お待たせしました。
今回のは本編終了後、八眼童がfate世界にいったらという外伝です。
次話投稿時に章分けして先頭に動かす予定です。
なお、次回更新は本編に戻ります。
外伝 第四次聖杯戦争IF
それは奇跡的とも呼べる無数の偶然の末、正史から分かたれた可能性の枝。
平行世界の一つの物語。
正史との違いは大きく分けて九つ。
「えーと素に銀と鉄? 礎に石と契約のー、だいこう! だよな?」
キャスターのマスターとなる殺人鬼が手に掛けた犠牲者が正史よりも多く、より残忍であること。
「ぐ、降り立つ風には壁をっ。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路はっ、循環せよ!」
バーサーカーのマスターとなる男の身体が召喚の負荷に耐えきれずに半ば死亡し、それでも精神力のみで召喚を継続していること。
「殺せっ殺せっ殺せっ殺せっ殺せぇっ!! 繰り返すこと五回、ただ満たされる命を破壊するっ!」
殺人鬼が召喚しようとしたのが悪魔ではなく、死の神であること。
「Anfang……っ」
死の淵にある男の願いが、ある少女の救済のみで占められていること。
「つげる? 告げる! 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。 聖杯の寄るべに従い、あぁもう省略っ!」
殺人鬼に、手に掛けた者達の一部、もしくは所有物をハンティングトロフィーとしてコレクションする性癖があること。
「されどっ、汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべしっ! 汝、狂乱の檻に囚われし者、我はっその鎖を手繰る者……」
男が召喚をやり遂げ、同時に死亡すること。
「汝死者の言霊を纏う死者の神!」
外部からの干渉を受けていない場合に召喚されていた二騎のサーヴァントが、どちらも生前に強く恨まれ、妬まれていること。
「復讐の連鎖よりきたれ、天秤の破壊者よっ!」
「抑止の輪よりきたれ、天秤の守り手よっ!」
そして、彼らの召喚の儀式が同時に完遂されること。
――汝等の願い、聞き届けたり――
最後に、その世界に界渡りを行う死者の神が訪れていること。
それらの要素が偶然により揃う。 否、その世界においては必然なのだろう。
魔力が渦巻く。
聖杯から供給される膨大な魔力は過去の英雄を、英霊を現実の従者として顕現せしめる。
はずだった。
膨大にして緻密な、魔法に匹敵する魔術にここではないどこかから干渉が行われる。
この世界の物ではない法則により行われた介入は召喚に対して行使され。
改変された術式はしかし、汚染された聖杯により実行された。
座より招かれるはずだった英霊の分霊は依代へと改変され。
ここではないどこかにある、この世界にはない何かを注がれ。
代償に聖杯からの情報的バックアップと、聖杯から供給されるはずの魔力の大半を依代となったサーヴァントの維持により失いつつも。
界の狭間に在る神はこの世界に顕現した。
「カッ、カカカカカッ!! 召喚に成功しておきながら死におったわ! 哀れよの、無念よのぉ! みよ桜、これが無能が分不相応に挑んだ結果よ。 これぞまさに無駄死によのぉ!!」
無数の醜悪な蟲が犇めく蟲倉にて。
哄笑をあげる老爺に連れられて男のサーヴァント召喚を見させられていた少女は、しかし無感動に男の変わり果てた死体を見ていた。
召喚されたサーヴァントであろう黒い靄に覆われた人影はその場に立ち尽くし、身動きすらしない様はまるでマネキンのよう。
異様な空間で、わずかに残った興味を刺激された少女は哄笑を上げ続ける老爺の隣から一歩を踏み出す。
その歩みの先は、サーヴァントの足下で倒れ伏す自身を救おうと無駄な努力の末に命を落とした愚かな男。
顔の見える場所でしゃがみ込み、のぞき込んだその男の表情は。
「わらってる……」
「カカカッ! 大方召喚の成功に気を抜いたところで死んだのであろうよ。
召喚を行う前にはすでに気力のみで命を繋いでおるようなものであったからな。
むしろ召喚を成功させたことこそが奇跡よ! カカガッ!? がぁぁああぁあぁあああああ!?」
後ろから聞こえる水っぽい破裂音、無数の咀嚼音を無視して少女は手を伸ばす。
屍の薄く開かれた瞼を下ろし。 傍らの靄を纏うサーヴァント、その肩の上に立つ少女を見やる。
救済を願われし童よ、汝はなにをもって救済とする?
魔術も魔力も介さず、直接魂に響く音無き声に少女は答える。
「わからない。 でも……」
全身を侵していた蟲のことごとくが死して液状化し、ぼたぼたと地面に落ちる。
代わりに浸透する、力としか表現しようのない感覚に意識を朦朧とさせつつも少女は屍の側に座り、その頭を抱え込み。
「がんばったおじさんをゆっくりねかせてあげたいな……」
そのまま意識を失った。
ごとり。 くちゃり。 ぶちり。 ごきり。
大男により解体される青年だった物を眺め、ソレはワラウ。
母の腸で縛られていた姉を解放し、その髪を手櫛で梳かしながら抱きしめる。
「私は貴女を護りましょう」
『私は彼らを許さない』
背後に翻るは、赤黒い血錆に塗れた白き旗。
「此度の聖杯戦争による世界の歪みを正しましょう」
『怨嗟と憎悪を生み出す聖杯戦争を終わらせましょう』
壁に釘で打ち付けられた母の子宮から、半年早く産まれ出た嬰児は母の乳房を喰らい、父の肝を飲み。
青年に向けられていた怨嗟を、憎悪を啜り。
この地に刻まれた慨嘆を、無念を呼吸し。
姉と同じ年頃の姿を得た。
願う知能を得た。
感情を得た。
怒りを。
「私は裁定者。 健全な闘争を守る者」
『私は復讐者。 勝者の歓喜を破壊する者』
聖杯によって召喚された白き清廉なるサーヴァントはしかし、聖杯とこの地に刻み込まれた怨嗟と憎悪により汚染され。
その身に清浄なる瘴気を纏い。
その手に不浄なる聖旗を掲げ。
「世界の終わりの始まりを防ぎましょう(生者の夢の始まりを終わらせましょう)」
その様を見守る二輪の朱傘に気づかない。