亡霊、彼の地にて斯く祟れり   作:餓龍

13 / 42
お待たせしました!

何を考えてたのか帝都地震を先に書いてまして。
おかしい話がつながらん。 あ、ひとつ前の話書いとらん。
で時間かかりましたw
次は半分以上書いてるので早めに行けると思います。


虜兎と巫女見習いと宮司見習い

 帝国皇太子ゾルザルの奴隷であるテューレはゾルザルの部屋からでると、ボロボロの裸身に行為で汚れたシーツ一枚の姿でふらふらと歩き、自身に割り当てられた独房のような部屋へとたどり着く。

 足下のおぼつかない自身に舌打ちしつつもたどり着いたテューレは出迎えたノリコという黒髪の女性に支えられつつ座り込んだ。

 

「大丈夫? 痛みのひどいとこはない?」

「……うるさい」

 

 たどたどしい口調でかけられた言葉につっけんどんにかえすも、テューレはノリコにシーツの比較的きれいな場所で身体を拭われるに任せる。

 全身を痛めつけられ、失神するほど首を絞められながらの行為はひどく体力を消耗するのだ。 仕方のないことなのだと誰に言うでもなく考え、ふと壁際に人影を見て視線をあげる。

 

「どうしたの? やっぱり痛む?」

「……いや、なんでもない」

 

 どこから調達したのかシーツを裂いた端切れを水で濡らして体を拭いてくれるノリコから視線を逸らし、できるだけ壁際をみないようにする。

 

 ノリコが奴隷になってここにきた際、言葉の通じない彼女の世話をしたのはほかの人間種の奴隷達だった。

 虐げられている人間は同じ境遇の者同士で結託するか、自身よりも弱い立場の者を作ってその上に立とうとする。

 ここにいるゾルザルの奴隷のうち、人間種ではないのはテューレだけであったからほかの奴隷達は人間種だけで結託し、テューレをはじき出していた。

 すでに人間種そのものに絶望し、憎悪の炎を燃やしていたテューレは別に気にしていなかったが。

 しかし、それはノリコの祖国であるらしいニホンへの侵略軍が惨敗して撤退してきたという噂が流れ始めるまでだった。

 ゾルザルの奴隷は帝国に侵略されて滅ぼされた国の出身がほとんどであり、万全を期して進撃した帝国を即日で壊滅させて撤退させた国出身のノリコへ、どのような態度をとればいいかわからなくなったのだろう。

 そしてアルヌスの丘を占拠したニホンの軍に対し撃破すべく進撃した帝国軍と連合軍が壊滅したという噂が流れ始めれば、ノリコは人間種の奴隷達の中で孤立するようになっていた。

 逆に帝国を撃退できる国の出身というところに興味を持ったテューレは最初、何かの役には立つだろうと言う気まぐれでノリコに軽く手を貸し、懐かれた結果。

 

「あ、ありがとうございます。 あとで取りに行きますね」

「(だから何と会話してんのよ、あんたはぁーっ!?)」

 

 帝都で怪奇現象が発生するのと同時期にノリコは虚空に話しかけ始め。 当然それをすぐ近くで見せられる羽目になっていた。

 他人を精神的、肉体的に追いつめることに快楽を感じるゾルザルの奴隷には壊された者も多く(そして壊れたら廃棄される)、狂人への対応そのものは慣れてしまっている。

 が、本人は正気のまま、そして認識できなくとも実在するとしか思えない怪奇現象が多発する場合の対処法などテューレは知らない。

 ましてやノリコを認識できなくなったゾルザルや、気味悪がってノリコを排除しようとして行方不明になった者達がいるのだ。 現状維持以外の対処法など思いつきもしなかった。

 最近は実体のない人影の気配や持ち主のいない視線まで感じるようになり。 眠れば誰かの記憶のようなリアルな悪夢を見るようになってしまっている。

 なぜかノリコの近くにいると人影以外の現象は発生しないため、やたらと世話を焼きたがるのを利用してノリコの方から近づいてくるようにし向けているのだが。

 

「(だから! なんで! こっちくんのよ!? 過保護なのよノリコは大丈夫だからなにもしないからゾルザルの馬鹿の方に行きなさいよ帝国潰しなさいよこっちくんなばかぁー!!??)」

「やっぱり痛む? ロー○軟膏とか消毒スプレー、なんてないよね。 せめて氷があれば冷やせるんだけど……」

 

 当然ノリコが近づいてくるということは人影や気配、視線が近づいてくるというわけで。

 激烈にそれが『よくないもの』であると訴えてくる本能と、なぜかもわからないが猛烈に逃げ出したくなるほどの恐怖に襲われていた。

 それでもノリコの側でなければ悪夢で眠ることもできないためなんとか恐怖を抑え込み、最近ノリコがどこかから手に入れてきた厚手の大きな布にくるまって身体を小さく丸める。

 頭まですっぽりと収まってころりと横になれば、疲労の極致にあった身体はすぐに睡魔に襲われる。

 背中をゆっくりと叩く手を感じながら、テューレは眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

「へへー、いいでしょう。 これかなり上等な生地でできてるし、動きやすいんだよー!」

「へぇ、結構似合ってるじゃない! 私も着てみたいなー」

「いたみぃ、いいのぉ?」

「んー、まぁありなんじゃない? もう二、三着用意してもらっちゃおうか」

「やったぁ! イタミありがとう!」

 

 アルヌスの丘に建設された自衛隊駐屯地の南。 元難民キャンプなアルヌスの街の東側の外れ、森のそばに新たに自衛隊の手で建設された建物がある。

 赤く塗った丸太を門のように組み合わせて単独で立たせた『トリィ』に、屋根を木の皮で葺いた高床式の建物『ホンデン』。 正面入り口側のトリィから建物までの間は大きめの石で道を作り、それ以外の敷地内は砂利が敷き詰められていた。

 ニホン式の神殿であるらしい『ジンジャ』の敷地内では、ニホンの神に仕える神官服である『ミコショウゾク』を着込んだ鳥の亜人であるセイレーン種のミューティがくるくるとテュカとロゥリィ、そして『グージ服』を着たイタミに自身の姿を見せている。

 イタリカの街を襲った盗賊集団の仲間だった彼女はなぜか亡霊の一部に気に入られ、取り憑かれた結果両目が白濁して視力を失い。 かわりに霊的な視界を手に入れていた。

 

「でもよかったの? 宗教なんだし、しっかり考えた方がいいんじゃない?」

「いいんです! それに本来あそこで死んでてもおかしくなかったんですし、こうして加護をいただいてしまってますし。 それに、この方達もあたしを気に入ってくれてるみたいですし、こちらからお願いしようかと考えてたところなんです」

 

 最近まではアルヌスの街の警備員の一人として霊視能力を生かし、亡霊に話を聞くなどして働いていたが、今回アルヌスの街にもニホンの神の神殿を置くということでそこに勤める神官として働かないかとイタミに話を持ちかけられていた。

 そして宗教が関係することなのだから難航するだろうと予測していたイタミに対し、逆に食いつくようにして改宗を申し出たミューティはその言葉通り異界の神には感謝すら覚えていた。

 神に求められ、それに応えることができるというのはとてつもない栄誉なのだ。 その神が自身を必要とし続けてくれると言うのであればなおさら。

 さっそく今日からアルヌスの丘の自衛隊駐屯地内にある方の神殿にて研修を受けられると聞いて俄然やる気になり鼻歌を歌えば、周囲で一緒にくるくると踊っていた子供達もまた歌を歌い始めた。

 聞き慣れない言葉であり意味はよくわかっておらずとも、耳によくなじむその歌は最近のミューティのお気に入りである。

 いつの間にかトリィの真ん中で『木と紙でできた朱い傘をさす少女』の歌声も混じり、合唱になっていたことに驚きつつもミューティは明るく笑う。

 

 あぁ、この神へ仕えよう。

 すべてを差しだそう。

 だって、こんなにも負を払い、生を与えてくださるのだから。

 

 

 

 

 

「いたみぃ、この歌の歌詞、もしかしてぇ?」

「あー、そうだよ。 その想像であってると思うよ」

 

 伊丹はロゥリィの戦慄する声に投げやりに返しつつ頭をガリガリと掻くと神に昇格した亡霊から視線を逸らし、本殿に掲げてある神の名を見る。

 

 『禍津蛭子命(まがつひるこのみこと)』、『異門不空羂索神(いもんふくうけんさくしん)』、そして『幽徳院(ゆうとくいん)』。

 

 ピニャが本国へ帰還した頃からいきなり荒れ狂い、しかし自衛隊や善良な者には手を出さずに犯罪者へ全力な祟りをおとしまくる亡霊達。

 突貫工事な神社と宮司に任命された伊丹、そして日本から呼び寄せた専門家達の昇神の儀と加持祈祷。 それを日本と特地側とで同時に行うことでなんとか鎮めることに成功した神の名である。

 

 その後伊丹達が何とか意志疎通ができないかといろいろ試した結果、こっくりさんのように五十音文字を書いた紙を人形で指さすことで示された文字列で判明した激怒の原因。

 それは、帝国に囚われて非道を受けている日本人が存在するという事実だった。

 

 日本側に激震が走った。

 

 アルヌスの丘に駐屯している自衛隊は即座に救出部隊を編成し、作戦立案には空挺降下まで盛り込まれていた。 が、ここで本国からのストップがかかる。

 上の方では『神の言葉』で告げられたということに相当に苦慮しているようであり、確たる証拠または日本人本人の確認がとれない限りはこれまで通りの活動を続けるようにとの指令がくだったのだ。

 今は現状可能な限りの手を使っての調査中である。

 だが、日本人がいるとわかった瞬間に迅速に救出作業に移れるよう現在も即応体制は継続中であった。

 

「ほんと勘弁してほしいよ。 とりあえず一発全力でぶん殴ってやる」

「ほんとうねぇ。 これほどの神の怒りを受けるのですものぉ、帝国が滅びかねないわねぇ」

 

 伊丹はちゃっかりすり寄ってくるロゥリィを押しのけるように飛びついてきたテュカの肩に手をかけて引きはがそうとするが、ふとみればすごい冷や汗と青い顔にそのまま背中に手を回してぽんぽんと叩いてやる。

 これ幸いとまるで逃げ込むかのように懐に潜り込んでくるロゥリィと軽い攻防を繰り広げながらミューティの方を見やれば。 ミューティを中心に小柄な影が輪になってくるくると回っていた。

 影の持ち主は見えず。 されど影と気配はあるその光景に大きくため息をつきつつ、いい加減慣れてきた自分に危機感を持つ伊丹。

 

 まだまだ突貫工事であり、とりあえず神を鎮める最低限しかそろっていない神社には『籠女籠女』の歌声が楽しげに響いていた。




主・(‘∀‘)お? えらく恨まれとるな。 しかも冤罪っぽい。
  協力せんか?

兎・(:_;)こっちくんなばかー! カエレ!

主・(´・ω・`)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。