【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったのなら(連載版) 作:taisa01
8日 AM ナザリック地下大墳墓 第九層 執務室
モモンガは、ナザリック最高権力者として約一週間経過し、やっと落ち着いてものを考えることができるようになった。
この異世界に転移し、人間である鈴木悟からオーバーロードであるモモンガに変わってしまった。なぜという疑問は残るが、この一週間のコミュニケーションのおかげで身の安全は保証されていることを理解することができたからだ。
なにより補佐であるアルベドに、リアルのことも含め総てを話したことが事態を好転させるきっかけになった。実際には、モモンガはある意味24時間共にいるアルベドに、警戒心を解いた瞬間にポロッと漏らしてしまったのだが。
最初こそ驚いていたようだが、今では的確に補佐してくれる。元人間のため、人間種とはある程度友好でいたいという点も、自分と同じようなプレイヤーがいた場合、総力戦となれば勝てない可能性もあることを理解してくれたようだ。過剰なスキンシップだけは相変わらずだが。
もっともアルベドは、「モモンガにリアルへの執着が無いこと」「かつての仲間。そして共に作り上げたナザリックだけが執着」と理解したからこそ、余裕をもって対応することにしたに過ぎないが。
さて、そんな時、法国・帝国の諜報を進めているデミウルゴスが謁見を申し入れてきた。
「ご機嫌麗しゅうございます。モモンガ様」
「して、どのような要件だ?昨晩の報告を受けてからさして時間が立っていないが」
「はい。今しがたスレイン法国の神都から過剰に武装した一団が、エ・ランテルに向けて出発いたしました。ラインハルトに接触するための使節団であり、敵対するならその場で決戦に持ち込むつもりのようです」
「なるほど。妥当な判断だ。しかし、それだけでお前がわざわざ報告にくるとも思えない。どうだ」
モモンガはデミウルゴスの報告を聞き、迅速に情報を収集しラインハルトに接触する法国の行動に、迅速かつ妥当な行動評価した。しかし、デミウルゴスは無駄な報告はしない。この場にいない
「これは、無駄な前置きが長くなって申し訳ございません。監視に使っていた Lv40の
「ふむ、この世界でLv40クラスの
モモンガは頭を整理するためにも考えうる可能性を上げていく。しかし結論はでない。ならば最近身につけた必殺技を出すことにした。
「どれも可能性だな。デミウルゴスそしてアルベド、案はあるか」
そう。良い上役は部下の意見も尊重する作戦である。
「幸いにもラインハルトのところに向かっております。彼であればどのような状況でも対応可能でしょう。そこで懐に呼び込み、正面から情報を抜き取った上で、対応を決めることがよろしいかと」
「高位のものを集め偶発的遭遇戦にて人員・物資を強奪するという方法もございます。しかしリスクがあります」
デミウルゴスは、過去のモモンガの選択から、情報が揃う前段階のため穏健的な手法を選択することを判断し、受動的だが成功率の高い作戦を提案する。逆にアルベドは、デミウルゴスに対する選択肢となるよう、あえて過激で効果は高いがリスクもある作戦を提案する。
「今回はデミウルゴスの案で進めよう。このペースで移動するなら、エ・ランテルにはいつごろ到着する?」
「四日後の朝にはエ・ランテルに到着するかと」
「では、現在シャルティアとパンドラズ・アクターの両名がすすめる作戦は三日後の夜に決行するよう伝えよ。作戦後、パンドラズ・アクターはスレイン法国のものと会談。シャルティアはナザリックに戻り武装を整え、臨機応変に対応せよ。無論使節団については遠距離からの監視だけは続けておけ、想定外を減らすためにな」
「かしこまりました」
デミウルゴスは深々と礼をする。
「モモンガ様。三日後の夜は」
「ああ、前回同様可能な範囲で観測を行う。演目としては在り来りだが、都市防衛時の対処行動指針は事前に把握すべき重要事項だからな」
「では、その日ナザリックにいるものに観戦させることといたします」
「ああ。準備をまかせる」
******
11日夕方
ラインハルトとエンリは、シルバーの冒険者として少しずつ実績を重ねていた。近いレベルの冒険者との共同討伐を中心に進め、この1日で往復できる狩場でその実力を遺憾なく発揮していた。
冒険者というのは噂に敏いものだ。強い味方というのは、自分の生存率を引き上げる。そんな新人が現れれば、縁を結ぼうとするものも多い。
その点、この二人組は夜に冒険者ギルド直営の酒場で食事をとるため、気軽に話すことができた。ラインハルトはすかした顔といわれているが、同時に強者はこうあるべきという雰囲気がある。相方のエンリは聞けば先日まで村娘だったそうで、初な反応が、数少ない女性冒険者に人気となっていた。
この日、そんな二人はいつもより早い時間に宿に戻っていた。
「ラインハルトさん。そろそろでしょうか」
「ああ、監視している
「そうですか」
エンリは椅子に座り、項垂れる。エ・ランテルに到着してから数日。冒険者として活動していろんなことを知った。しかし、総てを受け入れることができるかといえば話は別である。
現在、エ・ランテルは表沙汰になっていないが未曾有の危機に瀕している。ラインハルトたちの調査の結果、ズーラーノーンと呼ばれる集団の策略でアンデットの大軍が隣接する墓地に集結している。さらに、元漆黒聖典のクレマンティーヌが、入手したアイテムをエンリの友人であるンフィーレアに使用し、なにか企てようとしているのだ。
今晩動かなければ、シャルティア配下のヴァンパイア・ブライドがアンデットを支配し暴走とみせかけ街を攻撃する。さらに言えば襲撃の際、各階層の冒険者の実力を確認するためにアンデットの手勢を紛れ込ますのだ。
どちらにしろ、エンリにとっては街の被害を見過ごす事になる。
「もう一度聞こうか?」
ラインハルトは優しい声色でエンリに問う。
「いえ。聞かれても答えはかわりません」
「よかろう」
「そろそろリィジーさんが来ます。たぶん、この隙をねらうでしょう」
「どちらでもかまわんよ。私としては」
ラインハルトの言葉に嘘はない。事実、どんな状況であろうと彼の渇望はかわらず、命令もかわらない。なにより彼の乾きを埋めることはできないのだ。ただ無聊を慰めるだけ。
*****
ラインハルトはギルドの酒場で、リィジーを迎えて会話をしている。もちろん双方聞かれる場というので、内容が穏便かといえばそんなことはない。内容を理解するものがいれば、相当な内容ばかりだ。
「何度も言うが。検証の結果、現在のポーション作成の基本工程に間違いはない。違うのは素材じゃ」
「で、卿はなにをしたい」
「素材があるならよこすのじゃ」
という感じである。
聞いているエンリも苦笑いしかできないでいた。必死に錬金術の飛躍のためと言い現在錬金術の課題などを語るリィジーに対し、ラインハルトは知識として学習しているが話題として取り合っていないように見える。
理由は分かる。足りないからだ。
自分の渇望を言っていない。対価に余裕がある。必死に訴えているが、それだけだ。
食事を交えつつ、そんな話が二時間ほど経った頃、ラインハルトからエンリにメッセージがとぶ。
「(シャルティア達が盗賊の釣り上げに成功したようだ。そして彼は捕まった。生きてはいるようだがマジックアイテムによるものか意識は無いようだ)」
「(わかりました)」
エンリはひとまず友人が死んでいないことにホッとする。
ラインハルトはメッセージを切ると、リィジーとの会話を打ち切りにかかる。
「興味深い内容だが、一晩で結論はでないようだな。また後日聞くとしよう」
「お前さんが、もっと協力的なら良いものを」
「卿が条件を満たせば協力しよう」
「なら条件を言え」
「自分で気付けぬ内は条件を満たせぬよ。そして気付けば満たしている類いのものだ」
ラインハルトが席を立つのに合わせ、エンリはリィジーに声をかける。
「もう夜ですので送ります」
「ああ、気にしなくていいよ。エンリ嬢ちゃん。家に帰るだけだから問題ないよ」
「そうですか。じゃあ、また今度」
「それにしても、エンリ嬢ちゃんも、ろくでもない男に捕まってしまったね。だからンフィーレアには、早く行動するようにアレほどいってたのに」
リィジーは去り際、不甲斐ない孫のことを愚痴る。無論小声であったが、不意にでてしまったものであろう。しかしエンリはしっかりと聞いたが、あえて聞かぬ振りをした。今ならンフィーレアがエンリに向けた感情を理解できるが、応えることはできないからだ。
もしンフィーレアがもっと早く思いを伝えていれば。
もしエンリがラインハルトと出会わなければ。
もしエンリが渇望と才能を知らなければ。
もしカルネ村にずっといて、ゆっくりエンリとンフィーレアが時間を重ねていれば。
総ては”たられば”であり、ありもしない空想なのだ。だからエンリは聞かないことにした。
******
11日夜
墓地側の門番の本番は夜である。
過去の戦争の影響により、定期的にアンデットが発生する。とはいえ数は一晩でどんなに多くても1・2匹。よって10人で警戒すれば、基本問題はなかった。
しかし、今晩はなぜか違っていた。
門番をしていた兵士は、必死に走ってくる警戒隊の二人を見つけたのがはじまりだ。
「ひ……は……。早くっ……門を開けてくれ!」
「アンデットが……」
おかしいと思いつつも兵士達は門を開け、走る兵士を迎え入れる。そうすると走りこんだ兵士が息も絶え絶え叫ぶのだ。
「アンデットの軍勢がいきなり現れた。1000や2000じゃきかないぐらいの大群だ!」
「おい、ほかの奴らはどうした」
「いきなり襲われて、みんな食われちまった」
門番の隊長が、逃げてきた兵士に問うた結果は最悪の一言だった。冗談にしては鬼気迫るものがあるし、鎧の端々になにか攻撃を受けた後が見える。
「おい、上から見えるか」
夜の暗闇ではロクに遠くは見えない。しかし今晩はなんの符号かわからないが、満月。少々遠くなら確認できる。そして帰ってきた言葉は、その場にいるもの達にとって最悪の予想に合致するものであった。
「遠くに大量の人影のようなものがうごめいてます。数はとても数えられません。1000どころじゃない。万はいるぞ」
「連絡役や守備隊に連絡。非常事態だ!冒険者ギルドにも応援を要請しろ。残りのものは武装して門の上から迎撃準備」
「了解!」
その声とともに連絡役は守備隊の詰め所に向けて走り、必死に準備をはじめたのだ。
しかし準備が終わるころ、門の外はアンデットの海が出来ていた。
スケルトン、スケルトン・アーチャー、ゾンビ、
アンデットの先頭はすでに城壁に取り付き登りはじめている。門に近いものは力の限り殴り壊そうとする。
兵士達にとって恐怖以外の何物でもない。
必死に槍やメイスを振るい、ズルズルと腐臭を撒き散らし這い上がるゾンビを門の上から叩き落とす。しかしアンデットは落ちて動けなくなった仲間を足場に、また群がる。
アンデットにはこの城壁を越えれば、自分たちの獲物がいることを分かっているように、的確にそして執拗に攻め立てる。
一人の兵士が、振るった槍を捕まれ、門の上から引きずり降ろされる。
無論鎧を着ており胴や頭は守られているが、落ちれば最後。指の先から顔からゾンビらに貪り食われる。むしろ鎧を着ていないほうが苦痛は短かったのではないかというほどの、断末魔が響き渡る。
「増援はまだか!」
「まだ連絡役も戻ってきません」
「くそ!」
全員が敬虔な信徒ではないが、こんな時は決まって神に祈り救いを求める。しかし救いなどありはしない。
一人はゾンビに貪り食われた。
一人はスケルトン・アーチャーの骨の矢に刺さり、門から転落して死んだ。
一人は
だれもが諦めかけた時、街の鐘がなり緊急事態を告げる。
「総員撤退。内側の門で防衛戦を引くぞ」
「了解」
隊長の言葉に、一斉に移動を開始し、なんとか逃げ出すことができたのは10名にも満たない状態だった。そして振り返った一人の兵士が見たのは、
******
街には鐘が鳴り響き、混乱が広がる。
すでに第一の門がアンデットの軍勢によって破られたことが、口々に噂される。冒険者ギルドでは緊急招集をかけ、アイアン以上の冒険者に協力を依頼。提示された報酬は微々たるものだが、多くの冒険者が街のためにと参加していた。
そんな混乱する街を観察する多くの”目”があることに気づくものはいない。
「(ラインハルト様。混乱に乗じこの街にいるシルバー以上の冒険者に仕掛けました。レッサー・ヴァンパイアを出しましたところ、ミスリルは撃退できたようですが、プラチナでギリギリ、ソレ以下は殺す前に撤退させました)」
「(了解した、そろそろこちらも動く、適度に調査物資の確保後撤退せよ)」
「(はっ)」
ラインハルトはメッセージで後方支援をするヴァンパイア・ブライドに指示を出し、立ち上がる。それを、すでにフル装備のエンリとハムスケが待機している。
「これより冒険者ギルドに向かう、その後は分かっているな」
「はい。全力で救います」
「ハムスケもエンリの指揮下で励め」
「分かり申した。ハイドリヒ卿」
3人は宿を出て冒険者ギルドに向かうのだった。
街は混乱している。
戦闘能力の無い一般市民は、門扉を閉じ引きこもるか、貴重品を持って逃げ出そうとするも者達であふれる。
教会を見れば、けが人や避難した人を受け入れ治療を施している。中には戦いを挑み、幸運にも後方に下がることができたものも居るようだ。
しかし一様に混乱しており、パニックの果ての全滅が見え隠れしている。
「これはギルド長殿」
ラインハルトらが冒険者ギルドに到着すると、慌ただしく動くギルドの職員に囲まれた中、武装するギルド長が待ち構えていた。
「おお、これはハイドリヒ殿良い所に。ぜひ街の防衛に参加してほしいのだが」
「ああ、そのつもりで訪れたのだ。ただし数が多い。少々派手にやるため相応の被害も出るが良いか」
ラインハルトは、ギルド長に対し条件をつきつける。
「街や人命への被害は最小限に努力してくれるのなら、それでもかまわん」
「了解した」
「ああ、だれでもいい!ンフィーレアを助けてほしいのじゃ!」
ラインハルトとギルド長の話がまとまった時、冒険者ギルドにある者が飛び込んできた。
ある者。レィジー・バレアレが必死の形相で飛び込んできたのだ。
「どうした」
「ンフィーレアが攫われた!」
そういうと、リィジー・バレアレは血で汚れた布を差し出す。そこにはンフィーレアの誘拐犯が地下下水道に降り、助けるつもりなら金を持って来いという内容の脅迫文が書かれていた。
それを見たギルド長はこうもらした。
「婆さん。俺は現役のころからあんたに世話になってた。できるなら手を貸したいが、今の状況はわかるだろう。街が陥落の危機なんだ。人は回せんよ」
「そこを何とか。孫はわしの生きる希望なんじゃ」
縋り付くリィジー・バレアレの懇願に、ギルド長も苦い顔をする。ギルド長も縁も恩もあり、可能なら助けたいと考えている。しかし街を優先することが己の責務と認識しているのだ。
そんな時、ラインハルトが静かに宣言する。
「良かろう。街もンフィーレアも共に救おう。無論救いに行った時に死んでいたとしても蘇生魔法の行使まで含めてだ」
その言葉に、その場にいる者たちはまるで地獄に救いの糸を垂れる神の姿を見た気がした。
もっとも、実態は悪魔の取引であるのだが。
「わかった、わしの総てを差し出そう。孫をンフィーレアを助けてくれ」
「よかろう。このラインハルト・ハイドリヒがしかと聞き届けた」
そう言うとラインハルトは黄金のオーラを放ちながら、冒険者ギルドを出る。それにエンリとハムスケは付き従うのだった。
******
この夜における激戦地がどこかと言われれば、共同墓地付近の外周部と誰もが口を揃えていうだろう。
多くのアンデットが破壊され、多くの冒険者と兵がその身を削る。生きるものはその守るもののために戦い、死せる者は生への執着をもって拳を振り上げる。
少数のアンデットが迂回や塀を乗り越え入り込んでこそいるが、ほとんどはここに集中していた。
そんな戦場のまっただ中、聳え立つ城塞塔の上に巨大な魔獣にまたがったエンリとラインハルトが降り立った。
ハムスケはまだ装備らしい装備を持っていないが、生来の毛皮だけでも強靭な鎧となる。
対するエンリは黒い軍服に鉾、角笛に種とも卵ともつかない首飾り。どれもが強力な魔法の品であることが伺える。
そしてラインハルト・ハイドリヒは白い軍服に黒い上着を肩にかけ、手には黄金の槍を携える。
この3人の出で立ちは、そこに有るだけで人の注目を集めざるを得なかった。
「では、はじめるとしようか」
「はい」
エンリは、鉾に閉じていた布、いや旗を広げる。
それは風もないのにはためいた。
ーーーー
「傾聴!これより我らが黄金の獣は、その爪牙をもって敵を一掃する。総軍は、私達の指揮下に集うべし。敵を大防壁の向こうまで押し戻しなさい」
城塞塔にはためく旗。そこには少女と魔獣。そして黄金の獣。そして少女の声は街中に響き渡る。まるで魔法のように。
いや、魔法である。
エンリの持つ
今エンリの手で発動したことによって、街の防衛に参加していたもの、守られていたもの、攻撃するアンデットさえもがエンリのことを注目する。
そして味方は先ほどまでの恐怖から解放されたことを察し、勇気があふれることを感じる。
そう
あと少し生き残れば、
この声に従えば生き残れるのだと。
しかし、エンリの奇跡はまだ続いていた。懐からもう一つの魔法具、魔封じの水晶を取り出しゲートを開く。そこから19匹の武装したゴブリン。本来敵で有るはずのゴブリンが彼女の旗の下に集っているのだ。
「ハムスケさん!ジュゲムさん!総員門の前の敵を掃討し防衛線を押し上げてください」
「いくでござる!」
「姉さんの指示だいくぞおおおお!」
「おおおおお!」
魔獣・亜人の軍隊が一斉にアンデットに襲いかかる。
魔獣の突進で、前線のスケルトンは弾き飛ばされ、砕け散る。
突進を脇に避けてたゾンビの頭を、ゴブリンの軍勢が打ち砕く。
いままで、敵の物量に押され狂騒に駆られそうになっていた前線の士気が戻る。そして一人、また一人と魔獣の軍勢に加わるのだ。
「では、我が愛を示すとしよう」
足元に広がる戦場をみて、高揚したようにラインハルトが宣言する。
その瞬間、ラインハルトを中心に巨大な、そして数十の幾何学模様やルーンが組み合わさった立体の魔法陣が展開される。
その光景の異様さは、その場に居るものだけでなく、今回観戦していたナザリック地下大墳墓 第九層の会議室に集う面々も驚いていた。
「モモンガ様、あれはまさか超位魔法でしょうか」
「ああ、パンドラズ・アクターの能力はあの超位魔法とワールドアイテムを組み合わせることで完成する」
アウラが守護者を代表してモモンガに質問する。そしてモモンガの答えにアルベドが重ねて質問する。
「モモンガ様。ラインハルトはドッペルゲンガーであると認識しておりますが、彼の能力はそのようなものだけなのでしょうか」
「というと?」
「彼が見せてきた多種多様なスキルに魔法。その総てを収めるには一つの体では足りぬかと」
そう、それこそがアルベドの疑問であった。
「細かい話はまたの機会としよう。今言えるのは、パンドラズアクターは
「まさか、ラインハルトは至高の御方の再来を可能にしているのでしょうか」
「所詮は影、幻像だがな。しかしその総てを継承しているともいえる」
「そん……な」
その話を聞き、質問したアルベドだけではない。聞いた総ての守護者が声を失う。なぜなら、パンドラズ・アクターは
「どうやらはじまるぞ」
モモンガの声に全員が戦場に視線を向ける。
その時、戦場では巨大な魔法陣が天を覆いつくす。
「
戦場で戦う人間達は、今こそと剣を振るう。
「
アンデット達は、本能で気が付き何としても止めようと動くも、魔獣の軍勢に阻まれる。
「
遠くから見ていた住民は、あれが希望の光と祈る
「
隣に立つエンリは、その光に身をまかせ世界が変わる瞬間を感じている。
「
ナザリックから見ていたアルベドをはじめとした守護者たちでさえ、巻き起こる魔力の放流に固唾をのんで見守った。
「
(なんで詠唱してるの。馬鹿なの、死ぬの)
モモンガは、超位魔法発動に不要な詠唱、しかもドイツ語のそれを聞いて盛大に感情の強制沈静化が発生していた。むしろ沈静化エフェクトが連続過ぎて、何らかのダメージを負っているのではないかと疑うほどにだ。
「
超位魔法 黄金練成が発動し、一陣の光が駆け巡る。その光に触れたアンデット、約2万がまるで糸が切れたように倒れ伏したのだ。
戦っていたもの兵士や冒険者達は、突然のことに誰もが反応できなかった。アンデットが死んだことさえ認識できないものが多数いた。しかし後に続いた現象で嫌がおうにも理解させられた。
倒れ伏したアンデットの屍の上に巨大な歪な十字架を宿したモニュメントが出現し、アンデットが光となり吸い込まれたのだ。
だれもがその時、終わりを感じていた。
しかし、まだ終わらない。
終わらせない。
今回の本来の首謀者はカジット・バダンテールは、スケリトル・ドラゴンを従え、いくばくか残ったアンデットの軍勢を率いて現れたのだ。
******
「なぜだ!なぜ失敗した。死の螺旋さえも発動し、レッサーヴァンパイアも発生した。なのになぜ軍勢が消え去った!」
秘密結社ズーラーノーンの幹部にして今回の首謀者、カジット・バダンテールは叫ばずにはいられなかった。
何年も費やし準備を勧めていた計画が、しかも直前までうまくいって大量の負のエネルギーを集めることができていたのだ。しかもアンデッドを大量に使役し町を死都に変える魔法儀式”死の螺旋”も途中までうまくいっておりレッサーヴァンパイアまで出現したほどなのだ。
しかし、気が付けばアンデットの軍勢は一掃されてしまったのだ。
カジットに時間はない。亡き母を復活させるための時間がないのだ。今潜伏して再度準備を行おうにも、それをなす時間がないのだ。
故に、愚かにも怒りに任せて表にでてしまった。
しかし、かれの言葉に応えるものがいた。
「私は総て愛している。例外はない」
「なにを言っている」
「我が愛は破壊の慕情。ゆえに総てを壊そう」
「ならば、私が貴様を殺しその負のエネルギーを奪い尽くしくれる。行けスケリトル・ドラゴン」
カジットの命令を受け、骨のドラゴンはその巨大な翼をはためかせる。
「GUUOOOOO!!」
そして大気を震わす雄叫びを上げ、城塞塔のラインハルトの元に飛び立った。
ーーーー
ラインハルトが第五位階の魔法を唱える。
あたりは雷化し、空気ははじけ飛び迫り来るスケリトル・ドラゴンを襲う。しかしスケリトル・ドラゴンは意にも返さず突っ込む。
「スケリトル・ドラゴンは魔法に対する絶対耐性を持っている。貴様の魔法なんぞ通じんぞ。じわじわ嬲り殺されるがよい」
それを見たハムスケらは叫ぶ。
「ハイドリヒ卿!エンリ殿!」
「姉さん!」
スケリトル・ドラゴンはその巨体から生まれた力を余すこと無く、城塞塔に叩きつける。
天頂部は崩落し、あたりが煙に覆われる。
だれもが無事でいないと思った。
しかし、黄金の獣は旗を持った少女を抱き上げ、悠然と地に降り立ったのだ。
「フライの魔法か、面倒なもの」
いち早く真実にたどり着いたカジットは忌々しそうに言う。しかし、その声はラインハルトには届いていなかった。
「(パンドラズ・アクターよ、ナザリックの威をしめせ)」
「(了解した。我が半身よ)」
ラインハルトは、エンリを下ろすと下がらせる。
「その程度では愛がたりんよ」
「ぬかせマジックキャスター。貴様の魔法では、スケリトル・ドラゴンを殺せん」
「では愛児に教育をしようか。スケリトル・ドラゴンの魔法耐性は第6位階まで。故にそれ以上であれば、倒すことは可能だ」
「人類は大儀式でしか第七位階以上の魔法を扱えん。そんな常識を知らぬから、貴様はここで死ぬのだ」
カジットにおいて、すでにラインハルトの言葉は敗者の戯れ言にすぎなかった。
「アインズ・ウール・ゴウンの守護者。ラインハルト・ハイドリヒ。ここに真なる魔法を見せよう」
その瞬間、ラインハルトが放っていた黄金の覇気は、漆黒の死のオーラと代わる。黄金の立ち姿は、一瞬黒いローブを身にまとう骸骨のようにも見えた。
「
あたりは漆黒の闇に覆われる。先程まで巨大な翼を広げいまにも襲いかからんとしていたスケリトル・ドラゴンが、その暗黒の孔に吸い込まれてしまったのだ。
そう。
一瞬で。
あまりにも、あまりにあっけない幕引きに誰もが目を疑った。
スケリトル・ドラゴンの強さは冒険者や兵士、子供ですらお伽話程度で聞いたことさえある。その強力無比なアンデットが一撃で倒されたのだ。
「では、今宵の劇はここまでだ。これより先は蛇足にすぎん。用もある故、終わった役者には一度退場していただこうか」
その言葉と共に振るわれたラインハルトの槍で、カジットの首は刎ね飛ばされたのだった。
※悲報:獣殿……もうなんでもありだね。ごめんなさい。しかも45以上の姿を保持してるし……。まあそんな二次小説とおもってご容赦ください。
ンフィーとクレマンティーヌについては次回予定。