白き鋼のアルペジオ   作:神奈翔太

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今回は短めです。


動き出す世界

横須賀にて

 

まだ霧の大戦艦級と戦った名残が色濃く残っている横須賀の地下ドッグで二隻の潜水艦が出港準備を整えていた。

一隻は蒼の伊400型潜水艦と同じ形をしている。もう一隻は無駄な部分が一切ない黒の潜水艦であった。

 

「そちらの物資は?」

 

「おおむね積み込みを完了したわ。あと少し待ってもらえれば完了よ。千早艦長」

 

その二隻に挟まれている中央の通路で二人の男女が話合っていた。一人は千早群像。イ401の艦長である。

もう一人は「黒鯨」の艦長。日下部幸子である。

 

「そうか。ところで日下部」

 

「どうしたの?」

 

補給や他の設備のチェックが完了して日下部が自艦に戻ろうとした時だ。群像が日下部を呼び止めた。

 

「たまには休んだらどうなんだ?前よりも元気が無いように見えるぞ?」

 

「・・・・」

 

日下部は無言でその言葉を聞いた。しかし最後に一言だけ言い残して自艦に歩いて行ってしまった。

 

「考えておくわ。千早艦長」

 

「・・・・」

 

日下部がいなくなった後に群像は誰にも聞こえないように「はぁ」と息を吐いた。その時に肩を叩かれた。振り向くとそこにはイオナがいた。

 

「どうしたんだ?」

 

イオナが聞いて来たため、群像は訳を話した。

 

「先日の横須賀での戦いがあったな?」

 

「ああ、覚えている」

 

「そこで俺達は「白鯨」、「黒鯨」、「キイ」と共にこれを撃沈した」

 

「ああ、まさかあのことを引きずっているんじゃないだろうな?」

 

「それを日下部は引きずっているんだ。既にキイが消えてからかなりの日にちが立っているんだ。発見のめどは薄いだろう」

 

そう、あの時にハルナ、キリシマの重力子エンジンの暴走によって大規模な爆発が起きた。皆が勝利の余韻に浸っていた。初めて人類が(キイとイ401のお蔭があったとはいえ)勝利したのだ。しかしそれはすぐに覚めることになった。キイの反応が突如として消えたからだ。現在捜索中だが欠片も見つからないという。

 

 

(確かにつらいだろうが俺達にはまだやるべきことが残っている。人類の未来に繋がるならそれを何としても成し遂げないと)

 

日下部に同乗してやりたいがまだ旅は始まってすらいないのだ。

 

「イオナ。皆に伝えてくれ。一時間後に出発だと」

 

「了解した」

 

 

 

 

 

一時間後 

 

二隻の船は出港した。目的地は

 

「進路を硫黄島へ!」

 

二隻は一旦硫黄島で修理と補給を行い、それから「白鯨」とのランデブーポイントを目指す。

 

『あの質問なんだけど。前に行っていた硫黄島にいる協力者って誰なの?』

 

日下部が質問を通信で聞いてきた。やはり来たかと思いながら群像は答えた。

 

「行ってみたら分かるよ。とにかくまずはここを切り抜けないとな」

 

霧がいないルートを極力通ろうとしているが発見されずに硫黄島に行ける確率は五分五分だった。

 

『分かった。通信おわ__』

 

日下部が通信を切ろうとした時に同時に警報がなった。

 

「どうした!?」

 

その質問にソナー士である静が答えてくれた。

 

「魚雷航走音確認!方位164、距離165500!雷速120ノット!感2、それぞれが本艦と「黒鯨」に直進してきています!」

 

「回避!」

 

間一髪魚雷を回避したイ401と「黒鯨」であった。

 

「無誘導弾・・・!どこからだ!?」

 

「魚雷発射位置を特定。依然発射源は探知できていません」

 

「・・・・・・終末誘導を行わなかった・・・・見つかっていた?」

 

『こっちも同じよ。発射源は特定できていない』

 

「黒鯨」の方も相手は見つけられていないようだ。

 

「地形的にもこちらの位置は掴みにくい。それに今はエンジンを切っていて海流に乗っている。それをマイナスとしても見つけるのはかなり難しいだろう」

 

群像は結論を出した。それを僧が答える。

 

「・・・我々を攻撃してきた何者かは明らかにこちらの動きを予測してそこに魚雷を撃ち込んだ」

 

「つまりこちらの行動パターンを分析し、海底地形図などをデータを踏まえ、こちらがいる場所を的確に予測したんだ」

 

「・・・・・」

 

「全艦の状況報告」

 

「通常魚雷が全弾OK!通常弾頭もOK!アクティブデコイが4!音響魚雷はフル!その他の火器だが本来の70%だ」

 

杏平が火器の残弾を確認している。幸いにも「黒鯨」のお蔭でこちらも妨害を受けずに補給が出来たため通常魚雷などの火器はほとんどが揃っていた。しかし揃わない火器も当然だがあった。

 

「侵食魚雷は・・・・残弾0!」

 

タカオとの戦いと横須賀でのハルナ、キリシマ戦で侵食魚雷は全て撃ち尽くしてしまった為だ。

 

「気密は問題ありませんがコンゴウ級二隻爆沈の煽りで強制波動装甲にかなりの負担がかかっています。稼働率は40%です」

 

『機関部は問題ないけどあまり負担が掛かりすぎるとそこからは未知の領域。どうなるかは分からない』

 

「ソナーは未だに敵艦の位置を捉えてはいません。現在過去の音響ログを高精度で解析中」

 

ピィイ!!

 

静はその音を聞き逃しはしなかった。

 

「アクティブソナー音源を捉えました!方位0、速力5ノット、距離16000・・・」

 

「単艦で真正面かよ!」

 

「・・・・手強いぞ!」

 

イ401と「黒鯨」は今までで一番苦しい状況に立ち向かっていかなければならなくなった。

 

 

 

 

 

 

U-2501艦内にて

 

「敵艦の数は?」

 

「二隻。一隻はイー401でもう一隻は・・・こりゃあ、噂の「ハクゲイ」クラスだぜ」

 

「そうか」

 

その報告にも眉をピクリともその男はしなかった。確かに「ハクゲイ」クラスがいたのは想定外だがおそらく今の敵の布陣を見る限り、魚雷などの迎撃する任務にあたっているはずだ。

 

「ゼーフントの動きは?」

 

「現在、80%が完了したよ」

 

どうやらもう少しで準備が終わるようだ。

 

「それでは諸君。あの人の息子に会いに行こうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

太平洋沖 総旗艦艦隊 総旗艦「ヤマト」

 

「どうやら動き出したようですね」

 

ヤマトはその巨大な船体の甲板で静かに海を見つめながら言った。

 

「そう見たいね。どんどん事態が動き出して行くわね」

 

「コトノ。質問ですが」

 

「どうしたの?」

 

あのヤマトが質問とは珍しいとコトノは思った。

 

「あの子。キイはまだ見つからないんですか?」

 

「ああ。それね」

 

何か言わなければならないと思っていたが確かそのことを言うためにここに顔を出したのだ。ヤマトが話しかけてせいで忘れる所だった。

 

「分からないわ。一応ハルナ、キリシマの反応はあったけど、キイは二隻の重力子エンジンの暴走で起こった爆発のせいで突如反応が無くなったわ。確認もしてみたけど向こうも向こうで慌てているみたいよ」

 

その言葉に静かに「そうですか・・・」と表情をあまり変えずに言う。

 

「その代わりに最近妙な連中が最近の海域に現れているのよ」

 

「”妙な連中”とは?」

 

今まで淡々と態度を変えずに行ってきたヤマトだが初めて困惑した声を出した。

 

「あなたも知っているでしょ。最近の戦術ネットワークに上がってくる謎の艦船」

 

「ああ。あれですか。確かに妙ですね」

 

確かに何度か人類は我々が管理をしている海域に少数で来ることがあったが最近ではかなりの大規模な艦隊が時折現れているのだ。しかし霧でもないただの船であることに変わりはなく、現れるごとにそこにいた霧によって殲滅されていた。

 

「確かに詳しく知りたいですね。そちらの方もよろしくお願いします」

 

「淡々だねぇ。まぁ、いいけど。それじゃこの辺で」

 

再び、ヤマトの視界から消えようとしたコトノだがその前に異変が起こった。

 

「!?この反応は?」

 

最初に気ずいたのはヤマトだった。艦隊の中心に謎の高エネルギーを発見したのだ。

 

「全艦、その範囲から離れなさい!!」

 

異常を察したヤマトは周囲の艦艇に退避するように促す、すぐさま周囲の駆逐艦や巡洋艦が慌てて回避する。

それを見たヤマトは自身の武器を反応の方に向ける。

 

 

 

次の瞬間、ヤマト達が目を瞑るほど眩しい光が辺りを包んだ。

 

 

 

「何が起こったの?」

 

 

彼女が目を上げた時には謎の艦艇が霧の艦隊の中心に鎮座していた。それは”なぜか我々に似ていた”

 

 

 

 

 

 

それは日柳達の艦隊だった。

 

 

 

彼らは知る由も無いが大きく世界が変わろうとしていた。




私はゾルダンと群像の対決は一番好きなシーンですね。まだ原作の方は決着はしていなかったと思うので私的には個人的に気になります。

次回 様々な者が入り乱れ始めた。群像達は謎の艦艇との対決。ヤマトと日柳達の出会い。
そして紀伊の行方は!?

次回も温かい眼で見守ってください。

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