亡霊、彼の地にて斯く祟れり   作:餓龍

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SERIO さん、244 さん、誤字報告ありがとうございました!

わんこ派 さまとねこです。さまにイラストを描いていただきました!

まずはわんこ派さまです!
あ、いい意味で閲覧注意ですね。

まずはナユが意識を取り戻した後のようです。

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実に美人さんですね!

次はオトナリ様ですね。

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一言を読んで爆笑してしまいましたw

続いてねこです。さまからの頂きものです。

両方八眼童ですね。

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一枚目はどこかイヌカレーな雰囲気ですね。
二枚目は印象だそうでw

本当にありがとうございます!!


祟り神の進捗

 帝都南苑宮で開催されている日本からの使節団を歓迎する午餐会にて。

 壁の天井近くの装飾に腰掛けつつ、賑やかな眼下の様子を見ながら中身入りの大盃をクルリと回す。

 自分が炎龍討伐直後に宣戦布告をした時から、ハーディーは冥府の神としての権能をフルに使っているのだろう。

 アルヌスの丘やイタリカの街、ダークエルフ達の集落などの完全な支配領域以外では気を抜けば亡霊仲間達を冥府に奪われかねないので、祟りや心霊現象の激減した帝都は以前の活気を取り戻し始めている。

 それにともないハーディーの神官が帝国でもてはやされており、異界の神恐れるに足りずなんてぶち上げているのまで出てくる始末だ。

 

 まぁ、ナユの『神の存在を否定する神呪』で祟れば神官だろうが使徒だろうが祟り殺せるのだが。

 

 こんなところで神呪の無駄遣いをする必要はないし、正直帝国を滅ぼすのに必要なので放置している。

 それに皇帝モルトは馬鹿ゾルザルに主戦派を、皇女ピニャに講和派を率いさせることで一時的に帝国を割り。

 後に講和の邪魔をするゾルザル率いる主戦派を、日本の後ろ盾を得たピニャ率いる講和派に鎮圧させることで様々な問題を解決しようとしているようだ。

 そして自分は皇帝位をピニャに譲り、その後ろから操ろうと考えている。

 

 正直嘗めるのもいい加減にしろという話である。

 

 こちとら『死者の最後の願いを叶える祟り神』なのである。

 というより複数の国や種族を攻め滅ぼして虐殺してきた帝国への怨嗟や怨念は、当然ながら複数の国や種族を祟り滅ぼせる規模で溜まっているのだ。

 最低でも現皇帝には死者が納得する形で責任を取ってもらい、帝国そのものも国号を変えるぐらいしないと呪詛が残りまくってしまう。

 その意味でも一度帝国には滅んでもらうか、その一歩手前ぐらいにはなってもらわねばならないのだが。

 もちろん日本に侵攻した戦争責任も取ってもらわねばならないので完全には滅ぼさない。

 滅んで楽にしてなどやらない。

 絶対にだ。

 

「ノリコの暗殺は実行犯が自首して失敗、ニホン人奴隷は落盤で両方行方不明。 で、今度は大丈夫なのよね? また失敗したら……」

「言い訳のしようもございません。 今度こそ万全を期すためハリョの精鋭を呼び寄せましてございまする。 ウクシ、カクシ、コルメの三名にございまする」

「なら結果で示しなさい。 確実な結果で、ね」

 

 なんて考え込んでいたら皇帝と馬鹿とピニャが入場してた。

 入場口にてテューレと豚が会話してるが、それ自衛隊に筒抜けですから!

 ていうかテューレの服に盗聴器ついてる(なお潜入中の自衛隊員にテューレ自身が接触し、日本への情報提供を志願した模様)から!

 ついでにいうと落盤で死んだのは犯罪奴隷と、不当に奴隷を酷使したり体罰とか色々やっていた現場監督のみ。

 日本人の二人は落盤直前に神隠しからの神域を介した長距離移動で、アルヌスの丘の自衛隊基地に送り届けて救出完了済みである。

 宣戦布告をした後では地下に当たる坑道の日本人を救出できなかったろうから、順番を間違えなくてすんで一安心だ。

 

 

 足踏み。

   機関始動。

 胴造り。

   機体の最終確認。

 弓構え。

   タキシング開始。

 打起し。

   滑走路脇の待機場で待機。

 引分け。

   滑走路への誘導、滑走開始位置へ。

 会。

   加速、滑走開始。

 離れ。

   十分に加速した機体がふわりと浮かび、離陸。

 残心。

   上空へと舞い上がる機体が旋回し、上空を舞う僚機と翼を連ねて編隊を組んだ。

 

 アルヌスの丘の自衛隊基地、その滑走路脇に造られたミニ飛行場にて。

 お艦人形で矢をつがえずに弓を引き、放つことでラジコン模型飛行機に宿らせた英霊に加護を与えて再び空を舞わせる。

 目に見えず触れられず聞こえもしない電波で操るラジコンであれば、操作の簡単さもあり英霊一柱だけでも少しの加護を与えるだけで生前のように操縦できるようになるのだ。

 ラジコン飛行機で初めて飛ぶ英霊達は特性を理解する為なのか様々な飛び方を試しており、機体によってはすでに曲芸飛行にまで挑戦していたりする。

 そしてすでに前日に飛んでいた英霊達はドッグファイトをしてみたり、地上すれすれを地形追従飛行してみたり、急降下からの引き起こしで地面ぎりぎりを攻めたり、ラジコンヘリや撮影用ドローンなどに挑戦してみたりしている。

 滑走路脇のスペースでは、私物として特地にこれらラジコン軍団を持ち込んでくれた自衛隊員達がラジコン飛行機の準備や補給に整備をしたり、非力なラジコン飛行機になんとか武装や偵察機器を搭載するべく試行錯誤をしていたり、英霊達の操るラジコン飛行機達を見上げて歓声を上げたりしていた。

そして。

 

「ぬぅぉぉおおお! たとえ護国の英霊だろうと負けられるかぁ!」

「左後方より隼、零! 右上方から零の逆落としくるぞ!」

「おうっ!」

 

 わざわざ特注で特大サイズの最高級ファントム型ラジコン飛行機を発注し、さらに整備班を代表する有志が魔改造を施したファントムを操って、英霊のなかでもさらに優れたエースの操縦するラジコン飛行機相手に奮戦する神子田と久里浜の姿があった。

 キャノピーの位置に複数の小型カメラを設置して前方に左右後方、上方と四枚のディスプレイに表示。

 廃棄予定の本物のコックピットのパーツを使った操縦席型魔改造コントローラに乗り込み、英霊の搭乗する編隊を相手に奮闘する神子田を椅子の後ろから乗り出すようにして久里浜が補佐。

 そんな馬鹿二人を非番の自衛隊員達が取り囲んで声援をあげていた。

 実に馬鹿ばっかである。

 まぁ、声援をあげている自衛隊員達をさらに上回る数の英霊達も声援をあげているのだが。

 

 

 がぎぃんとロゥリィのハルバードに弾かれた反動に逆らわず、『肩を押されるままに』後方へと跳躍。

 ハルバードを構え直す隙を与えずに『背中を押されて』前へと進むが、突き出された柄に『炎龍の左腕』を盾にして防御。

 『肩を横に押されて』側転して距離をとり、仕切り直した。

 

「その動きぃ、やっかいなのは認めるけど人の動きではないわぁ。 きもちわるぅいわよぉ?」

『“これが我等だ。 我等は集団にして群、軍ぞ。 我等が戦うのに単独で戦うわけがあるまい”』

 

 ナユの身体を使った戦闘訓練につきあってくれているロゥリィに返しつつ、今度は正面からではなく翻弄するような一撃離脱に切り替える。

 アルヌスの丘一帯を満たす自分から実体を持たない腕だけや脚だけの分霊を生みだし、ナユの身体を押したり引いたりして予備動作の一切無い急激な加減速を実現させる。

 見鬼の才持ちにはホラーな光景を生み出しつつも縦横無尽に駆け回り、すれ違いざまに右手で引っかけるようにブン殴っていく。

 さらに手を組んで足を乗せて投げあげたり、足裏をあわせての真下への跳躍、空中疾走と上下の動きを組み合わせ。

 しかし、ロゥリィの防御を越えられずにいた。

 

『“よきかな、よきかなっ!! 戦神の使徒が底、いまだみえず! やはりヒトの紡ぎし業はただの力を易々と越えてゆく! よきかなっ!!”』

「いうほど余裕があるわけじゃないのよぉっ!? 付き合わされるこっちの身にもなりなさいよぉ!!」

 

 たとえ『神の存在を否定する神呪』や呪詛を使わなくても、暖かで力強い生命に溢れたナユという器であれば。

 (元亡霊で祟り神なので)苦手な正の加護を施し、(元亡霊でry)苦手な直接物理干渉による補助だけでも頑張ればロゥリィに焦らせるぐらいならできるのではないかと考えていたのだ、が。

 

 実に甘い考えだった。

 

 甘すぎて慢心しすぎて油断しすぎていて。

 いつのまにか自身を超越者であると考えていたことに気づいた。

 死して停滞する存在のくせに、未来へ向かって歩むことのできる生者のつもりになっていた。

 これはいけない。

 自身は死者。 すでに死した、過去へ還る者。

 ただ出自のおかげで生前のように思考し、行動に移せるだけの亡霊である。

 たとえ世界に拒まれた生きる死者であり、世界を跨ぎ繋ぐ神であり、冥府へゆくまでの旅路を守護せし死者の神であろうとも。

 常によりよき未来へと歩み続けるヒトの紡ぎし業に、ただの力任せの暴力でかなうはずもないのだ。

 

 ゆえに。

 

 死者でも変われずとも得ることができることはすでに証明されている。

 ならば得ればいいのだ。

 ヒトの業を操りし経験を。

 神の御業を繰りし資格を。

 

 

 毒をあおったモルトがぶっ倒れるのを見つつ嘲うテューレを見下ろしつつ、大盃に乗せた供物を取りあげる。

 テューレの縁を通して怨嗟や憎悪を集める際、彼女たちには互いの記憶を夢としてみるように呪をかけた。

 テューレはその呪を通してみる同胞の記憶を、ただの悪夢であるとして切り捨てることで目をそらし、精神の安定を図っているが。

 奴隷として生き地獄のただ中にいるテューレの同胞の中には、この悪夢が同胞の記憶であるということに気づいた者達もいた。

 そして、その中にはテューレの記憶の夢も含まれていると見抜いた者もいたのだ。

 テューレとともに幼少期を過ごし、他の者よりもテューレについて詳しかった彼女はテューレのやりたかったこと、今どんな環境にあるのか、そして今なにをしているのかに気づき。

 テューレの夢で知った異界の死者の神である自分に対し、こう願ったのだ。

 

『彼女の死後、その魂が輪廻の輪に還り救われますように』、と。

 

 生きている身で自身の心臓を捧げて対価とし、心臓を失ったことによる死後に死者の最後の願いとして。

 夢を通しての限定的な情報のみで、ここまで的確に最大の願い方を実行するその知恵と度胸。

 そしてその献身故にその願いは聞き届けられるだろう。

 たとえテューレ本人に死後の魂を捧げてでも叶えたい願いがあろうとも。

 すでにハーディーの冥府を飛ばし、輪廻の輪に還った彼女の身体に傷一つつけずに抜き取った心臓を喰らい、胸元に垂れる暗紅色の血を拭い。

 

 ワラウ。


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