目が覚めたら何故かユクモ村に居たのでハンター生活をエンジョイする事にした 作:勇(気無い)者
エクシアさんが集会所の外へ出た後、わたくしも遅れて集会所から出た。そして、階段を降りて左手にある吊り橋を渡って村の外に出る。
獣道のような場所を暫く行き、途中で横の藪を掻き分けて左に逸れる。傾斜を登り、暫くするとわたくしの
「首尾はどう?」
「わわっ⁉︎ あ……なんだ、お嬢様っスか」
……わたくしの存在に全く気付いていなかったようですわね。幾ら
思わず溜め息を吐く。もう少し慎重に行動出来ないのかしら……。
「あ、お嬢様! エクシアさんが自宅から出てきたっスよ!」
「ん? もうクエストに出発するのかしら?」
「いや、違うみたいっスね。集会所とは逆の方に向かってるっス」
……他のハンターを勧誘しに行くのかしら?
そう言えば、この地にはかつてポッケ村に常駐していた、双刃剣姫の二つ名を持つセツナさんが滞在しているという情報がありましたわね。何でも、生ける伝説とまで言われたエクシアさんと同じぐらいの実力を持つとか……。
成る程、エクシアさんに入った依頼はイビルジョー二頭の討伐。それほど危険なモンスターが二頭であれば、仲間の手を借りない訳にはいかないですものね。
「あっ、エクシアさんが農場に入って行ったっス」
「ん? 農場?」
……確か、村の私有地だけれど、エクシアさんがこの村の村長さんから借りているという……。そんなところへ何をしに?
「わっ! 凄いっス! アイルーがいっぱいっス!」
「何ですって? いっぱいって何人ぐらいですの?」
「えっと……1、2、3…………8匹っスね」
アイルーがそんなに?
……農場で働いているアイルーかしら? それなら納得もいきますけど……でも、クエスト前に会いに行く意味が分かりませんわね。
「何か、揉めてるみたいっスね」
「どういう事? どんな状況なの?」
「うーん、何言ってるかまでは分かんないっスからね〜」
「それでも雰囲気から何かを察する事は出来るでしょう?」
「無茶言わないで下さいよ、お嬢様じゃないんスから」
「ええい、貸しなさい」
「あぁっ、私の双眼鏡!」
ミレイナの双眼鏡をぶんどって農場の様子を窺う。
……うーん、読唇術の心得はありますけど、アイルーの口は読みづらいですわね……エクシアさん、此方を向いて下さらないかしら? そうすれば読唇術で何を話しているのか想像もつきそうですけれど……。
というか、あのアイルー達……8匹中5匹が防具を装備している?
えっ、もしかして少なくともあのアイルー達の中の5匹はオトモアイルーという事……?
……そんなに雇う意味が分かりませんわね。もしかして、エクシアさんはアイルーが好きなのかしら? そして、あの中の数匹は愛玩用とか? だからあれだけのアイルーを……?
なら、あの防具は単純にオシャレ用という事かしらね。それなら……いえ、でもあれらの防具はかなり性能の良い物のように思えるわ。それに、あの中の1匹が、わたくしのオトモアイルーであるシャルロットと同じギルドSネコ装備を纏っているし……。
「……訳が分かりませんわね。流石は生ける伝説とまで言われたハンターですわ」
考えるだけ無駄だと、思考を打ち切る。大体、わたくしはギルドハンターであって、一般的なハンターの生態もそれほど詳しくないですし。並ぶ者のいないハンターとまで言われるエクシアさんの思考など、読める筈もありませんわね。
「引き続きエクシアさんの動向を見ておきなさい」
そう言って、ミレイナに双眼鏡を返す。
……そう言えば、シャルロットはまだ戻らないのかしら? エクシアさんのオトモアイルーについての情報を集めるよう言っておいたのだけれど……そろそろ戻ってきても良さそうですけど、何をやっているのかしら。
「お嬢様、エクシアさんが農場から出てきたっスよ。……集会所の方へ向かってるっス」
「そう、ようやく出発するのね。エクシアさんがクエスト出発口から出た後、尾行しますわよ」
「了解っス! ……そういや、シャルロットちゃんはどうしたんスか?」
「ん、シャルロットは……別の任務に就かせていたのだけれど、何故か戻らないわ」
「えっ、じゃあどうするんスか? 私が残りましょうか?」
「いえ、その必要はありませんわ。合流出来ない場合は所定の位置で待機するよう言ってありますの」
「じゃあ、見捨てていくんスね!」
「人聞きの悪い言い方はやめて下さる? ……あなた、少し言葉遣いのお勉強をした方が良くてよ」
思わず溜め息が出てしまう。まぁ、そういうお馬鹿なところも可愛いのですけれど……。
「それより、あなたはクエスト出発口をしっかり見張っていなさいな。見失っては意味がないのよ」
「はいっス!」
━━━それから数分ほど経過しましたけれど、一向にエクシアさんは現れない。
「……変ね。もうとっくに出発していてもおかしくない筈ですけれど」
「そうっスね……温泉にでも浸かってるんスかね?」
「緊急の指名クエストですのよ? そんな事がある訳ないでしょう」
「じゃあ、何で現れないんスかね?」
「…………ちょっと見てきますわ」
ミレイナにそう告げて、急いで集会所まで戻った。
……エクシアさんの姿はどこにもありませんわね。仕方ありませんわ、そこに居る青撫子に身を包んだ受付嬢に聞いてみましょう。
「失礼。少しよろしいかしら?」
「はい、何でしょうか?」
「エクシアさんはどちらに?」
「ハンター様……エクシア様なら、クエストに出られました」
妙に素っ気ない口調なのが気になりますが……まぁ、それは良いですわ。
「……クエスト出発口から出発されたのですか?」
「ええ、そうですが?」
何を当たり前の事を、とでも言わんばかりの態度。
……ベッドの上で調教して差し上げたくなりますわね。まぁ、受付嬢に手を出すのは御法度なので無理ですけど。
そんな事より、エクシアさんが既に出発しているというのは解せませんわね……どういう事なのかしら?
「エクシアさんがどうかしたんですか?」
1人で考え込んでいると、赤撫子の受付嬢がこちらにやって来た。
「えっと、エクシアさんがクエストに出掛けられたと聞いたのですが、クエスト出発口の方は誰も通っていないと聞きまして……」
「ああ! エクシアさんですか! あの人はいつもそうですよ。クエストに出発されたと思ったら、次の瞬間にはその姿が搔き消えてしまうのです!」
えっへんと、胸を張る赤撫子の受付嬢。何故あなたが誇らしげに……。
いえ、そんな事よりも。
「姿が掻き消えてしまう……とは、一体どういう事ですの?」
「エクシアさんがクエスト出発口へ行くと、何故かその姿がフッと消えてしまうんですよ! まるで、瞬間移動でもしたかのように!」
……この娘は何を言ってるんですの? 瞬間移動? 何を馬鹿馬鹿し━━━
そこまで考えて、ふとエクシアさんと一緒に温泉に浸かった時の事を思い出す。
あの時も、脱衣所に連れ込もうとしたらエクシアさんの姿が掻き消え、いつの間にか着替え終えていた……。
1秒にも満たない、一瞬でそんな事が出来るだろうか?
答えは断じて否。防具を脱ぎ捨て、一瞬の内に湯浴み姿に変わるなどありえない。
それに、エクシアさんの脱いだ防具などがどこにも見当たらなかったのもおかしい。彼女の防具はどこに隠されたというのか。
「……まさか」
本当に”まさか”という思いでしたが、わたくしはすぐに集会所を出て、ミレイナの居るところへ戻った。
「お嬢様、どうでした? エクシアさんまだ居たっスか?」
「いいえ、エクシアさんはどこにも居ませんでした。それよりミレイナ、すぐに孤島へ向かいます。準備なさい」
「え? でもエクシアさんは……」
「いいから、急ぎなさい。早くしなければ間に合わないかもしれませんよ!」
「わ、わかったっス!」
★
港から船を出し、わたくしとミレイナは孤島へと辿り着いた。
「他に停泊してる船はないっスね。エクシアさんはまだ来てないんじゃないっスか?」
「それは分かりませんわよ、ミレイナ。エクシアさんはとても不可思議な方です。わたくしは寧ろ、エクシアさんが既にクエストを終えてしまったのではと危惧していますわ」
「いや、それは心配し過ぎじゃないっスか? 幾らなんでもあり得ないっスよ」
「あなたは何も知らないからそんな台詞が出てくるのです。さぁ、行きますよ。イビルジョーが存在しているなら、エクシアさんが未だ孤島に来ていない証明です」
「あっ、待って下さいっスよ、お嬢様!」
目の前の短く細い傾斜を登り、洞穴の中へと足を踏み入れる。暗く狭い道を進んでゆき、やがて外に出た。
そこは、緩やかな傾斜が続く場所。すぐ左手には、大きく頑丈そうな木製の門が構えていますが、木の板で打ち付けられていて開きそうにない。使われていないのでしょう。
10メートルもない傾斜を登ると、そこには美しい自然の景色が広がっていた。
「わぁーっ、凄いっスね! 私、こんな景色見たの初めてっスよ!」
「何を言っているの、飛行艇からでも景色は見渡せるでしょう」
「いやいや、お嬢様。飛行艇に乗って空から見るのと、地に足をつけて見るのとでは全然違うっスよ!」
……そういうものなのかしら? わたくしにはよく分かりませんわね。
というか、ミレイナはわたくしが拾う前からハンターだった筈なのですけれど、こういう景色を見るのが初めてというのは、海の景色を眺めるのが初めてという事かしら? 確かに、この子を拾ったのは内陸の田舎の方の村でしたが……。
……こんな事を考えてる場合じゃありませんわね。
「そんな事より、さっさと行きますわよ」
「あぁっ、待って下さいっスよ、お嬢様!」
まず、目の前に5メートルを超える壁があり、左右のどちらかに進めるようになっている。右側の道を選んで、傾斜を小走りで下って行く。
そのまま10分ほど降り続けると、開けた場所に出た。
まず目につくのは、土壁から生えている葉のない巨大な樹。そして、左手の岩壁の上から水が流れてきており、それが北の方へと流れて行っている。
中央部には、草食種のアプトノスが3頭、地面に生えている草を食べていた。
「お嬢様、アプトノスっスよ!」
「そんな事は言われなくても分かりますわ。それがどうしたの」
「いや、アプトノスの肉は美味しいっスよ?」
「……わたくしは別にお腹が空いている訳ではありません」
「私はちょっと小腹が空いちゃって……」
思わず、溜め息を吐く。エクシアさんの監視任務の時も、キチンと食事はしていた筈ですけれど……。
「わたくしは肉焼きセットなんて物は持っていませんわよ」
「私が持ってるから大丈夫っス」
「……好きになさい」
そう言うと、ミレイナは嬉しそうにライトボウガンを構え━━━その時、
「なっ、何スか、今の……⁉︎」
「……分かりませんが、恐らくイビルジョーの可能性が高いですわね」
「いっ⁉︎ や、やばいっスよ! 逃げないと!」
ミレイナの言葉に頷き、アイテムポーチから鉤縄を取り出す。それを伸ばして先端部分を振り回し、水が流れてきている岩壁の上に向かって投げた。きちんと引っかかっている事を確認し、岩壁を登ってゆく。
10メートル足らずしかないので、30秒と掛からず登り終えた。
「さぁ、ミレイナ! 早く登りなさい!」
「は、はいっス!」
ミレイナが縄を掴み、岩壁に足を掛けたところで━━━北の細道から、それは姿を現した。
人の身の丈の3倍はあろうかという怪物。全長はそれよりもっと長い、ワニのような顎をもつ恐暴竜━━━イビルジョー。
その怪物の視線がミレイナを捉える。それと同時、ミレイナが小さく「ひっ……」と悲鳴を漏らし、後ろを振り返った。振り返ってしまった。
悲鳴は更に大きくなり、表情も恐怖へと変わる。
「早く登りなさいッ‼︎」
「はっ、……はい……!」
恐怖で完全に動けなくなる前に怒鳴ったのが功を制した。ミレイナが縄を登り始める。
しかし、その間もイビルジョーはこちらへと近寄ってくる。あの巨体であれば、当然ながら一歩あたりの移動距離は人間などよりもずっと大きい。
このままでは━━━いえ、ギリギリ間に合う。間に合う筈ですわ。
だが、それがただの願望でしかない事に気付く。
イビルジョーがこちらに辿り着くまで、目算で2秒もない。このままだと、ミレイナはギリギリで食い付かれ、引きずり落とされて殺される。
そう思い至った次の瞬間、わたくしはロープを掴み、思いっきり引き上げた。その衝動や、ミレイナが驚いて落ちる可能性もありましたが、どの道そのまま放置していれば結果は同じ。
だからこそ、ミレイナを信じてロープを引っ張り上げた。
そして━━━ギリギリでミレイナは助かり、自分の行動が正しかった事が証明された。
「ミレイナ……!」
「お、お嬢様……!」
ミレイナの身体をぎゅっと抱き寄せる。
無事で良かった……! わたくしのミレイナ……!
その時、ズシンと、地面に衝撃が走った。下を見れば、イビルジョーが壁に体当たりをしている。
「ミレイナ、ここを離れましょう。ここに居ては危険ですわ」
「は、はいっス!」
そして、わたくしはミレイナの手を引きながら数歩進み、
「あっ……お嬢様、あれ……!」
ミレイナの言葉に後ろを振り返ると、わたくし達の立っている崖の下━━━イビルジョーの近くに、見覚えのある人影を見つけた。
「……エクシアさん!」
そう、あのエクシアさんがイビルジョーと対峙していたのだ。
……今日は継ぎ接ぎ装備じゃありませんのね。ミレイナとは色違いの赤いネブラU装備。……可愛いですわ。
「それにしても……」
目につくのは、手に持っている弓。
イビルジョーを相手に最新鋭のボウガンではなく、時代遅れの弓とはどういう事ですの……? 普通、弓などではなくボウガンを使う筈では……?
そのような事を考えている間に、戦闘が開始された。
まず動いたのは、黒い鎧に身を包み、ハンター用の大剣を持っているアイルー。遠心力を利用しながら大剣を振り回し、イビルジョーの足に一撃。
次に、白の狩衣を纏ったアイルーが小タル爆弾を投げつける。乱舞とも言える程の数だ。一体、どこにそれだけの小タル爆弾を隠し持っているのか。
更に、エクシアさんが矢を放つ。イビルジョーの真正面から放たれたそれは、青い雷を発しながら身体を貫通してゆく。
対するイビルジョーもやられるばかりではなく反撃に出るが、虚しく空を切る。相手を噛み砕こうと頭を振るい、纏わりつく相手を振り払おうと尻尾を振り回し、全てを薙ぎ払わんと黒いブレスを吐きだす。
しかし、それら全ては当たらなかった。エクシアさんもオトモのアイルーも、イビルジョーの攻撃を軽々と躱す。
「……凄い」
その鮮やかな立ち回りに、わたくしもミレイナも目を奪われた。
そして、子供の頃に聞いたハンターの英雄譚を思い出した。わたくし達の前で激闘を繰り広げるエクシアさんこそ、英雄譚で語られるような本物の英雄なのだと理解したのだ。
何故だか胸が熱くなった。同時に、あの英雄をペットとして飼いたいなどと不敬な念を抱いていた自分を恥じた。
「エクシアさん……いえ━━━エクシア様……」
わたくしもミレイナも、ただただエクシア様たちの戦いに見惚れて、眺め続けていた。
すると、戦闘開始から10分ほどでイビルジョーが倒れ、動かなくなった。
「……ミレイナ」
「は、はい?」
「普通のハンターがイビルジョーを討伐するのに、どれぐらい時間が掛かりますの?」
「……どうっスかね……。そもそも、イビルジョーを討伐出来るハンターが限られてますっスから……でも、3人組のハンターから大体半日は掛かるって聞いたっス」
……半日? 普通のハンター3人が半日掛かるところを、たったの10分……?
「……おかしくありません? エクシア様は10分前後で討伐してしまいましたわよ……?」
「さ、様……? いや、まぁ私が聞いたのはイビルジョーを初めて討伐したっていうハンター達でしたっスけどね」
「……そうですの」
それなら、まぁ…………いえ、やっぱりおかしくありません? 幾ら初見とはいえ、半日掛かるモンスターが何故たったの10分で討伐されますの? 何というか、砂漠の中をガノトトスが泳いでいるぐらいおかしくありませんか?
━━━そんな風に思考を巡らせていると、遠くから別のイビルジョーの咆哮が轟いてきた。
そういえば、イビルジョーは2頭いるんでしたわね。剥ぎ取りを終えたエクシア様も、咆哮の方へと向かうようですわ。
「……お嬢様、どうするっスか?」
「当然、エクシア様の跡を追います。わたくし達の追っている
「あぁっ、待って下さいっスよ、お嬢様!」