亡霊、彼の地にて斯く祟れり   作:餓龍

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長さが短すぎる気がする。


集合と崩壊

 やたら頼もしい嘉納さんが主要国外相会議で、ロシアや中国を初めとした『門』が欲しい国を相手に大活躍しているその横で。

 嘉納さんの携帯ストラップにぶら下がる人形に憑いてきた自分も、外国の霊的存在相手に話をしていた。 まともに会話をしてくれない相手も結構いたけども。

 あとどの国も霊的、宗教的な話は一切話題にすら出してないのは意外だったな。

 宗教及び霊的なことは政治に関係させないっていう不文律があるんだろうなぁ。

 まぁ、裏ではわかったもんではないんだけども。

 

「…………(じとー)」

「「…………っ!?」」

 

 それにしてもと各国の大使の側に控える補佐官を見つめれば数人が視線を逸らし、数人がそれぞれの作法で返し、残りは気づいてもいない。

 自分のやらかした影響で世界的に霊的存在を認識しやすくなったからか、各国それぞれの対処をしてきている。 補佐官としてその道のプロを連れてきているところもあった。

 

 アメリカを初めとした、護りどころか攻性防壁レベルでやたらガッチガチに固めて、むしろ喧嘩を売ってきているとしか思えない国。

 

 中国を初めとした、国が用意した護りが杜撰で、むしろ個人で信仰している方に頼った方がマシな国。

 

 イギリスを初めとした、隣人に対する対処が的確で、こちらを尊重した上でやんわりと干渉を防ぐ国。

 

 そして主要各国の補佐官として参加した、その国を支持する国の代表。 その中には、自分たち異教の霊的存在を排除すべき障害としか認識していない者も居る。

 正直言ってとんでもなく迷惑な話である。 同じく迷惑している外国の神の使徒や、妖精に精霊などはある程度の協力を約束してくれたので対処には困らないだろうけども。

 それに会議室の輪になっている机の中心で妖精達が遊び、むっすりと天使が守護する人の後ろで浮かび、やたら大物感出してるけど妖精にも劣る力の超新人祖霊が腕を組み、立派な髭を蓄えた英霊神と煌々と輝く剣を携えた王様が日本の宗教観について興味津々に聞いてくる。

 こんな光景を見て自分たち霊的存在をどうにかできると考えてしまうのは逆にすごいけどな!

 

 え? 日本に来てみたいから招いてくれ? お前ならできる?

 いやぁ、止めた方が良いんじゃないかなぁ。

 いやだって、ねぇ?

 女体化とか、剣からビーム出るようになっちゃうかもよ?

 うちの国、魔改造とかすごいから……。

 

 

 

 

 

 柳田の言葉に最近のテュカの様子が思い出され、膨れ上がる嫌な予感にテュカの部屋へと駆けつけた伊丹。

 扉をノックし、開けてくれたロゥリィに続いてみたものは。

 

「なんなのだこれは……どうすれば良いのだ……! なぜ此の身はこんなにも不運なのだ……。 まるで意味が分からんぞ、これ以上どうしろというのだ。 どうすれば良いのだ……」

「おちつく。 はやまっては駄目」

 

 部屋の隅で四肢を床につき、orzな体勢で際限なく落ち込みながら床に連続で頭突きを繰り出すダークエルフな女性と、それをやめさせようとするレレイの姿!

 

「父さん、父さん、父さん、父さん、父さん……!!」

「えっ、ちょっ、あたしっ、ちがっ、くるしっ!?」

 

 そして寝台から起きあがるなり寝台の端に腰掛けていたミューティを力一杯抱きしめ、ひたすら『父さん』と連呼するテュカの姿が!!

 

「えーと、どういう状況?」

「そこで転がっているのがテュカにお前の父親は死んだって言ってぇ、わたしがヤツメに本当に死んだのか確かめさせてぇ、ヤツメがテュカと父親を夢で会わせたみたいよぉ?」

「ヤツメってオトナリ様だよな? おーけー、把握した。 ほら、苦しいって」

「父さんっ、父さんが生きてるってっ……!?」

「ぜはー……。 たすかったー」

 

 うちも八眼様で統一するかなぁとか言いつつ、伊丹はひとまず締め落とされそうなミューティをテュカから引き剥がす。

 そして勢い余って伊丹に父さんと呼びかけたテュカがシーツを被って蓑虫になった。

 

「で、あんたは何してんの?」

「此の身は何の為に……緑の人なら……だが無理と……炎龍に……無意味だ……力が……神は答えてくれない……おぉ、冥府の神ハーディよ……神は救わない……滅べと言うのか……生きるのが無駄だと……ならばもう……」

「ん? おぁっ、ちょっ!?」

 

 ぷるぷる震えるシーツお化けになったテュカをミューティが落ち着かせているのを横目に何やらぶつぶつと呟いていたダークエルフの女性に話しかけてみれば、唐突に腰の剣を引き抜き、自らの首を掻き切ろうとする。

 伊丹が反射的に手首を掴んで止めたことで首を浅く切った程度で済んだが、それでも結構な量の血が流れ始めた。

 

「ちょっ、落ち着いて!? 話せばわかる! 死んでも意味ないって!」

「そうだ、死だ。 死こそが救済なのだ。 これまでの不幸も、早く死ねという神の言葉だったのか。 死をもたらさなければ。 全てを……」

「だぁーっ、もう! 手伝ってくれぇっ!!」

 

 自らの血で服を朱く染め上げながら、喚き散らすでもなく、ただ冷静に死のうとするダークエルフの女性をなんとか取り押さえる。

 動けないとわかるや躊躇無く舌をかみ切ろうとしたので口に指をつっこみ、何かに頭を叩き付けようとするのでしっかり胸元に抱え込む。

 仕舞いには首の筋力だけで自分の首を折ろうと試み始めたあたりでレレイの魔法によって眠らされ、大人しくなった。

 

「あー、びっくりしたー……。 なんでいきなりこんなこと」

「理由は推測可能。 ダークエルフの集落が炎龍に襲われている。 使者としてこのヤオが緑の人に救援要請に来たが、集落が国境を越えたところにある為、緑の人は動けない。 その際、イタミなら何とかできるかもと。 テュカを壊すことで炎龍討伐をイタミにさせようとしたが失敗。 結果、絶望して自害しようとしたものと思われる」

「詳しい説明ありがとね。 にしてもどうするかね……」

 

 とりあえず首の傷を押さえて止血しつつ、伊丹はトラウマをゴリゴリ刺激されて痛む胃を押さえる。

 今回は八眼童という神頼み(比喩でない)で対処できたが、いやむしろ崩壊しかけていたテュカの精神を救うことができたのでいいことではあるのだが。

 完全に絶望しきり、自棄になったのではなくむしろ理性的に死のうとするほど追いつめられているヤオが今後何をしてくるのか。

 目の前で見せつけるように自殺してくるのならまだマシで、周りを巻き込んで破滅しようとするであろうことは確実だった。

 伊丹はひっきりなしに襲い来る嫌な予感に大きなため息を吐いた。

 

 

 

「ところでロゥリィさん? 何で怒ってらっしゃるので?」

「別にぃ?」




テュカのとは言っていない。

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