盛大に更新遅れました……。
次も少々かかりそうです。
部下達の帝都脱出を自衛隊に支援してもらう約束を取り付けたボーゼスは、皇城にいるはずのピニャを救出せんと一人馬を駆り。
途中の検問に引っかかり、矢を射かけられる中帝都の外へと逃走していた。
「どうにかして回り込めない!? ピニャ殿下を迎えにいかなくては……!!」
「だー! 無理だっつってんだろ!? てかしっかり掴まって頭下げてろ!」
すでにボーゼスの馬は矢で倒れ、追いかけてきていたヴィフィータの馬に拾い上げられて同乗している。
当然全力で駆けさせてはいるが、後方より追いかけてきている騎馬隊と比べればやはり速度は劣ってしまう。
じりじりと距離を詰められ、迫る圧迫感にこのまま息が止まってしまうのではないかと錯覚し。
「みえたっ! てかマジで待っててくれたのか!?」
それでもなんとかおいつかれずに帝都の外へと飛び出せば、視界に入ってきたのは『鋼の天馬』の周囲に展開するジエイタイの姿。
その中の一人が挙げていた手を振り下ろすと同時に遠く破裂音が聞こえ、後方から転倒音がいくつか聞こえる。
「頼むあとすこしっ、頑張ってくれっ!!」
全力疾走を続け、もはや未だに倒れていない方がおかしい自身の馬に声をかける。
答えるようにわずかに速度が上がり、しかし。
周囲へと追っ手の弓騎兵のものであろう僅かな矢が降り注ぎ、そのひとつが騎乗する馬の後ろ足をとらえてしまった。
馬が転倒し、悲鳴を上げることもできずに宙を舞う身体。
視界の端で同じく投げ出されたボーゼスの姿をとらえ、反射的に衝撃に備えてぎゅっと目をつぶり。
「よし、搭乗開始! 負傷者を残すな、落ち着いて行動しろ!」
力強い腕に抱き留められた。
思わずぽかんと見上げれば、至近距離にある男の顔。
呆然としているうちにひょいと肩に担がれてしまったが、そのおかげですこしだけ冷静になれた気がした。
みればボーゼスもほかの男達に担がれ、いつの間にか現れた銀髪の人形と共に鋼の天馬へと運び込まれている。
視線を巡らせば、まるで波濤のように押し寄せる軽騎兵の集団が押し包むように突撃してくる姿が。
ジエイタイの兵達がその手のジュウで薙払うが、それでも彼等はとまらない。
胸を、腹を、四肢を撃ち抜かれ。 それでも突撃の勢いをそのままに、槍を構えて飛び込んできた。
が。
我 突撃ス 我 突撃ス 目標騎馬隊 目標騎馬隊
その直前に高空から降り注ぐように飛び込んできた濃緑の影がばらまいた粒が、騎馬隊の馬の鼻面で小爆発を起こし。
驚いた馬達が次々に転倒し、軽騎兵による突撃の第一波はわずかにジエイタイには届かずに終わった。
「今だっ! 搭乗! 搭乗!!」
第二波到達までの僅かな時間を利用して鋼の天馬へと乗り込むジエイタイ達。
わずかに浮き上がった鋼の天馬が滑るように全体の横へとこちらに後部の開かれた入り口をむけるように移動すると、側面が開いて姿を見せたジエイタイが大きなジュウを腰を落として構え、盛大な爆発音と炎をまき散らし始めた。
まるで見えない腕に殴り飛ばされたように次々と落伍する騎兵達。 そこへさらに再び高空より急降下する濃緑の影……翼を羽ばたかせない鳥の人形が先ほどの粒を騎馬の鼻先へ正確に投下し、小爆発によって騎馬のコントロールを狂わせて突撃の勢いをそぎ落とす。
それでも突撃する騎馬隊を完全には押しとどめられず。 されど軌道をそらすことには成功した。
「次がくるぞ、急げ急げっ!」
「搭乗完了しました!」
「誰も残していないな!? よし上げろ!!」
突撃軌道をそらされた第二波は勢いを保ったまま大きく旋回し、第三波とタイミングを合わせての後方からの突撃を始めた。
それらの前後から挟むようにしての突撃に対し、ジエイタイは全員が鋼の天馬へと乗り込む。
それを肩に担がれたまま見ることしかできなかったヴィフィータは直後、身体が急に下に引かれるような感覚と共に入り口から見える光景が急激に下に流れるのを見て思考を停止させた。
「えっと、いい加減おろしてくれないか?」
「ん? おぉ、すまない」
自身を乗せる逞しい肩を叩いておろしてもらうと、窓へと近づいて下を見下ろす。
そこには空へと舞い上がった自分達の乗る鋼の天馬へと槍を振りかざす騎兵達がおり。
窓の外をクルリと翼を振った濃緑の鳥人形が旋回して離れていくのを見て、ようやく自分達が助かったのだと実感がわいてきた。
先ほど自身を担いでいたこの場のジエイタイの指揮官のようである男に、ピニャ殿下を助けてと詰め寄るボーゼスをなだめつつ、今更のように焼け火箸を押し当てられたかのように痛み出した矢傷を気にしながら彼女は大きく息を吐くのだった。
大型ヘリのチヌークは夜中にアルヌスへと帰還した。
次々とおろされる民間人や政府派遣の使節団、そして騎士団の負傷者達。
当然特地入りしていた各国の報道者達は我先にその様子がよく見える場所を陣取り、カメラを回して報道している。
代表取材チームの一部は警備の自衛隊員を相手に政府の使節団への取材を申し込み、その中に栗林菜々美の姿もあった。
当然けんもほろろに追い返された菜々美はなんとか警備を越えて使節団に突撃インタビューできないかと機会をうかがっていたが、ふと感じた悪寒にふりむく。
「え、えぇー……?」
その視線の先では、古村崎が怒鳴るようにしてカメラに向かって語りかけていた。
なぜかその周囲にはぽっかりと誰もいない空間が開き、代わりに周囲の篝火の明かりでいくつもの影が踊っている。
菜々美の視線はゆらゆらと揺れる影に固定され、次第に周囲の音も遠ざかっていく。
やがて人の影の数が周囲の人間よりも多いことに気づき。 それらが本来あり得ない、光源へ向かって延びる人の影であると理解し。
「ちょっと失礼」
「っひゃぁああ!?」
ぽんと叩かれた肩に素っ頓狂な声を上げた。
「ななななんえすかっ!?」
「あぁ、ちょいと引きずられかけてたんでな。 ああいうのはあまり見つめたりしないようにって注意は聞いていたか?」
「聞いてますが、あれがそうなんですか!? ってあれ? 影がいない……」
そりゃあ本来見えちゃいけないものがいつも見えるわけがないさ、と振り向いた先にいた袈裟で禿頭のイケメンに笑顔で頭をぽんぽんと撫でられつつ、菜々美は逃がしたネタにふてくされる。
加害者になって被害者の夢を見たくなけりゃ程々になー、なんていいながら牧師服の男性(ナイスミドル)が修道服の女性(清楚な金髪美女)を逆エビ固めしているのを止めにいった袈裟の男性(高身長禿頭イケメン)。
アレ撮っときます? と聞いてくるカメラマンに首を横に振りつつ、菜々美はふと思う。
そういえば、ここ特地に結構な数がいるあの人達みたいな宗教関係者って、なんで宗教それぞれの正装をしているんだろう、と。
まるで宗教関係の正装の博覧会のようになった光景を思い返し、首を傾げる菜々美の視界外にて踊る影にも気づかずに。
伊丹はベルナーゴ神殿の最奥、祭壇の裏から地底深くへ続く階段を下りつつ、一段降りるごとにいや増していく圧力にさっそく逃げたくなっていた。
背中に震えるロゥリィが張り付き、右腕にはテュカが、左腕にはレレイが抱きついており。
ヤオもまたひきつった表情で斜め後ろの至近距離にいる。
さすがに歩きづらいため、アルフェ達のように地上で待っているかと聞くも首を横に振るばかり。
おそらく数分程度のはずの道のりではあったが、やたら時間が長く感じたその先でとうとう開けた空間へと出る。
そこにあったのは巨大な神殿であった。 広大な地下空間に無数の柱が立ち並び、その最奥には神官達が祈りを捧げる祭壇が安置されている。
そして、今まさにそこへ力としか呼べないものが集中し。
『"いらっしゃい、勇者達よ。 そして異界の神よ"』
まるでSF作品に出てくる空中投影型ホログラムのように、向こう側がかすかに透けて見える銀髪を腰まで伸ばした二十代ほどの女性が現れた。
ガラス細工のような繊細な美貌に静謐な微笑を浮かべ、伊丹達へとその繊手を緩く広げ。
我等は招かれたぞ、異界の冥府の神よ
貴様に死を与えるために
忽然と伊丹との間に現れた、霧を纏う人形の姿をした異界の神の姿に表情をかすかに歪めた。
轟々と膨れ上がる力としか表現のできない圧力にもはや忘我の域に達した伊丹は祝詞を上げ始める。
毎度のことながらどうしてこうなったと嘆きながら。