前回の投稿より1年以上経ってしまいました…本当に申し訳ありません。作品を書いては納得がいかず、消しては書き、消しては書きを繰り返してました。
では、やっと書き上げたお話をどうぞ。
–––––何者か。
見知らぬ顔であるな。
我は山の翁、ハサン・サッバーハである。
して、汝ら、何者であるか。
偽りを口にする事はならぬ。
真のみを口にするがよい。
–––––ほぅ。
我が契約者が招いたと。
友でなく、親しくはなくとも、互いに研鑽を積み、互いを高めあうと語り合ったと?
–––––。
良かろう。
契約者に問い合わせたが、同じ回答であった。
礼を失した事、許されよ。
詫びとして、我が経験を語る故、この先の部屋に参るがよい。
かの語り手のようにはいかぬであろうが、善処する故静聴されたし–––––。
–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
午後9時。大多数の家庭では夕食が済み、家族で団欒をしているだろう時間帯。
カルデアの食堂でも大半の者は食事を済ませ、各々の時間を過ごしている。
親しい友人とのお喋り。強さを求める故の自己鍛錬。趣味が合う者との共同作業。
食堂に残る者も多くはないが確かにおり、飲み物を片手に笑いあっていた。
–––だが、1人だけ、食事が皿に残ったまま、席を立たない男がいた。
英霊エミヤ。魔術を使う暗殺者は、同じ銘を持つ赤い弓兵に立つことを禁じられていた。
無論、弓兵のエミヤとて、意味もなく立つことを禁じるような男ではない。
普段は率先してカルデアの厨房に立ち、ブーディカやタマモキャット、源頼光と共に食事を振る舞う好青年である。
そんな彼が、何故アサシンのエミヤを止めるのか。それは、一重に彼の信念からのものだった。
「––野菜なんぞ食べなくてもいいだろうに」
「良いからさっさと食べてくれ。洗い物がいつまで経っても終わらないのだ」
「サーヴァントに健康の概念はあってないようなものだ。好きなものだけ食べても体調を崩すわけじゃない。残したって良いだろう」
「作ったものからしたらあまり良い気分ではないがね。ジャックやナーサリーのような幼い少女でも残さず食べるように頑張っているのに、大人のあなたが手本を見せなくてどうするのだ」
「サーヴァントは原則として成長しない。
今頑張ったところで次に召喚した時には別人だ、覚えてもいないだろう。強要しても意味はないと思うが?」
「意味のある無しではない。人としての当たり前のことをしてくれということだ。
テーブルに水をこぼしても
『いずれ蒸発して消えるのだから放っておいても良い』と言って拭かずにいるようなものだぞ、それは」
「…?何か問題があるのか?」
「問題しかないぞ戯けが」
叱られる子供と叱る母親のような舌戦が食堂のど真ん中で行われることも、ここではもはや日常茶飯事となった。
弓兵のエミヤはグランドオーダー開始時から、暗殺者のエミヤは弓兵に半年ほど遅れて召喚されたものの、それでも古参のメンバーに食い込んでいる。
始めの頃はブーディカやマタ・ハリらが窘めていたが、もはや見慣れた光景として、苦笑しながらもお喋りを続けている。
と、そこへ3つほど隣の席にいたシトナイと厨房にいたアイリスフィールが割り込んだ。
「もう、良い加減にしたらどうなの2人とも?自分の意見を押し付け合うんじゃなくて、妥協点を探すか譲り合うくらいのことはしなさいな。周りにも迷惑になるでしょ」
「まぁまぁイリ…シトナイちゃん。
2人とも悪気はないし、私たちだってそれほど迷惑になってないから…」
アイリスフィールは苦笑しながら窘めようとするも、シトナイの怒りは収まらないのか、驚愕で身を固めた2人に厳しい視線を向けつつ強い口調で反論する。
「おか…アイリさんは優しすぎるの!
こういう時にちゃんと言っておかないと、いつまで経ってもやめないでしょ!」
「わ、私も悪いのかね?私はただ、全部食べて欲しいと頼んでいるだけなのだが…」
「それでも多少は譲るくらいのことはしなさいな。半分くらいにするとか、飲み物で流し込んでも良いとか…アサシン!
気配遮断と魔術を使って逃げようとしない!」
アイリスフィールが驚いてアサシンに視線を向けると、アサシンの姿はいつの間にか透明がかっていた。
が、その声で観念したのか、姿を元に戻していく。
「…絶好のチャンスだと思ったんだけどね…」
「舐めないでよね。これでも女神の複合体だもの、魔術の気配には敏感なのよ」
ふふん、と小さな胸を張ってドヤ顔するシトナイ。
遠くから見ていた職員は微笑ましいと笑み、廊下ではたまたま通りがかった黒髭は
『シトナイたんのドヤ顔ktkr!
アイリスフィールちゃんの微笑みmjmgm!※
ああッこういう時にキャメラを携帯していない拙者マジ無能…ハッ!?
そうだホクサイちゃんに頼んで書いてもらうでござる!そうと決まればいざ!ホクサイちゃーん!』
と騒がしく走っていった。
ちなみに騒がしく廊下を走っていたためルーラー警察に捕まり、溜まっていたカウントにより数週間の無償奉仕という名の便所掃除を行うことになるのだが、完全な余談である。
「あー、お風呂気持ち良かった〜。
クロがキスしなきゃもっと良かったけど…」
「しょうがないじゃない、私だってお風呂で魔力が切れるとは思ってなかったんだもの」
若干疲れた顔とバツが悪そうな顔をして食堂に来たのは、イリヤスフィールとクロエの姉妹。なおどちらが姉かは議論になるため割愛する。
「もう、今度から気をつけてよね…ってアレ?エミヤさん達とおか…アイリさんに…」
「最近きたっていうシトナイさん…だっけ。
何してるのかしらね。ちょっと声かけてこよっと♪
ねぇねぇ、何してるのー?」
「あっちょっ、クロ〜!?」
クロエが声をかけると、一斉にクロエの方に視線が向いた。一般人なら一斉に向けられた視線に多少怯むが、それを無視して明るい声で訪ねたが、途中で怪訝な声色に変わった。
「ね、ね、何してるの?エミヤ(殺)さんの前に野菜の乗ってる皿があって、それを囲んで、エミヤ(殺)さんは座ってて…。
いや本当に何してるの?」
「あなたは…確かクロエ、だったかしら。
ううん、大したことじゃないわ。
野菜が嫌いな人を立たせないようにして囲んでいるだけよ」
「いやホントに何してるの!?
って、野菜が嫌いなんですか?エミヤさん達が作ったものは野菜でも美味しいのに…」
「…食べる必要がない、と言うだけだ。
味は問題じゃない。よければ君が食べるかい?」
「それだと何の解決にもならないだろう!
〜〜ッ…ええい、仕方ない!
半分でいいから食べてくれ。食べないよりは遥かにマシだ」
苦々しい顔でそう告げる弓兵。
だが眉根を寄せて不機嫌そうな顔を隠さないアサシンに、アイリスフィールは意を決したように告げる。
「この料理だけど、彼があなたのために一生懸命考えて作ったのよ?
野菜嫌いのあなたが、どう作ったら美味しく食べられるか、って一時間もかけて考えてね」
「…なに?」
「あなたが他に食べた料理にも、全部野菜を細かく刻んで入れていたのよ?
ただ、サラダだけは細かくできないと残念がってこのままだったけれど」
言葉を失うアサシン。よもや栄養補給にもならない、娯楽と同価値となった食事にそれほど手間をかけていることに呆れつつも、何故と強い疑問を抱いた。
件の弓兵はそっぽを向いて顔を見せなかったが、耳が赤く染まっていたため、理由は明白であった。
「もう、そんな不思議そうな顔をしないの。
大方、何でそんなに手間をかけてるんだ、と思ったんでしょ?」
訳知り顔でシトナイがニヨニヨと笑いながら尋ねる。イリヤスフィールとクロエを見るが、2人も同じ顔をしていた。
「そんなの簡単でしょ–––––––美味しくご飯を食べてほしい。たったそれだけ。
それだけが理由なんだよ、キリツグ」
「–––––––」
理解ができなかった。自分たちはサーヴァント。生身の人間ではなく、食事を必要としない。味など大した問題ではないというのに、と思考したところで、ふとある感情が湧いてくるのをアサシンは感じた。
暖かく、自然と口元が緩む。思わず笑みを浮かべてしまうその感情は–––––––喜悦。
「–––––––分かったよ、食べる。半分とは言わないさ。全部、残さず食べさせてもらうよ」
意識しないでその言葉が出た。
彼らの顔を見ようと顔を上げると、彼らは驚愕に固まっていたが、弓兵を除き、直ぐに元に戻った。
アイリスフィールは安堵の微笑みを。
シトナイは、やれやれ、と言いたげに笑い。
イリヤはよかったと小さく零して。
クロエはからかうような笑みを。
弓兵は–––––––天井を見上げ、表情を見せなかった。
しかし。その頬には、一筋の雫が流れ。
聞き取れなかったが、なにか一言、小さく呟いていた。
fgoも長く続いたもので、来年で4周年ですね。
皆さんはいつから始められましたか?
自分は15年の10月ほどです。なのに未だにオリオンやアンメアが揃わない事実…なぜだ…うごごご…。
まあさらなる課金をする事を決めて、次回から更新は完全に不定期になります。
失踪だけはしないよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします。
※mjmgm→マジ女神の意