キョン「これでイケメンだったらもうやらせだな」
キョン子「一人は超イケメンみたいだぞ?」
キョン「……やらせだな」
あのバニーガール事件から数日が過ぎた。
すでに学校内では、SOS団という奇妙奇天烈な同好会があることを知らぬ者などいなくなっていた。
あれからあたし、長門、キョン、朝比奈さんは毎日律儀にSOS団に顔を出している。
朝比奈さんはあのメイド服を着せられた時にハルヒにこう言われていた。
『みくるちゃん!今日から部室にいるときは、ちゃんとこのメイド服を着るように!わかった!?』
それから毎日朝比奈さんはしっかりメイド服に着替えて団活動を行っていた。
朝比奈さん、そこまでハルヒの言い付けを守らなくても。まあ、もう慣れてしまいましたが。
そんな感じで、今日はもう5月の終わりの日。
キョンがいつもより遅く起きてきたので今日は先に登校。
あの強制ハイキングコースをいつものように上っていると、後ろから夏姫がやって来た。
「おはようキョン子ちゃん!」
「ああ、おはよう。朝から元気だな夏姫は」
「なぁに言ってんの!キョン子ちゃんは相変わらず朝テンション低いよ!もっと上げて上げて!」
そう言って夏姫は、背中をぽんぽんと叩いた。
その元気、半分あたしにくれないかな。
「あぁそうそう。なんでも今日うちの学年に二人も転校生が来るんだって。珍しいよね、こんな時期に」
へぇ、転校生か。確かにまだ新学期始まって二ヶ月経たないのに。まあ、親の急な転勤とかだろう。
「どこのクラスにくるんだ?」
「一人はわからないけど、もう一人はうちのクラスだよ。なんでもどっちかはかなりの美少年らしいわ。まあ、キョンくんに勝てる人なんていないけどね!」
「あ、あはは。そうか、一人はあたしたちのクラスか。おもしろそうなやつだといいな」
そんなたわいのない話をしているといつの間にか学校に着いていた。
教室に入るとまたいつものように長門は本を読んでいた。
「よっす、長門」
「…おはよう」
いつものようにあいさつを返しまた本に視線を戻した。
あたしは席に着くと何かがいつもと違う感じがした。
あたしの席は一番後ろの窓側から二列目に位置していて、当然ながら左隣は長門だ。
右隣には今まで席がなかったのに、席があった。
なるほど。転校生はこの席か。いろいろとこの学校について教えてあげないとな。
しばらくしてチャイムが鳴り先生が入ってきた。
「あー、知っているものもいるかもしれんが転校生を紹介する。早川!入っていいぞ」
先生の合図で、教室の扉がガラッと開いた。
入って来たのはちょっと赤みがかった髪で、身長はたぶんあたしより少し小さいくらいの男子生徒だった。
たぶん美少年ってのとは違う人らしい。あ、別に残念とかじゃないからな!
「早川諒(はやかわりょう)と言います。ちょっとした事情で、この学校に転校してきました。変わり者ですが、どうぞよろしく」
しゃべり方はなんか関西弁って感じが出ていた。
クラスから小さい拍手を受けながら早川はあたしの隣の席に座った。
「よろしく。あたしは〇〇。キョン子ってみんなから呼ばれてるから、そう呼んでくれていいよ」
「おお、よろしくな。俺の事は名前でも苗字でもいいさかい」
おお!いきなりめっちゃ関西弁。なかなかおもしろそうなやつだ。
今日の一日は転校生の早川の周りによく人が集まって早川に質問攻めをしていた。
早川は一つ一つの質問にしっかりと(関西弁で)答え、たびたび一人漫才的な事をしてクラスのみんなを楽しませていた。
一気に人気者だな。
早川はただおもしろいだけでなく頭も良かった。数学の授業時まったくわからないところを当てられた時、わかりやすく答えを教えてくれたのだ。
これはかなりの好印象だな。
放課後になり長門といつものように部室へと行った。
朝比奈さんもあたしたちのすぐ後に来ていつものようにメイド服に着替えた。
朝比奈さんが着替え終わりお茶を煎れているとコンコンと扉を叩く音がした。
まあ誰かはわかっているが。
「はぁい」
朝比奈さんが返事をするとキョンが扉を開けて入ってきた。
なぜわざわざドアをノックしたのかと言うと、前に朝比奈さんが着替えているところに入って来てしまったからだ。
それからキョンはノックをしてから入るようになった。
キョンは朝比奈さんに挨拶をしていつもの席(あたしの前)に座った。
「ハルヒはどうしたんだ?」
「ああ、なんでも転校してきた二人をSOS団に引き入れるとかなんとか言ってすぐに教室を飛び出て行ったが」
「へぇ、転校生をね……て、しまっったあぁぁ!!」
おもわず声を上げて叫んでしまった。
「どど、どうしたんですか?」
「い、いえ。転校生の一人があたしのクラスだったんですが、そいつにハルヒには気をつけろと言いそびれたんですよ……」
「お、おい。それってまずくな……」
キョンが言い終わる前に部室の扉がいつものようにバターンと開いた。
やはりというかそこには我らが団長、涼宮ハルヒが満面の笑みで立っていた。
「ィヤッホー!即戦力になる謎の転校生二人を連れて来たわよ!」
ハルヒはそう言って二人を部室に招き入れた。
「じゃあさっそく自己紹介をどうぞ!」
「あ、はじめまして。古泉一樹と申します。そして彼が」
「あ、ああ。ども。早川諒と言います」
なるほど。早川と一緒に転校生して来たのは、この古泉ってのか。
夏姫が言ったのは間違いないらしい。たしかにえらいイケメンがそこにいた。無駄に爽やかでスマイルな顔で。
「それで?なんで俺らはここに連れてこられたんや?」
「そうでしたね。涼宮さん、ここはいったいどういう部活をしているんですか?」
古泉が訊くと、ハルヒはまたまたニッコリとして答えた。
「ここはSOS団!S世界を…(以下略)で、団長が私涼宮ハルヒ!SOS団は、宇宙人や未来人、超能力者を探しだして一緒に遊ぶための部活よ!」
ここで早川は、この女子は何を言っているんだ?というような顔をしていた。
逆に古泉は、爽やかスマイルのまま。
「な、なかなか面白そうな部活やないか」
「でしょ!?で、今ここにいる四人は(あたしたちを指さして)団員その一・二・三・四!あなたたちで五・六人目よ!」
「はあ!?俺らはもう入ることになるんかい!」
「えぇ。そうよ?ダメ?」
「え、いや俺はやな……」
「いいじゃないですか諒くん。なかなかおもしろそうな部活ですし、一緒に入りましょう」
「い、一樹が言うんやったら、しゃあないな。俺も入ったるで!」
「よし!決定ね!」
そんな感じで新たに二人の団員を迎えて、七人となったSOS団だった。
今日の学校での活動は一旦終了となり、この後古泉と早川の家で二人の歓迎会(という名のただのお遊び会)をすることになった(でもなぜ二人の家なんだ?)。
明日は休みなのでまあ遅くなっても大丈夫だろう。
一度家に帰り、再び駅前に集合という事になった。
家に着いたあたしとキョンは、妹に見つからないように素早く支度をして静かに家を出ようとした。妹に見つかればどうせ『あたしも連れてって~』となってしまうからな。
支度を終え、母親に行ってきますと伝え家を出ようとした時だった。
どうやって嗅ぎ付けたのか、玄関に妹が仁王立ちで待ち構えていた。
「あ~、あたしをおいて遊びに行くつもりだったでしょう?」
「あーいや、別にそういうわけではないんだが…」
キョンが誤魔化そうとするがこうなっては妹が折れることはないだろう。
ダメだこりゃ。こうなってしまっては連れて行くしかない。
まあ妹一人ぐらいいても大丈夫だろう。
妹を連れて駅前に着くと、もうすでにみんなが待っていた。
「遅いわよ二人とも!……あら?その子は?」
「ああ、俺たちの妹なんだが……」
キョンが妹について説明した。
「まあ、別にいいわ。鶴屋さんもいるし」
「「鶴屋さん?」」
確かに、知らない顔の人が朝比奈さんの隣にいた。
「こちら、同じクラスの鶴屋さんです。ここに来る時にお会いして、それで一緒に行きたいとおっしゃったんで」
「やあやあ、みくるからみんなの事はよく聞いているよ。よろしくにょろ!」
鶴屋さんは膝ぐらいまである長くて綺麗な髪の持ち主で、なんだかとてもハイテンションなお方だった。でも……にょろ?
そして今あたしたちは古泉の案内で家に向かっていた。
なんでも家で早川と二人暮らしらしい。
というか、
「長門、みんな私服なのになんでおまえは制服のままなんだ?」
「……私服をあまり所持していない」
「そ、そうなのか」
「そう」
長門は坦々と答えた。
休日に出かける時でも制服のままなのだろうか……。
程なくして古泉と早川の家に到着。
二人暮らしにしてはなかなかの家だ。
「本当は父もいるんですがその父が会社の社長でして、仕事の都合上年に二、三回しか帰って来ないんですよね。まあ、仕事が父の生きがいみたいなものなんでしかたないんですが」
おいおい、仕事が生きがいかよおまえの父親は。
家の中に入りリビングに案内された。けっこう広い。さすがは父親が社長というだけある。うらやましい限りだ。
あれ?でも社長なのに都合で転校?……なんとなく誰かさんにツッコミたいがまあやめておこう。
その後は、女性陣は夕食作り、男性陣と妹はリビングで簡単な飾り付けと役割をした。正直言ってあたしも飾り付けが良かったんだがな。
自慢じゃないが、あたしは料理があまりできない。ほぼハルヒたちにおまかせした。
その後夕食が出来上がり、みんなで乾杯した後は古泉たちの話を聞いたり飲んだり食べたりとドンチャンと騒いだ。
古泉がどこからともなくカラオケセットを持って来て、ハルヒは何曲も熱唱したし朝比奈さんも巻き込んで踊ったりしていた。妹は鶴屋さんがずっと相手をしていた。妹はなぜかすぐに鶴屋さんに懐き、鶴屋さんも楽しそうに一緒に遊んでいた。鶴屋さん、ありがとうございます。
しばらくして、ハルヒと朝比奈さん、そして我が妹とその相手をしてくださった鶴屋さんは、疲れたのかいつの間にか寝てしまっていた。
「寝てしまいましたね」
「ああ、特にハルヒと朝比奈さんは歌いっぱなしだったからな。眠くなるさ」
「さて、残った人たちはどないする?」
「トランプとかはないのか?」
「ありますよ。じゃあ、ババ抜きでもしますか」
「いいね。長門もやるか?」
「…する」
こうして、五人でババ抜きを始めた。順番は、あたしから時計回りであたし→長門→キョン→古泉→早川の順番だ。
長門は運が良いんだか、最初の時点でたった一枚だった。あたしの手札から引いたカードが組になって、さっそく一位上がり。
あたしは最後までズルズルと残ってしまい古泉と一騎打ちとなった。あたしが3のカードを引けば勝ちだ。
こういう時は相手の顔と目をよく見ればどっちにババがあるかわかると言うが、古泉はあの爽やかスマイルのままで表情からは察知できない。
ええい、ままよ!
勢いよく引いたカードは「3」のカード。
「いよっしゃあぁ!」
「あぁ、負けてしまいましたね」
「おいおい、キョン子もうちょい静かにしとけ。ハルヒたちが起きちゃうだろ」
「あ、そうだったな。すまん」
高校生にもなってただのババ抜きに何を熱くなってるんだあたしは。
「しっかし一樹は相変わらずこういうゲーム弱いな。小さい頃から変わらんのう」
早川はトランプの束を整えながら言った。
「なあ早川。おまえはなんで古泉と一緒に住んでんだ?兄弟とかじゃないんだろう?」
最初から疑問に思ってて訊いてなかったことをあたしは訊いてみた。
あたしがそう訊くと、早川はトランプをきっていた手を止めた。
妙に顔が引き攣っている。見ると古泉もあの爽やかスマイルが歪んでいた。
「あ、いや、それはやな……」
「それは?」
「キ、キョン子さん、この話は……」
「いや一樹、話すわ」
「いいのですか?」
「ああ、どうせいつかは話さんといけんのやし。いつでも同じことやろ?」
ちょっと、訊いちゃいけなかったかな?
「えっとやな、実は俺小さい頃に親に捨てられてんねん」
「「「えっ!?」」」
お、思わず声をあげてしまった。あの無口で無表情の長門までビックリして声をあげるくらいだからな。
「す、すまない。つい声をあげてしまった」
「大丈夫や。それにそういう反応は当たり前や。声をあげるなってのが無理な話やしな。そんでぶっちゃけ言うと一樹の父親に引き取られて今はこうしてる。」
「捨てられたんは1歳ん時らしいな。とある孤児のための施設の前に捨てられてたらしいで。
手紙が一緒にあったみたいで俺の名前と生まれた日が書かれていただけで、親がどんなんかもわからんのや。あ、ちなみに早川って苗字は施設で付けられたもんや。
その施設で過ごしてから3年くらいして俺が4歳になった時や。その施設に来ていた一樹の父親に会ってな。そん時に引き取る言うてくれたんや。
詳しい理由は訊いたことないが、こうして今は暮せてるんや。ほんま感謝してるんや。
んで、まあ今に至るわけや」
「「「……………」」」
あたしもキョンも長門も、ただただ黙っているしかできなかった。
「おいおい黙り込まんでくれや。たしかに過去は辛いもんやけどそれほど昔のこと覚えてるわけでもないし、今は幸せなんやから。たくさん友達だって出来たしな」
「そうか。いや、なんか訊いて悪かったな」
「別に。気にするなて」
そう言った早川はなんでもなさそうに笑った。
「そろそろ9時になりますね。みなさんを起こすとしますか」
古泉が時計を見ながら言った。
「そうだな。片付けもしないといけないしな」
キョンはハルヒたちを起こし始めた。
さすがに妹は起きなかったので、キョンがおぶって帰ることに。
みんなで後片付けをして、玄関に出た。
「じゃあね、古泉くんに早川くん。また月曜に」
「お邪魔しましたぁ」
「またみんなで遊ぶっさね!」
「ええ。またみなさんで遊びましょう」
「ほな、帰り道気をつけてなー」
「ああ、じゃあな」
「また学校でな」
「………」
古泉と早川に各々別れを告げ、駅前までみんなで向かった。
「な、長門?顔が青いが、大丈夫か?」
長門がとても真っ青な顔つきで歩いているので、訊いてみた。
「有希?ホントに顔色悪いわよ!大丈夫?」
「……大丈夫、…平気」
全然平気そうに見えんぞ。
「あたしが家まで送って行く。いいだろ長門?」
長門は小さく頷いた。
「あたしも一緒に行きたいところだけどうちの親帰るのが遅すぎると何かとうるさいから悪いけどキョン子にお願いするわね。じゃあたしここだから、また月曜に」
「あ、えっと長門さんお大事に。私と鶴屋さんもここで、さようなら」
「みんな、バイバイ」
そう言って三人はそれぞれの道へと帰って行った。
「俺も付いて行こうか?」
「いやいいよ。キョンは妹をしっかり家まで連れてってやってくれ」
「ああ、帰りは気をつけろよ」
そう言ってキョンは妹を背負って帰って行った。
「さあ、あたしたちも行こう」
長門に話しかけると頷いて歩き出した。
こんな風に長門と二人きりになるのは初めてだった。
一回部室で二人きりだったことがあるが、それもたった数分だしな。
無言のまま歩き続けることしばらくしてどうやら長門の家に着いたらしい。
というか、長門の家はマンションだった。それもかなり高級感を感じるマンションだった。
長門は手慣れた手つきで、マンションの入口にあるボタンを押して扉を開けた。
「あたし、ちょっとお邪魔していってもいいかな?」
訊くと長門は頷いた。
長門の部屋の前に着き中に入る。一風変わった物でもあるのかと思っていたが、特に何もなかった。いや、むしろ何もなさすぎた。
リビングに入ってみても机と座布団が二枚、テレビがあるのみでほんとに生活できるギリギリの環境のみだった。
「……お茶、飲む?」
「あ、じゃあお言葉に甘えてもらおうかな」
長門はキッチンでお茶を煎れてあたしのところに持ってきた。
「ありがとう」
長門は頷いて答えた。
この時すでに長門の顔色はほとんど回復していた。
お茶を少し飲み長門に話しかけた。
「け、けっこうすっきりとした部屋なんだな」
また長門は頷いた。
「家族の人とかは?まだ仕事から帰って来てないのか?」
この質問をすると、また長門は顔色を悪くして言った。
「……いない」
「いや、いないのはわかるんだが」
「………最初からここには誰もいない。私一人」
……なんだって?長門は一人でここに住んでいるのか?
もしかして、長門の顔色が悪くなったのって……家族についての質問はタブーだと気づき、これ以上は話さなかった。
さっき早川の話を聞いた後なんだからすぐに気が付けよな、あたしの馬鹿。
……でも、長門は寂しいと感じていないのだろうか。この広い部屋で毎日一人で過ごして…。
また余計なお世話なのかもしれないけど、でも……。
「なあ長門、明日からの土日ここに泊まりに来てもいいか?」
気が付いたらあたしの口はそう言っていた。
長門は目を見開いてあたしの顔をまじまじと見てきた。かなり驚いている感じだ。
「あー、その…嫌ならいいんだ。突然で迷惑だったよな」
「……来てもいい。迷惑じゃない」
長門は首を横に振り答えた。
「ほんとか!?じゃあ、明日昼ごろに来るから」
長門は大きく頷いた。
自然と長門の顔が嬉しそうに見えたのは、あたしの気のせいじゃないといいな。
その日はそのまま長門の家を後にした。
「明日が楽しみだな」
そんな独り言を言いながら、家へと帰って行った。
登場人物紹介
・古泉一樹
5月の終わりという中途半端な時期に転校してきた一人。容姿はかなりのイケメンと言って差し支えない。いつも笑顔が絶えない。かなりモテる。クラスは1年9組。
・早川 諒 (はやかわ りょう)
オリジナルキャラクター。転校生のもう一人。少し赤みがかった髪。かなり関西弁が強い。小さいころに親に捨てられて今は古泉の親に引き取られて暮らしている。見た目からはあまりそう見えないが頭も良い。1年6組。
・鶴屋さん
朝比奈みくるのクラスメイトで親友。いつもハイテンションな人。膝まで届く長くて綺麗な髪が特徴。少し言葉遣いが変と行ってしまえば変。良く言えばまあ独特。よく語尾に『にょろ』が付く。