亡霊、彼の地にて斯く祟れり   作:餓龍

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大変お待たせいたしました。
活動報告でも書いておりますが、リアル事情により八月いっぱいぐらいまで更新間隔が相当開きそうです。
これからもお付き合いいただければ幸いです。

そして今回はホラー要素ゼロです。
次回以降はなんとか盛り込んでいきたいなぁ。


244 さま、誤字報告ありがとうございます!

そして ねこです。 様よりまた挿絵を頂いておりました!
ヒトガタの八眼童だそうです。

【挿絵表示】

実にやばい感じですな!




 

  まずは名乗ろう

 

  我等が人の子より奉じられし真名は 異門不空羂索神 幽徳院 禍津蛭子命

 

  そして汝等が人の子より奉じられし真名は 八眼童

 

  界を渡り 黄泉路を守護せし死霊の報神である

 

『ならば私も名乗りましょう。 私は地底の深淵、冥府を支配する神ハーディ。 歓迎しましょう、異界の神に至った死霊よ』

 

 

 伊丹の祝詞が響く中、その場の人間の脳裏へは囁くような声が聞こえていた。

 相対する二柱の神のうちハーディは神威を強めるが、八眼童はむしろ広大な地下空間を満たすように気配を広げてゆく。

 

 

  我等が意は汝が死 そして我等が人の子の魂の奪還なり

 

『でしょうね。 ですがあなたもわかっているのでしょう? この世界においての死後の魂、その大半が至る冥府の管理は私の権能。 私の領域なのです。 領域を侵すというのならば、その力でもって勝ち取りなさい』

 

 

 ハーディはその繊手を緩く広げ、薄く笑みを浮かべる。

 自身の勝利を疑わない、負けたとしても娯楽として楽しむという超越者の笑みを。

 

 

『しかしここは地の底、冥府の入り口。 私の領域です。 この場においては私こそが絶対であり、法則そのもの。 今は神格を得ているとはいえ、たかが死霊ごときにはあらがうこともできぬと知りなさい』

 

  否

 

 

 言葉とは裏腹に、いかにあらがうかを楽しみにしているハーディの表情が凍り付く。

 八眼童が現れてから地下神殿全体を満たしていた濃霧を払おうと振った右腕が何の効果ももたらさなかったが故に。

 さらに愕然とするハーディの眼前で暗い闇は白い濃霧に払拭され、神殿の石柱は朱塗りの鳥居へと姿を変え。

 その場は無数の鳥居が連なり、濃霧に視界を遮られた無限に続く参道へと変化した。

 

 

  此処は我等が胎の懐

 

  我等が故郷 日ノ本の国也

 

 

 八眼童の領域である異界と、ハーディの領域である冥界への入り口そのものを『重ねて入れ替える』所業に絶句するハーディ。

 さらにその彼女を囲むようにして、この場にいた人々と入れ替わりに次々と様々なモノ達が現れていく。

 

 翼の生えた車輪。 蛇のからみつく杖を掲げた青年。 巨槍を持ち、鎧を着込んだ女性。 様々な服装をし、器物を持つ獣頭人身の者達。 多くの腕に複数の器物を持つ者。

 葉団扇を持つ偉丈夫。 玉を、鏡を、剣を持つ者達。 稲穂を持つ女性。 三足の黒い鳥。 九つの尾を揺らがせる獣。 炎を帯びた龍。

 酒杯を呷る大男。 城のような大きさの骸骨。 響く蠅の羽音。 武具を纏う国際色豊かな武人達。 樹木の角を生やした獣の背に乗る女性。 炎龍ほどもある巨大な鳥。

 霧の向こうに霞む巨体を持つ有角の蛇。 虚空より伸長する長すぎる人の手足。 血染めの帽子を被る小人。 割れた空間からのぞき込む巨大な瞳。 赤い外套を羽織った紳士。

 

 姿も感じられる力の性質も様々な彼等は無限に続く参道を囲むように埋め尽くし、なおも次々と姿を現し続ける。

 古今東西様々なモノ達のうち、八眼童が縁を結ぶのが間に合ったモノ達のことごとくがここに現れていた。

 ソレ等のほとんどはハーディに遙かに劣る力しか持っていなかったが、もはや数えることすら困難になるほどの数現れた彼等の力を合わせれば、ハーディを容易に消し去ることも可能であろう。

 

 

『まさか、これらすべてが神ですって!? 異なる世界に神は干渉できないはず……まさか!?』

 

『"しかり。 我等が界において、神霊妖仏とは人の想念。 その結晶。 我等が人の子がある地において、我等が在らぬ理由もなし"』

 

 

 動揺するハーディへと答える『神殺しの神器(ナユ)』が右腰に携えた神刀を左手で抜刀し、眼前にてたゆたう『神呪の酒杯(深朱の呪杯)』よりこんこんと溢れ零れ落ちる『神酒(神の存在を否定する概念)』を纏わせる。

 多重に響く『謳巫女(ミューティ)』の祝詞のなか神刀を切っ先をハーディの心臓に向けた上段に構え、柄尻に『炎龍の左腕(右手)』を添え。

 ぎしり、と空間そのものを踏みしめて。

 

 

『"自らの冥府に墜ちよ、冥府の神よ"』

 

『そうやすやすとやられるとでもっ……!? このっ、離しなさい!?』

 

 

 地に零れ落ち、無限に続く参道へ広がり、踝まで満たした神酒は地より沸き上がる色のない不透明な濃霧となる。

 濃霧は死者の姿をかたどり。 ハーディへと群がり。 その四肢を、顔を、髪を、身体を、権能を拘束していく。

 無数の死者に拘束されたハーディへと繰り出された神刀の切っ先はその心臓へと突き立てられ。

 

 

『かっ……ぁ……!?』

『"それが汝の人の子の願いである"』

 

 

 ばしゃり、とその形を崩し。 神は墜ちていった。

 

 

 

 

 

  終わったか

 

  はい 感謝いたします

 

 

 ここではないどこか。

 全てが在り、故に無意味と化したソコに言葉という概念が現れ、意味消失していく。

 

 

  我等ではこの子等を取り戻すこと能わず

  誇れ 器の神よ

 

  ありがとうございます 古き神々よ

 

 

 ソレは本来、あり得ぬ存在。

 世界を産む創世の神ですら意味消失する、世界の狭間『混沌にして根源』の領域において自我を保ち。 自身だけでなく認識した相手の存在を確立させ続ける。

 それを成し遂げるのは、もっとも新しき神となった亡霊。

 神秘を内包せぬ世界より零れ落ち、神秘を内包する世界にて死した人間。

 

 『魂を初めとした神秘を持たぬ亡霊』。

 

 矛盾したまま存在を確立したその亡霊は、『矛盾を矛盾のまま肯定する』概念となった。

 故にその新しき神に受け入れられぬモノはない。

 それは光と闇を、炎と氷を、生と死を。

 あらゆる対極の存在を内包し、肯定し、行使する。

 世界にすら縛られることはない。

 故にその神を縛ることができるのは人の想念のみ。

 その神もまた、人であったが為に。

 

 

  彼の神は放逐し 隔離した

  あとは生者の領域

 

 

 偏在する無数の自身、そして自身を器とする彼等と共に。

 世界の狭間、『混沌にして根源』に同化する領域において。

 それは幾多の世界を跨ぎ、繋ぐ神となった。




以下裏設定という名の駄文です。


主人公の出身世界は、魂も神霊妖仏も魔力もマナもオドも気も生命力も神秘関係が一切実在しない、『純粋物理法則に支配された完全な物質世界』です。
そんな世界の人間ですから、気も魔力もオドも生命力も魂魄も持っていませんでした。
ところが自然現象としての空間の揺らぎで、それらが実在するゲート日本に落ちてきてしまいました。
結果『ゲート日本の世界基準では生命体ですらない、生きて思考する人間』という矛盾存在となってしまいます。
ここでゲート日本に来てから時間があれば、世界は矛盾を何らかの形で解消しようとしていたでしょう。
ところが世界を渡った時点で瀕死だった主人公は、『生命体ですらないのに生きて思考する人間が死亡する』というダメ押しの矛盾を発生させます。
死者は成長できない(変化できない)という原則も相まって、主人公は『生きているように行動できる亡霊』になりました。
そうして亡霊にはありえない、確固とした思考力を維持したままの亡霊が完成したわけですね。
以降の本編での変化はすべて、存在そのものが矛盾している主人公だからこその物です。

……まぁ、亡霊主人公の小説について設定こねくり回してた頃のをそのまんま使っているので、それこそ矛盾していそうですがそれはそれで。。

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