アポ最新話、アタランテ回…!
アタランテリリィ…!
短いのもいいよね! 最っ高だね! ビューティフォーだね!
だがケモ耳があるから既にヒッポメネスと会っていることになるけどそこは追求してはいけないことなのだろうね。
ジャック脱落の為投稿
「ねえねえ」
「なんだジャック?」
それは珍しく吹雪が吹いていない夜の事だった。
カルデアは人里離れた山脈の中に建てられており、地形の関係から一年中吹雪が吹き荒んでいる。
そんな状態でよく大掛かりな施設を建てられたものだといつも疑問に思う。神々の奇跡もない、神代の頃よりも衰えた魔術と人の文化技術でよく作れたものだとこの様なものに疎い私も感心するものがある。
「そろそろかなぁ?」
「ああ、きっとそろそろだな」
私に後ろから抱きしめられる形で毛布を被っているジャック。私の腹部に擦り寄ってくるのはきっとこの子の本能、願いからくる行動だろう。
それを拒むことはしない。それを拒絶することは、私自身を、私の願いを否定することだからだ。
受け入れるように力を込めて抱きしめると、「えへへ」と嬉しそうな呟きが聞こえる。その声に私の頬も自然と緩んでしまう。
「デュフフフwwwアタランテちゃんに擦り寄るジャックたん、拙者のお胸がキュンキュンしますぞ〜。これは我が聖典に加えるべき光景グボワァ!?」
何やら不快が滲みよってきたが地に伏せたようだ。音のみ拾うと「はい、証拠です」「はい、ローアングルの隠し撮りですね。ギルティ」「刑は谷底に逝ってもらうわよ」と物騒な会話が聞こえる。
なにやら髭らしきものを縛る音がした後、野太い悲鳴が木霊しながら消えていく。
さくさくと小気味良い音が近づいてくる。振り向くとそこにはヒッポメネスがいた。
「やあ、おまたせ」
「あらジャックったら猫みたいだわ! まるでカンガルーの親子みたい」
ヒッポメネスの手はナーサリーと繋がっており、片方の手には毛布がある。
「ほらナーサリー、君もカンガルーだよ〜」
「ヒッポメネスはお父さんカンガルーなのね!」
私の横に座ると、ジャックと同じようにナーサリーを包み、ヒッポメネスは空を見上げた。
「時間的にはそろそろなんだけどねぇ」
「あぁ、そうだな」
周りを見渡すと私達と同じように空を見上げるサーヴァントと、カルデア職員達がいる。
サーヴァント達は雪山の寒さに堪えることはないためいつも通りの格好だが、生きている人間は分厚い防寒具で寒さを凌いでいる。
…サーヴァントの中には寒さを理由に女に擦り寄る者が多数いる。
円卓の騎士の一人がマシュに罵られ、膝をついていた。
マスターは逆に女のサーヴァントから擦り寄られている。あれでは逆に暑苦しいであろう。マシュが騎士を蹴り飛ばしマスターの元へ飛び込んでいく。
「ダーリン! ロマンチックね! あ、ほら見てダーリンよ!?」
「…俺、ある意味自分の遺体を見上げているんだよなぁ」
………何も見ていない。決して自分が信仰している女神がオリオン座を指差し、ブサイクな熊の人形の目が腐っていくところなんて決して見ていない。
「ははは、みんな大騒ぎだねぇ。施設内のテラスでは宴をやっているらしいよ?」
「…その宴では四人に分裂した竜娘がゲリラライブをするのだろう」
「阿鼻叫喚の地獄絵図だね。ドレイクさんがブチ切れていたよ」
既に地獄らしい。良かった、聴覚が優れる自分には座への帰還案件となっていただろう。
「ジャック、ナーサリー。一応魔法瓶に入れたホットココアがあるからね。飲みたい時は…」
「「飲むー!」」
「はいはい、じゃあ用意するね」
懐に入れていたであろう魔法瓶と紙コップを取り出し、紙コップにホットココアを注いでいく。暖かい湯気が揺れる紙コップが二つ完成すると、ジャックとナーサリーはアサシンに負けない敏捷さで紙コップを取る。
「甘〜い!」
「おかわり!」
「はいはい、今日だけはナイチンゲールさんからお許しが出てるからね。おかわり自由だよ」
「「わーい!!」」
はしゃぐ子ども達を見て、胸があったかくなるのを自覚する。
そうだ、これだ。この光景が私が望んだものだ。
産まれることを拒まれた子供に、少女の形をした子供達の英雄としての物語。どちらも英雄としては変則的なものだが、私にとっては子供だ。
護るべき者、未来があり幸せになるべき者。親の愛の元で育ち、育み、親となって自身の子供を愛す。
そういう世界を望んだ。そういう世界であるべきだと理想を抱き、そうなる様に覚悟し、決意のもと魔術師達の代理戦争に身を投じた。
…ああ、そうだ。数多の並行世界、分霊として戦った戦争の記録と記憶が擦り切れているなかでも、今もなお忘れることなく焼き付いている戦いの記憶が私の魂にある。
無垢な殺人鬼。母を、胎の中への帰還に焦がれる暗殺者の“黒”がいた。
忘れられないあの地獄、どうしようもない程に救いがなく、誰もが悪く、誰もが裁くことができない時代の理不尽。
救うことができなかった。
味方するだけで、破滅だけが待つ先延ばしを選ぶしかなかった。
聖人に絶望し、怒りに身を蝕んだ。
ーーーああ、でも。そんな地獄でも、無力でも痛みを背負おうとした者がいたな。
「はい」
「ひぃぁ!?」
頬に突然当てられた暖かさに背すじが伸びる。
横を見ると、ホットココアを入れた紙コップを持つヒッポメネスがいた。
「君もどう?」
「………貰おう」
ホットココアを奪い取り、口に運ぶが熱くて一気に飲むことができない。
チロチロと舐めるように飲む。少しだけヒッポメネスの方を向くと、あいつも似たようにチロチロと少しずつ飲んでいた。…そんなところまで似なくても良かろう。
「おかわり!」
「はいはい、ゆっくり飲むようにねジャック」
新たにホットココアを注ごうとした時、ナーサリーとジャックが突然立ち上がる。
「来た!」
「来たよ!」
二人が同時に指差すと、私とヒッポメネスもつられて空を見上げた。
そこには、流星雨があった。
「おぉ、これはすごい」
「あぁ、これほどまでとはな」
「すっごーーーい!」
「すごい、星の雨だわ!!」
そう、全てはこのためにカルデアの全職員は空を見上げて待っていたのだ。
吹雪が止んだ夜に偶然にも流星雨が降るという奇跡の日と重なったのだ。
ジャックとナーサリーの感嘆を皮切りにカルデアの所々から叫びに近い感動の声が鳴り響く。
生前にも何度か見たことがあるが、この美しさは飽きさせることはない。
そんな光景を見たことの無いジャックとナーサリーは雪の上を空を見上げながら駆け回る。
「汝ら! あまり遠くに行くではないぞ!」
「まあまあ、僕達が見守っててあげようよ」
「まったく、…私も大概だがお前もあの子達に甘いぞ?」
ゆるく笑うこいつに少しだけ嘆息し、もう一度空を見上げる。祈りのように、祝福するように降り注ぐ星の雨。その美しさは神代から現代に受け継がれている。
痛みも憎しみも醜さも、全て今へ。
あの地獄も、この奇跡へと繋がっている。
だからこそ、救おう。“いつか”、そう“いつか”だ。
儚くて、根拠のない、だけど信じ続けれる誇りと理想を。
私が願ったことを、私の知らない違う誰かが祈ってくれているこの世界を。
私はこの場所で守り通してみせよう。
「アタランテ、どうしたんだい?」
ーーー違ったな。
「ヒッポメネス」
「?」
「子供は、やはり愛いな」
「ーーーああ、間違いない」
ここに少し頼りないが、頼らせてくれる男がいたな。
「アタランテー! ヒッポメネスー!」
離れた場所で手を振るジャックがいる。
あの時の彼女とは違う、別の救われるべき少女。
彼女は救われなければならない。彼女は報われなければならない。彼女は愛されなければならない。
聖杯ではできなくても、この時ならば奇跡がある。
だから、彼女の笑顔を少しでも長く見ていよう。
遠くに行ってしまいそうな子供達の元へと、
『星』は既に還るべきところへと還った。
彼女は『殺人鬼』の中の無罪の一人。
名はなく、声も形も歴史に消え去った。
けれどーーー『星』が確かにそこにいたことを、『私達』は覚えている。