「く!」
さすがにこれはまずいとチクマは思った。ミサイルは全て向こうのクラインフィールドに防がれているが向こうの砲塔は全て沈黙している。あの戦艦は主砲だけでもやっかいだ。やはり見た目だけではないとチクマは思った。しかも後ろには人類の戦闘艦もいるクラインフィールドが飽和したあとに攻撃を受けるとやっかいだ。
「仕方ない。一旦引くぞ!覚えていなさいキイ!」
そうしてチクマは退いていったが紀伊は何一つ動かない。
「これはどうしようか?」
全くもっていままでのことが全てが理解不能だった。しばらく様子を見ようと紀伊は思った。
「助かった」
艦内で誰かが言った。自分も死んだと思ったがあのいきなり海面から出てきた霧の戦艦の出現で全てが変わった。
「艦長、どうしますか?」
副長が聞いてきた。
「しばらくあの白い戦艦の様子を見よう。危険性があれば、攻撃を続行だ」
「了解しました」
「これからどうしよう」
またも困っていた紀伊である。さっきの女性からは攻撃されたからには他のあてを探さなければならない。
「何か地図みたいなのはないのかな?_____お!これだこれだ!」
サークルをいじっていると地図らしきものが出た。どうやら現在地は太平洋で日本にも近い。
「とりあえず港はあるな!ええっと、横須賀か!」
自分が住んでいた地域も横須賀の近くだ。とりあえず現状を聞きたいのでまずはこの船を止められる場所を見つける必要があったのだ。
「まずはそこに行くか!前進!」
「艦長!白い戦艦が動き出した」
「一体どこに・・・・まさか横須賀か!」
「大変じゃないですか!」
「すぐに横須賀に連絡しろ!」
要塞港横須賀
「何だって!」
連絡を聞いときに驚愕した。
「どうしたんだ!」
上官が何事かと言ってきた。
「それが・・・・」
ありのままに聞いたことを彼は話した。
「お!見えた!あれが横須賀・・・・」
俺の見間違いか?俺の知っている横須賀はあんなでかい壁なんかあったっけ?
「それになんか鳴ってるし、どうしたのかな?」
それにあの壁の内側に入る入口は閉まっているし、どうすればいいんだろう。さっきから後ろでさっきの護衛艦が追ってきてるからな。
そんな感じで紀伊が悩んでいるといきなりいかにも重そうな音を立てて、扉が開いた。
「お!こんな船でも入れてくれるのかな?」
そういって気楽に入っていった紀伊だったがこの後に起こりうることをまだ紀伊は知らない。
「敵艦、横須賀に入ってきます!」
「まるで攻撃の意志がないな・・・」
「まさにあの時と同じだな」
彼らの脳裏にはあの蒼い潜水艦が映っていた。
「護衛艦隊に伝えるんだ。そのままゆっくりと地下ドックに誘導しろ」
(しかしなぜこうも霧の艦艇がここまでの頻度で来るんだ?霧の思惑か?それともはたまた偶然か?)
なぜ霧の艦艇がこんなことをしてくるのかが未だに彼らは答えが出なかった。
「壁をくぐるとそこは戦闘艦でいっぱいだった。なんて冗談を言ってる場合じゃないなこれは」
いきなりくぐると紀伊が見慣れた艦艇がずらーーと並んでいたのだ。これを初対面で見るとなかなか心臓に悪い。
「どうしようか?いきなり撃ってくるわけでもないし、誘導されているのかな?まぁ、いきなり現れたらそれは警戒するよな。とりあえず誘導に従おう」
そして多数の護衛艦隊に囲まれながら、ドックの中に入っていった。
太平洋沖 第一東洋巡航艦隊にて
チクマは艦隊に戻ると今までのいらだちが一気に爆発した。
「ああ!もう!何なのよアイツは!」
アイツとはあの白い戦艦だった。しかもメンタルモデルは男であり、なぜか船体は総旗艦ヤマトに似ていた。
(まったくもって理解不能だわ。まずどこから現れたからだし、それにあんな戦艦は見たことも聞いたこともない。一度誰かに・・・)
そう考えにふけっていたときに艦隊の総旗艦を務めているコンゴウが話しかけてきた。
「どうしたチクマ?何かあったのか?」
「それがね。あなたに命令された通りに人類の艦隊を破壊しに行ったの。そしたら・・・・」
「そしたら?」
「いきなり白い戦艦が現れたの」
「白い戦艦?霧か?」
「ええ。霧だわ。名前はキイ。でもその艦艇とメンタルモデルが少し変なのよ」
「変とは?」
相変わらず鋭い目つきでこちらに質問を浴びせてくる。
「まず船体の形ではバイナルパターンの色以外はほぼ総旗艦ヤマトそっくりなの。そしてメンタルモデルが男なのよ」
「!!」
さすがにコンゴウでもこの二つには驚いていた。
「確かにそれは変だな。分かった私はこれから総旗艦にこの事を話す。それで今、新しい任務だ」
「ほぉ!一体何かしら?」
「そのキイとかいう白い戦艦の足取りを追い、見つけ監視しろ。そして隙があればここに連れてこい」
「分かった。しかし大変なものを押しつけたわね」
そう言ってチクマは自分の船体に乗って、行ってしまった。その光景を静かに見つめ、コンゴウ自身も戻っていった。
「で、こうなった訳だが」
紀伊のモニターには完全装備の軍人が自分の船を包囲していた。
「何とか逃げ出すことはできるかな?」
一応、船に彼らは入ってはこられないが紀伊としては外の現状を知りたいのだがこのまま外に出て言っても問答無用で射殺されそうなのでこっそり行きたかった。なので隙を見ることにした。
そしてしばらくすると敵意がないことが感じられたのか、少し兵士達が気を緩めた隙に紀伊は船底の扉から出た。
「誰にも会いませんように」
こっそりと神様にお願いをした紀伊であった。兵士達も船に夢中になっているのか、振り向きもしなかった。紀伊も自分の船がどうなっているのかを知りたかったが今はそれほどの余裕はないのでさっさと格納庫の非常口から出た。
「ようやく外に出られたーーーー!!」
誰にも見つからずに出た安堵感からそんな言葉が出た。しかしそんなときに声をかけられた。
「何をしているの?」
ギクッと体が反応して冷や汗が出てくる。女性の声だったが油断はできなかった。そして紀伊はゆっくりと振り向いた。
「え~~~と~~~」
黒髪のロングヘアーの綺麗な女性だった。目が泳いでしまう。
「ちょっと・・・」
「ちょっと?」
「ちょっと道に迷っちゃて、ここに来るのは初めてなんです」
「ふ~~ん。まぁいいわ。あなたは確かに初めて見る顔だもんね」
去っていこうとする女性だが紀伊は呼び止めた。
「あの何かネットに繋がるような物をもっていないですか?」
「それを何をするかは知らないけど、名前の知らない人に貸すわけにはいかないわね」
「えっと自分は宮本 紀伊です。ちなみにあなたは・・・・」
「私は日下部 幸子よ。それでこれを貸してほしいのよね」
そうしてタブレット型の端末を貸してくれた。そして自分の手にそれが渡った時にまた頭痛が起きた。
そして再び、あの時の女性が現れたが相変わらず後ろ姿だが今度は声が聞こえた。
「これが知りたいのね。まだあなたはこの世界の事を知らない。あなた自身のこともそして私のことにしても」
情報が入ってきた。しかし頭が痛く、正確にその情報を思い出すことが出来ない。少し休んだら良くなるかもしれない。
気がつくと日下部が覗きこんでいた。
「大丈夫?もしかして気分が悪いの?そうだ!この近くに私の家があるの!そこで休んでよ!」
勝手に進めていく、日下部だが紀伊は黙って頷く。
「それじゃこっちだよついて来て!」
この横須賀で出来た最初の友達に連いていくことになった。
「ここよ!」
彼女が指差したのは少し年季の入った造船所だった。
「もしかしてここ?」
「ええそうよ。私のお父さんはここの社長なのよ」
そうなんだと納得しながら、中に入った。するといきなり白い潜水艦がお出迎えしてくれた。
「これは何?」
「ああ。これはね。まずは「白鯨」って知っている?」
紀伊は首を横に振った。
「まぁ、本当は言ったらいけないんだけど。あなたは特別よ?それでこの潜水艦は霧に対抗する為に作られた「白鯨」の試作潜水艦をうちのお父さんが軍の上層部からこの試作型を改良してくれって頼まれたらしくって、機密を漏らさない事と週ごとに何回か来る監視を認める事で手に入ったのを少人数で運用できるようにされたのがこの「黒鯨」なのよ」
それを見つめているとこっちよと彼女が言って、案内された部屋のソファで少し休んだ。しかし段々と頭痛が治まり、手に入った情報が流れてきた。
「!!」
その情報を自分は否定したかった。単なるデタラメだと。だがしかし、今まで起きた出来事がそれが嘘ではないと物語っていた。
(大体の人類が辿ってきたことは分かった。17年前に人類が大海戦に負けたという事実。そして俺が居る世界は俺が居た世界とは違う事に・・・・うん?待てよ。そういえば情報にメンタルモデルって言う霧の人間?っぽい奴もいるみたいだな。そうすると俺ももしかしてそのメンタルモデル?)
どうやらあのチクマという女性もメンタルモデルだったのか。だとすると俺も・・・・。
考えていた紀伊だったがその時、何かが転がってきた。
バン!
大きな音を立てて、それは強い光と音を放った。
「きゃ!」
俺のために飲み物を作ってくれていた日下部が悲鳴を上げた。そしてその直後にガスマスクをつけて、銃を持った男達が入ってきた。
「クリア!」
「クリア!」
「隊長!一階、二階、三階ともに制圧しました]
「そうか。ごくろう」
そして未ださっきの攻撃でふらついている日下部とけろっとしている紀伊のほうを見た。
「逃げられると思ったか?お前の足取りは地下ドックの監視カメラに映っていたよ。そしてお前からは体温が感知されない。つまりお前は霧のメンタルモデルだ」
やはりそうだとは思った。
「メンタルモデル・・・」
日下部は驚きのあまり呆然としていた。
「どうやらそちらのお嬢さんは知らなかったみたいだな。とにかくお前は連行させてもらうよ。霧のメンタルモデルくん」
口調こそは完全になめきっているが姿勢は気配はさっき会ったばかりと同じだ。
「残念ながらそれは出来ないです。ここで捕まるわけにはいかないのでね」
そう言って、意識を集中させた。大体のコツは掴んだ。その時、隊長と思しき人物の無線機からかなり焦った声が聞こえてきた。
「隊長!地下ドックが!」
「まさか!お前!」
隊長が銃を向けると同時に大きな水しぶきが上がった。それと同時に紀伊もすばやく階段を下りて、戦艦に乗った。隊長は何かを無線機に向かって叫んでいた。
日下部は1人取り残されていた。彼がメンタルモデルだったなんてという気持ちが彼女の大半を占めていた。だが
「彼は霧・・・ここから出すわけにはいかない!」
彼女には霧をどうしても憎む理由があった。必ずヤツを沈ませると。彼女はもう以前の彼に対する感情は持ち合わせていなかった。
そして彼女は造船所に留めてある「黒鯨」を静かに怒りを込めて見た。
次回は本格的な戦闘シーンを入れます。