亡霊、彼の地にて斯く祟れり   作:餓龍

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ううむ、7月中の投稿は間に合わなかったかー。


会敵と祟り神

 

  くるよ

 

 

 それは、その場にいた全員の脳裏に直接響いた。

 シュワルツの森の側、ヤオの同胞が避難しているロルドム渓谷にて。

 

「何だ今のは! 貴様か!?」

「違うけど、良いからとにかく隠れろぉっ!!」

 

 渓谷の入り口にて、ヤオが同胞へ知らせに走っている間。

 渓谷入り口にて警備を担当していたダークエルフ8人とともに待機していた伊丹達は大慌てでゴロゴロそこらじゅうに転がっている岩の影へと飛び込み、突然脳裏に響いた声に混乱した男のエルフが伊丹へと弓を向けて詰問し。

 直後、巨大な顎に噛み砕かれた。

 

「くそっ、炎龍だとっ!?」

「走れっ! 一カ所に固まるな、とにかく走り続けろっ!!」

「こっちくんなぁっ!」

 

 エルフ達は即座に散開すると弓を構え、常に移動しながら釣瓶打ちを始める。

 炎龍は飛来する矢の群をうっとおしそうに振り払うと、今度は言うことを聞かない身体を叱咤して岩の影へと這うようにして隠れようとしているテュカへとその顎を開き。

 ロゥリィの思いっきり全身の力を込めた一撃に顔面をひしゃげさせつつ吹っ飛んでいった。

 

「すげぇ……」

「すまんちょっとどいてくれっ! あとエルフの女の子をこっちに連れてきてくれ頼む!」

「えっ、あ、あぁ。 わかった!」

 

 思わずと言った様子でぽつりとつぶやいたダークエルフの女性を押しのけるようにして高機動車へと走る伊丹の背後では大地を転がる炎龍が立ち上がろうとして躓き、その真上をすり抜けたレレイの爆轟波の奔流が隆起した岩壁を深くえぐる。

 地上での不利を悟ったのだろう、追撃してくるロゥリィへ炎を吐きかけて眼眩ましからの右鉤爪で距離をとると空へと舞い上がった。

 レレイが再度連環円錐を展開するも、すでにそれを脅威と見なしたのだろう炎龍はその射線上からすぐに逃げ出してしまう。

 

「くそっ、炎龍の情報を聞き出したらあとは逃げるだけの簡単な任務じゃなかったのかよ!? LAMそんなに持ってきてないぞ!」

 

 高機動車からすぐに使えるようにしてあるLAMを引っ張り出すと安全装置を解除し、先端のプローブを引き出して捻って固定する。

 先ほどのダークエルフの女性がテュカを背負うようにして走ってきたのを高機動車の影へ誘導し、自身は素早く周囲を見渡して地形を把握。

 ロゥリィからの攻撃が届かず、レレイの攻撃を余裕を持ってかわせる高度の空中から悠然とこちらを観察する炎龍から死角になり、なおかつ射線の通る場所へと走ると炎龍へとLAMを構えた。

 

「あたれぇっ! ……っ、駄目かっ!!」

 

 照準し、発射するも弾頭はわずかにそれて炎龍の背後へと飛んでいってしまう。

 有効打になるLAMは単発である以上連射はできず、これで炎龍が逃げ出さなければ再び高機動車まで走って次のLAMをとりださねばならない。

 祈るように睨みつける中炎龍は咆哮をあげ、きびすを返そうとして。

 

 

  おいで

 

 

 ふたたび脳裏に直接響いた声にビクリと勢いよくこちらへ振り向いた。

 

 

  おいで

 

 

 響く声はとろけるように甘く、やさしく、そして。

 

 

  おいで

 

 

 有無を言わせない力があった。

 

 

  おいで

 

 

 ギシリ、と。

 何かがきしむ。

 

 

  おいで

 

 

 変化してはいけない何かがゆがみ、ひずみ、曲がり、捻れ、うねる。

 

 

  おいで

 

 

 大地どころかその場にあるすべてが、大気も、木々も、自身の肉体さえもが揺さぶられるかのよう。

 伊丹も、レレイも、ダークエルフ達も誰もが立つことすらできずに大地へと倒れ込み、起きあがることすらできない。

 例外はハルバードを杖に立つロゥリィと、未だ空にて羽ばたく炎龍。

 そして。

 

 

  おいで

 

 

 いつのまにか高機動車の屋根の上に立ち、炎龍へと招くように両手を広げる人形のみ。

 やがてゆらぎが世界を覆わんと広がり、気の弱い者から次々と気を失い。

 伊丹も視界がブラックアウトする中、最後に聞き取ってしまった言葉にあきらめの境地に至った。

 

 

  あぁ、くやしや くちおしや  いまだとどかず チカラたりず

 

  喰らわねば あつめねば  呪いを  想いを たりぬ

 

  もっと もっと  もっと    もっと もっと

 

   もっと もっと もっと もっと  もっと もっと  もっと

 

  いッパい たくさん  すべテを

 

  神の呪を

 

 

「(あ、これあかんやつや)」

 

 

 

 

 

 すっごい速さで逃げていく炎龍を見送りつつ、思う。

 

 やりすぎた。

 

 いやだって、炎龍を護るとんでもない力からすっごいドヤ顔な思念を感じたんだもの。

 イラッミ☆ ってきておもわず全力で異界に隔離されてる炎龍の魂魄引きずり出そうとしちゃったよね。

 空間グニャグニャ歪みまくって、あっこれアカンと揺らぎにカウンター当てて相殺しようとしたら一瞬で修正されたよね。

 空間を修正した力からドヤ顔な思念を感じるよね。

 

 キレルヨネ。

 

 というわけでもう容赦しませーん♪

 手段を選びませーん!

 皆ー! お仕事の時間だよー!!

 いっぱい、イっぱい集めてきてね!!

 全部呑むから!

 呑んじゃうから!!

 

 やったろうじゃねーかコンチクショー!!

 

 てかぶっちゃけ亜神であるロゥリィ喰ってこちらの正式な神格さえ手に入れれば権能の乗っ取りも可能だと思うんだよ。

 Tさんから、当人が自身から差し出したモノ以外の魂は喰っちゃ駄目って怒られてるから我慢してるけども。

 なりふり構わず喰っていいなら、帝都祭りの時点でロゥリィ喰って、帝都の人口半分にするぐらい喰って、ついでに神官喰えば神喰らいの神になれたと思うんだ。

 

 まぁ、ロゥリィ喰った時点でこちらの神の妨害を受けなければの話だけども。

 

 今のところ炎龍への加護以外はこちらの神々からの妨害はないようだけど、実際に妨害をかけてくるならどんなことが可能なのかわからないのが怖い。

 いきなり二つ目のゲートをとんでもない場所とつなげてくる(太陽表面と東京とか)、逆にゲートを閉じてくる(世界間移動は神域利用しても物質を通せない)、地球人のみがかかる致死率100%の空気感染する伝染病。

 少し考えるだけでいくらでも可能性は考えつくし、慎重にやらなければいけないのはわかっているけども。

 

 あぁ、身体が欲しい。

 こう、本気出せば惑星破壊できる比類無き物理攻撃力を持った「退治機械七号」的な。

 炎龍にかかっている加護、呪詛は完全遮断だけど物理はガンスルーなんだよね。

 正直頭に大型爆弾一つで一発なんじゃなかろうか。

 つまり完全に自分に対する対策なんだよね。

 呪詛完全遮断とか物理攻撃ができない自分に対する完全なメタ対策じゃないですかやだー!!

 

 ……うん? つまり物理ならOK。 物理なら自衛隊にまかせればいいじゃん。

 

 よし、自衛隊に頼ろう。


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