魔法剣士そらね☆マギカ   作:あかぞらの人

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第4話 「せめてもの罪滅ぼし」

「まずは結界の入り口を開かなきゃね」

 

 日向さんの付けていた指輪が光り、卵のようなものへと変化した。

 

「それがソウルジェム?」

「えぇ、そうよ。奇麗でしょ?」

 

 日向さんはソウルジェムをこちらに向けてくれた。

 

 ソウルジェムは淡く紫色に輝いていて、芸術品みたいだなと思った。

 同時によく見てみると、ソウルジェムの下部分がほんの少し黒く濁っている。これが穢れなのかな……。

 

 

「でね、これを持ってこうすると……」

 

 日向さんは右手のひらにソウルジェムを乗せ、何もない前方へかざす。

 すると、奥に気味の悪い空間が広がる入り口らしきものが現れた。

 

「こんな風に、結界の入り口をこじ開けることができるの」

「エリ、『こじ開ける』というよりは『開く』の方が正しいと思うよ?」

 

 キュウベぇが間を入れずに訂正を加えた。

 

「うっさいなぁ、あんまり変わんないんだし別にいいでしょ」

「やれやれ、どうやら正しいことを言っても君には無駄のようだね」

「ムカつくー……」

 

 キュウベぇが皮肉を言うと、日向さんはキュウベぇを睨みながら頬を膨らませた。

 この二人、いつもこうなのかな?

 

「……後輩候補君。キュウベぇなんかほっといて私たちは結界に入ろっか?」

 

 こちらに顔を向けた日向さんは、微笑みながら聞いてきた。

 

「賛成」

 

 俺は即答で答える。……だってキュウベぇウザいしな。

 

 

───────────

 

 

 キュウベぇを置いて魔女の結界に入った俺と日向さんは、周りに気を配りながら奥へと進んでいた。

 魔女の結界の中は、つぎはぎのぬいぐるみだらけで、足場はまち針を重ねたものだった。

 

「……なんか、凄いところだな」

 

 いくらか進んだところで俺は日向さんにそう話しかけると、日向さんは少し笑った。

 

「いやいや、こんなのまだ序の口だよ。凄いとこはもっと凄いもん」

「例えば?」

「うーんそうだねぇ……前私が入った結界は血まみれの棺桶が並んだ場所だったし、前の前のは満開の薄気味悪い紫の桜だらけだったよ」

 

 日向さんは嫌な顔をしながら教えてくれた。

 

「………すごく嫌だな、それ」

 

 というか、そんな場所で日向さんは今まで戦ってきたのか…そう考えると、日向さんを尊敬してしまう。

 だって、人々を守るために戦うってかなりかっこいいことだしね。

 

(……まぁ、敵である魔女は魔法少女の成れの果てみたいなものらしいけど)

 

 と考えていると、日向さんがスッと立ち止まった。

 考え事を一度放棄して、あわてて俺もその横に並ぶ。

 

「……見つけた」

 

 日向さんが真正面を見つめながら、少し意地悪そうな笑みを浮かべた。

 

 日向さんの視線の先、約100mくらいの場所に、『何か』がいた。

 その『何か』は、片目が取れた熊のぬいぐるみに翼が生えたような可愛らしい外見だった。手にはおもちゃのような三ツ又槍(トライデント)を握っている。

 どうやら、まだこちらには気づいていない様子だ。

 

 他にもいるか念のため周りを見回してみるが、同じようなものはいない。どうやらここには一個体だけいるようだ

 

「日向さん、あれが魔女なのか?」

 

 『何か』に気づかれないよう、ひそひそ声で日向さんに聞いてみる。

 だが、日向さんは横に首を振った。

 

「あれは使い魔。簡単に言うと魔女の手下みたいなやつだよ。手下と言っても、ほっとくと魔女になっちゃうんだけどね。

 …魔女は…多分、いたとしたらこの奥だね」

 

 日向さんはそう言いながらしまっていたソウルジェムをそっと取り出し、上に思いっきり投げた。

 

「変身!」

 

 日向さんがお腹の底から声を出すと、上空に浮かんでいるソウルジェムが静止し、下にいる日向さんに向けまばゆい光を放つ。

 光を浴びながら日向さんはくるくると回り始め、光を衣のようにまとっていく。

 

「…ハッ!」

 

 気合いに満ちた声と共に、ピタッと止まると同時に日向さんは光を振り払う。

 そこにいたのはさっきまでの日向さんではなく、紫色のソウルジェムが付いた虹色の丸い髪飾りを付け、アジサイのような美しくかわいらしい衣装を着た日向さんだった。

 

「後輩候補君、私の華麗な攻撃ちゃんと見ててね!」

 

 そう微笑んだ日向さんは、両手にナックルがついた大きな刃渡りのダガーを召喚した。

 すごくかっこいいなあの武器…あんなのマンガぐらいでしか見たことないぞ。

 

「いっくぞー!!」

 

 日向さんはそのまま使い魔にダガーを向けて走りだした。

 接近してくる日向さんに気付いた使い魔は手にしていた三ツ又槍を構えようとしたが、

 

「おそいっての!!」

 

 日向さんのダガーによって真っ二つに切り裂かれ、数秒後に消滅した。

 

「日向さんすごいよ!」

 

 日向さんに近づきながら俺は話しかけた。

 

「そ、そうかな……えへへ」

 

 日向さんは顔を赤くしてまんざらでもないように照れた。

 しかし、数秒後にはコホンとわざとらしく咳払いをして普通の顔に戻った。

 

「どうやらここの使い魔はそこまで強くない、というより雑魚みたいだね。このまま進むからついてきて」

「了解」

「素直でよろしい。あ、一応念のためにこれ持ってて」

 

 日向さんは二つのうちの一つのダガーを差し出してきた。そのため俺は戸惑ってしまう。

 

「え…いいのか?だってこれは日向さんの武器なんじゃ……」

「大丈夫だよ。使い魔があんなんなんだし、魔女も弱いと思うからさ。

 それに私気づいたんだけど、私って接近型だから君のこと守りながら戦えないんだよね。だから自分の身は自分で守れ…ってね」

 

 日向さんは片目でウインクをする。

 あ、ちょっとかわいいな…て、そうじゃなくて。

 

「……わかった、使わせてもらうよ」

 

 俺は日向さんからダガーを受け取る。

 ためしに軽く斬る真似をしてみたが、見た目に反して結構軽く、ちょうどいい重さで扱いやすい。持ち手のグリップもしっくりくる。

 

「結構様になってるね」

「そう、かな?」

「うん。なんだか『孤独の美少女剣士』かんじ」

「どこの深夜アニメだよそれ…というか、剣士って言うには武器が短すぎるから」

 

 とりあえずツッコミをしておいた。つーか美少女とか言われたくないってば。

 

「…よし、おふざけはここまでにして、こっからはまじめに行こう。この先、使い魔でも油断したら危ないからね」

 

 日向さんは、さっきとは一変して真面目な顔つきになった。

 

(……ここからは本当にあぶないってことか……)

 

 日向さんの言動と表情からそう読み取った俺は、気持ちを切り替える。あと自然とまじめな顔になった気がした。

 

「…よし、行こうか」

 

 日向さんはコツコツと足音を鳴らしながら奥へ進んだ。俺もナイフを右手に持ち直し、その後に続く。

 

 

─────────

 

「とりゃ!!」

 

 日向さんは数回のスキップで使い魔の後ろへ回り込み、使い魔本体を紙のように切り裂いた。

 真っ二つに切り裂かれた使い魔は、小さな悲鳴をあげ消えていく。

 それとほぼ同時に結界が崩れ、風景は徐々に結界の入り口があった場所へと戻っていく。

 どうやら無事に生き残れたらしい。

 結局日向さんがダガー片手に無双しすぎて、俺が日向から借りているダガーを使う場面は訪れなかったな。 

 

「あちゃー、やっぱハズレかぁ」

 

 日向さんは崩れていく結界に目をやりながらふぅとため息を付き、ソウルジェムに触れ変身を解く。俺が持っていたダガーも形を光の球体に形を変えてソウルジェムへ吸い込まれていった。

 

「日向さん、ハズレって?」

「え?…あぁ、今日みたいに使い魔だけの結界で、グリーフシード取れなかったからハズレなの。まぁ今回は私が結界に入った頃にタイミング悪く魔女が移動しただけっぽいけど」

「へぇー」

 

 そんな会話をしていると、キュウべぇがとてとてと駆け寄ってくる。どうやら結界があった付近で俺達を待っていたようだ。

 

「エリ、お疲れ様。今日はもう帰るのかい?」

「うん。引っ越しの準備があるし」

「引っ越し?」

 

 日向さんの引っ越しという言葉にちょっと驚いた俺は、頭に浮かんだ疑問をそのまま口に出す。

 

「実は私ね、一週間後には福島に引っ越すんだー。親の都合でさ」

 

 残念さが混じった笑顔で、日向さんはそう言う。

 

「そうだったんだ…」

 

 それを聞いた俺は、日向さんとは友達になれそうだったのに、と少し悲しい気分になり落胆する。

 

「魔法少女になるにしてもならないにしても、もう少し日向さんに教えてほしいことがいろいろあったんだけどなぁ…」

 

 言ってもどうにもならないと分かっていたが、口からそんな言葉がこぼれてしまった。

 そんなしょぼくれた俺を見てか、日向さんは励ますようにこう切り出してくれた。

 

「そうへこまないで。後輩候補君がよければ、私がこっちにいる間は魔女退治に連れてってあげるからさ」

「え、いいの?」

「うん。今回逃がした魔女は私が倒さないと後味悪いし」

「…それってつまり、魔女退治のオマケか」

 

 なんだろ、俺の方が優先順位が低いって思うとちょい悲しい…。

 まぁ面倒みてもらえるだけありがたいと思うべきなんだろうけどさ。

 

 

 

───六日後────

 

「オリャァァァ!!」

 

 日向さんは目の前にいる使い魔数体にダガーを構えて突撃し、あっという間に切り刻む。

 使い魔たちはちぐはぐに縫われたような布地の地面に倒れて、スッと消えた。

 

「日向さん、大丈夫ですか!?」

 

 俺は日向さんに駆け寄った。日向さんは、軽く息をを付きながら、こちらに顔を向ける。

 

「うん、なんとかね」

 

 軽いため息を吐きながら答えた日向さんは、辺りを見回して使い魔がいないのを確認すると、地面にペタンと座り込んだ。

 

「さすがに雑魚相手でも、連続で戦闘するのは疲れるなぁ…」

 

 日向さんは今日この結界に入ってから、次々と襲い掛かってくる使い魔を倒している。倒したその数は、さっきのを含めて約60匹だ。

 俺もなんとか日向さんの役に立とうと戦うが、一匹を相手にするのが限界だ。我ながら情けない……キュウベぇが俺の家で「普通の人間が入り込んだら、生きて帰るのは不可能に近いね」なんて言ってたが、あれは本当なのだと実感する。

 

 

「後輩候補くんも私の隣に座ったら?今使い魔いないし」

 

 いつの間にか座っていた日向さんが、俺を見上げながら自分の横を指差す。

 

「…じゃあ、お言葉に甘えて。よっと」

 

 日向さんの右横に座った。以外に座り心地がいい。例えるなら干したての布団かな。

 

「……ねぇ、後輩候補くん」

 

 ナイフを指で器用にくるくる回しながら、日向さんが話しかけてきた。

 

「ん?何?」

「後輩候補くんはさ、魔法少女の秘密って知ってる?」

 

 日向さんは、唐突にそう質問してきた。すごく真剣な眼差しだった。

 

「秘密、か?」

「うん。……このソウルジェムが、私たち魔法少女の魂だってこと」

 

 日向さんは自分のソウルジェムを持ち、俺の顔へ近づける。六日前と比べ、穢れによる黒さが微量だが増している。

 

「……日向さんとはじめて会う少し前に、キュウベぇから聞いたよ」

 

 俺は小さく頷く。

 日向さんはそんな俺を見て、くすりと笑った。でも目は笑ってない。

 

「そっか……魔法少女が魔女になることも?」

 

 日向さんはそう訊きつつ、回していたナイフをピタッと止める。

 

「あぁ…」

 

 返事をすると、なんだか気が重くなってしまった。心の中にもやもやが広がって、重りとなるような……そんな感じだ。

 

 

「私ね……妹が死んだ後すぐに魔

法少女になったんだ」

 

 そう言う日向さんは、泣き顔と笑った顔が混ざったような表情で──傷つけたらあっという間に崩壊しそうな、脆い存在に見えた。

 

「私の妹はね、キュウベぇに『俺の心を女にして』って願いで契約したの」

 

 俺は理解した。日向さんはいつも笑ってるけれど、それは自分を励まそうとしているからなんだろう。

 そんな日向さんを、俺はただ黙って見ていることしかできないでいた。

 

「それで晴れて完全な女の子になった妹は、頑張って毎日魔女と戦ってたんだけど、ある日他の魔法少女から自分達魔法少女の秘密を知ってしまった。そしたら『せっかく心が女になったのに、身体は魔女製造機になったのなんて嫌!』って言いながら、結局私の目の前で魔女化した」

 

 眼には涙が溜まって、今にも泣き叫んでもおかしくない。

 

「妹だった魔女は私を殺そうとして、私はとっさにキュウベぇと契約した。私がその時願ったのが、とっさに思い付いた『この魔女の存在を消して』っていう願い。それで魔女は消えたけど、妹の存在も生まれていないことになって消えてた。みんな忘れちゃったんだ、妹のこと」

 

 原因がなければ結果もない。日向さんの弟が生まれていなければ魔女も存在しない。つまり原因である日向さんの弟を消して、結果である魔女を消したってことか。

 

「なんだよそれ……楽しかったことや悲しかったこと、思い出も無かったことになるなんて、酷すぎる」

「そう、後輩候補くんの言う通り。お父さんもお母さんも、妹のこと忘れてた。私も、妹の名前しかは思い出せない。それは心にぽっかり穴が開いたみたいで、残酷なんだ。

 けど、妹が武器として使ってたナイフだけは残ったの。今後輩候補くんが持ってるのがそれ」

「これが?」

「そう」

 

 俺は今持っているナイフと日向さんの持っているナイフを見比べた。よく見るとグリップや刃の部分にところどころ違いがある。

「……そんな大事なもの、俺に使わせていいのか?日向さんの妹の形見なんだろ?」

 

 俺がそう尋ねると、日向さんは優しく微笑んだ。

 

「うん、大丈夫だよ。なんだか後輩候補くん、妹に似てる感じがあるから安心感があるんだ。私が妹の話してるのだってそういう理由からだしね」

 

 似てる?日向さんの妹と俺が?

 

「見た目が、って訳じゃなくてね……何て言うんだろ、何かが似てるんだ。君が妹と同じ性同一性障害だってのもあるんだろうけど」

「…何かって、ずいぶん曖昧だなぁ」

「むぅっ…だって思い付かないんだもん」

 

 俺が呟くと、日向さんは可愛らしく頬をぷーっと膨らました。だがすぐにさっきのように微笑む。

 

「ふふっ……後輩候補くんと話すとさ、魔法少女になる前の妹を思い出すよ。あの子ともこんなやり取りしたから……」

「日向さん……」

 

 日向さんは、微笑みながら泣いていた。多分、日向さん自身は泣いていると気づいていないだろう。

 

 

 

「……私さ、妹の存在が消えたときに決めたの。妹の分まで魔女と戦って、妹の分までちゃんと女の子をして、妹の分まで長生きするって。せめてもの罪滅ぼしだったりするんだけどね」

 

 

 

 

 そう俺に言う日向さんは、不安を抱えながらも、自分なりに頑張って生きようとする中学生そのものだった。

 

「……あっ」

 

 涙を流しているとやっと気づいた日向さんは、服の裾で眼をごしごしと拭いた。

 

「……よし!」

 

 拭き終わった日向さんは力強く気合いを入れ、勢い良く立った。

 その顔はさっきとは打って変わって、自信に満ち溢れている表情だった。

 俺も日向さんに続いてパッと立つ。

 

「後輩候補くん、気を取り直して、魔女を倒しに行くよ!」

「おう!」

 

 日向さんが結界の奥へ走り、俺もあとに続いた。

 俺から見える日向の背中はとても頼もしいく、かっこいいものだった。

 

 日向さんがあんな辛い話をしてくれたのは、きっと自分がいなくなってしまったあとの見滝原を俺に託そうと思っているからだ。

 後悔しない願いを叶えろって、遠回しに伝えてるんだ。

 

 俺がもし誰かのために契約して、見滝原を守るために魔法を使えるようになったら…あんな風に頼もしい存在になれるのかな。

……いや、あれは日向さんが後悔しつつも前を向こうと頑張った結果だ。今の俺に…そこまでの勇気はない。

 

「あの、日向さん」

「ん?」

「これからも、暇なときは魔女退治に連れてってもらえませんか?」

「ふふ、もちろんいいよ。引っ越したあとでも、ここに新しい魔法少女が生まれるまではたまに来ると思うし。安全は保証

──」

 

 安全は保証する。そう言いかけた日向さんは、その笑みを一瞬強ばらせ、瞬く間に焦りの表情へと変わる。

 

「──危ないッ!!」

 

 突然日向さんは叫ぶと同時に俺をドンッと進路とは逆方向に突き飛ばしてきた。

 

「うわっ!?」

 

 突き飛ばされた俺はしりもちをつき、痛がりつつ視線を地面から日向さんへ移す。

 

「いってー……日向さんいきなり何を────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 顔をあげた俺が見たのは、とてもとても大きな裁縫用の針が、腹部中央に貫通した日向さんの後ろ姿だった。

 

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