キョン子「どうしたキョン?」
キョン「いや……体が、動かん…」
キョン子「……ほんと、お疲れさん…」
ただの筋肉痛でした。
あの白熱した球技大会が終わり、今日は一学期が終わる終業式の前日。
明日が終わればほとんどの生徒が待ちわびた夏休みだ。坂を歩く生徒たちは皆夏休みに何をしようかと話していた。
あたしはと言うと、いつものようにだる~く坂を歩いていた。隣にはキョン。
いつもと変わらない朝だった。
玄関前に着くと人だかりが出来ていた。その中に古泉と早川を見つけたので話を訊いてみた。
「あ、キョンくんにキョン子さん。おはようございます」
「ああ、おはよう。古泉、なんなんだこの人だかりは?」
「これですか?これはですね、あれが原因かと」
そう言って古泉は玄関に貼ってある紙を指した。
「一学期末テスト校内学年別順位表……そういう事か」
キョンが読みあげるのを聞き、あたしも理解した。
「こんなん普通貼るようなもんやないで」
早川の言う通りだ。何も終業式の前日に貼らなくても。
一応、一位から名前を見てみた。
――――――――――
一学期末テスト校内学年別順位表
一学年
一位 長門有希
二位 涼宮ハルヒ
三位 古泉一樹
四位……………
――――――――――
「「!?!?!?」」
あたしとキョンはただ呆然とした。なんと学年トップ3がSOS団にいる三人だったからだ。
さらに下を見ていくとまだまだ知っている名前が……
七位 朝倉涼子
三十二位 青木夏姫
四十五位 真田友輝
七十一位 早川諒
そして、最後は……
「キ、キョン子が八十三位だって!?」
そうなのだ。あたしの名前がそこにははっきりと書き記してあった。
中期テストでは二百番台だったのに大幅にランクアップしたのだ。たぶん、テスト前に長門・朝倉と一緒に勉強したからだろう。
とにかくうれしかった。
「みなさん、おはようございます」
そこへちょうど朝比奈さんがやって来た。
「あ、朝比奈さん。おはようございます。朝比奈さんは、名前載ってましたか?」
キョンが訊くと、朝比奈さんは少し恥ずかしそうに答えた。
「あったんですけど、六十九位でしたぁ。少し下がってしまって」
それを聞いてキョンは、肩をがっくりと落とした。
そりゃそうさ。これでSOS団で名前がないのはキョンだけなんだからな。
この表には百位までしか載っていない。キョンは必然的に百位以下となる。
ちなみに鶴屋さんは何位だったかと言うと、一点差で惜しくも二位だったそうだ。
あたしの周りには(キョンを除いて)頭が良い人ばかりだな。
あたしはそう思いながら教室へと向かった。
教室へ入ると、長門がいつものように本を読んでいた。あたしが近づくと、本から目を離してあたしを見た。
「おはよう」
「おはよう長門。玄関の表見たか?」
長門は頷いて応えた。
「長門一位だったな。おめでとう」
「…ありがとう」
長門は頬を微妙にだが、赤くして言った。
「あなたの名前もあった」
「ああ。あたしもビックリしたよ。これも長門と朝倉が勉強教えてくれたおかげだよ」
「…そこまで大したことはしていない。あなたの実力」
「そう言ってくれると嬉しいな。ありがとな長門」
長門はまた頷いて応えた。
あたしが席に座ると、長門が一枚の折り畳まれた紙を出してあたしに渡してきた。
「今日、来てみたら下駄箱の中に入っていた」
「見ていいのか?」
そう訊くと長門は頷いた。
紙を開いて読んでみる。
――――――――――
長門さんへ
今日の放課後、部活が終わり次第1年5組の教室に来てください。
キョン子ちゃんと一緒にお願いします。
――――――――――
その手書きで書かれた手紙の文字にどこか見覚えがあった。
「誰が書いたんだろう?」
「たぶん…、朝倉涼子」
「朝倉?」
あたしがそう言うと長門はまた頷いた。
なぜわざわざ手紙なのだろうか。口では言いにくい事ということか?それだけ重要な事を話すということだろうか。
「取り合えず、後で確認してみるか」
あたしがそう言うと長門は頷いた。
朝倉がわざわざ呼び出すほどの事って何なんだろうか。
あたしは一日中、ただそれだけを考えていた。
さて。
時は過ぎ、今は放課後。
昼休みに一度5組を訪ねて朝倉を探しては見みが、教室内に朝倉の姿はなかった。
仕方がないので放課後まで待ってみることに。
一応キョンに今日朝倉は来ているか聞いたが、休んではいないようだった。
今は部室にいる。キョンと古泉がしているチェスをぼーっと眺めている。長門を見ると、本を見ているがなかなか次のページに進まない。長門も朝倉の事を考えているのだろうか。
早川は持ってきた雑誌を読んでいた。朝比奈さんはハルヒに遊ばれていた。主にいろいろな髪型にされていた。
いたって平穏な、いつもと変わりない時間。だけど、なぜだろうか。この後何かとんでもないことが起きそうな予感がしてならなかった。
下校時刻となり、いつものように長門の本を閉じる音で解散となった。
いつもならみんなとこのまま帰るのだが、用事があるとキョンに先に帰るように言って長門と一緒に5組の教室へと向かった。
教室の扉の前に立ちあたしは一呼吸置いて扉を開けた。
そこにいたのはやはり朝倉だった。
朝倉は教卓に寄り掛かっていた。朝倉の後ろの窓からは紅い夕焼けが差し込んでいた。
「…来てくれてありがとう」
そう言って朝倉は教卓から離れ、教室の後ろの方へと歩き出した。
「なんでわざわざ手紙で?」
あたしは教室に入りながら、一番気になる事を質問した。
「……口では言い辛くて」
そう言って朝倉は自分の机らしいところに寄り掛かった。あたしと長門は近くまで行き、近くの机に同じように寄り掛かった。
しばらく沈黙が続いた。
朝倉はしゃべろうとするがすぐに口をつむってしまうを何度か繰り返した。
少ししてようやく口を開いた。
「…実はね、私……転校することになったの」
「えっ!?」
それは、あまりにも突然すぎた。
朝倉が転校?
長門を見た。いつもより目を見開いている。見ただけで驚いているというのがわかる。
「い、いったい、どうして!?」
あたしは朝倉と向き直って訊いた。
「うん。実は今父と母はカナダで働いているんだけど、母がつい先日倒れたらしいの」
朝倉の表情は少しずつ曇っていった。
「母は昔からあまり体が良くなかったみたいで、たびたび体を壊していたみたい。でも、私に心配をかけまいとずっと隠していたって。今まではまだ命とかに関わるような事にはならなかったんだけど、今回検査の結果肺にガンがあることがわかって……」
朝倉は今にも泣きそうだった。そりゃそうだろう。
ガンにあまり詳しくはないが、下手すると死んでしまうような病気だ。
今まで周りにいた人たちの『死』を目の当たりにしてきた朝倉にはかなり不安にもなるだろう。長門とのことがあったからなおさらである。
今度は自分の母親が命の危険にさらされているんだから、平常心でいられるわけがない。
「そ、それで、母の側にいてあげて欲しいって父に言われて。もちろん私はそうしたいんだけど、……キョン子ちゃんと長門さんと……離れたくなくて」
そして朝倉は、……泣いていた。
長門の話の時に流した涙とはまた違う涙。
「グスッ…ほんとに……三人でいる時…うっ…とても楽しかった。あの頃みたいに、また……だから…だから……」
「大丈夫だ。言いたい事はわかる」
そう言ってあたしは朝倉を抱きしめた。
「……ひっぐ…ほ、ほんとはもっと……一緒にいたかった……ずっと……ずっと…」
「あたしたちはずっと一緒だよ」
そう言って、さらにあたしは朝倉を強く抱きしめた。
「もう一生会えないわけじゃないだろう?
今は母親の側にいてあげないと。それにあたしは約束したよな?
ずっとずっと、朝倉と長門と仲良しでいる。ずっと一緒にいるって」
朝倉はうんうんと頷いた。
「確かに日本とカナダじゃあ遠いかもしれない。でも、心はずっと一緒だから」
「……うん、そう…だよね…。でも私、すごく不安も大きくて…」
そう言いながら朝倉はあたしに強く抱きついた。
…そうか、あたしたちと別れるのも辛いのかもしれないがやっぱり母親のことがかなり気がかりなんだろう。
あたしは経験したことがないから正直言って今の朝倉の気持ちが全部わかるなんてことはできないと思う。今までに朝倉は身近での『死』を経験している分、かなり不安なのだろう。
「…大丈夫」
そんな時、長門も近くに来て朝倉を優しく抱きしめた。
「きっと、私のお母さん…それにお父さんが守ってくれる。……それに、きっとあの子も…」
「…!長門さん!」
そう言って朝倉は長門を強く抱きしめ泣き始めた。
そんな朝倉の背中を長門は優しく撫でていた。
あたしの頬に熱いものが流れるのを感じた。
いつの間にか自分も泣いていた。
心はずっと一緒だって言ったが、やはり別れは辛い。
あたしにとって人との別れとはそんなに辛いものだと感じたことはなかった。
でも今、こうして朝倉と別れるのが辛い。
そう感じている自分がまさにここにいる。
短い間だったが、しっかりと朝倉と過ごした日々を覚えている。
これまでの日々をあたしは決して忘れない。
しばらくして朝倉は長門と向きあった。
「…長門さん」
長門は何も言えないようで、ただ頷いた。
「初めて会った時のこと、まだ覚えているかな?」
そう朝倉が訊くと、長門はまた頷いた。
朝倉はあたしの方も見ながら言った。
「キョン子ちゃんに言うのは初めてだったわね。
私と長門さんが初めて会ったのは小学校の入学式だったの。まあ大体の人には当たり前かもしれないけど。
その日は両親が仕事でなかなか来なくて。私その頃すごい人見知りする子だったから、すごいおどおどしていたの。そしたらね。隣にたまたまいた長門さんが勇気づけてくれたの。あの時はほんとに嬉しかった」
朝倉は懐かしそうに目を細めて言った。
「あの時の長門さんのあの一言がなかったら、今の私はいなかったかもしれない。ほんとに…ほんとにありがとう。長門さん……ううん、有希ちゃん」
そう言って朝倉はまた長門を抱きしめた。長門も抱きしめ返す。
「ふふっ、有希ちゃんって言ったのは何年ぶりかしら」
「……うん」
長門はやっと口を開いた。
「有希ちゃん……ほんとに今までありがとう」
「…お礼を言うのは私の方。あの日から……涼子には支えられてばかりだった。……何度お礼を言っても…足りないぐらい……」
長門の目からも涙が流れていた。
「…本当に……本当に…ありがとう」
それからしばらく、長門は何度もありがとうありがとうと言った。
まるで、今まで言えなかった分を言うように……。
その後、あたしたちは学校を出た。
太陽はまだ完全に西に傾いてはいなかったが、十分薄暗い時間だった。
朝倉と長門は寄り添うようにして前を歩いていた。
その後ろ姿を見守るように、あたしはついていった。
朝倉は8月に入ってすぐにカナダに発つと言った。
それならば、その前までにしっかりと送別会でも開いてやりたい。
キョンや谷口、国木田、もちろんハルヒなんかも呼んで。いや、いっその事SOS団全員を引き込むか。夏姫たちや鶴屋さんも呼ぼう。
そんな事を考えながら歩いた。
坂を下り終えた。しばらく歩き横断歩道に差しかかる。信号が赤なので待っていた。
なんだろう、このスッキリしない感じ。今日の放課後から感じる嫌な感じ。
朝倉の転校の話で良くないことは終わりではないってことか?
まさか、家に帰ると妹のスーパータックルをくらうとかか?
それはそれで嫌だな。
実は今日の事は全部夢でしたってオチか?
それはそれでなんつー夢だって話だが。
「キョン子ちゃん?どうしたの?」
あたしはハッと我に返った。見ると信号はすでに青で、長門と朝倉は半分ほど渡っていた。
「あ、ゴメンゴメン。ちょっと考え事してた」
そう言ってあたしは渡り始め……
『プゥアアァァァァァァァ!!!!』
それは一瞬だった。
長門と朝倉目掛けて暴走した乗用車が突っ込んできたのだ。
「危ない!!」
あたしの体はとっさに動いた。
長門と朝倉を突き飛ばした。
次の瞬間―――
あたしは宙に浮いていた。
周りは変にスローモーションのように動いた。
そして、体と頭を硬いアスファルトに打ち付けた感触。
―――あれ?
今あたしはどうなったんだ?
体を動かそうにも動かない。
長門と朝倉が近くにいるのを微かに感じる。
「キョ――!しっ―り――!!」
「――、キョ――ちゃ―!」
長門と朝倉が何か言っているが何かわからない。
長門が手を握っているのが見える。
でも、手の感覚がない。
もう……ダ…メ……だ。
いっ意識が………。
あたしは少しずつ真っ暗な世界へと落ちていった。
……長門、朝倉。ゴメン。
約束、守…れな……かった。
そのままあたしの意識はぷっつりと途切れた……。
――――――――――
~あとがきのようなもの~
どうも、My11です。
今回のお話、いかがでしたでしょうか。
今回はちょっとしたシリアス(?)な展開でしたが、まああまり表現しきれてはいないと思います。
たまにすごい無理やり感がある部分もあると思いますが申し訳ありません。
さて、キョン子はいったいこの後どうなってしまうのか。
それではまた。