ロキ・ファミリアのたった一人の眷属 作:抹茶オレンジ
3/23 タイトルだけ変更。内容に変わりはないです。
ロキが眷属をつくり、3日経った昼下がりのこと。
眷属を迎えめでたくファミリアの主神となったロキは、自分のホームの居間に置かれたソファーの上で膝を抱え込んでじっとしていた。
目の前に置かれたテーブルの上や辺り一面には、部屋中のありとあらゆる物が散乱している。
彼女の周りは、一言で言うと乱れに乱れていた。
「あぅ……」
その惨状を横目に、彼女はただただ身動きを取れずにいる。
興味が湧けばすぐに手に取って、飽きればポイッと捨てる神物であるロキは、いわゆる片づけが出来なかった。
オラリオに帰って来たときに到っては、もはやどんな事に対してもやる気をなくしており、所持していた莫大な金品もノームの貸し出し金庫に入れっぱなしで、物自体殆ど何も持っていなかった。
そもそも昨日まではまだよかったのだ。
初日に恩恵を刻んだときは何時もの宿屋だったし、その次の日にこのホームを購入したときも、傍には常に眷属となった少年が、自分を甲斐甲斐しく世話してくれていた。
けれども、今日はその眷族が朝早くから居ない。それはつまり片付ける者が誰も居ないということになる。
そんなこんなで、しばらく経ってようやく部屋の惨状に気づいても後の祭り。
このままだと主神としての権威に傷が付くと思って慌てて片付け始めたところで、結局は触った傍から興味が湧いては放り投げるの繰り返し。
そもそも片付け方など知らないのだから、より状況を悪化させるだけだった。
至った結論は
(うちは、動いたらあかん……っ!)
ロキは必死の思いで手に力を入れて、膝を押さえる。
緩めればどこへ行くか正直、自分でも分からない。
(それにしても……)
ちらりと視線を壁時計へ向けた。
先ほど見たときよりそれほど時間が経っていない。
大きく溜息を吐いて、膝に顔をうずめた。
真っ暗になった視界の中、今朝笑顔で出て行った眷属のことが脳裏を過ぎる。
(ベルたん、遅いなあ……)
今日は自分の眷族となったベル・クラネルの初ダンジョンデビューの日だ。
ただその前にギルドと呼ばれる、この迷宮都市オラリオを仕切っている元締めのところへ行って、色々な手続きをしないといけないらしい。
つまり、帰りはそれを込みでどうしても遅くなるということで、身動き一つ取れないというより取らない自分は、ただひたすら時の流れに身を任せるしかない。
チクタクと動く時計の針の音だけがただただ耳に入り、次いで感じるのは自分の鼓動、これは時計と比べてやけに早く動いていた。
きゅっと、膝を抑える力が強くなる。
(大丈夫、やんな?)
神と、その恩恵を刻まれた眷属は、神の血……
少なくともベルは死んではいない、それはロキにも分かる。
(無事で、無事で帰ってきてくれさえすれば……)
ダンジョンの入り口で臆してしまったでもいい、なんだったら受付の段階で怖気づいて帰ってきてもロキはまったく構わなかった。
彼に恩恵を刻み、子に触れて過ごしたこの数日で、初めて分かったことがある。
自分は、意外と
(い、いやいやいや! そんな訳ない! うちはロキや! うちの眷族となったからには、ミノタウロスを20、いや30体くらい殺って帰ってこーへんとあかん!)
ロキは決意した。
ミノタウロスを30……いや3体ぐらい、と。
そのとき、鍵のカチャリと開く音とほぼ同時に、ドアがギイッと引かれる音が耳に入る。
がばりと顔を上げたロキは、瞬時にソファーの上に立ち上がり、両手を広げた。
緩みっぱなしの顔を玄関へと向けて、帰ってきた彼に走り寄って行く。
「お帰り! ベルた───グエッ!?」
そして床に散乱していたものに蹴躓いた。
「神様! 聞いてく───神様っ!?」
初ダンジョンから意気揚々帰ってきた少年ベル・クラネルは、ホームの地に伏す神と散らかった部屋を見て、「もしかして強盗が!?」と驚き駆け寄り、自らの主神を抱き起こす。
「だ、大丈夫ですか! 神様!?」
「痛つつ……だ、大丈夫や、ちょっと躓いただけやから」
赤くなった鼻をさするロキの言葉に、ベルはほっと胸をなでおろした。
「よかったです。僕、神様が誰かに襲われたんじゃないかって……」
「なんや、うちがそんなマヌケな奴に見えるんか?」
「い、いえ、その……すみません」
言った後、少し後悔する。この子は自分を思っていてくれただけなのに、その反応はないだろう、と。
「……い、いや。うちの方こそ、ごめんな。心配してくれてんやろ?」
「ありがとうな、ベルたん」そう言うと眷族は照れたのか、頬を少し朱に染めて微笑んだ。
そんな彼の思いがロキには堪らなく嬉かったものの、こんな優しい子を自分のような悪神と契約させてしまったことに、改めて申し訳ない気持ちで一杯になった。
本当だったら、もっとベルに相応しくて良い神と出会えたかもしれない。
ドチビのところを断られたのだって、あれは殆ど
(……うちなんかで、よかったんやろか)
ぶんぶんと、首を大きく振ってそんな考えを振り払う。
契約した以上、自分はベルの親でベルは自分の子なのだ。親が子に弱い姿を見せるのは、極力控えるべきだろう。
話を変えようと、ロキは今日の戦果について尋ねた。
「……それで、どないやったん? ダンジョンは」
「は、はい。僕ゴブリンを一匹倒したんです!」
ベルの自信に満ちた返答に、ロキは細い目をあらん限り大きく開いて
「ほ、ホンマかベルたん!? ご、ゴブリンを倒したんか!?」
「は、はい!」
「~~~~~~~~~っ!!」
眷属の返答に喜び一変に染まったロキは、ベルを一体どこにそんな力が、といった様子で抱き上げた。
「やったやったやった! うちの子供がゴブリンを倒した!」
それ以降はずっと抱きあげ、肩車をし、下ろしたかと思えば抱きしめて、再び抱き上げ、肩車を……と繰り返し続ける。
器用に落ちているものをすり抜けながらまるで踊るように、ロキは子供の
しばらく経って、ロキもようやく落ち着きを取り戻した様子でベルと向き合う。
というより流石に体力の限界と言わんばかりに、顔を赤く染め肩で息をしていた。
ただ顔はいまだ喜色を浮かべ、大きく開いた赤い双眸は子供を捕らえて離さない。
「今日はお祝いやベルたん! なんか食べたいもんある!?」
「……」
「……? どないしたんや、ベルたん」
可愛い、愛しいともいえる眷属がなにやら顔を俯かせている。
(も、もしかして肩車したときに、天井かなんかにぶつけたんか!?)
ロキは思わず天井を仰ぎ見て、その次にベルの頭のどこかにコブが出来ていないか文字通り目を皿のようにして凝視する。
異常は見当たらない。ではなんなのだと彼女が思案し始めた時
「あ、あの神様」
「ん?」
「……だ、ダンジョン行って来ます!」
「え? て、べ、ベルたん!? ベルたあああああああああんんんんんんんっ!?」
耳まで真っ赤にした眷族は、ロキがその手を掴むまもなく、先日与えた恩恵を遺憾なく発揮してダンジョンへと舞い戻っていった。
***
「ほんまに、自分は……っ」
「す、すみません、神様……」
あの後、ダンジョンから帰ってきたベルを涙を流しながら迎えたロキは、彼のゴブリン5体コボルト6体という戦果に、再び大はしゃぎをして、同じようにまた顔を赤らめる子供を、今度は逃がさないとばかりにぎゅっと抱きしめた。
二人は……正確に言えば殆どベル一人がやった部屋の片付けもそこそこに、ロキは一体どこで手に入れて来たのだという豪勢な料理を、可愛い子供に振舞った。
こういう出来合いのもんより、手作りの方が体には良いと聞いていたロキだったが、それでも見たこともない豪華な食事に萎縮しながらも、口に入れるたびに笑顔が零れ出る眷属に、その目を弓なりにしながら、まあ偶にはこう言うのもええやろ、と微笑ましく眺めていた。
「ほんでどないやったん、ダンジョンは」
「えっと、緊張しちゃって探索はあんまり出来なかったんですけど……。モンスターは一度倒したら、後は案外すんなりと」
どこか少しだけ自信を垣間見させるその言葉に、ロキは嬉しそうに頷いた。
子供の自慢げに語る話を聞くのは、親としてこの上なく楽しい。
そこでふと、ロキにある疑問が芽生えた。
「そーいえば、ベルたんは何でダンジョン潜ろう思ったん?」
「え……」
「ほれほれ、恥ずかしがらんと言うてみ?」
「そ、その……」
ベルに恩恵を刻んで数日経ったが、よくよく考えればこんな初歩的なことを何故聞かずにいたのだとロキは嘆いた。
一度聞きそびれてしまえば、こういった機会でもないと子供の本当に思っているところを尋ねることすら出来ない自分を情けなくも思う。
ただそれでもまだ出会って数日なのだ、これからゆっくりとお互いを分かり合っていけば良い、とも考えた。
ベルはと言えば、彼女の問いかけに対して少し顔を俯かせてモジモジと体を捩じらせていた。
そんな姿を見て、やっぱ可愛いなーうちの子供。などと呑気なことを考えていたロキに、ベルはポツリと呟いた。
「英雄譚、のような」
うんうん、男の子っぽいなあ。ロキは腕を組んで何度も頷いた。
英雄になりたいとか、そう言うのだろう。
それなら自分だって、出来ることは協力しよう。
だがそんなロキの想いは
「出会いを、女の子と、……したいんです!」
開いた口がふさがらなかった。頷いていた首が、壊れた人形のようにぐわんぐわんと何度も揺れる。
で、出会い? 女の子と? 英雄譚みたいな? 英雄譚関係あんのそれ?
ロキの頭の中は、不可思議でいっぱいだった。
「あ、あと……」
まだあるんか。続く子供の言葉を固唾を呑んで見守る。
「……ムを」
「ん?」
「ハー……レムを、作りに……」
今この子、ハーレム言うた?
ハーレムって、あのハーレム? 沢山の女を一人の男が囲うあのハーレム?
頭の中に、数多の種族の女が、女神が我先にとベルに盛っている姿が浮かんだ。
なぜか全員ドチビのように巨乳で、彼はそれに対して満更でもない様子で鼻の下を伸ばしている。
嫌だ、そんなの嫌だ。ロキは首を大きく横に振った。
ダンッと両手で机を叩く。料理が浮き、次いで驚いたベルもそれに追従するように飛び上がった。
「あ、あかんっ! そんな訳の分からん目標はあかんっ!」
こんな純粋さが人の皮被って歩いているような子が抱く目標とは、ロキは到底思えなかった。
間違いなく、誰かが訳の分からない入れ知恵をしている。彼女はそう睨んだ。
(まだ取り返しが付く内に、うちが矯正せんと……っ!)
そう決心するも、ベルは頑なだった。
こればかりはと首を横に振って姿勢を正し、意思の通った力強い眼でロキを見る。
「は、ハーレムは男のロマンなんです! 昔の英雄たちも運命的な出会いをした女性
「言ったて、誰がやねん!?」
「お、お爺ちゃんが……」
なんやその大神みたいなこと抜かす奴は……。
ロキは大きく肩を落とした。
ベルはその後も冒険者になって運命的な出会いをしろとお爺ちゃんが言っていたとか、ハーレムをしたいならオラリオに行けとお爺ちゃんが力説していたとか、おじいちゃん、おじいちゃんと続く言葉に、ロキは
(うちが、うちが居んねんから、ハーレムなんてええやろ、別に……)
少なくとも運命的な出会いは果たしたはずだと、ロキはそう思っている。
いまだ熱弁を振るい続けるベルに、彼女は大きく溜息を吐きながらも、その真剣な表情もまた愛しいと思ってしまうのだった。
***
夕食も終わり、今二人は二階にある寝室でステータスの更新を行おうとしていた。
この部屋に備え付けられた二つのベットのうち出入り口であるドアに面した方、ベルのベッドの上でロキは眷属の背中に跨っていた。
べつに跨る必要はないのだが、これは完全にロキの趣味だった。
「ほんなら、いくで?」
「よ、よろしくお願いします」
初めてのステータス更新ということもあってか、恩恵を刻むときと同様に、ベルは興奮を隠し切れずにいた。
あーこの反応初々しいわぁ……と自分も初めてであると言うのに、ロキはうっとりとした表情を浮かべる。
とは言ってあまり焦らすのも悪いと、さっと取り出した針を自らの指の腹に刺す。
人の子と同じ赤い血を、ロキはそのままベルの首筋にピトッとつけた。
そのまま背中へと指を這わせ、サインをするように指を動かす。
突如として、ベルの背中に、朱色の文字郡がすうっと浮かび上がった。
そこへ、ロキは再び血を一滴ベルの体に擦り付ける。
すると彼女の象徴でもある道化師のエンブレムがベルの背中に姿を現した。
(おー、上手くいった、上手くいった)
ここまで来れば後は簡単だ。ベルが恩恵を刻んでから今日までに行ってきたことで得た
ふと、ロキは手を止めた。
(あとは、
そういうと、視線をベルに刻まれてある
───
スキルの説明欄には何も書かれておらず、効果は不明。
だが、その名前とステイタスの上昇値を見るに、少なくとも
それが未知に飢えた神々にどう作用するのか、ロキは残念ながら自分の身でよく分かっていた。
「あの、神様……?」
「ん? あーちょい待ってな」
不安げな表情を浮かべる眷属の姿を見てロキは悩んだ。
この子は、心の動きが顔にすぐに出るタイプだ。
純粋で、無垢で、子供の嘘ならすぐに分かる神でなくとも、恐らくこの子の嘘はすぐにばれるだろう。
黙っていろと言っても、何かの拍子にばれてしまうことは簡単に想像が付いた。
(やっぱり、内緒のままにしとくか)
神聖文字を弄って隠蔽しようかとも考えたが、効果が不明である以上そんなことをすれば、何が起こるかわからない。
大人しく何もしないでおくのが現状一番だろうと判断するしかなかった。
ロキはそのスキルを除くステイタスを羊皮紙に写し取り、ベルに手渡す。
「ほい、ベルたん」
「ありがとうございます、神様!」
満面の笑みを浮かべたベルに、ロキはどうせならこの子の為になるスキルだったら良いな、と。
アビリティの
ベル・クラネル
lv.1
力 :I0→I23
耐久:I0→I19
器用:I0→I33
敏捷:I0→I43
魔力:I0→I0
《魔法》
【】
《スキル》
原作ではちゃんと? 片付けていたロキですが、人任せにすると神も成長しないよ。という感じだと思っていただければ……。
誤字脱字、アドバイス等あると嬉しいです。