして部屋の脇には、セバスをはじめにプレアデスが並び控える。

 

「パンドラズ・アクターよ。本日の件、大義であった」

「卿の指示あってこそだよ」

 

 モモンガの言葉に、パンドラズ・アクターは礼を持って返す。

 

「では今夜集まってもらったのは他でもない、情報を共有し今後の方針を決めるとしよう」

 

 そういうと、ナザリックの幹部による会議がはじまった。

  

「まず、情報だが……」

 

 情報共有が進む。

 当面は問題ないが、スクロールやポーションなど補充がきかないものが多いこと。

 ナザリックの偽装に加え、地上における橋頭堡たる砦の建築が急務であること。

 さまざまな情報共有が進むと、本日の戦が話題にのぼる。

 

「武技という技術に興味があるが、少なくとも単体戦力で脅威になる存在は近場にいない可能性が高いな」

 

 モモンガの言葉が全てではないが、これが守護者の共通認識となった。ガゼフと陽光聖典の戦闘は、守護者全てもモモンガと見ていた。加えるならば、この場にはいないアルベドの姉であるニグレドによって、魔法的な監視・探査まで行われていたのだ。

 

 今回の戦いはナザリックが存在するリ・エスティーゼ王国最強の戦士と、隣国の特殊部隊との戦闘である。入手した情報からそれ以上の戦力はそれこそ数えるほどしかいない。そんな戦いをじっくりと観察することができ、戦力評価の基準ができたのだ。

 

「そういえば、昼前に捕らえた者の尋問の結果、いくつか重要と思われる情報がわかりました」

 

 アルベドが、カルネ村襲撃犯の尋問を行った結果を共有する。

 

「タレントに我々の知らぬ魔法、プレイヤーと思わしき存在にその子孫か」

「はい。我々が知らぬ魔法の中には、尋問し情報を漏らしそうになると死ぬというものもありました。これについては解析中ですので、少々時間がかかるかと」

「良い。臆病と思えるかもしれないが、我々はこの世界を知る必要があるのだ。事は慎重にすすめよ」

 

 モモンガはここまで言うと一呼吸を置き、全員の顔をゆっくり見る。

 

「では、今後の方針について、まずはアルベド」

「はっ」

「アルベドにはナザリックの防衛と私の補佐を任せる」

「かしこまりました」

 

 モモンガの言葉にアルベドは笑みを以て応える。なにより愛するモモンガの隣にいることができるのだ。ソレ以外の事象など塵芥にすぎない。

 

「デミウルゴス」

「はっ」

「帝国と法国の情報収集、並びにスクロールなど補充物資の代替素材の研究を任せる」

「かしこまりました」

「少なくとも、法国にはプレイヤーの残滓があるゆえ、我々に匹敵する存在やアイテムが残っている可能性さえある。パンドラズ・アクターの戦闘を監視する魔法をあえて無視して見せたのだ。必ずリアクションがある。十分に注意せよ」

「お任せください」

 

 デミウルゴスは深々と頭をさげる。ある意味二つの国を自由して良いと言われたようなものだ。しかも、片方は穴熊を決め込むことができない状況、どうすべきか静かに計算がはじまった。

 

「シャルティア」

「はっ」

「ソリュシャンをサポートに付け、近隣の盗賊などを釣り上げ、この世界の武技・タレント・魔法保有者を確保せよ」

「かしこまりました。我が君。しかしなぜ盗賊などと限定でありんすか」

「将来のためにも、現在近隣の勢力とは友好的でなくてはならない。よって、当面は社会的にいなくて良い存在を相手とするのだ。手間をかけるな」

 

 シャルティアと控えていたソリュシャンは深々と頭を垂れる。

 

「コキュートス」

「ハッ」

「武技を扱えるものを確保次第、武技の研究をせよ。また、相手は単体でなく軍隊として行動することも分かった。よって戦術行動研究や連携研究を開始せよ。防衛・襲撃・迎撃など多数のケースはあるだろうが、こと戦うことだ任せるぞ」

「御心ノママニ」

 

 コキュートスは武人であり戦うことが専門である。人間一人一人はそれこそ、吹けば飛ぶ程度。しかし今回のように作戦行動をされれば、どうなることか。負けることはないだろうが、たとえば囮作戦の隙にナザリックへの侵入を許すなど十分に予想できている。故に名誉な任務と考える。

 

「アウラはマーレの補佐をつける。時間はかかるが砦の建設を進めよ。また近隣の生態系を確認し、ナザリックの生産力を向上に有用な動植物や種族の取り込みを勧めよ」

「はい」

「かしこまりました」

 

 アウラにしろマーレにしろ、この指示は自分の能力に合ったものであると理解していた。ナザリックはある意味、計算されつくした管理環境である。従来であればソレでよかったが、今後の拡大路線を考えるならば、生産力の向上は急務。その任務の重要性を理解できるものだった。

 

「最後にパンドラズ・アクターは王国での情報収集。セバスとユリの二名を補佐とする。二人がどのように動くかはパンドラズ・アクターに一任する」

「かしこまりました」

「一つご質問してもよろしいでしょうか」

「かまわない。セバス」

「ありがとうございます。なぜ王国に3名も派遣するのでしょうか」

「ほかの守護者と違いパンドラズ・アクターには手勢が存在しない。さらにパンドラズ・アクターはプレイヤー対策や、法国や王国など外の目を惹きつける役割がある。そのためサポートする人材が必要だ」

「なるほど。かしこまりました」

 

 モモンガはもう一つ理由があるが口にはしなかった。それは、ナザリックの人間に対する感情による采配ということだ。この4日間、守護者やプレアデスと会話を続けることでわかったことだが、ナザリックの多くは異形種でありカルマもマイナスばかり。そのためか人間を下等生物または食料という見方が主流なのだ。モモンガ自身も、リアルの鈴木悟としての心の残留がなければ、先の人間の虐殺を見てもなんとも思わない精神構造となっていることを自覚してしまった。

 しかしパンドラズ・アクターは中立、セバスやユリに至ってはプラスである。人間と関わる以上、穏便にすすめるにはどちらが適任か。

 

「一つ良いかな」

「どうしたパンドラズ・アクター」

「プレイヤーの可能性があるなら、一つ探してみようと思うものがある」

「ほう、何を探す」

「ワールドアイテムとギルド武器。それらに匹敵するこの世界独自のアイテムの入手」

「なるほど」

「プレイヤーがいるなら、可能性もあろう。私も能力の関係でワールドアイテムを下賜されているが、やはり目指したくは有る」

 

 パンドラズ・アクターの提案に、モモンガは納得した。なぜなら、パンドラズ・アクターの設定に、宝物・マジックアイテムの収集を楽しむと追加したのは、紛れも無くモモンガだからだ。もともと”総てを全力で愛したい”としているが、宝物殿の領域守護者にする時、ギルメンの源次郎が「ドラゴンとかが宝を集めるのは収集癖を拗らせたから」と言っていたのを思い出し、この設定を追加したのだ。パンドラズ・アクターの言動にギルメンの残滓を見て、モモンガも少しだけ感傷に耽るのだった。

 

「よかろう。他の者も可能であれば頭の片隅に入れておくように。特にデミウルゴスは可能性が高そうだからな」

「はい」

「では、ここからはざっくばらんな会話といこうか。私も紅茶などが飲めれば良いのだがな」

 

 その指示を受け、部屋の脇に控えていたセバスとプレアデスが守護者にそれぞれ飲み物を配る。これは守護者の打ち合わせが終わった後の定例となるいわゆるお茶会である。モモンガは守護者と少しでも会話し、何を考えているのか理解するために考えだした必勝の策であった。無論、守護者達も、モモンガとの会話は何よりも優先される事項。ご褒美以外のなにものでもなかった。

 

「その件ですが、このエントマに御命令いただけないでしょうか」

「どうしたエントマ。なにか考えがあるのか?」

「口唇蟲というものがございます。これは私も利用しておりますが声を擬態するもので、人間の口と似た構造をとっております。すこし改良することで味や食べることも可能となるかと」

「それは面白そうだな!皆と飲み、味について話す。捨て去った過去の一つとはいえ、可能なら実現したいものだ」

 

 モモンガはエントマの提案に興味を示す。その機微を見逃すこと無くアルベドが指示をだす。

 

「エントマ、最優先で実現を」

「かしこまりました」

 

 エントマは鈴を転がすような甘い声で、恭しく礼をとる。

 

「そういえば、パンドラズ・アクター。王国戦士長と助けた村娘にアイテムを下賜していたようだが、なぜだ?それに記憶操作や制約も設けていないようだが」

「なに、もしそこから漏れたならそれも一興。なにより、人間の中でも使えるものを真の意味で取り込む必要があるからな」

「あの二人には価値があると?」

「少なくとも、渇望が垣間見えたからな。渇望のある愛児は育つのが早い。その意味では卿もそうではないか」

 

 モモンガとしても、人間との共存や支配体制の今後の課題となることはわかる。ゆえに有能なものを取り込むことに依存はない。たしかにあの二人は片鱗をみせたのだから。しかし、そこから後の言葉は予想外だった。 

 

「卿の座右の銘は死を想え(メメント・モリ)。だからこそ私の座右の銘も同じであるがな。卿はこの言葉があったからこそ、死の超越者となったのだろう」

「えっ?」

 

 愉快そうに語る黄金の獣。対するモモンガは顎が外れたかと思うほど驚いている。

 

「ああ、なんと素晴らしい言葉でしょう」

「ちょ……」

「この言葉はナザリック全軍に周知すべき金言かもしれませんね」

「あっ……」

 

 守護者達の反応を見て、モモンガはナザリックの全員が絶賛する姿を幻視し、絶望した。

 しかし、すぐに回復エフェクトが走り精神の平静を取り戻す。

 

「ごほん。その言葉は良いとして、おまえのワールドアイテムについては、普段の使用を禁ずる。緊急時は別だが、あれは必要なかろう」

「了解した我が半身よ」

「そういえばラインハルト、卿が下賜されているワールドアイテムとはどのようなものなのだね」

「名前は聖約・運命の神槍、能力はまあ近いうちに開陳することとなるだろう。私の能力とあわせて」

「それは楽しみだ。しかし召喚した際、別の名を唱えていなかったかな」

「あっ」

 

 パンドラズ・アクターにデミウルゴスが質問する。なんでもない会話のはずなのにモモンガの何かを削り始める。

 

「Longinuslanze Testament。これこそ、真の名と我が半身が教えてくれたのでね。私はそう呼んでいるよ」

「なるほど。たしかに良い名前ですね」

「ということは、あの下等生物に下賜した宝剣も?」

「ああ、戦雷の聖剣も真の名はスルーズ・ワルキューレ。我が半身は真の名を見つける能力でもあるのだろう」

「なるほど。さすがは愛するモモンガ様」

 

 守護者達のやり取りを見て、無い胃が痛み出すモモンガであった。

 




エンリは、書けば書くほど渇望の関係で蓮たんとオーバーラップして困る。
ってことは後ほどギロチン持たせないといけないのかな?
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