キョン子「ないのかよ!」
いつものようにセットしておいた目覚まし時計がけたたましく鳴り響く。
あたしはそれをいつものように止めて閉じそうな瞼をなんとかこじ開けて一つ大きな欠伸をした。
ふう…今日から高校生か…。
ベッドからもそりと抜け出して部屋を出た。
あ、一応自己紹介しておこう。
あたしの名前は……まあ、みんなからはキョン子というあだ名で呼ばれてるからそれで覚えておいてくれ。規定事項ってやつだ。
一階に下り、洗面所で顔を洗った後リビングに行くと我が妹がすでに起きていてテレビを見ていた。
相変わらず早起きな妹だ。
「あ、おはよう!キョンちゃん」
「うん、おはよう。いつも早いな」
「えへへ。あ、キョンくんまだ寝てるみたいだし、起こしてくるね!」
そう言って妹は二階の部屋へと駆けて行った。
キョンというのは、あたしの双子の兄である。兄妹揃って変なあだ名だが、実はあたしがキョン子と呼ばれ始めたのは半分はキョンが原因であって…まあこの話はいいか。
家族の中でキョンは一番の寝坊助であり、よく妹が起こしに行っているという状況だ。
母親が作ってくれた朝食を食べていると、寝癖のついた頭を掻きながらキョンが部屋から下りてきた。
「……っふぁー」
「やっと起きたか。今日から高校生だってのに自分で起きようという自覚は生まれないのか?」
「ん~?ああ、頑張ってはいるさ。てか妹のやつが早すぎるんだよ、起きるのが」
「ああそうかい。それよりも早くしないと遅刻するぞ」
「そうだな」
そう言ってキョンは朝食の席に着いた。
今日からあたしたちは高校生になる。
新たな生活のスタートとなる日だ。
通う学校は北高と言って、かなりの坂を上ったところに位置する学校だ。
体力のないあたしにはかなりきつい坂だが、一番近くて無難な高校だったのでここを選んだ。
そのうち通っていれば慣れるだろう……うん慣れると思う。
朝食を食べ終えたあたしは部屋に戻り制服へと着替え支度をした。
髪は結構長めなのだが、しっかりとポニーテールにして準備完了。(ポニーテールが一番のお気に入りだ。ちょっと大変だけど)
玄関に行くとすでに支度を終えていたキョンと妹が靴を履いて待っていた。
まったく、支度だけは妙に早いんだから
「よし、行くか」
「ああ」
「キョンくん、キョンちゃん、いってらっしゃい!」
妹がいつものように元気いっぱいの声で言った。
「「いってきます」」
学校へ向かう途中、キョンとこれからの高校でのことを話しながら歩いた。
「北高はどんな感じだろうな」
「さあな。ま、とにかく楽しく過ごしたいもんだ」
「……あのさ」
「ん?なんだ?」
「俺はいつも聞いてるから慣れてるし、一人称があたしだからまだいいと思うがもうちょっとそのしゃべり方が男っぽいのを直してみたらどうだ?」
「は?」
「今日から高校生なわけだしこれを機に少しは女らしくしてみたらどうだ。男子にモテるかもしれんぞ」
「いやいやいや、何言ってるんだ。あたしは別にそんな高校生活は望んじゃいないからな!あたしはこれが一番しっくりくるんだ、別にいいだろ?人の勝手だ」
「そうかい。まあいいけど」
まったく、朝から何をわけのわからん事を言うんだか。
まあ小学生の頃からずっとこの言葉遣いで男っぽいって言われてきたし、女らしくしてみたらなんてよく言われてきたけど、一番この話し方が性に合ってるから変える気はない。
それに、あたしが女らしくしたところでモテるなんて思えんな。こんなどこにでもいる怠そうな女など誰が好むのだろう。
そうこうしているうちに学校に到着した。やはり、この体にあの坂は結構きつかった。
息を整えて玄関に貼ってあるクラス表を見た。
「えっと……あ、あった。1年6組か。あんまり知ってるやつがいないな、キョンは?」
「俺は5組だな。隣の組だ。国木田と一緒だな」
「国木田と一緒か、よかったな。じゃあまた後で」
「ああ、また帰る時な」
その後、体育館で入学式が行われた後各々の教室へと戻りまあ最初の恒例行事を行った。
席の順番で自己紹介を行っていき、各自得意なことや好きなことを言って挨拶をしていった。
自分の紹介も終わり、他の人の自己紹介をなんとなく聞いていると(誰でも最初はこんな感じだろ?)、左隣の女子の番になった。
隣の女子は音もなく立ち上がり、ある程度聞こえる声で一息で言った。
「…長門有希、よろしく」
たったそれだけを言い、すぐに座った。
一瞬、クラス内はシーンと静まり返った。
え?それだけ…なのか?
ずいぶんと簡単な自己紹介だな。もうちょっと何か言ったらよかったのに…。まあ人それぞれだけども。
そう思っていると、すでに次の人の自己紹介が始まっていた。
長門有希といった女子は、机の中から何やら難しそうな本を取り出して読み始めていた。
そういえば、さっき先生が来るまでにもずっと読んでいたな。本が好きみたいだな。
男口調のあたしが言うのもなんだが、かなり変わった子だ。無口で無表情、瞬きもほとんどせずにただひたすらに本を読んでいる。
もしかしてかなり人見知りする子なのだろうか。うん、あたしから気軽に声をかけていこう。
それぞれの自己紹介も終わり、今日は解散となった。
隣の長門さんはすぐに行ってしまい、あたしは中学の頃の同級生と軽く話した後荷物をまとめて玄関へと向かった。
玄関に行くと、靴を履き替えたキョンが国木田と一緒に待っていた。いや正確にはもう一人、かなり可愛いと言っていい女子もいた。
何やら話をしているらしい。
「…それでなんだ?えっと涼宮?」
涼宮と呼ばれたその女子はジーッとキョンを見つめ、というか睨みつけていた。
「……別に」
そう言ってその女子生徒は何事もなかったように去って行った。
「今の同じクラスの人か?」
靴を履き替えながら訊いてみた。
「あ、おおキョン子か。ああそうだ、あいつは涼宮ハルヒって言うんだがまあすごいやつでな」
「へえ」
靴を履き替え立ち上がりながら今度は国木田と向き合った。
「よう国木田。またこれからもよろしくな」
「うん、よろしくキョン子ちゃん」
この国木田は中学1年の頃からずっと一緒のクラスで(まあ今回は違うクラスになったが)よくキョンと三人で遊んだりしたまあ古い友人の一人だ。
「でもキョン子ちゃんとは別のクラスになっちゃってちょっと残念だな」
「そうか?まあキョンのこと頼むよ」
「それはもちろん」
「おい、俺なしで話を進めるな」
玄関から出て校門に向かいながら話を続けた。
「それで?あの涼宮って子のなにがすごいんだ?」
「ああ、それなんだが……」
学校前の坂を下りながらキョンや国木田の話を聞くと、……なるほど、確かにすごいなとしか表現ができなかった。
なんでもキョンの後ろの席が涼宮の席だったらしく、キョンの自己紹介の後こう言ったそうだ。
――――――――――
『東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に、宇宙人・未来人・異世界人・超能力者がいたら、あたしのとこに来なさい!以上!』
――――――――――
「……なんつーまあ」
まだこの世に高校生にもなってそんなことを言うやつが存在していたなんて…な。
「で、玄関で出くわしたからさっきの自己紹介のあれはどこまでが本気なんだ?と訊いたところ、さっきの反応だったわけだ」
「へえ、世の中は広いもんだ。楽しくできそうじゃないか」
「ふふ、そうだね」
「……どうだろうな」
国木田はくすくすと笑いながら答え、キョンはめんどくさいことにはならないだろうなという感じに言った。
「6組はどうだった?さすがに涼宮みたいのがいたなんてことはないと思うが」
いやいや、そんな涼宮みたいなのが同じ学校に二人もいたらさすがに世の中どうなっていると問い掛けてしまう。
「そうだな、たしかに涼宮ほどではないがこっちにも変わったやつならいたよ(あたしが言うのもなんだが)」
あたしは隣の席の長門有希について二人に話した。
「へえ、確かに少し変わった子みたいだね」
「人見知りだったらなかなかクラスに馴染めないかもしれんな。ちゃんと仲良くしてやれよ」
「わかってるよ、あたしは小学生かっての」
そんなふうに二人と話をしながら家路へと足を進めて行った。
なかなかの高校生活のスタートとなったな。
長門有希に涼宮ハルヒか……。
この時はまだ、その涼宮ハルヒを中心にこれからの生活が激変していくのをあたしたち双子は知らなかった。
もし知っていたとしても上手く対応できたかと言えばできなかったかもしれないが。
それにしてもまさか、あんな事になるなんて……。
登場人物紹介
・キョン子
この物語の一応主人公。双子の妹。1年6組のクラスで髪型はいつもポニーテール。話し方が男口調な変な女子。いつも大体気怠そうにしている。この物語は基本キョン子視点でいきます。
・キョン
キョン子の双子の兄。キョン子と同じく大体気怠い感じ。まあ一般的な男子高校生。1年5組のクラス。涼宮ハルヒとは席が前後関係にある。
・妹
双子の妹。元気いっぱいの小学5年生だがかなり幼く見える。かなり早起き。朝よくキョンを起こすのが仕事みたいになっている。
・長門有希
とても無口で無表情なおとなしい女子。常に本を所持し、本を読んでいる。1年6組のクラスでキョン子とは席が隣同士。無口なのはとある理由が……。
(この長門は最初から眼鏡はかけていません)
・涼宮ハルヒ
不思議というものが大好き。入学当初は常にブスッとしていたがとあることをきっかけに超活発な女子に。頭も良く運動神経も良し。かなりわがままだったりする。1年5組。
・国木田
双子とは中学からの友人。1年5組のクラス。