まさかのロウリィじゃなくてロゥリィだったとは。
今まで素でロウリィだと勘違いしてた……。
あとあんまり進んでません。
数メートル離れたら見えなくなるほどの濃霧が立ちこめ、鳥居がまるで合わせ鏡のように無限に並んでいる石畳の参道にて。
今一番のお気に入りの人形(なんと人間国宝クラスの職人製!)で歩きつつ、後ろに付いてきている伊丹達をみる。
菅原さんは眼が死んでるし、伊丹は頭抱えて上見上げてるし、伊丹の部下二人は紀子の相手に手一杯だし。
うん、ひどいな!
まぁ、今回の地震はありがたかった。
正直特地の神様にはまだ喧嘩売れないので神殿とその支配下の領域には直接入れないから、そこらへんごまかすのも含めて霧で帝都を覆うのが限界だったからね。
ピニャ殿下が皇宮に自衛隊ごと招いてくれたし、これで皇宮に入れないとこはなくなったな!
後は今回のでこうして皆を自分の神域に隠せるほどの力が手に入ったから、すでに見つけている残りの二人を隠して連れて帰ればあとは冥府の神ハーディ相手の魂奪還だけ。
……うん、二人だけ。 二人、だけ。
紀子の恋人君と少年の一人は、もう死んでしまってた。
まだ生きてる少年とおじちゃんは、絶対に死なせない。絶対にだ。
「八眼様? どうされましたか?」
「うぇっ!? オトナリ様じゃないのってか紀子さんはそう呼んでんの?」
「はい。 眼がたくさんある子供の姿で出てきましたから、
「いやオトナリ様がいいならいいんだけども」
そして紀子にはそのことはもう伝えてる。 銀座事件で家族が入院してることも。
日本に帰ったらまず家族のとこに行くんだと笑顔で語った紀子には、英霊な仲間達が全力で守護についてるし、こうして保護できたしもう大丈夫かな。
……うん、だからね? まだ着かないのかなーって期待した純粋な目で見ないで?
神域からの出口が開けないんだから……!!
仕方ないでしょう!? こう、最近空気というか空間というかがうにぃーって感じで引っ張られるみたいに歪んできてたから、それに便乗してここではないどこかにある神域への入り口を開きやすくなってたんだから!
実験も日本人拉致への報復と、協力してくれてる亡霊仲間への労いをかねて悪人の神隠しで成功するまで繰り返したし!
地震の前後に空間のゆがみがそれなりに大きく揺らいでたから、更に入り口開き易くなってたし!
まさか神域に入れたはいいけど出せなくなるとか! ごめんなさい!!
「…………(振り向かず、和傘をくるくる回してごまかす)」
「えーと、そうだ! テューレさんだっけ? 気にしてたみたいだったけど、彼女はどんな人?」
「あ、はい。 彼女は私が奴隷仲間の中で孤立してた時に、ぶっきらぼうでしたけど色々助けてくれてたんです。 でも八眼様がゾルザル殿下から私を隠して下さっていた所為で、地震で怯えるテューレさんを落ち着かせようと私がした話を、殿下はテューレさんが独り言でつぶやいていたと認識したみたいで……」
「あぁ、それで紀子さんだけ鎖で繋がれていなかったのね。 本当、耳も毟っとけば良かったかしら」
「あはははは……」
なんか後ろで盛り上がってるけど今は放置!
うぉおおおぉぉひぃらぁけぇぇええええ!!!!
全! 力! 全! 壊!
どっこいしょぉぉおおおお!!
ひらけごまぁぁああああ!
亡霊のみなさんも応援してないで手伝って! え? 神としての力を得てるのはおまえだけ? がんばれ?
その手に持ってる奉納された御神酒はなんじゃ! あとでよこせ!!
あ。 奉納されてる人形に分霊宿らせて現世側からも開けば良いじゃん。
んじゃ、英霊のみなさんから好評だった『
せぇのぉ、
あ、開いた。
「テューレ様、ボウロでござりまする」
疲れ果て、粗末な寝台に横臥するテューレの真下からくぐもったしわがれ声が聞こえてくる。
「……で?」
「やはりアルヌスへ手の者を送り込むのは難しいようでござりまする。 送り込んだ者は皆、常に恐怖を感じさせるモノに監視されていて滞在すらできぬと申しておりまする。 流石は帝国を一蹴したニホンということでございましょうなぁ」
「そう」
今のテューレ唯一の部下であり、忠臣であるボウロの報告にもどこか心ここにあらずで返すテューレ。 成果を上げられなかったボウロも報告すべきことも無く褒美をよこせとも言えず、しばし部屋に沈黙が満ちる。
ふと気配を感じて視線を向けてみれば、部屋の隅に不自然な影ができており小さな白い手がこちらへ手招きしていた。
「……帝国を滅ぼす。 このまま放置しても滅びそうだけど、より確実に。 絶対に滅ぼす。 もうそれしか私にはないのだから」
「それならば良い考えがございまする。 残りのニホンジン奴隷を始末致しまする。 さすればたかが一人の同胞を救うために帝都を死の都市にしようとした者共は怒り狂い、今度こそ確実に帝国を滅ぼそうとしましょう」
テューレは自身が影にまとわりつかれていることを認識できないボウロの声を聞き流しながら、頭上からのぞき込んでくる子供の眼と合った視線を逸らせずにいた。
一切の生気が感じられない眼にまるで自身の奥底まで暴かれるような心地を味わいつつ、しかしそれ以上の干渉がないことに気づく。
まるで自分が何を言うかを待っているかのような。
「私は帝国を滅ぼしたい。 父と母と弟と一族の故郷を滅ぼしたゾルザルを、帝国を絶望のうちにたたき落とし、存在ごと消し去りたい。 その為になら私は私の全てを捧げましょう。 お前の望みを叶えましょう」
「畏まりましたテューレ様。 乏しい知恵を絞りましょう。 ですからそのお約束、何卒お忘れ無く」
虫の形をした影に這い回られながらぐふふと笑うボウロを完全に意識の外にやったテューレは子供へと宣言し。
ざわりと形を崩した子供の影に飲み込まれた。