元駄目人間が異世界から来るそうですよ? ~のび太と問題児の異世界大冒険~ 作:虎吉戦車
『ええええええええええええええええええええ』
黒ウサギちゃんの叫び声が聞こえる。
他の三人も驚いた様子で僕をみる。
「え、あ、あのっ………のび太さんはどのようなメールを受け取ったのですか?」
僕のもとに届いたメールの文面を思い返してみる。
「えっと、確か
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。
その才能を試すことを望むのならば、
己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、
我らの”箱庭”に来られたし』って書いてありました。」
「確かに文面は我々のコミュニティが送ったものに相違ありません。しかし、我々は三人分しか手紙を用意していなかったはずなのです。手違い……にしても召喚は手続きを要するものですので考えにくいです。」
「そうなんですか。じゃあ、僕はコミュニティに必要ありませんよね。向こうの世界でやり残したことがあるので、早めに帰りたいんだけど……」
そうだ。感情のあるロボットの実現はすぐ間近なのだ。
しかし、黒ウサギちゃんは慌てた様子で
「だ、ダメです!帰るには困難な試練にクリアしなければならないのです!ギフトをお持ちでないのび太さんがそれをクリアするのは不可能です!!」
と言った。
うーん、でも………
「それっておかしいよね?」
十六夜君がニヤっとした笑みを浮かべたのが見えた。
「兄ちゃん、冴えなさそうな面して意外と頭の回転早いな」
む、失礼な……
「確かに昔は勉強とかからっきしだったけど、今はそれなりに凄い研究をしてたんたぞ!」
「ハハッ、そいつは悪かったな。今度なんか奢ってやるから許してくれ」
「あら、私もおそろく耀さんも気付いてたわよ」
「当然」
そもそも僕が年上なのにどうして奢られることになるんだろう………
まぁ、友達として対等に接してくれるに超したことはないけど。
みんなでワイワイしていると、黒ウサギちゃんが顔を青白くして恐る恐る僕たちに尋ねた。
「あの……黒ウサギの説明におかしなところがあったでしょうか」
十六夜君が楽しむような声音で答える。
「おかしいも何も。オマエ、なにか決定的な事をずっと隠しているよな?」
「…………なんのことです?箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームの事も」
「違うな。俺が聞きたいのはそういうことじゃない。のび太、お前から言ってやれ」
初めて十六夜君に名前で呼ばれた。呼び捨てだけど。
でも、いまの十六夜君の話に対する黒ウサギちゃんの反応で疑いは確信に変わった。
「じゃあ……黒ウサギちゃん。まどろっこしいのは抜きで聞くよ?」
息をすうっと吸い込む。
「黒ウサギちゃん達のコミュニティは崖っぷちなんだよね」
黒ウサギちゃんは動揺を隠しきれない様子だった。
なんだか可哀想だけど、これは知る必要が僕たちにはあると思う。
だから、重ねて問う。
「黒ウサギちゃん達はどうして僕たちを呼び出したんだい?」
「それは………言ったとおりです。のび太さん達にオモシロオカシク過ごしてもらおうと」
「僕も最初はそういう理由なのかなって思った。でも、それならギフトを持たない僕がもとの世界に帰ることは何の問題もないはずだよね。そもそも僕は勝手に呼び出されて、しかも間違いの可能性も否めない状況なのに、僕には黒ウサギちゃんが必死で僕を引き留めようとしてるように思えるんだ」
黒ウサギちゃんは何も言わない。
さらに話を進める。
「これは僕の想像に過ぎないんだけど。黒ウサギちゃんのコミュニティは崖っぷちの状態にあって、だから僕たち……僕は含まれないかな?十六夜君達をコミュニティの強化のために呼び出した。そうやって考えるとさっき黒ウサギちゃんが僕を必死で引き留めようとした理由に説明がつくと思うんだけど。どうかな?」
「っ………!」
僕の言葉は黒ウサギちゃんの痛いところを突いたようで、黒ウサギちゃんの綺麗な顔が歪む。
それを逃すまいと十六夜君が追い討ちをかけるように言葉を紡ぐ。
「んで、この事実を隠してたってことはだ。俺達にはまだもとの世界に戻るなり他のコミュニティを選ぶなりする権利があると判断できるんだが、その辺どうよ?」
「…………」
「沈黙は是也、だぜ黒ウサギ。この状況で黙り込んでも状況は悪化するだけだぞ。それとも他のコミュニティに行ってもいいのか?」
「や、だ、駄目です!いえ、待ってください!」
「だから待ってるだろ。ホラ、いいから包み隠さず話せ」
十六夜君は近くの木に寄りかかり黒ウサギちゃんの次の言葉を待った。
「ま、話さないなら話さないでいいぜ?俺達はさっさと他のコミュニティに行くだけだ」
「………話せば、協力していただけますか?」
「ああ。面白ければな」
十六夜君はケラケラ笑うが、その目は笑っていなかった。
「………分かりました。それではこの黒ウサギもお腹を括って、精々オモシロオカシク、我々のコミュニティの惨状を語らせていただこうじゃないですか」
コホン、と半ば自棄っぱちに黒ウサギちゃんは語り始めた。
飛鳥ちゃんも耀ちゃんも真剣な眼差しで黒ウサギちゃんを見つめる。
「まず、私達のコミュニティには名乗るべき”名”がありません。よって呼ばれるときは名前のないその他大勢、”ノーネーム”という蔑称で称されます」
「へえ………その他大勢扱いかよ。それで?」
「次に私達にはコミュニティの誇りである旗印もありません。この旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担っています」
「ふぅん?それで?」
「”名”と“旗印”に続いてトドメに、中核を成す仲間達は一人も残っていません。もっとぶっちゃけてしまえば、ゲームに参加できるだけのギフトを持っているのは122人中、黒ウサギとジン坊っちゃんだけで、後は十歳以下の子供ばかりなのですヨ!」
「もう崖っぷちだな!」
「ホントですねー♪」
黒ウサギちゃんはウフフと笑うと、ガクリと膝をついて項垂れる。黒ウサギちゃん達のコミュニティは本当にピンチなようだ。
と、そこへじっと話を聞いていた飛鳥ちゃんが黒ウサギちゃんに質問する。
「それらはすべてギフトゲームによって奪われたものなのかしら?それだったら、追い詰められる前にゲームを受けることを拒否することも出来たのではないかしら?」
「通常のゲームならそうしたでしょう。しかし、私達のコミュニティの相手は箱庭を襲う最大の天災――『魔王』だったのです。」
マオウという、余りにも物騒な響きに僕は少し恐ろしくなった。このマオウという存在が、1つのコミュニティを崖っぷちにまで追い込んだのだから。
しかし、この場にいる他の人達は違ったようで、
「魔王!なんだよそれ、魔王って超カッコイイじゃねえか!箱庭には魔王なんて素敵ネーミングで呼ばれる奴がいるのか!?」
「魔王……1度対面してみたいものね」
(マオウさんとは友達に成れるのかな………)
全員、がっつり食い付いた。
黒ウサギちゃんは少し引きぎみに、
「皆さんが思い描いている魔王とは差異があるかと思いますが、倒したら多方面から感謝される可能性はございます。倒せば条件次第で隷属させることも可能ですし」
「へえ?」
「魔王は”主催者権限(ホストマスター)”という箱庭における特権階級を持つ修羅神仏で、彼らにギフトゲームを挑まれたが最後、誰も断ることができません。私達は”主催者権限”を持つ魔王のゲームに強制参加させられ、コミュニティは…………コミュニティとして活動していく為に必要な全てを奪われてしまいました」
今度は僕から黒ウサギちゃんに質問する。
「コミュニティの名前とか旗印とかって、新しく作り直すことは出来ないの?」
「そ、それは」
黒ウサギちゃんは少し言い淀んで胸に手を当てる。
「か、可能です。ですが改名はコミュニティの完全解散を意味します。しかしそれでは駄目なのです!私達は何よりも………仲間達が帰ってくる場所を守りたいのですから………!」
黒ウサギちゃんの言葉は、心からの声に聞こえた。
彼女は“魔王”とのゲームによってバラバラになったコミュニティを必死に、それこそ異世界から同士の召還という手段を用いてまで守ろうとしていたのだ。
「茨の道ではあります。けど私達は仲間が帰る場所を守りつつ、コミュニティを再建し…………何時の日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。そのためには皆さんの力を頼るほかありません!どうか我々のコミュニティに力を貸していただけないでしょうか………!?」
黒ウサギちゃんは深く頭を下げる。
もっと、早く本心を表に出してくれたら良かったのに。
この黒ウサギちゃんの思いを聞いて、僕の…僕達の心は決まった。
「いいな、それ」
「―――――………は?」
「面白そうね……乗ったわ」
「私も」
「え………あ、あれれ?今の流れってそんな流れでございました?」
「皆、黒ウサギちゃんの力になりたいんだよ。僕なんかがお役に立てるかは分からないけど、コミュニティの再建に協力させてくれないかな?」
「は、はい!ありがとうございます!」
黒ウサギちゃんは、嬉しそうに跳躍すると、
「それでは、皆さん!黒ウサギ達のコミュニティへとご案内いたします!」
僕達の異世界の冒険は始まったばかりだ。
最初の、のび太が手紙の内容を一言一句暗唱してみせたところに成長が見てとれるのではないかと思います。
今まで筆者は、皆さんが投稿なさる小説を読むだけでしたが、今回自身初の二次創作を投稿し、自分で読んでも拙い文章ではございますが、こんなに沢山の皆さんに読んでいただけて、とても嬉しいです。日々増えるお気に入り登録や励ましのお言葉にニヤニヤさせていただいております。
本当にありがとうございました。
つぎもぜひ、ご覧いただければ幸いです。