目が覚めたら何故かユクモ村に居たのでハンター生活をエンジョイする事にした 作:勇(気無い)者
ギルドナイト。それは、ギルドを守るべく、ハンター達を統括するギルドの直属組織『ギルドナイツ』に任命された、特殊なハンターである。
各ギルドごとに設置されているとされ、最大12名からなるのだとか。しかし、ユクモ村はギルド出張所という事で設置されてはいない……筈。
ギルドナイトは時に、ギルドから直々に特殊なクエストを言い渡される事もあるらしい。例として挙げるならば、一切の部位破壊を行わずにモンスターを捕獲する、未確認モンスターの調査を行う、未開拓地帯の調査、などである。
ギルドナイトとは、そういった一種の縛りプレイのような特殊クエストや、モンスターや場所の調査を遂行する事の出来る実力を持つ、エリートハンターなのだ!
━━━というのは表向きの話で、実際のギルドナイトとは
密猟者や殺人を犯した者などが標的だ。つまりは対人戦のプロフェッショナルで、人によっては単身で国の近衛兵部隊と互角に渡り合えるくらいの実力を持っているという噂もある。
……近衛兵部隊というのがどのぐらいの規模かは解らないが、多対一で互角に渡り合えるという事から、とんでもない実力者である事は間違いない。
そういった犯罪者などをぶっ殺……抹さt……うぅん……兎に角、消すのが仕事である。
……っていう噂らしいよ。実際のところ、ギルドナイトに関しては謎が多過ぎて一種の都市伝説みたいな扱いになっている。俺は警察みたいなもんじゃないかねと思っているが。
で、俺は今、リリーと一緒に飲食店で食事をしている━━魔理沙は家に帰した━━のだが。
「……あのリーサって人は有名な人なの?」
「はい、王国ではかなりの実力者として知られています」
……マジか。ギルドナイトって、もっとこう……裏方の人間というか、日常に溶け込んでて
しかし、有名って事は実力者というのは間違いないだろうな。人々に認知されている分、お粗末なところは見せられないからだ。
「……そんな有名人が、こんな辺境の小さな村に何をしに来たんだろうね?」
「それは解りませんが……ギルドから何か密命なんかを帯びてきているかもしれませんね」
ふーむ、密命か……有り得るような、そうでもないような……。
密命なのに名前を知られている人間を起用するか? という疑問もあるが、逆に有名人だというならば、ギルドに関する事に於いて色々顔が利くというメリットもあるだろう。
「ところで、さっきリーサ・クジョウには余り関わらない方がいいって言ってたけど、それは何故?」
「えっ、あの、それはその……」
もじもじと照れたように言い淀むリリー。心なしか顔が赤い気がする。
「あいよ、お待ちどうさん!」
と、丁度そのタイミングでウェイトレスのお姉さんが料理を持ってきた。俺は天玉うどん、リリーはざる蕎麦。
「と、とりあえず食べましょう、エクシアさん!」
……露骨に誤魔化すリリー。ギルドナイトに関する事だからちゃんと知っておきたいんだが……以前、踏み込んで聞いたときは彼女達の金欠事情を暴いてしまい、何ともいたたまれない空気になったんだよな……。
でも、ギルドナイトはちょっと怖いしなぁ……近付かない方が良いという理由を踏み込んででも聞いておきたい……。
うーん……まぁ…………とりあえず食べるか。
俺は問題を後回しにして、うどんを啜るのだった。
……うまっ!
★
結局、俺はリリーからリーサに近付かない方が良いという理由を聞き出したのだが、曰く「だって、エクシアさん程の実力を持つハンターだったら、ギルドナイトにスカウトされちゃうかもしれないじゃないですか……」だそうだ。
うん。それはない。
ギルドナイトに求められるのは『強さ』ではなく『巧さ』だからだ。
前述の通り、モンスターの部位破壊を行わずに捕獲するとか、そういった特殊な技術が求められるのだ。ただ強ければ良いという話ではない。
…………と、思う。俺は捕獲とか、見極めが面倒くさ過ぎて好きじゃないし。絶対向いてない。
そもそも、そういうのはギルドの意向で選ばれるんだろうし、ギルドナイトが勧誘してくるなんて事はないだろう。きっと。多分。恐らく。
でも、そう言った時のリリーの表情は凄く可愛かった。何というか、捨てられる子犬みたいな可愛さがあったよ。思わず抱きしめそうになった。……俺の方が身長が低いから、仮に抱きしめたとしても周囲からは俺がリリーに甘えてるようにしか見えないだろうけど。
で、それからリリーと別れてクエストでも受けようかなと思って集会所へ来てみた訳だが。
「あら、エクシアさんではありませんの。丁度良かったですわ、今から貴女のところへ伺おうと思っていたところですのよ」
……件のリーサさんが話し掛けてきた。ミレイナとシャルロットは見当たらない。何の用だろうか。
「ここでは何ですから、一緒に温泉でもどうですか?」
「えっ、や、私は……」
着替えの事を考えると、余り他の人と一緒に入ろうとは思わない。リリーとサニー、セツナはもう知ってるから別に良いけど。
そう思って断ろうとしたが、それより早くリーサが「さぁ、行きましょう」と言って俺の腕を引く……力強っ! 何この人⁉︎ 俺も引いてるんだけど、全然ビクともしねぇ!
抵抗も虚しく、温泉の方へとドナドナ連れられてゆく。
そして、脱衣所の入り口に差し掛かったところで━━━リーサの腕が離れ、俺は湯浴み姿へと着替えが完了し、脱衣所の外に放り出された。
「……え?」
リーサの唖然としたような声が聞こえる。
う、うん……まぁ、そういう反応するよね……。超スピードだとか催眠術だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ、瞬間的に着替え終わっているという謎の現象だからね……。どう言い訳したものか。
俺とリーサは互いを見つめ合い━━━何を思ったか、リーサは再び俺の腕を引き、脱衣所へと連れ込む。
が、当然ながら俺は元の防具に着替え終わり、脱衣所の外に放り出される。それをもう一度繰り返し、また湯浴み姿に戻った。
場に沈黙が落ちる。
「…………どうなっているんですの……?」
…………。
え、えーっと……その……。
「早着替えマジック『ザ・ワールド』ッ!」
サッと、前回とは違いDIO様のジョジョ立ちを行う。
「…………」
リーサはぽかんと口を開け、呆気にとられたような表情を浮かべていた。
……や、やべえ……何だこれ……! 滅茶苦茶恥ずかしい……! 穴があったら入りたいレベルで恥ずかしい! いや寧ろ死にたいぐらい恥ずかしい! 何でこんな事をしてしまったんだ俺は⁉︎
「…………それは、一体どうい」
「先行ってるから‼︎」
追求される前に小走りで温泉に向かう。転ばないように注意し、温泉へと入った。相変わらず誰も入っていない。そして変な声が出るが、気にしない。
あ、危なかった……早着替えに関してはどう説明すれば良いのか未だに分からんからな……聞かれても困る。
……というか、よく考えたらこの後リーサがこっちに来るじゃねぇか! また追求されんじゃん! 危なかったじゃねぇよ、問題を先送りにしただけだった!
くそぅ……誤魔化そうと思って咄嗟に出たのがジョジョ立ちだったが、逆に
ど、どうしよう……何か言い訳を考えなければ……。もういっそどっかに隠れるか?
……あかん、隠れるところとか無いわ。この温泉狭過ぎるでしょう……。
「お待たせしました」
もう来たの⁉︎ 着替え早っ! まだ1、2分ぐらいしか経ってないと思うんだけど⁉︎ もっと考える時間をくれよ!
「失礼しますわ」
リーサが温泉へと入ってきて、俺の横に座る。
……な、何か近くない? 肩がぴったり触れ合っているんだが……。
「ここの温泉はとても気持ちが良いですね」
「え? う、うん……そうだね……」
「遠いところからわざわざ湯治にやって来る方々の気持ちが分かりますわ」
「は、はあ……」
この当たり障りのない会話……。さっきの事を追求するタイミングを窺っているに違いない。
「ところで、エクシアさん」
ほら来た! 絶対来ると思った!
くそぅ、まだ考えも纏まっていないというのに……何て言い訳すりゃいいんだ……!
「貴女はとても肌が綺麗ですわね」
「……え?」
よくわからんが、いきなり褒められた。想像の斜め上を行ったな……てっきり、さっきの事を追求されると思ったんだが……。主にジョジョ立ちの方を。
「本当に……本当に綺麗ですわ……」
俺の耳元で囁き、艶かしく笑いかける。み、右の耳に囁くのはやめて欲しい……くすぐったい……。
そして、俺の身体を撫で回すのもやめて欲しい……。何だろう、美人に密着されて嬉しい筈なんだが……なんかゾワッとする……。なんでだろう……。
「あの……近いんだけど……」
「それが何か?」
いや、何か? じゃなくてさ……。何でそんな抱き付いてくるんだ……。初対面の時はもっと悪印象を持たれているように感じたのに、やたら気安くなってないか……?
そして、背中に当たる乳圧が凄い……エクシアちゃん大敗北。これが胸囲格差という奴か……別に全然悔しくないけど。
「そんな事よりエクシアさん、貴女はギルドナイトの事は知っていますの?」
「え? ギルドナイト? えっと……名前だけは知ってるけど……」
対ハンター用ハンターっていうのは所詮、ネットでちょっと調べて知った知識であって、この世界のギルドナイトも本当にそういった者達なのかどうかは分からない。というかリリーに聞いた感じでは、一般的にもその実態はあまり知られていないっぽい。
ここは素直に知らないフリをしておくべきだ。
「そうですの。単刀直入にお聞きしますけど、エクシアさん。貴女、ギルドナイト入りませんこと?」
「…………え?」
…………は?
……えっと、聞き間違いかな? 今、ギルドナイトに入らないかと勧誘されたように聞こえたんだが……。
「えっ、と……今、なんて?」
「ですから、ギルドナイトに入りませんかとお聞きしていますのよ」
……聞き間違いじゃなかったね。勧誘されてるねこれ。
え、マジ? ギルドナイトの人が勧誘してくるなんて事があるのか。でも俺、ギルドナイトの事なにも知らないんだけど。それなのに勧誘されてもな……守秘義務とか、そんな関係かな? 一般には詳しく知られていないみたいだし、多分そうだな。
うーん……でもまぁ、俺はユクモ村の常駐ハンターだし、何より色々と面倒くさそうだ。お断りしよう。
「や、私はユクモ村のハンターだから、ギルドナイトには入れない、かな」
「あら、そうですの。それは残念ですわ」
あ、あれ? 意外とあっさり諦めるのね……。もっと粘られるかと思ったんだが。
……そんな事より、
「あの……そろそろ離れてくれない?」
「あら、何故ですの? 女同士なのですから、良いではありませんか」
ちょっ、右の耳はこそばゆいからやめれ! 弱いんだよ、そこ!
っていうか何この人⁉︎ そっちの人⁉︎ そっち系の人なの⁉︎
こんな美人に好かれているっぽいのに━━━やっぱり何かゾワッとする!
く、くそ! 離せ! HA☆NA☆SE! この虫野郎!
あかん、力強い! 振り解けぬぇ!
だ、誰か! ヘルプ! ヘルプミー!
「わっ!」
その時、どうやっても振り解けなかった彼女の手が離れた。その拍子に身体がガクッとなり、湯に顔を突っ込んでしまう。
慌てて顔を上げリーサの方を振り向くと、
「ご無事ですか、お嬢様」
━━━そこには、2匹のアイルーが居た。片方は白、もう片方は蒼の毛並み。
俺の事をお嬢様って呼ぶのは……咲夜と妖夢か! いつ、どっから現れたんだ⁉︎ まぁいいか、助かった!
「エクシア様、お下がりください。我々が足止めします」
と、白い毛並みの妖夢が言う。ありがとう、君は俺の事を名前で呼ぶんだね。今頃になって初めて知った。
「……この子達も、エクシアさんのオトモアイルーなのですか?」
「え? あ、そうだけど……」
「へぇ……」
リーサが呟き、咲夜と妖夢を見る。次の瞬間、2匹の毛並みがゾワッと逆立った。そのまま数歩後ずさる。
咲夜と妖夢がそんな反応を示すとは……この
「わ、私はこれで失礼する! 咲夜、妖夢、おいで!」
そう言い残し、俺たちは逃げるように温泉を後にした。
★
「あらあら、逃げられてしまいましたわ」
リーサは一人、湯に浸かりながら呟く。口調こそ残念そうだが、表情の方はそうでもない。寧ろ、どこか嬉しそうでもあった。
「……勧誘は予想通り断られましたわね。まぁ、彼女はギルドから派遣されたユクモ村専属のハンター……断られるのは当たり前ですわね。でも、これで次の行動を起こせますわ」
まるで自分の思い通りに物事が進んでいるとでも言わんばかりの物言いである。彼女の目的とは、一体何なのか。
「でも……困りましたわ。実際に会ってみて、本当に欲しくなってしまうなんて……ああ、あの子も
リーサは両腕を抱き、身悶えする。
「……でも、今は任務が優先。それが終わったら……ウフフ……!」
楽しそうに笑う。その時が来るのを楽しみにしながら。
「……しかし、早着替えマジック? ザ・ワールドとは何なのかしら……?」
少し悩んだが、自分の知識の中に該当・関連するものがなさそうなので、リーサはそのうち考えるのをやめた。