白き鋼のアルペジオ   作:神奈翔太

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予告詐欺になりました。すいません。


新型海域強襲艦

「おいっ!どこに行くんだ!?」

 

日柳はどこかへ去っていく、ヤマト達の艦影を見ながら叫んだ。しかし叫びは虚しく響くばかりである。

 

『日柳艦長!すぐに戻って下さい!』

 

堀江から慌ただしく無線がかかってきた。

 

「どうしたんだ!?」

 

『レーダーに十以上の艦艇を確認しました。その中には空母らしき艦艇もあります!』

 

「よりにもよってこんな時に!・・・って、あれ?」

 

悪態を吐いたがよく考えればおかしい。

 

「なぁ、堀江。襲ってきている艦艇達ってあいつらみたいな奴等じゃなきゃ、その・・あれだろ・・・」

 

彼の脳裏には悪魔のような船達が浮かんできていた。

 

『霧の艦隊ですか?』

 

「そう霧の艦隊。その霧の艦隊だったとしたらどうして同じ霧の艦隊であるヤマト達は逃げるんだろう?それも慌てて」

 

『これは予測になりますがもしかしたら霧の艦隊自身も仲間割れというか、何かの対立があるからかもしれません。もしかしたら私達にヤマト達が逃げろといったからには私たちもその艦隊にヤマト達の新たな戦力と見られている可能性も十分あります』

 

「だがあくまで予測の域を出ないものだ。それだけで攻撃するわけにはいかない。もしかしたら俺達が考えていることとは逆かもしれないんだ。それなのに俺達が攻撃したら本当の敵になるぞ」

 

確かに先制攻撃でこちらが大打撃を受ける可能性も決して少ないとは言えない。だがこのまま戦闘を繰り広げるわけにはいかないだから攻撃されるまではこちらは攻撃をしない。向こうがこちらが敵じゃないと分かるまでだ。攻撃をしてきたら気は乗らないが応戦をするしかない。

 

「とりあえず警戒態勢を敷くんだ。あ、それと提督は抑えておけよ?」

 

その言葉に堀江ははぁと息を吐く。呆れながら提督の現状を小声で言う。

 

『早く戻ってきてください。あの人はさっきから攻撃しろ、殺されたいのか、死にたいのか、という繰り返しですよ。抑えるのが精いっぱいなんで早く帰ってきてください』

 

やはりいつもの山田提督みたいだ。あの人にいつまでも指揮権を預けておいたらいつ味方か敵かも分からない相手に向かって、砲撃をして死刑宣告にサインをしてしまいそうだ。

 

「分かった。それまで耐えてくれ。すぐに行く」

 

『お待ちしています』

 

 

 

 

 

「比叡」艦橋

 

「遅れました!」

 

「遅いぞ!何をしておった!」

 

山口提督が口うるさく艦長席から言っているが聞いている時間の間に敵は迫ってきているので黙って指揮をついた。

 

「機関最大。さっきヤマトに貰った地図は持っているな?」

 

「はい。きちんと」

 

「その目的地まで最大船速で航行だ。後方の艦隊は無視する。攻撃したときのみ、攻撃を許可する」

 

「了解」

 

「貴様!それでも日本の海軍軍人か!」

 

「今は抑えてください。きちんとした対策を練ってからです。策も無ければ全滅しますよ!」

 

「う・・・うむ」

 

日柳の雰囲気に気圧されたのか、山口が押し黙った。だが日柳達にはそれを見る暇さえなかった。

 

 

 

 

 

 

日柳艦隊の後方 北米艦隊にて

 

「どうやら私達に気がついたようね」

 

彼女はその広い甲板でコーヒーを飲む。彼女の周りにはさらに配下の艦が彼女を囲むように配置されていた。

 

「まったく傷つくわ。総旗艦殿には」

 

ヤマトのスペックとメンタルモデルはこんな大規模な艦隊を見逃すわけがないのだ。つまり自分達はヤマト達がこの海域を離脱出来るギリギリのラインまで自分達は泳がされていたのだとすぐに分かった。それは栄ある北米艦隊のプライドに傷をつけているのと同等であった。

 

「とりあえずはこのままの陣形で直進よ。もう一つの艦隊の方を追いかける。え、ヤマト達はいいのかって?そんなもん追いかけるわけないでしょ。追いかけたって両方逃がすだけよ」

 

彼女は既にヤマト艦隊を補足することは困難だと思っていた。それならば今、逃がす可能性のない方を確保した方が良いと判断したのだ。

 

「そうよ。「ヒューロン」の艦隊はあの艦隊の前方で挟み込むように包囲して、そこを私達が畳み掛けて降伏させる」

 

彼女達の北米艦隊はヤマトの艦隊の動向を確認して可能ならば、連れ戻せと指示を受けていた。だが既にそのヤマト艦隊は既にいない。ならば、今、逃げ遅れた艦隊を確保して居場所を知るという方法を取るしかなかった。

 

「では行きますか」

 

彼女は新たなの建造された艦船だった。おそらく実戦経験を積ませたいためにここに送り込んできたのだと彼女は推測していた。こちらとしても経験が積めるならと承諾していた。

 

海域強襲制圧艦 「スペリオル」 それが彼女の名前だった。

 

 

 

 

 

 

 

「副長!海域突破までの時間は?」

 

「まだしばらく掛かりますが後方の艦隊と我が方の艦隊の速力は変わらないのでおそらく大丈夫かと」

 

「いや、油断は出来ない。墳進弾を使ってこられたら、この距離は一瞬で縮まる」

 

日柳以外にも誰もがその兵器の事を気にしていた。紀伊が見せた墳進弾だった。ちなみにこちらには墳進弾を発射できる機能は無い。

 

「とにかくこのままこの海域を突破するしかない。だが警戒は厳にしておくように」

 

「了解しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒューロン」艦隊 海域強襲制圧艦「ヒューロン」

 

 

「はぁ~だるい」

 

 

その広い甲板で日差しが照りつける中、特に気にすることもなく「ヒューロン」は寝そべっていた。戦闘になるかもしれない状況の中で彼女が寝そべってだらけている理由は一つ、だるいからであった。

 

 

「あ、そうだ」

 

彼女は何を考えたのか、立ち上がる。

 

「こんな作戦だるいからさっさと終わらせよう。そうすれば「スペリオル」も喜ぶし、作戦も達成できる。一石三鳥だ」

 

彼女は自身のVLS全てを開放する。その光景も見た他の護衛艦が驚いて「ヒューロン」に問いかける。

 

「えっ?いいじゃん。とにかくやるからね。君たちも撃っちゃいなよ!」

 

他の護衛艦が止めるまでもなく、日柳艦隊に向けて「ヒューロン」の侵食弾頭が飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

「侵食弾頭!?この数は「ヒューロン」か!。誰が撃てと言った!?」

 

完全に想定外の出来事だった。「スペリオル」は驚きつつ、妹の独自の行動に怒りを覚えた。

 

「仕方がない。攻撃開始だ。そうだ、はじめてしまったからにはどうしようもない。但し、一隻か二隻は残しておくんだ。情報が手に入らなかったら元も子もない」

 

そういいながら自身の船体のVLSを半分開放して空高く弾頭を発射した。

 

 

 

 

一方、日柳艦隊は騒然としていた。

 

「レーダーに多数の墳進弾らしき物体を感知!すごい数です」

 

「撃ってきたか・・・・」

 

もしかしたらこのまま逃げ切れるのではないかと淡い期待をかけていたがどうやら裏切られる形になったようだ。

 

「総員、対空戦闘用意!」

 

警報がなり、銃座がそれぞれ別の方向を向く。他の艦もそうだった。しかし墳進弾の数はかなりの数であり、防ぎ切れるかどうかは分からなかった。

 

「もう紀伊はいない。これからは俺達の力で生きていくしかない」

 

何が起こっているかも分からない状況でよく分からない勢力と会い、更に戦闘になる。こんな数奇な経験を誰がしただろうか。それに紀伊は現在、行方不明。他に頼れる味方もいない。助けられてばかりではいけないと。

 

「墳進弾が射程圏内に入りました」

 

「撃ち方始め!」

 

「比叡」が報告するとすばやく対空射撃が始まった。凄まじい弾幕が艦隊の周りに形成される。しかし墳進弾の数はそれ以上に多かった。しかし一基たりとも逃さぬように濃密な弾幕が形成される。

 

「更に右舷から接近!「蒼龍」への直撃コースです!」

 

その報告で「蒼龍」を双眼鏡で見た。「蒼龍」は現在、真上のミサイルを迎撃中であり、右舷のミサイルに対処している銃座は少なく、ほとんどが空を切っていた。

 

「面舵いっぱい!」

 

艦が一気に右に傾いた。その中で日柳は指示をする。

 

「対空銃座、「蒼龍」から見て右舷の墳進弾を迎撃せよ!」

 

墳進弾は「比叡」の対空銃座で撃ち落とされたために「蒼龍」に被害はなかった。安堵の息を吐こうとした時に。

 

「「赤城」、「飛龍」に墳進弾!数それぞれ十!」

 

「対空防御を急がせろ!!」

 

日柳は檄を飛ばすがそれに悲鳴のような返答が返ってきた。

 

「だめです。数が多くて、二艦どちらも墳進弾との距離が近すぎます!」

 

それに目の前が暗くなった。いくら無人機とはいえ、「赤城」、「加賀」、「蒼龍」、「飛龍」からは上空警戒で戦闘機が発艦しているのだ。いくら防壁があるとはいえ、被弾すればどうなるか分からなかった。

 

「被弾します!!」

 

船員が悲鳴を上げた。直後に凄まじい音と共に赤い球体が防壁にその身を咲かせた。

 

 

 

 

 

 

数分後

 

「何てヤツらなの?あれだけ撃っておいて、命中弾が二十発しか当たらないなんて・・・・」

 

「スペリオル」はあまりの結果に唖然として、そしてあの艦隊が只者ではないと分かった。その時に「ヒューロン」から通信が入った。

 

「「ヒューロン」か・・・お前は何で勝手に戦闘を始めているんだ!せっかくの計画が台無しだ!!」

 

通信の主が分かったところで怒鳴る。さすがにこの剣幕には驚いたのか。

 

『ご、ごめんなさい・・・・・』

 

静かに謝ってきた。普段はとろくさい奴だがこんな時は素直だった。

 

「それよりお前の方の残弾は?」

 

『もうほとんどない。途中で出会った奴と今の奴でほとんど撃ち()ったよ』

 

「ヒューロン」の方は残弾がほぼ無いようだ。こちらの人の事を言えたものじゃなかった。今回は弾薬を満載にしてきたが、予想外だったのが途中で出会った艦船であった。殲滅はしたがこちらの艦艇を模しているような感じの船だったことは覚えていた。

 

「もうすぐ敵の反撃が来るはずだ。手持ちで何とかやるしかない」

 

その時だった。レーダーに反応があった。来た、反撃だ。だが違和感を感じた。

 

「弾頭にしては遅すぎる」

 

注目するべきはその遅さだ。ミサイルならばこの時間に既に到着しているだろう。だが少しすれば姿が見えるはずだった。そしてゆっくりとそれが姿を見せた。

 

「!?航空機などとそんな古臭いものを・・・・」

 

既に霧では航空機の運用は全面的に無くなっていた。それなのに航空機を使うとは。

 

「舐めた真似をしてくれる。だが油断は敵だ」

 

対空射撃で航空機を攻撃する。しかし航空機は攻撃を何もしなかった。むしろ左右に翼を振っている。

 

「全艦攻撃中止」

 

攻撃をやめると航空機の一機が着艦しようとしていた。

 

「!?何を!」

 

無理やりだった。何とか近くにあった物が足止めになったのか航空機が止まる。それに「スペリオル」は安堵の息を吐いた。

 

「一体何・・・・!?」

 

その言葉を呟く前に航空機から何かが出てきた。それは人間だった。唖然とする「スペリオル」の前でにっこりと人間は笑った。

 

「どうも。初めましてかな?」

 

 

 

 

 

 

 

日柳はパイロットに礼を告げて、唖然とする少女を横目に艦内に入った。

 

 

「やっぱり同じか」

 

「おい」

 

紀伊の艦内と同じ感じだなと思っていると後ろから声をかけられた。明らかに怒りが籠っている。

 

「はぁ~~これは苦労するな」

 

「何を言っている人間」

 

この言動からして苦労することになりそうだと大きく日柳は息を吐いた。彼の目的は着艦不能になった「赤城」、「飛龍」の艦載機のためだった。

 




日柳達の登場と紺碧の艦隊と旭日の艦隊のタグをつけたのはこの話を書くためです。

それと番外編で以前の募集でもらったコメントのものを出せなくてすいません。ほとぼりが冷めたら再び、出したいと思います。


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