亡霊、彼の地にて斯く祟れり   作:餓龍

18 / 42
hate04548 さま、nicom@n@ さま。
誤字報告ありがとうございます!

なお、前回のお酌をする「お艦」とは艦これにおいて鳳翔を指す造語であり、ややこしいのですみませんでした!

そしてなかなか炎龍討伐に出発しない。
あれー?


苦悩の守り人と生かされた王

「くそったれめ……」

 

 パソコンに向かって報告書を作成しつつ、伊丹は小さく呟く。

 テュカが妙に伊丹を自身の父親と間違えるので、そのことを最近挙動不審なミューティに問い質した結果。 とんでもないことが判明したからである。

 なんとテュカの父親は生きてはいるがここから遠く離れた地におり、しかもテュカの母親とは違う女性とよろしくやっているというのだ。

 未だ八眼童の影響が届かない遠方の地であるというのも影響し、これでは下手に夢の中であわせれば父親を父親と認識できなくなる最悪の事態になるかもしれないと考えたミューティは八眼童の協力の下。 テュカに生きている父親と会話するという夢を見せる際、父親の情報が足りないところを伊丹で補っていたのだという。

 結果、夢で見た父親に伊丹の面影が混じってしまい間違えてしまうようになったというのだ。

 

「なにやってんだよテュカの親父さんは。 娘を井戸に突き落としてでも守り抜いたんだろ? しかもそのあと炎龍から逃げ延びたんだろ? なのに娘を捜しもせずに遠くまで旅した挙げ句に現地妻作っていちゃいちゃしてるだとぅ? ふざけんなよ!?」

 

 ぷるぷる震える手を握りしめ、キーボードをぶっ叩きそうになるのを堪える。

 毎日毎日初めましてから始め、必死で炎龍の討伐を依頼しにくる壊れたヤオ。

 治りかけの壊れた心を真綿で包み、ふとした時に狂気の片鱗を零すテュカ。

 命を懸けて救った娘を迎えにくることもなく、遠く離れた地で新しい女性と愛を囁くテュカの父親。

 たまたまなのであろうが、なぜ自分の知るエルフはこんなにも問題だらけなのであろうか。

 伊丹は大きなため息とともに机に突っ伏し、だらりと全身の力を抜いた。

 

 

 

 

 

 彼は月明かりの中、定位置のベンチに腰掛けて目を瞑っていた。

 しかし、昼間の喧噪が嘘のように静謐に静まりかえった夜の風に混じる衣擦れの音にすっと薄く目を開く。

 

「……また来られたか。 異界の神とは、こちらの神々とはまた違うようですな」

「…………(微笑む)」

 

 いつの間にか数歩離れた距離に現れていた小柄な子供ほどの大きさの女性型人形に、彼は小さく息を吐いた。

 彼がこの異界の神と初めて出会ったのは、緑の人の偵察班が瀕死の彼を発見する直前であった。

 死そのものとしか思えぬその姿に、とうとうハーディの御許へいくのかと覚悟をした彼だったが、緑の人たちの医療技術によって見る見る回復。 医師の話では失った左の手足すら、作り物の手足をつければ日常生活ができるときた。

 そして、歩き回れるほどに回復した頃に人形を依代に再び現れたその神は、ただ近くに来てまるでこちらの言葉を待つようにたたずみ、気づいたら姿を消すという行動を続けている。

 何度も問いかけた。

 何故救ったのか。 何が目的なのか。 何故、何故、何故……。

 それらの言葉を、ただ無言で、じっと耳を傾けるように立ち尽くし。 そして姿を消している。

 

「貴方様は求めぬのですな。 いや、求められるのを待っておられるのか。 求めに応じる神、であられるのか」

「…………(たたずむ)」

 

 肯定も否定もせず、ただその場でこちらを見つめるガラスの瞳に、彼は自らの心を覗き込んだような気がした。

 自然と姿勢を正し、神へと向き直る。

 

「……今日の昼に、ヤオというダークエルフの者が参りました。 故郷であるシュワルツの森に炎龍が現れ、同胞が今も食われているという。 そしてシュワルツの森があるのはエルベ藩王国の国土内。 ……儂の、国であります」

 

 神へと、述べていく。

 

「緑の人。 ジエイタイは帝国以外の他国の領地であるということで手を出せぬと聞いております。 しかし、今の藩王国を支配しておるのは継嗣の王太子。 儂を疎ましく思うておった奴のこと、儂が何を言おうと黙殺されますでしょう」

 

 否、胸の内を曝してゆく。

 

「儂の国の国土が、民が炎龍に蹂躙されております。 しかし、儂等ヒトには炎龍に抗う術がござらぬ。 どうか伏してお願い申しあげまする。 民を救っては下さらぬだろうか」

 

 地に膝を突き、頭を下げる。

 帝国首都を死都へと変えかけたこの神であれば、炎龍をもどうにかできると信じて。

 地面へと向けていた視界にゆらりと揺らぐ影が被さり、冷気のようなものがあたりに漂い。

 視界の端に、見覚えのある鎧姿の者が膝を突いた気がした。

 

「お……おぉ……!」

 

 反射的に視線をあげ、周囲を見渡す。

 そこにはかつて、共に戦場を駆け抜けた戦士達が。

 自身が左の手足を失って動けぬ中、自らも致命傷を負いながらも引きずるようにして戦場から逃がしてくれた副官が。

 腹から腸を零しながらも、馬の背に自身を乗せて安全な場所まで駆け抜けた部下が。

 生前の姿を取り、異界の神から自身を遠ざけるようにしながら祈りを捧げていたのだ。

 そして。

 

 

  民に求められし王よ  死者に生かされし者よ

  吾は死者の願いを果たせし神 死者の神

 

 

 直接耳元へ囁かれるように響く声に、ビクリと身体を硬直させた。

 

 

  故に生者の願いは対価を求む

 

 

 まるで愛でるように。愛を囁くように。

 

 

  何を差し出す 何を求める

 

 

 魂を手に取り、舌を這わせるように。

 

 

  龍の命の対価に何を差し出す

 

 

 底なしの闇からのぞき込むように。

 

 

「儂、は……」

 

 気づく。

 命の対価は死、そして魂であると。

 悟る。

 ここで肯定すればこの身の魂は輪廻からすらはずされ、永劫にこの神の物になると。

 思う。

 ここで魂を差し出せば炎龍は死ぬだろう。 だが、それでは何の為に彼らは死んだのかと。

 彼らに生かされた命は、ここで捨てるに値するものかと。

 本当にできることはないのかと。

 

 

  生者の王よ 賢明なる者よ

  吾は待とう  求められる日まで

  死ぬまで生きよ

 

 

 硬直し、動かすことのできぬ身体を強引に動かして。

 最初の位置から動いていない神へ視線を向けた瞬間、ガクリと全身の力が抜ける。

 倒れ込む寸前になんとか姿勢を立て直せたが、その時には既に周囲には何も居なくなっていた。

 神も、戦友も、副官も、部下の姿も。 最初から存在しなかったかのようないつもの静かな夜の風景。

 再びベンチに腰掛け、月を見つつ思う。

 彼の神には、土壇場で生にしがみついた自身の心を読まれていたのだろうと。

 その上で、どうするのかと試しにきたのであろうと。

 右手で顔を覆い、空を仰ぎ。

 生かされた王はしばし動きを止めていた。




この二次作品では、王様を自衛隊が発見し、回収するのが少し早くなっています。
死亡した部下の人が残した思念を主人公が読み取り、それをたどって偵察隊の人が捜索していたため。
そのため、原作とは違い貴族かそれに値するほど地位が高く、少なくとも部下が命と引き換えにしてでも守ろうとした人間であると自衛隊が認識してます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。