亡霊、彼の地にて斯く祟れり   作:餓龍

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まだまだ上手く書けてはいませんが、とにかく書かないとエタってしまいそうなので投稿していきまするー。

244 さま、オカムー さま、誤字報告ありがとうございます!


神器と愚者の眼と軍人

 

「(あぁ、ああ! まさかこんな日がくるなんて! やっと、やっと私は……!!)」

 

 

 ゾルザルの命により、現在の帝国の中枢とその護衛の軍は帝都より北東へと進んでいる。

 その隊列の後ろのほう、ゾルザルや主戦派議員達の為の食事等に関する荷車の集団にて。

 馬の背に揺られながらテューレは自身の腹を撫で上げ、ほぅと熱い息を吐いた。

 

 あの日、帝都の王城から二人の王族が姿を消した。

 皇女ピニャは、直接ゾルザル達のいた部屋に現れたイタミによって連れ出され。

 皇帝モルトもまた、自身の寝室から誰の眼に触れることもなく姿を消した。

 それぞれの部屋の前にいた歩哨は扉は開いておらず、不審な物音も人影もなかったと証言しており。

 さらに言うならば、当時の気象は晴れ。 城内のどこにも霧のようなものの目撃証言はなく、いたって平常通りであった。

 なお忽然と姿を消した二人の王族は、数日後に到着した早馬の伝令によってイタリカの街にいることが判明。

 そのうえ帝国の皇女であるピニャが皇位継承権を放棄。 そして『連邦』の発足を宣言しているという。

 

 

「(あの女は彼の君の庇護下にあります、放置しても問題はないでしょう。 そして連邦はその発足の目的上、反発する帝国を喰い潰して滅ぼす)」

 

 

 右手を手袋から引き抜いて眼前に掲げ、手首までを覆う痣でできた精緻な模様をみる。

 じわりじわりと熱く疼く四肢の先端には、着衣に隠れて見えないが徐々に浸食するように痣が広がっていた。

 それは帝国の零落の証。

 テューレの全身が精緻な痣に覆われた時、それは帝国が完全に消滅した時だろう。

 

 そしてこれは、帝国の指導者にも現れる。

 

 ゾルザルにもテューレと同じ痣が現れ、同じ範囲を覆っている。

 そして同時に、覆われた範囲が麻痺してもいるのだ。

 自らが支配しているモノが減るほど身体の自由は利かなくなり、やがては国とともに死にいたる。

 逆に言えば帝国が滅びない限り死ねない。

 あれほど欲しがっていた帝国とともに死ねるのだ。 本望だろう。

 

 

「(あぁ、はやく、はやく、はやく……!!)」

 

 

 ゾルザルは迫る自身の死に怯え、同じ症状を受けているテューレに依存するだろう。

 依存し、ただでさえ足りない頭を働かせることもできず、愚かな傀儡として帝国とともに終わる。

 

 その呪いの基点が、テューレであることにも気づかずに。

 

 そして完全に呪いが進行しきり、帝国が滅び、傀儡が死のうともテューレには終わりはない。

 八眼童の端末の一つとして生き続けることになるだろう。

 国と支配者を結びつける、神器の一つとして。

 

 

「(殺しにきて(愛しにきて)!!)」

 

 

 呪詛を納めた熱く疼く胎を撫で上げ、テューレはワラウ。

 

 

 

 

 

  燃える。 焼ける。 消えていく。

 

 辺り一面を埋め尽くす黒煙と炎のなか、彼はそれを見ていた。

 

  斬られる。 刺される。 殺される。

 

 平和に過ごしていた村人が、自衛隊の隊服とは似てもいない緑のまだら模様の服を着た人間達に殺されていくのを。

 

  引き裂かれる。 食いちぎられる。 喰われていく。

 

 この世のモノとは思えない怪物達に彼らは襲われ、狩られ、食い散らかされていく。

 

  犯される。 嬲られる。 辱められる。

 

 人の尊厳を冒され、壊されていく。

 

  笑いながら。 怒りながら。 恍惚としながら。

 

 抵抗するのが悪いのだと、逆らうのが悪いのだと、支配されないのが悪いのだと。

 帝国に滅ぼされない日本が、帝国軍の勝てない自衛隊が、我らが神の勝てない異界の神が悪いのだと。

 だから貴様等は殺される。

 だから貴様等は犯される。

 だから貴様等は喰われる。

 だから貴様等は虐げられる。

 

  死ね。 壊れろ。 喰い殺されろ。

 

 全ては帝国に逆らう日本が悪いのだから。

 

 

 彼は見させられる。

 この世の真実を。

 そう望んだが故に。

 一切の誇張も虚偽もない、ありのままの姿を。

 その光景、体験、心情のすべてを。

 彼はその武器(カメラ)に収めさせられていた。

 

 

 

 

 

 彼は思う。 なぜ自分がこんな目に遭っているのかと。

 

 この任務を拝命し、実行し始めてから最初のうちは順調に成功を収めていた。

 しかし作戦の回数を重ねるうちに、様々な問題が次々と立ちはだかってきたのだ。

 

 ある時は襲撃予定の村が、襲撃直前になって避難を始めた。

  黒妖犬をはじめとした足の速い怪異を真っ先につっこませることで対処した。

 

 ある時から怪異達がざわめき、言うことを聞かなくなった。

  追い立てて運用することで対処した。

 

 ある時から兵の間で病気や怪我、幻覚幻聴が多くなった。

  襲撃を交代制にし、略奪狼藉を限界まで許可し、休養を多く取ることで対処した。

 

 ある時から襲撃にあわせてジエイタイに捕捉されるようになった。

  襲撃する部隊を複数に分け、複数の村を同時に襲撃。 遭遇したら撤退を第一にすることで対処した。

 

 ある時は錯乱した兵や怪異の暴走で自軍に被害がでるようになった。

  相互監視を徹底させ、異常が見られれば即殺害するようにして対処した。

 

 問題が起こる度に対処し、任務を遂行してきた。

 そのおかげで未だに本隊は発見されていないし、ジエイタイが支配領域を拡大していない以上作戦は確実に効果を発揮しているといえる。

 全ては我らが帝国のため。 全ては必要な犠牲なのだ。

 

 だから。

 

 

「くそっ、こっちをみるな家畜どもがぁ……!」

 

 

 自分は栄えある帝国の人民であり。 侵略者たるニホンのジエイタイを撃破する為の事前作戦に従事する正義の帝国軍人であるのだ、と。

 彼は自身に言い聞かせ、幕舎の隅の暗がりへと器を投げつける。

 そんな彼を、取り囲む『彼等』はただ見ていた。


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