亡霊、彼の地にて斯く祟れり   作:餓龍

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本編
亡霊、彼の地にて斯く祟れり


 ある夏の日、多くの人が歩む大通りにて。

 あまりにも唐突にその悲劇は始まった。

 突如銀座に出現した場違いな異世界の軍隊。 そしてはじまる民間人の虐殺。

 人の尊厳を冒され、笑いながら殺され、時には生きながらにしてその身を食われていく。

 

 誰かが思った。 なぜ自分がと。

 

 誰かが誓った。 この子を守ろうと。

 

 誰かが恨んだ。 なぜ殺されねばならないのかと。

 

 誰かが呪った。 なぜ奴らは笑っているのかと。

 

 誰もが願った。 それらの排除を。

 

 恨み、妬み、呪い、殺意、想い。

 それらが渦巻き、その地を満たし、そして。

 

『――――テ――』

 

 “ソレ”は始まった。

 

 最初に気づいたのは一人の兵士だった。

 掴みかかってきた母親を斬り殺し、その後ろでふるえる子供へと振り上げた剣が動かなくなっている。

 疑問に思い、自身の振り上げた腕に視線をやり。

 

「――っ!?」

 

 血塗れの腕“のみ”が剣身を掴み、空中へ固定しているのを見た。

 咄嗟に剣を手放し、その場から逃げようとするその兵士を地から伸びる腕が足首を掴み阻止する。

 倒れ込みながら後ろにいた味方に助けを求めるべく振り向いた兵士の目に映ったのは、無数に湧いた腕に襲いかかられ、半狂乱になって武器を振り回す仲間たちの姿。

 そして、

 

『―ロ――ヤ―』

 

 自身へと迫る靄のような“ナニカ”の姿だった。

 

 

 

 

 その日、その時の光景を目撃した者達は皆黙して語ることはない。

 ある者は手を合わせ、ある者は涙を流し、ある者は視線を逸らす。

 監視カメラや目撃者の記録機器、駆けつけた機動隊や自衛隊が所持していた記録機器には半狂乱になる異世界人の姿しか映ってはいなかった。

 しかし、異世界の軍が何らかの原因により壊乱したことで想定よりも遙かに犠牲者が減少していたことは確かである。

 ただ、侵略者である異世界の軍隊はそのほとんどが精神に何らかの異常をきたし、死や闇を極端に恐れるようになっていた。

 

 

 

 

 異世界の軍による侵攻、民間人の虐殺。 そしてその後の壊乱と謎の多いかの日よりしばらく後。

 異世界と日本を結ぶゲートの向こう側。 異世界ではアルヌスの丘と呼ばれる場所にて。

 

「まったく、なんで俺がこんな目に……」

「隊長、嘆いても仕方ないっすよ。 明るくいきましょう、明るく!」

「まぁそれもそうだな。 よし、いっちょアニソンでも歌うか!」

 

 銀座事件と呼称されるようになったあの日の活躍により、英雄扱いとなったらしい伊丹さんは高機動車の助手席で大きなため息をついていた。

 運転手の人(名前がわからない)と一緒にアニソンを歌い始めた伊丹さんの膝の上、全高30cmほどの和服市松人形(球体関節仕様)に憑依した俺もため息をつきたい気分である。 できないけど。

 

 交通事故で死んだら、なぜか平行世界っぽい日本で幽霊になっていて。

 

 暇なので幽霊仲間と一緒に協力して犯罪者を脅かしていたら、なぜか幽霊仲間のボス扱いになっていて。

 

 異世界の侵略者相手に全力で脅かしたら、なぜか俺単独でも人形を歩かせたり幻覚を見せたりするほどの力を得ていて。

 

 異世界に恨み骨髄な幽霊仲間と一緒にゲートの向こう側へのりこめーしたら、なぜかゲートの向こう側にいた自衛隊さんに精霊扱いされて。

 

 幽霊仲間の成仏のために協力したら、なんか現地協力者扱いされていまさらやーめたとかいえなくなりましたとさ。

 まぁ、移動一つにしろ取り憑いたものと一緒じゃないとできないし、特地では力が増えてできることが増えるし。

 自衛隊さんと一緒のほうが安心できるしで悪いことはないんだけどね。

 周囲に漂う幽霊仲間も伊丹さんがお気に入りらしいし、いろいろ楽しみだよね!

 

「おぉうっ!?」

「? どしたんです?」

「い、いやちょっと寒気がな……(ニンギョウウゴイター!?!?)」

 

 楽しいよね(現在進行形)!!

 




このあと某王都の人達に手紙と幻聴版『私メリーさん』したり、無線機に『着信アリ』してノイズたっぷりな意思疎通したり、各種心霊現象を駆使して暴れまわったり、某亜神に怯えたりする御話。

読みたい!

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