魔法剣士そらね☆マギカ   作:あかぞらの人

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第9話 「絶望するわけにはいかないんだ」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 まるで呪いが具現化したような、という表現が似合う黒い空間。大小様々な歯車が浮いており、その中の一つに西洋の魔女の帽子を被る少女は座っていた。

 少女は手のひらの白い水晶を覗き、小さく笑みを浮かべている。

 

「やっぱり先輩も契約しちゃったんだぁ…アハハハ、ちょっと計画が狂っちゃったかな?」

 

 水晶に映るのは悠木そらね、そして対峙する魔女たちだ。

 少女は水晶を回すと、暁美ほむらと日向エリを映す。

 

「せっかくあの魔女たちを操作して邪魔な方のほむらちゃんとエリさんっていう変な魔法少女を殺せそうだったのになー……ふふっ、まぁいいや☆」

 

 残念そうな表情になった少女だが、すぐにニヤリと笑う。同時に水晶を手で潰し粉々に粉砕した。

 

「まだ聖カンナとかいう人間もどきから貰った『コネクト』には、使い道はあるものね」

 

 少女は左手の穢れきったソウルジェムを眺めつつ、何もない自分の真後ろに話しかける。

 

「まだ始まったばかり……焦っちゃったらもったいないよね」

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ『神様』……そう思わない?アハハハハハハハハハ!!!」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「日向さん、あの黒い子を連れて下がっててくれ」

 

 俺は魔女たちを威嚇しつつ、日向さんに言う。

 戦えない後ろの二人を今すぐにでも逃がしたいけど、出口は魔女たちが塞いでいて通れない。だからここは二人を下がらせ、俺一人で魔女を全て倒し結界を解かないとな。

 

『ここの魔女は『蜘蛛の巣の魔女』といって、結界そのものが魔女という珍しいケースだ。この魔女自体は戦いはしないけれど、親となり変わりに大量の使い魔を生む。

 その使い魔が成長して繭になり、人間を捕食して蜘蛛のような姿の子魔女へ変化する。この結界から抜け出すためには一度魔女を全滅させたあと、結界へ直接攻撃するしかないよ』

 

 先ほどキュウべぇはそう俺に教えてくれた。教えてくれるのは大変ありがたいが、そんな分かりやすい助言をされると、何か裏がありそうで怖くなる。けど、今は他にどうすれば日向さんたちを無事に結界を抜けるか思い付かないから、それを当てにするしかないんだがな。

 とりあえず、あの白狸を信じることにした。

 

「俺はこの結界ごと魔女を倒すから、早く」

「あ、うん、ありがと。……頑張ってね、魔法剣士さん!」

 

 日向さんは黒髪の魔法少女を担ぎ、出口と反対側の通路へ下がっていった。

 直接見たわけじゃないが、彼女らのソウルジェムはかなり穢れてるだろう。数日前に訊いたが、日向さんは何個かグリーフシードを持っているらしい。なんとかそれで浄化してくれればいいけど…。

 

『グガァァァ!!』

 

 魔女たちはそれを逃がすまいと、一斉に走り出す。獲物に集中して眼中にないってことか…けどな──

 

「二人はやらせないぜ!」

 俺は剣を左手に持ち変え、右手を前方に突き出す。そして右手甲のソウルジェムに魔力を込め、蒼い輝きを灯す。輝きは辺りを照らすと同時に光は形を形成し、徐々に糸状に変わっていく。

 

 これが俺の魔法……

 

「名付けて、光弦糸!!」

 

 ソウルジェムから大量の光弦糸を作り出し、魔女たちに向けて一気に展開させる。糸は直進する5体のうち3体を拘束し、その胴体を締め上げた。

 俺は捕らえた3体を宙に浮かびあがらせ、結界の壁めがけて思いっきりぶん投げる。派手な音をたてて魔女たちは結界に激突し、さらに3体に結びつけた光弦糸を壁と同化させ動きを封じた。

 

「お前らの相手はあとだ」

 

 そうしている間に逃がした2体は、危険だと判断したのか狙いを俺に定めたようで、1体は宙に飛び、もう1体は地面を滑るように襲いかかってきた。

 

「動きが単純なんだ…よッ!」

 

 俺はやり投げの要領で宙に飛んだ魔女に剣を投げ、それが突き刺さると奴が飛んだ勢いを相殺され、地面へ叩き落とされた。

 さらに俺は地ならしをしながら一直線に走る魔女に向き直り、両手で魔女両前脚を受け止めた。

 ズドンと想像以上の大きな衝撃が腕から肩へ伝わるが、なんとか両足に力を入れ踏ん張って耐えのけた。じたばた暴れる魔女を抑えつけつつ、俺はソウルジェムに力を集中させる。

 

(こいつの脚を…紙に作り変える!!)

 

 俺は魔女の脚を掴む両手から光弦糸を直に流し込み、魔女の脚を紙質なものへ作り変える。

 そのまますかさず紙となった両前脚を千切り、バランスを崩した魔女の鋏のような口に連続で蹴りを入れ、最後の回し蹴りで顔面を完全に粉砕した。

 

 『ギャ!!?』

 

 魔女は奇妙な声を発して崩壊し消えた。

 

『どうやら君は作りかえる魔法が使えたようだね』

 

 これは別れ際のキュウべぇの言葉だ。俺の魔法の作り変えること、改変だ。どう使うのかわからなかったが…なるほど、何となくやればできるものだ。

 

「さっきのやつらは…」

 

 先ほど動きを封じた3体は光弦糸の拘束から解放され、すでに俺のすぐ近くまで迫っていた。

 俺は焦らず、光弦糸を大量に生成し、左掌からから光弦糸を巨大な防御壁のように展開する。それは光の防壁…名付けて、

 

「フィリフォルメ・バルアルド!」

 

 叫ぶと同時に俺は頭にダイヤモンドをイメージし、一瞬でフィリフォルメ・バルアルドの硬質をダイヤモンドと同じまで引き上げる。

 

『ギギャ!?』

 

 魔女たちはスピードを落とせずフィリフォルメ・バルアルドに激突し、破片を撒き散らしながら後方へ吹っ飛んだ。

 俺はその隙に走り出し、先ほど投げた剣を回収する。そして一番近かった魔女へ光弦糸を放ち拘束、そのまま引きよせ剣身で胴体へ叩きこむ。

 その衝撃をまともに受けた魔女は胴体が砕け、上半身と下半身が分離し動かなくなった。

 残りは二体だ。

 

 

 生き残っている内の一体は戦意を喪失したのか天井から垂れた糸を伝って逃げようとしており、もう一体はフィリフォルメ・バルアルドにぶつかった時のダメージが大きかったらしく、必死に動こうともがいていた。

 俺は地面に這いつくばる魔女にゆっくり近づき、その魔女の目玉へ、剣を勢い任せに突き立てる。

 

『ギャァァァァァァ!!!!』

 

 ずぶり、と鈍く気味の悪い感触が剣を通じて手に伝わる。その蜘蛛みたいな姿からは想像できない肉の感触。

 その感触は、この魔女が元は人だったことを思い出させた。

 

「今のお前には同情はするよ……けど───」

 

 俺は剣を抜こうとじたばた抵抗する魔女を力任せに持ち上げて、剣を抜くと同時に天井にぶら下がっている魔女へ蹴り飛ばす。

 

『ギィ!!?』

『グギャァ!!』

 

 魔女同士が大きな音を出してぶつかり、蹴り飛ばした勢いが無くなると徐々に落下してきた。

右手に持ち直した剣の刃に左手を添え、静かに真上から重なって落ちる魔女2体に狙いを定める。

 

「───俺はまだ、あんたみたいに絶望するわけにはいかないんだ」

 

 そう一言を呟き、俺は蒼い光を宿した剣で哀れな魔女二体を一瞬で貫いた。

『ガアアアアア!!』

『キシャアアアアア!!!』

 

 俺が魔女二体に突き刺すとほぼ同時に奇声を上げて力尽き、黒い何かを1つだけ残して消えた。

 

「………」

 

 俺は足元に転がってきた黒い何かを拾う。それはまるで球体に針が付いたようなものだ。球体の中心には網のような交差線が模様として浮き上がっている。

 

「これがグリーフシード、だよな……正直、こんなのが俺や魔法少女の魂であるソウルジェムの成れの果てとは思いたくねぇな」

 

 けど、この絶望した成れの果てのおかげで希望を持つ魔法少女は成り立ってるのも事実だ。プラスマイナス0の完璧な食物連鎖──気持ちのいい話ではない。

「ま、割り切るしかないよな……つーか、数体いてたった一つかよ…」

 

 さて、日向さんたちに早くこいつを持ってかないと──

 

 

 

「──けどその前に」

 

 俺は光弦糸を生成して剣に集中させる。纏わせた光弦糸は刀身に沿うように波打ち、原形より大きな光の剣へと変化した。

 それを逆手にに持って軽く足を開き、腰を落として剣と右手を後ろへ引いた。

 

 

 

 

 

 

 

「無限光──アインソフアウル!!」

 

 

 その言葉と共に、俺は真後ろに向けて剣を思いっきり振り払う。

 剣からは蒼く輝く衝撃波が放たれ、この結界全て、結界そのものである親の魔女を一瞬で昇華させた

 

─────────────

 

「ほむほむ、起きないなー」

 

 私は隣で静かに眠るほむほむのほっぺを軽くつねる。少し嫌がった顔をしたから、死んではないね。

 グリーフシード三個も使って浄化させたから、もう大丈夫なはずだけど…疲労かなぁ?この子魔女になりかけだったしね。

 なお、私はすでに浄化済みです。おかげで予備のグリーフシード全部消えたよ…。

 

「結界が…消えてく」

 私たちがいた裁縫の魔女の結界は、役割を終えたみたいにゆっくりと蒼い光を発しながら消滅した。それと同時に景色はさっきの路地に戻る。

 

「あ、日向さん!」

 

 さっきの私たちを助けてくれた男の子、そらねくんがこっちに走ってきた。左手には裁縫の魔女のものらしいグリーフシードが二個、握られている。この子、様子からしてさっきの魔女を全部倒したみたい。

 さっきは魔法剣士って名乗ってたけど……一体何者なんだろ。

 

「さっきはありがとね」

「どういたしまして」

 

 魔法剣士くんは私の目の前に止まり、グリーフシードを差し出した。

 

「これ、よかったらもらってくれ。多分、グリーフシードの予備はもうないだろ?」

 

 ……人のこと言えないかもだけど、お人好しだねこの子。というかなんで予備なくなったの知ってんの?

 私はちょっと動揺しつつ、グリーフシードを受け取った。

 

「えっと……い、いいの?」

「あぁ。俺だってさっきは日向さんに助けられたしな」

 

 さっき?助けられた?いやいや…私とこの人って初対面のはずだよね?でもこの人私の名前知ってるし……もーワケわかんない!

 

「…あぁ、そっか。まだ日向さんに言ってなかったっけ」

 

 私の表情を見て何を察したのか、魔法剣士くんはごめんと謝ってきた。

 そしてその次に魔法剣士くんから発せられた一言に、私は三十秒ほど頭が真っ白になった。

 

 

 

 

 

「俺、さっきの元後輩候補だよ」

 

 

 

 

 

「ええええええええー!!!??」

 


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