目が覚めたら何故かユクモ村に居たのでハンター生活をエンジョイする事にした 作:勇(気無い)者
毒蛾の粉を振りまくと、ハンター━━━エクシアはその場に倒れ伏した。
「テメェー! ご主人に何を━━━」
白い狩衣を纏ったアイルーが吠える。が、そのアイルーの後方から手のひらサイズの玉が飛んできて、足元に着弾。ブワッと赤い色の煙が広がり、2匹のアイルーを包み込む。
煙が風に流され、再びアイルーの姿が視認出来るようになると、既に2匹とも倒れて動かなくなっていた。
「……生ける伝説などと言われていようと、所詮は人間。毒物には弱い、という事ですか」
全身黒タイツの覆面男、ショッカーAがエクシアを見下ろしながら呟く。
「まぁ、とりあえず感謝しますよ。尻尾だけ取れれば良いと思っていましたが、まさか本体までも手に入るとは思っていませんでしたからね」
「隊長!」
そこへ、ショッカーBがやって来た。隊長と呼ばれたショッカーAが振り返る。
「剥ぎ取りを行ったところ、こちらの物が出てきました」
「おおっ! これはっ!」
ショッカーBの差し出した物を手に取り、ショッカーAが興奮気味の声をあげる。
手のひらに収まりきらない程のそれは、イビルジョーの宝玉であった。手に入る事は極めて稀な、ハンターの誰もが喉から手が出る程に欲しがる玉石系の希少素材である。リオレウスなら紅玉、ジンオウガなら碧玉といった具合だ。
「素晴らしい! 邪教の一派は怪しい儀式に用いるそうですが、彼らに売り付ければ相当な高額で引き取ってくれる事でしょう!」
ショッカーAは笑う。自らの手にある希少素材を見ながら、亡者のように不気味な笑みを湛えて。
「ふふふ……さて。回収作業の方はどれぐらいで終わりそうですか?」
「はっ! 今回は死骸の方もありますので、30分ほどは掛かると思われます!」
「そうですか。……ああ、そうそう。確か、イビルジョーはもう一頭居るという情報がありました。もしかしたら、このハンター殿が既に狩っている可能性もあります。捜索隊を出しておいて下さい」
「はっ、畏まりました! ……ところで隊長、この女ハンターはいかがいたしますか? 宜しければ、一緒に回収いたしますが」
「……いえ、強化人間計画は頓挫したと聞いています。回収しても意味はないでしょう」
「あ、その……部下たちの相手をさせるのはどうか、と思いまして……」
「ああ、成る程。そういう事ですか。ふふ、物好きですね。……まぁ、証拠を残さないようにすれば、ギルドへの対応はどうとでもなるでしょう。ただし、彼女はイビルジョーを容易く葬るほどの恐ろしい実力を備えたハンターです。拘束は厳重に行ってください」
「はっ! ありがとうございます!」
ショッカーAは鷹揚に頷くと、イビルジョーの死骸の方へと歩き出し━━━
「ぐぎゃあああぁぁぁっ!」
━━━ショッカーBの悲鳴。振り返って見れば、ショッカーBの手の甲に一本のナイフが突き刺さっていた。
「何っ⁉︎ 一体どこから……⁉︎」
何者かの攻撃に警戒し、周囲を見回してみるものの、怪しい人影は見当たらない。既に隠れたのだろう。
だが、ナイフの刺さっている箇所を見れば角度や方向など、凡その位置は見当が付く。
「各員、警戒を━━━」
「あらあら、痛そうですわね」
ショッカーAが隊員たちに警戒を促そうとして、場違いなほど朗らかな女性の声が背後から聞こえた。振り返ってみれば、そこにはギルドナイト装備に身を包んだ女性が立っていた。
「なっ⁉︎ リーサ・クジョウ……!」
「あら、ご存知でしたか。でしたら、わたくしが何故ここに居るのかも理解していますわよね?」
「くっ……我々を捕らえに来たか……! 先程のナイフによる攻撃も、あなたの仕業という訳ですか!」
「いいえ、それは違いますわ。先の一撃はわたくしとは無関係です」
「見え透いた嘘を!」
ショッカーAが叫ぶ。それと同時、いつの間にか手に持っていた赤い玉を先手必勝とばかりにリーサの足元へ投げつける。ブワッと赤い煙が噴き出し、リーサを包み込む。
これは先程、魔理沙と勇儀を気絶させた毒霧と同じものである。数種類の素材を絶妙な量で調合されたそれは、一呼吸でもすればたちまち意識を刈り取られてしまう凶悪な煙玉だ。
だが、この赤い煙玉の何よりも恐ろしいところは、浴びただけでも効果を発するところにある。直接吸った時より効果は落ちるものの、それでも人間であれば10秒と持たずに意識を持っていかれてしまうだろう。
しかし━━━風に乗って煙が流され視界が開けてみれば、そこには先程と何ら変わりない状態で立ったままのリーサがいた。
「ばっ……バカな……⁉︎」
「……この匂いは……ゲネポスの麻痺牙に麻酔薬、それから……ドキドキノコ? 変わった調合ですわね」
「あっ、ありえん! あれを浴びて無事だなどと……!」
「職業柄、毒や麻痺などに耐性がありますのよ」
リーサはニコリと微笑みながら告げ━━━次の瞬間、風の如き速さで駆け出した。あっという間に距離を詰め、アイテムポーチから取り出した特殊警棒で一閃。ショッカーAを殴り倒して気絶させた。
「隊長!」
それを合図に、今まで状況を上手く呑み込めていなかったショッカーC以下数十名が動き出す。
だが、横合から放たれた弾丸が先頭のショッカーCを直撃し、そのまま倒れ伏した。続く2射、3射が更にショッカーD、ショッカーEを撃ち抜く。
「お嬢様、援護するっス!」
本来プレイヤーの登る事が出来ない高台からの声。言うまでもなくミレイナである。
すぐに玉をリロードしたミレイナが、再びショッカー達に弾を撃ち込む。
これはリーサ達が犯罪者などと相対した時によく使う陣形である。まずリーサが正面から現れて相手の気を引き、伏兵であるミレイナが援護。更にシャルロットがミレイナの補助、及び周囲の警戒を行うのだが、今回シャルロットは居ないので出番はない。
そして、対人戦闘に特化したリーサが敵を蹴散らしてゆく。今回もこのパターンでショッカー軍団を捕らえる手筈であった。
しかし、ここでイレギュラーな事態が発生する。
━━━ドォンッ‼︎ と、派手な爆発が巻き起こった。発生源は、このエリア3番の中心辺りにある、大型モンスターが一体通るのが精々といった1本道の真上。
しかも1発だけではなく、北側から南側━━━つまり、今リーサが居る方へ連鎖的に爆発してきており、おまけにその爆発の所為で岩壁は崩れ、岩や
「これは……っ、マズイですわ!」
リーサの後方にはエクシアが居る。このまま爆発が迫ってくれば、壁際から離れてはいるものの石飛礫がエクシア達に降りかかるかもしれない。
庇わなければと動き出すリーサだが、その足はすぐに止まった。いや、止められた。右方より飛んできた、足元の地面に突き刺さっている1本のナイフによって。
「それ以上、お嬢様に近寄らないでいただけますか?」
ナイフが飛んできた方向、つまり右方からの声。そちらを振り向いてみれば、蒼の毛並みを持つ、白の狩衣を纏ったアイルーが立っていた。両手にはそれぞれナイフを1本ずつ持っている。
「あなたは、温泉の時の……」
「それ以上お嬢様に近付けば攻撃します」
「っ、わたくしはエクシア様をお助けしようと……!」
これはリーサの本心からの言葉である。孤島に来る前の彼女であれば、ちょっとぐらいエクシアの身体を弄ってもいいだろうなどと考えたかもしれないが、今はエクシアに対して敬意を持っているのでそんな事は全く考えていない。
とはいえ、信用されないのも無理はない。彼女は温泉の時に、目の前のアイルーから不興を買うような真似をしているのだ。今更リーサが何を言おうが、信じられる筈もない。
事実、アイルーは聞く耳持たぬと言わんばかりに腰のポーチから丸い玉を取り出し、それを地面へと叩きつけた。そこから白い煙が発生する。
言わずもがな、けむり玉だ。ただし、効果範囲が拡大されており、イビルジョーですらも覆い隠せるほどの煙が辺りに広がっている。
そして、煙が風に流され、視界が開けた時には既にアイルーの姿はなかった。近くに倒れていた、エクシアの姿も━━━初めからエクシアが連れていた、2匹のアイルーの姿も。
「…………」
リーサは小さく溜め息を吐いた。恐らくは、あのアイルーがエクシアを連れていったのだろう。
……小柄なアイルーが如何にして運んだのか、という疑問は残るが。
しかし、何とも優秀なアイルーだと、リーサは思った。
先程の爆発もあのアイルーの仕業なのだろう。既に爆発は治まっており、エクシアの倒れていた辺りには
また、あれだけの爆発の仕掛けをどうやって、とも思うが、あのアイルーが1匹だけで行動していたとも限らない。温泉の時には、あの毛並みの蒼いアイルーと、もう1匹毛並みの白いアイルーが一緒だった。それを踏まえれば、今回も一緒に行動していると考えられる。何より、リーサとミレイナが牧場を覗き見ていた時、あの2匹のアイルーは居なかったのだから。
「……こんな事を考えてる場合ではありませんわ」
リーサは思考を切り替え、ショッカー軍団の方へと向き直る。彼らは爆発とけむり玉の影響か、混乱に陥っていた。
「所詮は犯罪集団……烏合の衆ですわね」
そう呟くと、リーサは特殊警棒を構え、ショッカー達を取り押さえるべく本来の任務へと戻った。
★
「……! ……様……! ……ター様……!」
「……んっ……ぅ……」
誰かの声が聞こえる。何となくだが、身体を揺すられているような感覚もある。俺を呼んでいるのは誰だろう。
けど、何だか身体が怠い……まだ眠っていたいとさえ思う……のだが、揺れの感覚が段々強くなってきた。とてもじゃないが、眠ってなどいられない。
誰だよ一体……このまま暫く眠っていたいのに……。
「あぁ、ハンター様! 気が付かれましたか!」
目を開けると、目の前に青いキャップを被った女性の顔が。
「…………、……ユーカさん?」
「いえ、私はササユです」
ササユさんだった。間違えた。や、目がぼやけてた上に二人の衣装は一緒だもんよ……衣装が一緒って駄洒落じゃないぞ? 駄洒落を言うのは誰じゃ。
くだらない事を考えながらも身体を起こし、辺りを見回してみればギルドの集会所であった。クエスト出発口のすぐ近くである。いつの間に戻ってきたのか。というか、俺は何で気絶していたのか……。
すぐ近くには、魔理沙と勇儀も倒れている。
「とりあえず、別室にご案内いたします。立てますか?」
「ええ、大丈夫です……」
俺は気絶したままの魔理沙と勇儀を小脇に抱きかかえながら、ササユさんの案内でカウンター横にある通路━━ゲームでは自宅に続く入り口━━を通って別室に案内された。
そこでササユさんに何があったのか聞かれたので、先程までの事を思い出しながら、また一部誤魔化しながら━━瞬間移動の事とか━━語って聞かせた。
「黒いスーツ姿の覆面を被った集団、ですか……」
一通り話し終えると、ササユさんが難しい顔をしながら頬に手を当てて考え込み始めた。何か心当たりでもあるのだろうか。
暫くして、彼女は意を決したように口を開いた。
「……ハンター様、リーサ・クジョウ様の事はご存知でしょうか?」
「えっと、ギルドナイトの人ですよね?」
「はい。あまり公にはなっていませんが、ギルドナイトの仕事は多岐に渡ります」
例えば、モンスターの生態調査、或いは生け捕り、狩猟。
例えば、未開の地の調査、及び探索。
例えば、犯罪者や違法な密猟を行うハンターの取り締まり。
彼女が言うように、ギルドナイトの仕事は本当に多岐に渡るようだ。
「その中でもリーサ・クジョウ様は主に犯罪者や密猟者を捕らえる仕事を行っている、という噂があります」
「……それじゃあ、まさか」
「はい。噂が正しければ、リーサ・クジョウ様は今回、ハンター様を襲ったという犯罪集団を捕らえる為にユクモ村へやって来た、と考えられます」
……マジか。あの時リリーが言っていた『リーサ・クジョウは密命を帯びているかもしれない』というのは当たっていたのか……。
「……でも、リーサは2人と1匹で大丈夫なんですかね?」
「それは心配いらないと思います。何しろ、リーサ・クジョウ様は『狙った犯罪者を絶対に逃がさない』という噂もありますから」
……マジか。流石はギルドナイトと言うべきか。リーサはとても優秀なエリートのようだ。いや、そもそもギルドナイト自体がエリート集団な訳だが……。
「あと、同性が好きという噂も……」
それは何となく気付いてた。なんか狙われてるっぽいし、俺。
……あんな美人に狙われてるというのに、何故か全然嬉しくない不思議。
と、そこで別の声。
「ぅ……うぅん……ここは?」
魔理沙の目が覚めたようだ。遅れて勇儀も身体を起こした。
だが、完全に覚醒した訳ではないのだろう、2匹ともどこかボーっとしている。俺もさっきはこんな感じだったのだろう。
「大丈夫か、魔理沙?」
「ぅん……? ご主人……? ここは誰だ……?」
ベタなボケをかます魔理沙。ここはどこだと言いたかったんだろう。
今までの事情を一通り話すと、魔理沙は地団駄を踏んで怒り出した。
「あの覆面野郎共……! ご主人がイビルジョーを倒して助けてやったってのに、恩を仇で返すような真似をやがって……!」
「許せないねぇ……許せる訳ないよなぁ……!」
勇儀さんも激おこな様子。俺の為に怒ってくれるのは嬉しいんだが、落ちケツ。ちょっと怖いからマジで落ち着いてくんろ。
「まぁまぁ、あの覆面集団はリーサが捕らえてくれているらしいから……」
「リーサ……? もしかして、あの赤い服着てる女か?」
「そうそう」
「……マズイぞご主人!」
突然魔理沙が声を上げ、思わずビクッとなる。一体、何がマズイのだろうか。
「何がって、アイツご主人の事を狙ってるんだぜ⁉︎」
「えっ……いや、まぁ、そうみたいだけど……」
「アイツに借りを作っちまった事になる!」
「ん……まぁ、そうだな。それが何か問題が……?」
「問題だらけだよ! 今回の件を口実に、ご主人にえっちな要求してくるに決まってる!」
「……⁉︎」
えっ……いや、まさかそんな……た、確かに覆面集団が犯罪組織であった事を考えれば危ないところを助けられた事になるが……い、いくら何でもそんな……。
…………あぁ、でも完全に否定出来ない……。
もしかして、俺って今(貞操の)ピンチ……?
「どっ、どどど、どうしよう⁉︎ どうすればいいですか⁉︎」
ササユさんに問いかけてみるも、
「……頑張って下さい」
「そんなぁーっ⁉︎」
自分には関係ないとばかりに俺を見捨てるササユさん。ひどい!
「安心してくれ、ご主人! あんな奴、私がぶっ飛ばしてやるぜ!」
「あたしも力を貸すよ、大将!」
やめろぉ! 相手は国家権力の中でも上位のハンターなんだぞ! ぶっ飛ばしたら流石にアカン! 俺が指名手配されちまう!
魔理沙と勇儀の気持ちは本当に嬉しいが、やんわりと止めておく。いつもみたいに牽制してくれるだけでいいのだ。
……リーサから何を要求されるか分かったものではないが。
「では、私はそろそろ仕事に戻らせていただきます」
「えっ、ちょ……」
「ハンター様━━━頑張って下さい」
とてもいい笑顔でそう言うと、ササユさんは俺を見捨てて集会所の方へと戻っていった。
……うぅ、ササユさんだって女性なんだから関係ない訳じゃないのに……。
……いや、待てよ? そういえば昔、受付嬢に手を出す行為は御法度だとか、どっかのサイトで見たような……。
くそ、だからあんな他人事なのか!
というか、それ言ったらユーカとデート━━だと俺が勝手に思ってるだけかも知らんが━━してた俺ってヤバくね……?
……い、いや! あれはユーカの方から誘って来たんだから大丈夫だ! ……大丈夫、だよな……?
…………。す、凄ぇ不安になってきた……。
い、いや! 今はそんな事よりリーサをどうするか考えよう。
「……とりあえず疲れたし、温泉行こうか」
そう声を掛け、魔理沙と勇儀を引き連れて俺は再び集会所へと向かうのだった。