キョン「朝倉?……ああ、朝倉ね…」
キョン子「?なんだその顔は?」
キョン「いや、朝倉に何かされたとかそういうんじゃないんだけど…なんか苦手でな」
キョン子「…なんで?」
キョン「さあ?あ、朝倉にはこんなこと言うなよ」
土曜日、現在時刻午前11時。
リビングでしばらくテレビを見ていたあたしは時間を確認して立ち上がった。
そろそろ長門の家に向かうとするか。準備はもうバッチリだ。
玄関に行くと2階からキョンが眠たそうに下りてきた。
実はキョンは今さっきまで寝ていたのだ。
「ん~ん、ん?キョン子、朝からどこに行くんだ?」
はは、まだ寝ぼけているらしい。
「しっかりと時間を把握しろアホ。もう昼間だ」
あたしが言うと、キョンは時計を見た。
「うげ!?マジかよ。んで、どちらに行くんですか?」
「長門ん家」
靴を履き終えながら言った。
「長門ん家?」
「そ。いってきます」
そう言うと妹が出て来た。
「あ、キョンちゃんいってらっしゃ~い!ほらキョンくん、午後からあたしと遊ぶんだよ」
「はあ?なんで俺がおまえなんかの遊び相手にならにゃい…ぐは!?」
キョンは妹のタックルをもろにくらった。あれは痛いぞー。
「キョン、がんばれ」
そう言ってあたしは、家を後にした。
長門の部屋に着きインターホンを押すと長門がパジャマのような格好で出てきた。
おお制服姿以外の長門を初めて見た。さずかに寝る時は着替えるよな。
「よっ、長門」
「……入って」
言われるがままに部屋の中へと入る。昨日来た時となんら変わりない。まあ、当たり前のことだが。
リビングに座っていると長門は制服に着替えてきた。休日といえど家にいても制服なのか。
「お昼ご飯は?」
「あ、食べて来てないな。何か作るか?」
「大丈夫。もうすでに作ってある」
おおさすが長門。食べて来ないと予想済みか。まあ確かにあたしが作るとかになったらヤバかったからな。
長門が出してきたのはカレーだった。それも、なかなかのおいしさだった。
「おいしい?」
「ああ。とてもおいしいよ」
「そう」
そう言った長門はとても嬉しそうに見えた。顔はほぼ無表情なんだがな。なんとなく雰囲気が嬉しそうだった。
昼食を終え、後片付けをしリビングに戻ってきた。
さて、何をしようか。てかまあ考えてはあるんだけどな。
「長門、早速で悪いんだが、数学の宿題を教えてくれないか?」
そう言うと長門は頷き自分の部屋から数学のノートを持ってきた。あたしは持ってきた鞄から数学一式を取り出し机に広げた。
わざわざ遊びに来て勉強?と言われるとあれなんだが、長門と共通の趣味とかがまだわからないからな。勉強や話をしながら少しずつ訊いてみようと考えたわけだ。
それと実はあたしは数学が大の苦手だ。あの意味不明な数式は見るたびに頭が痛くなる。
ちなみに長門は、学年でトップ3に入るほどの天才だ。北高の一学年は一クラス大体36~37人で9クラスあり、全部で約330人いる。その中のトップ3なんだからすごいよな。
ちなみにそのトップ3の中にはハルヒも入っている。SOS団に二人も成績優秀なやつがいるなんてな。
と言うかなぜハルヒはあんなんなのに頭がいいんだ?なんか納得いかん。
それから約一時間、長門にわかりやすく教えてもらいながらやっと数学の宿題を終わらせた。
その後は長門がテレビゲームをやろうと言ったのでやることに。
長門がゲームを持っていたことに少しビックリしたが、その持ってきたゲームはだれでも一度はやった事があるであろうぷよ〇よだった。
あたしこういうパズル系のゲームは得意なんだよな(それでいて数学はできない)。あ、別に自慢じゃないからな。今までも家でキョンや妹とやってきたが、あまり負けた記憶がない。
長門がどれほどの腕前かわからないが、最初は手加減でもしようかなと余裕にしていたらそんな余裕なんかはすぐにすっ飛んだ。
なんと長門はものすごいテクニックで十連鎖なんか普通な感じにやってきたからだ。
これこそ見た目で判断してはいけないということのいい例だ。
くっ、長門の意外なゲーマーっぷりを知れて良かったが、このままあっさり負けるなんてのはあたしのポリシーに反する。ここは負けるわけには…って!もう負けてる…だと!?
それからあたしは奮闘するも、ことごとく負けていった………。
気が付いた時にはあたしは眠ってしまっていた。
ゲームの途中で力尽きて寝てしまったらしい。
画面を見ると、『20対3』と圧倒的に負けていた。
窓の外は空が紅く染まっていた。
長門のほうを見ると長門も同じく眠っていた。壁を背にして。
長門の寝顔も初めて見たな。なかなか可愛い。
そんな事を思っていると玄関のインターホンが鳴り、聞き覚えがある声がした。
「長門さ~ん、入るわね~」
そう言ってリビングに入って来たのは、1年5組の委員長である朝倉涼子だった。鍋を持って。
「あら、珍しくお客さんがいると思ったらあなただったのね」
「ど、ども」
鍋をテーブルの上に置き壁を背にして寝ている長門を見た。
「あらあら、長門さんは寝ちゃっているのね。どうりでいつもインターホンを鳴らすとすぐにドアが開くのに開かないと思った」
そう言って朝倉はクスッと笑った。
朝倉涼子。さっきも言ったが1年5組の委員長で容姿端麗、頭も良いらしく運動神経も抜群。
なぜ隣のクラスの朝倉をこんなによく知っているのかというと、実は体育は4・5・6組が合同になって行っているからだ。(もちろん男女別)
それに加えて長門とは同じ中学だたらしく、よく長門に話しかけているのだ。近くにいたあたしも自然と知り合いになったのだ。
「朝倉はどうしてここに?(てか鍋?)」
あたしは体を起こしながら訊いた。
「あ、私よく夕食は長門さん家で食べるのよ。私もこのマンションにすんでいるから」
「へぇ、そうだったのか」
「ええ。長門さんとは小学校の頃からの付き合いだから、よくここに遊びに来たりするのよ」
「え?長門とは小学校からずっと一緒なのか?」
そっか、朝倉は中学からでなく小学校から一緒なのか。
それならあたしがほんとに余計なお世話な考えだったな今回は。
「ええ。ちょっとした事情もあってね」
「ちょっとした事情?」
そう訊くと朝倉はもう一度長門を見た。まるで寝ているのを再確認したように。
「あなたには……」
「え?」
「ちょっと長門さんと私についてのお話、しようかな」
そう言って朝倉はあたしと向き直った。その顔はとても真剣だった。
なんだか同じような空気を昨日味わった気が。
「一つだけ約束してね。この事は誰にも話さないこと。もちろん長門さんに私が話したってこともね?長門さんには悪いけどでもあなたには知って欲しいことだから」
「…わかった、約束するよ」
「ありがとう」
そう言って朝倉は少しずつ話し始めた。
「さて、どこから話せばいいか。そうね、まず今の長門さんからは想像できないかもしれないけど、小さい頃小学校1年生くらいの長門さんはこんなに無口でもなかったし、無表情でもなかったわ。そうね、例えるなら今の涼宮さんを小さくした感じだったわね。あくまで雰囲気だけだけど」
「はいい!?」
「シー!あんまり大きな声出しちゃうと長門さん起きちゃうから」
「おっと」
そう言いながらあたしは長門の方を確認してみる。先ほどと変わらないみたいだ。
それにしても小さい頃の長門は、今のハルヒみたいだったって?想像がつかん。
「ね?想像つかないでしょ?」
「ああ、って心を読んだ!?」
「あなたの顔とリアクションを見てれば誰でもわかるわよ」
ああそうかい。
「話を続けるわね。そう―――――」
昔の長門有希は本当に元気で明るくて表情豊かな子だった。
今でもしっかりと鮮明に覚えていられるくらい、印象深いくらい。
朝倉涼子と長門有希はお互いの両親が仲が良かったこともあり、小さい頃からよく一緒になって遊ぶ友達だった。
長門有希の両親は二人とも同じ職場に勤めていていつも多忙であったが、一人娘だった長門有希のことはそれは大事にしていた。
そんな長門有希に突然『それ』は訪れた。
それはちょうど長門有希と朝倉涼子が小学校2年生になってしばらくの事だった。
とある場所にて交通事故が発生した。
その交通事故で長門有希の両親が亡くなってしまったのだ。
その事故の原因は飲酒運転。
決して長門の両親が飲酒運転したということではなくやってしまったのは相手側。
信号無視したあげく、長門夫妻が乗った車に正面衝突。その日は記録的な豪雨で視界も悪く避けることも出来なかった。
その日、長門夫妻は小学校にいる長門有希を迎えに行く途中だったらしい。
知らせを受けて病院に駆けつけた時はすでに長門夫妻は息を引き取った後だった。
その日から三日三晩長門有希は泣き続けた。
葬儀の時、赤く腫れ上がった目をした長門有希のことを朝倉涼子は今でもよく覚えている。
その後、長門有希は朝倉家に引き取られることになった。
長門家には親戚などがまったくいなかったのだ。
そこで長門夫妻と親しく同じ職場で働いていた朝倉夫妻が長門有希を引き取ったのだ。
それからしばらく長門有希は学校に行かなくなってしまった。
朝倉涼子やその両親は必死に励ました。
しかし、長門有希にはまったく聴こえていなかった。長門有希は本当に両親のことが好きだった。
それから一週間、二週間と時が経った。
最初の頃は学校の他の同級生も何度も励ましに長門有希のもとへやって来たが、結果は同じだった。
それからしばらくしてほとんど誰も来なくなってしまった。
しかし、たった一人だけいつも学校帰りに必ず来る同級生の女の子がいた。
実はその子も小さい頃に両親を亡くしていた。いろいろな話をして、少しずつだが長門有希の心の鎖を無くしていった。
それからしばらくして長門有希は、少しずつ学校に行くようになり元気も出るようになった。
その子とはそれからもいつも一緒にいて遊んだり、勉強したりしていた。その中に朝倉涼子も入って。長門有希はあの時の明るさを取り戻しつつあった。
そんな長門有希に、また『それ』は訪れてしまった。
本当に唐突に。
その時朝倉涼子は神様というものは本当に残酷だと思った。
4年生になった頃、長門有希はほとんど昔と変わらないほど元気になった。
本当にあの子には感謝していた。あの子と朝倉涼子とよく三人で遊んだり勉強したり、いろいろなことをしてきた。
そんなある日、学校に登校するとあの子の姿はまだなく風邪でも引いたのかと長門有希と話していた朝倉涼子だったが、担任の先生が青ざめた顔をして教室に入ってきた時、何か嫌な予感がした。
先生は、あの子が先ほど車にはねられて病院に運ばれたと言いだした。長門有希と朝倉涼子は勢いよく立ち上がり先生から病院の場所を聞き出して、直ぐさま走り出した。
病院に着いた時にはすでに遅かった。
あの子の保護者から後で聞いた事だったが、息を引き取る直前に長門有希と朝倉涼子に対して言った言葉があった。
あの子は
『ずっと一緒にいれなくてごめんね。今までとても楽しかったよ。ずっと友達だからね』
と最後に残していったそうだ。
「―――――それでね、案の定長門さんはしばらく学校を休んだわ。私もだけど。
それからよ。長門さんが無口で無表情になってしまったのは。引きこもりがちになって、いつも本ばかり読むようになったのは。
たぶん、もう親しい友達を作りたくないと思ったんでしょうね。自分から人を避けるようになってしまったの。私の勝手な想像でしかないけど、親しくなればなるだけ別れが辛くなるだけだって思ってるのかもね。
今の長門さんが無口で無表情なのはそういうことがあったから…」
時々自分でも拳をギュッとしながらも、朝倉は話し終えた。
………正直言って、あたしは何も言葉が出て来なかった。
長門や朝倉にそんな過去があったなんて………。
しかもだ。つい昨日、早川からも親に捨てられたと言う話を聞いていたのでなおさら言葉が出て来なかった。
やっと出た言葉は
「……でも、どうしてあたしに?」
そんな言葉だけだった。
「今の朝倉を見ててもすごい話してて辛そうだったし、あんまり話したくない感じにも見えたのに…それをなんでただの同級生である、あたしに?」
朝倉は少し笑顔を見せて答えた。
「別に、同情してもらおうと思って言ったわけじゃないわ。確かにこの話をするのもあなたが初めてだけどね」
「えっ?初めて人に話したのか?」
「ええ」
「なんであたしになんだ?」
再度訊いてみると、朝倉は懐かしい写真でも見るかのような顔で話し始めた。
「あなたが、そうそのあの子に……似ていたからかな」
「あたしが……か?」
「ええ。あなたとこうやって話すのは今日が初めてだけど、初めて話した体育の時のやり取りを覚えてる?」
「ああ、確かあたしがへばりそうで授業を受けていた時に『大丈夫?』って声をかけてくれたよな」
あたしは、約一ヶ月ちょっと前の事を思い出していた。
さっきも言ったが体育は4・5・6組合同で行われる。
その時は体力測定をしていた時だった。100メートルを二回も走らされ、へばりそうになっていたあたしに朝倉が声をかけてくれたのだ。
「そう。その時の仕草や雰囲気があの子に似ているなあと思って。しばらくあなたの事を見ていたわ。そしたら、長門さんに話しかける姿があの子にそっくりで。涙が出てきそうだった」
そう言って朝倉はニッコリとした。
そういえば初めて長門に声をかけた時、今思えば長門の顔はビックリとしていたかもしれない。
「最近の長門さん少し明るくなったなあって感じていたのよ。やっぱりあなたのおかげかな」
「そ、そうなのかな…。あたしはただ話しかけていただけだし」
「ううん、そんなことないわよ。ただそれだけのことだったかもしれないけど、長門さんにしてみたら嬉しかったことなのよ。だからあなたに一つお願いがあるの」
「なんだ?」
「これからも長門さんと仲良くしてあげてね?」
「っ!そんなの、当たり前じゃないか。ずっと仲良くするよ。もちろん、朝倉ともな」
く、なかなかクサイ言葉を言ってしまった。たぶん今顔が赤くなっているにちがいない。
朝倉も顔を赤くして涙目で「あ、ありがとう」と言った。
「あ、それともう一つ。長門さんの前から突然いなくなったりしないでね?もう、長門さんの悲しんでいる顔は見たくないから」
「ああ、約束する」
あたしがそう言うと、朝倉はニッコリした。
「ちょっと質問していいか?」
「何?」
なんで同じところで別々に一人暮らしをしているのか訊くと、長門が強く希望したらしい。
たぶん、誰とも接したくなかったのだろう。
また朝倉家に引き取られたのに、なぜ朝倉有希ではないのかと訊く。
これも長門の強い希望で、長門という姓を残したかったらしい。
朝倉の両親はどうしているのか訊くと、今は外国に働きに行っているらしい。
ああ、これでわかった。昨日の早川の話の後、長門が顔色悪くした原因が。
親に捨てられた早川を、突然親を失った自分と同じだと感じたんだろう。
気づくと窓の外はすっかり暗くなり、星が転々と輝き始めていた。
「さて、話す事も済んだし、夕食作りでもしましょうか。あなたも食べていく?」
「ん、ああ。あ、言ってなかったがあたし今日は泊りに来てたんだ」
「あら、そうだったの?ふふ、じゃあ長門さんを起こしてここの後片付けをしててくれる?私は夕食の準備してるから」
「ああ、わかった」
朝倉は持ってきた鍋を持ってキッチンへ行った。
あたしは長門を起こそうと長門の肩を揺すった。
「長門、そろそろ起きな」
すると長門は、目を薄く開いて起きた。
その時、長門の右目から涙が一滴流れ落ちた。
「な、長門!?どうしたんだ!?」
あたしは涙が流れたことにビックリした。まさか、さっきの話聞こえていたのか?
すると長門は涙を拭きながら答えた。
「……なんでもない。ちょっと怖い夢を見てただけ。……心配ない」
「そ、そうか。大丈夫か?」
「大丈夫、……平気」
「それはよかった。今朝倉が来ていて夕食作っているからさ、出来る前にここ片付けよう」
そう言うと長門は頷き、片付け始めた。
片付けながらふと思った。さっきの涙は、ほんとに夢によるものなんだろうか?もしかしたら、本当に話を聞いていたのかも。
でも確認のしようがない。
片付け終わる頃には朝倉も夕食の準備が終わり、食べることにした。
夕食は朝倉特製のおでんだった。ちょっと季節ハズレだなと思ったが、前言撤回!無茶苦茶おいしかった。
そこら辺にあるコンビニで売っているおでんよりも数倍おいしかった。もしかしたら、うちの母親が作るおでんよりおいしいかもしれん。
朝倉がどう?と聞くので無茶苦茶おいしいと答えると、嬉しそうにニッコリと笑い『ありがとう』と答えた。
夕食も終わり、後片付けをした。その後朝倉は明日朝から用事があるからと言って、自分の部屋へと帰って行った。
帰る時、あたしの耳元で小声で「今日は話を聞いてくれてありがとう」と言い、帰って行った。
朝倉が帰った後、あたしは長門がお風呂に先に入っていいと言うのでお言葉に甘えて入らせていただくことに。
湯舟につかりながらさっき朝倉から聞いた話を頭の中で整理していた。
……長門は辛い過去を抱えて生きて来たんだな。両親を亡くし、そのショックから立ち直らせてくれた大切な友達もまた事故で亡くして……。
はっ!朝倉は同情して欲しくて話したわけじゃないんだ。長門だってきっと同じ考えなはずだ。これ以上は、あまり考えないようにしよう…。
長門とお風呂を交代してリビングでバラエティ番組を見ていた。程なくして長門もあがってきた。
時間を見ると、もう10時を廻っていたので早いかもしれないが寝ることにした。
長門が入った部屋に入ると、布団が二枚敷いてあった。どうやらあたしが風呂に入っているときに敷いたみたいだ。
あたしが布団の中に入ると長門は電気を消し、自分の布団に入った。
しばし沈黙のあと、あたしは天井をみながら長門に話しかけた。
「今日は楽しかったな」
「……うん」
「朝倉のおでん、おいしかったなぁ。もちろん長門のカレーもおいしかったぞ」
「……ありがとう」
「数学の宿題も教えてもらったし、ありがとな長門」
「……別に」
また少し沈黙が訪れた。
なにか話題はないか考えていると、長門が布団から出て枕を持ち、あたしのところに来た。
「ど、どうしたんだ?」
「……一緒に…寝ても……いい?」
長門は恐る恐ると言う感じに聞いてきた。
「ああ、いいよ。ほら」
あたしはすぐにいいと返事をし、端に寄った。左隣に長門は入り込んだ。
やっぱり長門は寂しいと感じていたのかもしれない。人間誰しも、一人では生きてはいけないんだ。例え大の大人でも、周りに支えてくれる人がいるから生きていられるんだ。
まだまだ子供なあたしたちは特にそうだ。家族がいて、兄弟姉妹がいたり、親戚の従兄弟(従姉妹)などがいたり、なにより掛け替えのない友達がいるからこそ支えあって生きていけるんだ。
長門には、本当の両親や親戚がいないんだ。あたしがしっかり支えてあげるんだ。朝倉だっている。それに今は変な部活だが、SOS団だってあるんだ。みんながいれば長門はいつか心から笑える日が来る……とあたしは信じている。
「……狭くない?」
「いや、大丈夫だよ。長門こそ布団に入れているか?もっと寄っていいよ」
そう言うと長門は少し寄ってきた。
あたしはこの日のこの長門の顔は忘れないだろう。
長門の顔を見ると、すでに目をつむっていたが微かに微笑んでいたのだ。そんな長門を見ると、あたしもうれしくなる。
いつの間にか長門の手を握っていた。
長門もしっかりと握り返していた。
「おやすみ、長門」
「……おやすみ」
そう言ってあたしと長門は眠りの中へと落ちて行った。
翌朝。
目が覚めると、すでに長門は起きて朝食を作っていた。
食べ終わった後、片付けを終えて戻ってきた長門に話しかけた。
「なあ、今日はちょっと買い物でも行かないか?長門あんまり私服持ってないんだろ?一緒に行っていくつか買ってみないか?」
そう訊くと長門は少し考える仕草をしたが、すぐに頷いた。
「よし、じゃあ少ししたら行こう」
こうして今日は長門とお買い物となった。
長門に似合いそうな服をたくさん見つけよう。
あたしのセンスは……まあいいか。
支度をし、長門のマンションを後にした。
例によって長門は制服だ。あたしはあんまし女の子らしいとは言えない格好だったが、一応は私服だ。どうもあたしは女の子らしい服が苦手らしい。
言うと私服の半分ほどはジーパンなどで、スカート類は二、三着程度だ。
まあ、小さい頃からキョンとやんちゃなことばかりしていたからな。だから口調も男っぽいのかもしれん。
そうこうしているうちに、ショッピングモールへと辿り着いた。中へ入ろうとした時だった。後ろから聞き覚えのある声で呼ばれたのだ。
「あれ?有希とキョン子じゃない」
そ、その声は!
振り返るとそこには、我らがSOS団団長の涼宮ハルヒがいた。
「どうしたのこんなとこで?」
「いや普通に買い物だけど、ハルヒも買い物か?」
「あたし?あたしは今、宇宙人や未来人を見つけるために市内の探索中よ!」
おいおい、そんなことをせっかくの日曜日にしているのか。やれやれ呆れてものも言えんわ。
「休日はこうして探索しているんだけど、なかなか見つからないのよね~」
そりゃ当たり前だ。この世にそんなごろごろと宇宙人やら未来人がいたら、ものすごいことだ。
「あ!そうよ、せっかくSOS団があるんだから今度の土曜日はみんなで探索しましょ!」
キョン子「えっ!?いや、それは…」
ハルヒ「何よ~。良い考えだと思わない?一人で探すより、みんなで探したほうが見つける確率は上がるでしょ?よし!決定!」
おいおい、人の意見もまともに聞かないで勝手に決めてしまったぞ。
まあこうなったハルヒは止められないからな。
やれやれ貴重な休日が減ってしまうな…。
「あ、このことはまだ他の団員には内緒ね!特にキョンには!」
「わかったよ」
「それで?あなたたちは何を買いに来たの?」
「ああ、長門の私服とかを買いにな」
「へぇ、たぶん今日も暇になりそうだしあたしも付き合うわ!」
えぇ、マジすか。
ハルヒに振り回されそうだ…。
「さあ!そうと決まればさっそく入るわよ!」
ハルヒが先陣をきってモールに入って行った。
「はあ、長門。ハルヒがああ言っているが、一緒でもいいか?」
「…かまわない」
「そうか」
ハルヒを追いかけてあたしと長門もモール内へと入って行った。
最初は当初の目的である長門の私服選びのため洋服店に行った。
ハルヒは手当たり次第衣服を持ち出して長門に着るようにすすめた。そんな適当なと思ったが、試着室で着替えた長門を見るとそれはもう似合っていた。他の服も文句の付け所がないくらい似合っていた。
こういうとこはすごいセンスだなと、改めてハルヒに感心を持った。
「……似合う?」
ほぼ無表情な顔で聞いてきたが、どこか恥ずかしそうに長門は訊いてきた。
「ああ、とても似合っているよ」
「…そう」
長門は少し自分を見てそう答えた。
「当たり前じゃない!私が選んだ服よ!」
「ああ、そうだな。センスいいなハルヒは」
そう言うとハルヒはまるで太陽がそこにあるかのような輝きでニッコリと笑い、エッヘンと胸をはった。
「さて、有希のは決まったし今度はキョン子のね!」
「えっ?いや、あたしは別に…」
「いいじゃない!なんか私服が女の子らしくないわ!あたしがちゃんと選んであげるから!」
そう言ってハルヒは服を選びに行ってしまった。
数分もしないうちに三着ほど抱えて帰ってきた。
「さあ!早く着てみなさい!」
そう言って手渡されたのは、全部スカート系。
ええ…いやまあ……しょうがない、ハルヒのセンスにまかせる!
あたしは長門と交代して試着室に入り、着替えた。
着替え終わり自分自身を鏡に映すと、見慣れない自分がそこにいた。
そりゃそうさ。いつもダボダボなズボンやジーパンをはいていて、スカートなんか制服以外まったく着ないんだからな。
あたしはカーテンを開き、ハルヒと長門に見せた。
「ど、どうだ!にに、似合ってるか?」
「あら、なかなか似合うじゃない。ねえ有希」
「…似合うと思う」
「ほ、ほんとか?」
「ええ。私と有希が似合ってるって言うんだから。もっと自分に自信を持ちなさい!」
おお、ハルヒ。たまにはいいこと言ってくれる。
結局そのままその服を買うことになった。だがあまり高い買い物にはならなかった。ハルヒはしっかりと値段も見て持ってきていたのだ。その辺はさすがハルヒと言うべきか。
その後の買い物も、わがままなハルヒに振り回されると思っていたがハルヒがいたほうが賑やかに買い物が出来た。
もちろん、長門と二人だけでもよかったのだがハルヒがいる分会話が多くなってよかったと思う。
昼食を軽く食べた後、ハルヒは用事があるからと帰っていった。
「それじゃ、あたしたちも帰りますか」
長門は頷いてあたしの横につき歩き出した。
長門の家に着いた後はまた長門とゲームをしていた。今度はテ〇リスだ。
これまた得意ゲームの一つなんだが、また長門が強い!
ほんとにあの本ばかり読んでいる長門なのか?と思うくらいのテクニックでゲームをしていた。
なんにせよ、長門が楽しそうにしていればいいことさ。
楽しい時間とは無情にも早く過ぎるもので、空が紅く染まり始めた。
「さて、そろそろ帰らないと」
そう言ってあたしはすでにまとめておいた荷物を持ち、玄関へと向かった。長門が後ろからついてきた。
靴を履き長門のほうを向いた。
「じゃあな長門また明日。今度また遊びに来るからな」
長門は頷いただけだった。
あたしがドアノブに手をかけようとした時、長門があたしの袖を掴んだ。
「どうした長門?」
長門は少し黙っていた。その顔は無表情ながら目の奥で悲しげな雰囲気を放っていた。
そして言った。
「……ずっと、一緒に……いてくれると、……あなたは言ってくれた」
そう言った長門の右目から、一粒の涙が流れ落ちた。
「……本当に、ずっと……仲良くしてくれる?」
長門はそう力強く訊いてきた。
「……やっぱり昨日の朝倉の話、聞こえてたんだな」
そう訊くと長門は頷いた。
あたしは持っていた荷物を下に落とし、長門を抱きしめた。
「ああ、ずっと一緒にいる。いつまでも仲良く、友達だからな。長門…有希」
「……ありがとう」
そう言って長門はあたしの背中に手をまわして長門もあたしを抱きしめた。
こんな長門は初めて見た。
たぶん、こっちのほうが本当の長門なんだろう。
少しずつ、少しずつ長門を知っていってそしていつか、長門の本当の笑顔が見たい。
いや、あたしが長門を……有希を笑顔にしてあげるんだ。
あたしはしっかりと抱きしめ、ここにそう誓った。
登場人物紹介
・朝倉涼子
1年5組のクラスで委員長。長門とは小学生の頃からの付き合いで所謂幼馴染。過去にいろいろとあり、長門とは戸籍上家族。容姿端麗でなんでもそつなくこなすすごい子。なぜかはわからないがキョンは苦手としてるらしい…。
~あとがきのようなもの~
どうも、作者のMy11です。
今回のお話、いかがでしたでしょうか?
実は、以前掲載していた部分と少し違う感じになっております。
前にも読んだことのある方ならすぐにお分かりいただけると思いますが、なぜ今回のようにしたか。
この話を以前書き上げてしばらく、後々読み直すとなんとなく(というより大幅に)直したいところが見つかり、今回の上げ直しの際に思い切って修正させていただきました。
ダメ文に変わりはないんですが、読みやすくなっていたら幸いです。
また、原作より朝倉や長門(他のキャラクターもですが)の雰囲気がなんか違う?と自分でも思いながら書いています。
そこはこれからも多々あると思いますが、ご了承のほどよろしくお願いします。
それでは。