「先に相手の胴体に触れた方が勝ちってことでいいかしら?」
「本気なのかよ?」
わたしが笑顔で頷くと、沖田はまた舌を打った。
「怪我したって、知らねェからな!」
――怪我させるつもりもないくせに。
苦笑したい気持ちを押さえて、わたしは構える。
しぶしぶ、沖田も構えたところで、
「……行くよ」
わたしは駆ける。ジャリジャリと破片のこすれる音を響いた。手の届く範囲まで寄って、まっすぐに掌底を押し出す。
沖田は黙って、その手を掴んだ。そして、捻り挙げるように持ち上げてくる。
「痛ひ……て、降参するとでも思った?」
わたしは床を蹴り上げて、バク宙しながら蹴りを繰り出す。沖田は手を放し、一歩後退することで躱した。
着地した瞬間に、身を低くして突進。沖田の左脚を左手で掴み、そこを軸に滑るように回転。彼の背中に触れようとした時、
「くそっ!」
皮肉げに顔をしかめながら、沖田が上段に、蹴りを繰り出して来る。
わたしは、その脚に飛び乗った。
目を見開く沖田と視線が合い、わたしは小さく微笑む。
「ごめんね」
そして、沖田の胴体に飛び乗ると同時に、彼は後ろに倒れていって。
わたしは彼の頭の下に手を置いた。絨毯が敷いてあるから強打しないとはいえ、ガラス片が頭に突き刺さるのは、とても危険だ。
無事に倒れて、わたしは沖田の胴体から足を下す。
ふと思う。
目の前にあるのは、整った顔。大きな瞳は少し潤み、華憐な唇はほのかな桜色。恥ずかしいのか、頬が紅に彩られている。
――この体勢……まるで絵本の王子様が、眠れるお姫様に口づけをする場面かっての!
それに、なんだかこっちまで恥ずかしくなってきて、
「ご……ごめん!」
わたしは沖田の上から退いて、立ち上がった。
「……なんでアンタが照れてるんでィ」
沖田もゆっくりと上体を起こすと、頭をぼりぼりと掻いている。
「負けて恥ずかしいのは、こっちだっつの……」
ともあれ、沖田が負けを認めた以上、この勝負はこれにておしまいである。
「手、抜きすぎじゃない?」
「ちったァ考えてみろってーんだ。ペットを傷付けるようなヤツにゃ、ペットを飼う資格はねェーんでサ」
「このペット、ちょっとやそっとじゃ、傷付かないよ?」
「頑丈なこって、何よりで」
その軽いやり取りにわたしは「ふふふ」と笑い、向き直る。
見届けてくれた将軍に、戦果を確認するのだ。
「そういうことで――将軍様、わたくしめに攘夷浪士と討伐、命じて下さいますでしょうか?」
わたしの微笑に、将軍こと将ちゃんの顔は固い。
心配なんだろうなぁ。やっぱり優しいんだなぁ。
だけど、短い付き合いながら、わたしは知っている。
この男は、いい男なのだ。
「……約束を果たさぬなど、将軍失格だな」
「まぁ、正直な所。将ちゃんの合意を取る前に始めた気もするんだけどね」
「ならば、この決闘はなかったことにしても良いか?」
その提案に、わたしは首を横にふる。
「後の詳しい話は、松平さんや近藤さんを介して」
そう告げると、将軍は大きく嘆息して「わかった」と頷いた。
ご無沙汰しております。
数年ぶりに書いてみました。
だってふと自分で読み返したら、想像以上に面白かったんだものw
やっぱり、自分の作品の一番のファンは自分ですね。
正直このページはほとんど書いてあったので、締めだけ書き足したのですが……
この続きをすっかり忘れてしまったので、また考えてチマチマ更新できたらなぁ、なんて思っています。
ただ、他サイト似たようなペンネームでオリジナル小説をメインで更新しているので、その合間の息抜き程度になりますが。
次またいつ更新できるかわかりませんが、わたし以外の誰かの暇つぶしとして、この小説が楽しんでもらえますように