白き鋼のアルペジオ   作:神奈翔太

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蒔絵とハルナ 後編

自分たちは話を聞き終えた。刑部 藤十郎の話を。

 

「君たちに一つだけ頼みがある」

 

話を終えたばかりなのに彼が自分達に何かを頼みたいようだ。

 

「自分達に出来る事なら・・・」

 

紀伊は彼の命の時間があまりに短いことを分かっていた。だから聞くことにした。出来るかできないかは別として。

 

「彼女はこの短い時間で君たちに心を開いてくれた・・・・だからこそ__友たちになってくれないか?」

 

意外な頼みだった。ハルナやキリシマ達も顔を見合わせていた。

 

「いいのか?俺達はメンタルモデル。霧だぞ?」

 

「だからこそだ。彼女は”人ならざる者”それに近しい君たちなら分かり合えるだろう」

 

その時に室内に警報が鳴る。周囲が赤灯が付き始める。

 

「どうやら彼らは私達を見逃すことは無いようだ」

 

屋敷中に仕掛けられたカメラから無数の兵士がトラックから降りて屋敷に侵入してきている。更にはヘリや軍用無人兵器の姿もあった。

 

「彼らは彼女を処分するらしい」

 

 

藤十郎は分かっていたらしい。紀伊は彼のその姿を見て、踵を返してその部屋から去ろうとする。

 

「お、おいっ!どこへ行くんだ!?」

 

その言葉に紀伊は振り向く。しかしキリシマの質問には答えなかった。

 

「もし俺に連いてくるのなら俺に力を貸してくれ」

 

 

 

 

 

 

刑部邸 蒔絵の部屋の前

 

複数の足音が蒔絵の部屋へと一直線に突き進んでいた。彼らは伏兵に注意しながら慎重にかつ素早く行動していた。彼らが受けている任務はただ一つ。

 

 

デザインチャイルドである刑部 蒔絵を”処分”せよ。

 

 

という命令だった。たった一人の少女の為に彼らは無人機や戦闘ヘリなども準備していた。彼らの包囲網からは一人の少女どころかネズミ一匹通させてはくれなさそうだった。そして彼らは目標の部屋に着いた。目標がここから動いていないことも確認ずみ。後は突入して、彼女を”処分”して周りに悟られないように静かに撤退することだった。

 

「・・・・・」

 

彼らは静かに目配せをして突入の為にドアに張り付こうとしたときだった。

 

キイィ

 

と静かにドアが開いた。予想外の展開に兵士達は驚き、そして銃を向ける。ここで彼女が部屋から出てきたなら彼女本人かを確認したあとに射殺すると彼らは計画していたがそれとは違う人物が出てきた。

 

「・・・・!」

 

出てきたのは少女__超戦艦のメンタルモデルである紀伊だった。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

紀伊は無言で彼らを見渡した。兵士達は脂汗を掻きながらも銃を彼に向けていた。沈黙が続く。兵士達が永遠に続くのではないかと錯覚するような静けさであった。しかし沈黙を破ったのは紀伊の方からであった。

 

「・・・・何しに来たんだ?」

 

彼が睨むと兵士達は背筋が凍った。兵士達もここで負けていけないと思ったのか、指揮官が口を開く。

 

「我々は君たちメンタルモデルに危害を加えに来たわけでは無い。我々の任務はあくまで刑部 蒔絵の”処分”だ。君たち霧と矛を交える意思は無い」

 

”処分”という言葉に彼の眼が一層鋭くなる。

 

「意思か・・・・」

 

彼が呟いたと同時に兵士数人のアサルトライフルが爆発した。

 

「!?」

 

「ならば・・・これが俺達の意思だ」

 

兵士達は紀伊を見て決意をしたのか。

 

「やむおえないか・・・貴様も処分する!」

 

「やれるもんならやってみろ!」

 

兵士達はアサルトライフルや付属しているグレネードランチャーを撃ってくる。しかし紀伊はクラインフィールドを展開して、銃弾や爆風を一切遮断する。この使い方も段々慣れていた。

 

「ぐぁ!?」

 

兵士達は次々と紀伊が生成したクラインフィールドで押し倒されて気絶した。五分もせずに兵士達は全滅した。

 

「ふぅ・・・これでしばらくは・・・・」

 

しかし蒔絵を起こさずに倒さなければならない。こんなものを彼女には見せられない。その時に彼の後ろのドアが開いた。

 

「・・・・!?」

 

彼は振り向いた瞬間に振り向いた。そこには蒔絵がいたのだ。

 

「どうして・・・・」

 

「・・・・・」

 

後ろにはハルナやキリシマがばつが悪そうに俯いていた。

 

「すまない。止められなかった」

 

ハルナが申し訳なさそうに言う。

 

「ま、蒔絵・・・・」

 

「・・・・!!」

 

彼女は紀伊が声をかけるよりも先に走り始めていた。呼び止めるまでもなく彼女は廊下の角で消えてしまう。

 

(やはり彼女も人間だったか・・・・霧を見ればそういう反応だ)

 

キリシマが当然と言った口調で呟いてくる。しかしハルナや紀伊もそれには耳を傾けなかった。知られた自分達が霧だということに。前なら紀伊はともかくハルナは何も感じなかっただろう。しかし今は違った。

 

「キリシマすまない。蒔絵に連いていってくれ」

 

「はぁ!?何を言って__」

 

キリシマが物を言う前に俺はぬいぐるみの体を鷲掴みにして窓に向けて投げた。

 

「うぁーーー!?」

 

キリシマは窓の外に落ちて行った。彼女ならやってくれるだろう。問題は・・・

 

「どうやって彼女を逃がすかだな・・・・」

 

霧と正体がばれてしまったのなら仕方がない。ならばいかにして自分達が彼女に近づかずに彼女を逃がすかを考えなければならなかった。

 

「それについては考えがある・・・」

 

ハルナが自分に作戦を話した。しかしそれは紀伊の今まで体験した中で一番過酷なことになるのは明白だった。

 

「成功する確率は・・・」

 

その言葉にハルナは結論をすらりと言った。

 

「五分五分と言ったところ。キリシマはどうやら蒔絵と合流を果たしたみたいだ。その位置から推定すると彼女は屋敷の裏門のから逃走を図ろうとしているみたいだ。あそこは熱源反応からするに警備がどこよりも薄い。我々が上手く敵の注意を逸らして、あの兵士達が蒔絵の存在に気ずかなければ作戦は成功。仮に見つかったら作戦は失敗だ」

 

「そんな時の予備は・・・プランBはあるのか?」

 

 

その言葉にキリシマは答えずに外へと飛び出して行ってしまった。

 

「たく・・・この体での戦闘なんてまったく経験ないっつぅの。はぁ、でもやるしかないか」

 

今までは”人としての体”ではなく、”艦としての体”での戦いだった。その為に目で見ても少しは大丈夫だったしかし今までの状況と今回の状況は一味違う。

 

「だけど・・・・やるしかないか・・・」

 

彼も覚悟を決めて、窓を突き破った。凄まじい破壊音と共に彼は兵士の群れへと突っ込んで行った。

 

 

 

 

 

刑部邸 裏門にて

 

「正門の方で例のメンタルモデルと交戦しているらしい。我々も応援に向かうぞ!」

 

「はいっ!」

 

兵士達が去っていくのを確認してそっと隠れているところの鉄格子を外す。周りを見て見ると誰もいないが一つあるものを見つけた。

 

「ヨタロウ・・・?」

 

紀伊が投げたところが丁度蒔絵がいるところだったのだ。何と運のいいことである。彼女はそれを大事そうに抱きながら、銃声が鳴り響く、正門の方を見つめた。

 

「・・・・・」

 

彼女はそれから何も振り返らずに裏門へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

刑部邸 正門付近にて

 

「撃てっ!」

 

激しい銃撃音が辺りに響く。しかしそれをものともせずにハルナは突っ込んでクラインフィールドで無力化する。彼女は戦いながらもある一つの思いとも戦っていた。兵器として最適かつ効率のいい提案を彼女はずっと無視しつづけていたのだ。なぜなら・・・

 

(確かにこの方法ならこの部隊相手に苦戦せずに殲滅できる。だが・・・・)

 

彼女の脳裏に蒔絵の笑っている顔がフラッシュバックする。

 

(彼女を悲しませるわけにはいかない)

 

彼女の後ろで爆発が起こる。紀伊だ。彼も彼なりに自分のやり方で相手を傷つけずに無力化していた。

 

(だがなぜだ?なぜ私はこんなことの為に戦う?)

 

彼女は兵器だ。人間に対して何も感じていなかった。だが今は。

 

(私は蒔絵に嫌われてしまった。だが蒔絵だけは・・・・)

 

だけど私が犠牲になろうとも蒔絵を絶対に守る。彼女はその心意気だった。

 

「ちっ!あれを出せ!」

 

兵士が何かを出すように指示を出す。すると二門の砲を持った無人兵器が出てきた。

 

(あれは「岩蟹」!?)

 

二門のほうだけでもかなりの威力を持った砲だ。しかも他にも装備を持っているため、かなりの難敵だ。それの砲がこちらを向いた。

 

「まずい、逃げろハルナ!」

 

紀伊が彼女に警告するがもう遅かった。彼女達に砲弾が襲いかかった。

 

 

 

 

 

刑部邸 裏門

 

(くそっ!キイのやつめ!こんなことを押しつけやがって!今に見ていろ。だが二人と連絡がつかない。戦闘も激化しているみたいだがあいつらは大丈夫だろうか?それにしてもなぜこの娘は動かない?)

 

キリシマは紀伊に対して悪態を吐きながらも彼らが無事かどうかを心配した。そしてなぜ蒔絵が動かないのかが気になっていた。すると蒔絵は足よりも口を動かした。

 

「ねぇ、ヨタロウ・・・私、ある爆弾を作ったの・・・・それはね、ハルハル達を殺すための爆弾だったの」

 

「!?」

 

彼女は語った。自分が作らされた者。そして自分の気持ちを。

 

「だからね・・・私はハルハル達に合わす顔が無いの・・・・!」

 

彼女は泣いていた。彼女は自分が抱えていた気持ちを全て出し尽くしたのだ。そして立ち上がる。自分がいるからハルナ達が迷惑していると。だから逃げるために。しかし不運なことに彼女は足をもつれてしまい転んでしまった。

 

「うわぁ!?」

 

その光景を近くにいた兵士に見られてしまう。

 

「なぁ!刑部蒔絵!?」

 

銃を咄嗟に向けて排除しようとする兵士達。

 

「ちっ!させるか!」

 

キリシマは飛び出す。そして兵士の一人に蹴りを食らわして、もう一人の殴りを難なく躱し、再び蹴りを出す。

しかし銃撃をしながら兵士が飛び出してくる。キリシマはクラインフィールドを出そうとするが

 

「なんだこれ!?小さすぎる・・・・」

 

クラインフィールドもキリシマの体格に合わせて、小さくなっていた。防ぐのをやめると一気に距離を詰めて、両足蹴りで二人をKOする。

 

「ヨタロウ・・・?」

 

「あっ!」

 

気づいたときには遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

刑部邸 正門付近

 

「刑部蒔絵を裏門で発見!」

 

「何!?」

 

ばれたか。だが行かせはしない。クラインフィールドで向かっていく兵士を吹き飛ばした。

 

「くっ!」

 

ハルナも「岩蟹」の猛攻で八方塞がりになっていた。しかし傷つかないようにするためにはしのぐしかなかった。

あともう少し時間が稼げれば・・・・。あと数分だけ。紀伊とハルナが何とか耐えていたときに。

 

「ハルハル!紀伊!」

 

戦場に一つの声が聞こえた。ここにはいてはならぬ存在だった。

 

「「蒔絵!?」」

 

 

彼女は危ない足取りで走っていた。腕にはキリシマが抱えられていた。キリシマめ、ドジったな。だが仕方がないと割り切った。

 

「刑部蒔絵!!」

 

銃のレーザーサイト全てが彼女に向く。

 

「蒔絵!!」

 

ハルナは走り始めていた。そして銃の銃弾が彼女を貫く前にクラインフィールドで防ぐ。

 

「くっ!?」

 

しかし集中砲火でハルナは苦しそうだ。次の第一射が来るまでに「岩蟹」が爆発した。

 

「え・・・!?」

 

「間に合ったか・・・・」

 

次々と爆発していく「岩蟹」。それらは全て紀伊のミサイルであった。紀伊はこうなることを予想してここまで船体を寄せていたのだ。

 

「といってもぎりぎりだったけどな・・・・」

 

虎の子の兵器が爆発して、兵士達は「退却!退却!」と叫んでいる。

 

「お前は・・・」

 

「あーあ、屋敷がめちゃくちゃになっちゃったな・・・・なぁ、もしよかったら・・・」

 

三人が茫然としている中でこういった。

 

「俺と一緒に行かないか?」

 

彼は三人に向けて満面の笑みを見せた。

 




ようやく終わった・・・・。次回は再び、番外編です前に募集して集まった艦艇を出していきたいと思います。

次回 海を航行する紀伊はそこで一隻の戦艦と出会う。

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