紀伊半島 熊野沖 台風11号勢力圏内
台風で荒れていたこの海をゆっくりと航行する蒼い潜水艦がいた。しかしそれは台風の外から来た対潜弾で原型を留めないくらいにまで破壊されてしまった。
霧の艦隊 重巡洋艦タカオ
「また囮か・・・」
すでに何回も401のデコイがしきりにタカオに近づいてきていた。しかしタカオはそれを許さずに完膚なきまでに破壊していっていた。しかしそれをタカオは苛立たずに静かに待っていた。
「早くお出で・・・401」
タカオはじっと海を見つめて蒼い潜水艦を待っていた。
超戦艦キイにて
紀伊は船の潜水機能を使って、401、黒鯨と共に航行していたが横須賀の手前でやはり予想していた通りのことが起こってしまった。
「どうやらイ401のデコイがまた攻撃されたみたいだな」
紀伊は艦のレーダーで4つのデコイがタカオに破壊されたことはこちらも確認できていた。紀伊は401と黒鯨の両方の通信を開く。
「群像、日下部、船体の状態と残りデコイは?」
「船体に関しては両艦共に異常は見当たらない。デコイは残りは3つだけだ」
群像が報告してくれた。
「で、これからどうやってあの重巡の封鎖線から抜け出すわけ?」
日下部が質問した。
「タカオは依然、台風の目の中から動いていませんし・・・」
隣で静がタカオの情報を口にする。
「どうするかね~~」
杏平も口調は軽いが悩んではいた。
「とりあえずおさらいをしてみよう。イオナ、横須賀への航路を表示してくれ」
「頼まれる」
すぐにモニターに現在のイ401の現在地、横須賀の位置、そしてタカオの現在地が表示されていた。
「まず最初の航路は台風を利用してタカオの封鎖線から離脱することがプランAだった」
「だけどそれはタカオのデコイ破壊で無理になったと」
紀伊がプランAの失敗を告げた。
「そしてこれは静の案であるがタカオの封鎖線から迂回して横須賀に行くことがプランBだった」
「だけどそれはタカオが向きを変えるだけなんじゃないのかな?」
日下部が疑問を投げかける。その言葉に群像は頷く。
「たしかにそのリスクがあり、そのリスクが当たってしまったら自分達はタカオの追撃を振り切れないまま横須賀に入港してしまうリスクも同時に出て来てしまう」
つまり要約してしまえばプランA、プランBもだめということは逃げることに関しては八方塞がりだった。そう”逃げる”事に関して言えばだ。
「そして最後にプランCだ」
「プランC?」
イ401クルーも首を傾げる。
「台風が消えてなくなる前にここでタカオを”倒す”」
「「「え!」」」
群像、イオナ、紀伊以外の全員が驚いた。
「いきなり重巡洋艦クラスかよ!」
重巡洋艦クラスはメンタルモデルを形成できる上位艦クラスの分類に入ってしまう。それを倒すことはかなりの苦戦を強いてしまうかもしれない。
「紀伊。君にお願いがある」
「何かな?」
「実はタカオの後ろ側に入って、注意を逸らしてもらいたい」
「いいけどそれには少しばかり時間がかかってしまうけどいいかな?」
「あぁ、君が後ろ側に行っている間にこっちは浮上して敵に攻撃を仕掛けてみるよ」
「了解した。気をつけてな」
「そちらこそ」
そうして一旦、イ401と紀伊は別れた。(黒鯨はイ401の援護のために残った)
「とりあえず武装とソナーをオンライン」
今回は浸食兵器も搭載してある。そしてこの艦はどうやらまだタカオに発見されてはいないようだった。
「どうやら浮上を開始したみたいだな」
ゆっくりとイ401は浮上を開始し始めていた。
タカオにて
「401の反応が4つか。一つが本物か、それとも全て偽物か」
そしてタカオの船体から二つの制御装置が出て来て、周囲に赤い重力子が漏れていた。
「超重力砲、エンゲージ!まずはクラインフィールドを臨界にしてあげる」
イ401艦内にて
「タカオ、回頭中!」
「発見されたのでしょうか!」
「慌てるな。浮上そのまま」
「ヨーソロ。了解」
「一番、二番、三番に低周波魚雷装填!並びに7番に浸食魚雷装填。装填後全発射管開け!」
「了解!」
イ401は浮上を続けた。
「これは・・・艦長!変なノイズが聞こえます」
「台風の影響でしょうか?」
「それもありますがこんなのは初めてです」
静の報告に群像は考え込む。
「魚雷装填並びに発射管解放完了!」
杏平が報告をする。しかし群像は今だ考え込んでいた。
「私はヒュウガのようにはならないわ」
大戦艦ヒュウガはイ401に撃破されてしまったがたかが巡航潜水艦ごときに私が敗北するはずがない。その間にも確実にイ401は浮上してきていた。
「早くお出で401」
「深度15・・・・深度10、まもなく海面」
イオナは深度を確実に読み上げていった。それが指すとおりにまもなく海面だ。
「海面まで3、2、1、浮上」
まもなく海面だというところで群像が叫んだ。
「サイドキック!取り舵いっぱい!」
「サイドキック、取り舵いっぱい」
船体がサイドキックをした。そのときに赤い閃光が船体の横を掠めた。
黒鯨艦内
「イ401が攻撃を受けた!?援護をしないと!」
まさか超重力砲の攻撃を受けるとは予想していなかった。しかしすぐに魚雷での援護を開始する。
「フロート反転!急速潜航!奴は正確にこちらの位置を把握している!ばら撒けるものは全部ばらまけ!」
そうして全問を開いて、攻撃する。
タカオは”驚愕”という概念に包まれていた。
「超重力砲の発射タイミングは完璧だったはずなのに・・・」
その言葉とは裏腹に魚雷を打ち込んでいく。
「一番から三番、低周波魚雷発射!起爆タイミングは任せる。海中をかき回せ!」
群像の指示を受けた杏平が一つのミスなく端末を操作する。
「了解!起爆まで7秒!発射!」
発射管から3つの魚雷が発射された。
「高速推進音多数接近!魚雷です!」
「イオナ!アクティブデコイを盾にしろ!」
「了解」
タカオから発射された無数の魚雷は401を食い尽くさんと向かったが3つのアクティブデコイと黒鯨の援護によって難を逃れた。
「デコイ3隻消失」
「低周波魚雷起爆まで残り3秒!」
「静!ヘッドフォンミュート!」
低周波魚雷で耳をやられないように群像が静にミュートするように呼びかた。そして低周波魚雷が起爆して海中をかき回した。
「機関停止。無音潜航」
401は深い海底に息を潜めた。
「401をロストした・・・」
タカオのレーダーにはイ401の艦影はいなかった。タカオは”驚愕”という概念を抱きながらじっと401がいた海域を見つめていた。
「しかし、ヒヤヒヤしたよ」
紀伊は一時的ではあるが胸をなで下ろした。どうやらあれが霧の切り札の兵器である超重力砲らしいがかなりの威力に紀伊は驚いた。しかし自分は今だタカオには発見されてはいない。紀伊は潜航してタカオの攻撃を受けた401に連絡を取った。
「群像、大丈夫か?」
「あぁ、さすがに超重力砲を掠ったお蔭でクラインフィールドが飽和しかけているがあとは黒鯨が援護してくれたお蔭でほぼ大丈夫だ」
「しかしよくタカオが超重力砲を撃つことが分かったな?」
「馬鹿正直にタカオが艦首を向けていたお蔭だ」
その時、いおりから通信が入ってきた。
「だけどどうやってタカオはこちらに気が付いたの?アクティブデコイは3隻とも無視だったじゃん」
いおりの指摘に皆が考える。
「イオナはどう思う?」
群像がイオナに意見を求める。
「私は・・・タカオは私をずっと見ていた気がする。偶然ではない」
「もしかしたらもう一隻いるのかもしれない・・・」
ぽつりと紀伊が言った。
「「「え!?」」」
「イオナ、スペックから分かっているタカオの索敵範囲に今の砲撃から推測される索敵範囲を重ねてくれ」
群像の指示に従ったイオナがすぐにモニターに結果を映し出した。そしてその結果の索敵範囲にはすっぽりとイ401と黒鯨が入っていた。
「おいおい、この索敵範囲は大戦艦級よりも広大じゃないか。これはありえねぇ」
「ありえなくない。これは事実」
杏平の言葉を即座に否定したイオナ。
「マジで?」
「マジで」
「つまりこれほど広い索敵範囲を加え、この気象状況下でデコイと本物を見分ける能力。それほどの性能を持つ艦となると・・・・」
「ステルス性の高い潜航観測艦の類ですね」
群像と僧はもう一隻いると睨むが静は反論した。
「ですがタカオ以外の艦影は認められませんでした」
「ということはだよ。もしもう一隻潜んでいるとしたらそいつがタカオのエコーに隠れているということじゃないかな?」
紀伊も群像の意見を支持する。
「台風のお蔭で荒れた海での戦闘を嫌っていると思いましたが本当の理由はまともに動けないからなのですね」
「だけどそいつは仮説じゃね?」
杏平もまだ半信半疑だった。
「仮説は立証するためにある。紀伊」
「どうしたの?」
「君はこちらに構わずにさっきの通りで攻撃してくれ、こちらは準備をする」
「準備?」
「向こうを今度は驚かすための秘策の準備さ」
「さて、やるかな」
紀伊は一気に艦を浮上させた。
「結構驚くかな?」
戦闘の直前というのにふとそんなことを考えてしまう紀伊だった。
「401は動いていないか・・・・」
今だタカオは401のいる海域を片時も見放してはいなかった。しかしそれがたった少しだけ仇になってしまった。
「私の後方の海域から重力子機関の作動音?デコイか?しかしデコイを探知できないとは・・・」
タカオは後ろの物体をデコイと勘違いした。それが401のデコイとは遥かに大きさが違うのにだ。
「今度こそ401が動き出したか。まぁ、後ろのデコイに気を紛らわせて前から私を攻撃するはずだったのだろう?」
イ401からは多数の魚雷が発射されたが全てタカオの迎撃弾で防がれていた。
「タナトニウム反応・・・そっちが本命か。しかしその手は食わない」
たった二発の侵食魚雷を多数の迎撃弾で撃破した。海面に赤い球体が浮かびあがる。
「この魚雷をプログラミングした人間は良い腕をしている」
タカオは顔も知らないイ401のクルーを褒めた。
「だけどそれもお終い」
次の魚雷を発射しようとした時にそれは起こった。
「後方からタナトニウム反応が3つ!?後方にはデコイしかないのに!」
タカオの疑問は海上に出てきた物で悪い意味で解消された。
「あれは総旗艦・・・いえ、ヤマトとは何か違うわね」
その時にチクマとの会話が思い出される。
「まさか・・・あれがチクマの探していた白い戦艦・・」
もしあれが大戦艦級、いや、ヤマトと同じ超戦艦級ならばこちらは圧倒的不利だが・・
「だけどまだ私はやれるわ。いかに超戦艦級だったとしてもこれだけの侵食兵器はただじゃすまないはず!」
タカオはほんの少しだけ弾頭を残して、残りの全ての弾頭を全てあの戦艦に向けた。
「おいおい!確かに攻撃は予想はしていたけどこれは激しい!」
二回戦闘をしたが一回目はチクマの攻撃を、二回目は日下部の黒鯨と戦ったが今だ、こんなに激しい攻撃を喰らったのは初めてだった。
「ええい!とりあえず迎撃だ!」
しかし紀伊の方も只でやられない。艦のVLSを解放して迎撃する。しかしタカオは後部砲塔を使って砲撃をして、確実にこちらのクラインフィールドを削ってくる。
「群像の秘策はまだなのか!」
紀伊は群像の秘策の準備が完了するまでの時間稼ぎだった。紀伊は凄まじい弾幕の中で401の準備を待った。すると通信が入った。
『紀伊、準備が整った。すぐに退避してくれ!』
群像が叫んだ。そしてすぐに紀伊の目の前に驚くべき光景が目に入った。そして紀伊はその光景をそのまま口に出した。
「海が割れる・・・」
そして海が割れた先には船体から超重力砲を撃とうとしているイ401だった。
「やばっ!見とれている場合じゃない、すぐに逃げないと!」
急いで射線から離れる。そして何とかギリギリ離れられた。しかしタカオはどうやら動けないらしい。そしてようやくタカオの”秘策”が分かった。
「ようやく姿を現したか」
それはタカオの船体の下にぴったりとくっついている501だった。
「どうして巡航潜水艦ごときが超重力砲を!?」
タカオは後ろの超戦艦に火力を集中していたことで前方の401に注意が届いていなかった。
「501!接触を切断しろ!」
そしてタカオも逃れようとする。しかし中々逃れられない。
「タカオが離脱しようとしています」
あまりこちらも向こうも時間はなかった。群像は指示を飛ばす。
「仰角マイナス30!」
「だけどタカオには!」
杏平が驚く。
「これでいい!超重力砲撃てぇ!」
そして視界は蒼い閃光で満たされた。
タカオとの激戦の結果だった。