亡霊、彼の地にて斯く祟れり   作:餓龍

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お待たせしました!

あとこれからはかなり飛びます。
今回投稿で示す通り、イベフラグがごっそり折れますので。


終焉の影と大国の影

 

「これは酷いな……」

 

 

 富士の樹海、その奥地。 とある洞窟の入り口にて。

 その地を調査にきた研究員の視線の先には、瑞々しい若草色の枯れ葉の隙間を『黒い霧』が流れる光景があった。

 前代未聞の『宗教関係者が調査指揮を執る、日本国主導の環境調査団』の一員である彼がサンプルを採取するのを『黒い霧』に満たされた洞窟の奥から見つめる人影が一つ。

 

 まぁ、自分なわけだが。

 

 特地のクナップヌイで見た『黒い霧』、アポクリフ。

 触れたものに死を与え、実体を持たない『影』。

 当然そんなものが地球にも出現しているかもしれないということで、地球でも『協力者(神?)』を通して調査したところ。

 世界各地に数カ所の予兆、そして日本のこの地での発現を確認したのだ。

 結果、自分に協力してくれている各宗教関係からそれぞれの形で警告が発せられ、こうして調査団が組織された。

 

 今現在、世界各地で様々な異変が報告され始めている。

 天文台曰く、星の位置が変化している。

 地震観測所曰く、体感できない微細地震が多発している。

 火山観測所曰く、活発化や沈静化の予兆あり。

 極地観測所曰く、オーロラの発生確率が上昇している。

 GPS等にほんのわずかだが狂いが生じている。

 赤潮の発生、魚群や渡り鳥の大移動。

 エトセトラ、エトセトラ。

 

 それぞれ単独であればなんということもないのだが、それらの異常は『門』の出現以降、僅かずつだが増えてきている。

 国家間でも今はまだ大丈夫でも、これからどうなるかはわからないという共通認識を共有でき始めているようだ。

 一部の国家や組織、団体はそれでも強硬に『門』の権利について主張している。 が、他国国内、特に日本国内での各種工作活動が実質的に不可能と化している現状では、世界世論への大きな影響は与えられないだろう。

 最大の懸念であった某督教を初めとした一神教の横槍も、『門』の向こう側の特地は神の創造した世界ではない、等の理屈を用いて基本不干渉を続けている。

 それに東京湾の太平洋への入り口、その境界の二つの岬の突端に建立されている自分の社が完成してきちんと機能すれば、『門』を都心ド真ん中から安全な海上に移すことができる。

 当然『門』の移設、およびその後の開閉は当分の間自分が受け持つことになりそうだ。

 人類が科学の進歩による、科学的なアプローチによって『門』を開けれるようになるまでは。 そしてそれを人類が問題なく扱えるレベルにまで文明が進歩するまでは。

 『門』および異世界間の諸問題は自分が受け持つつもりである。

 

 だがまぁ、まずは。

 

 『影の霧』とでもいうべきこのアポクリフを自分がある程度扱えるようになっているという大問題をどうにかしなければ。

 たしかに『霧のように見える』、『死をもたらす』、『八眼童の活動の後で出現した』と自分こと八眼童に結びつけやすかったというのはわかる。

 それに特地の者達にとっては自分はまだまだ未知の多い異界の神だ。 ゆえに新たな現象が発生したらとりあえず疑ってみたくなると言うのもわかる。

 だがなにゆえ世界の終わりであるアポクリフまで権能に加えられかけねばならんのか。

 自分は死者の代行、代弁が基本であり、死者に寄り添い、ともにありつづけてきたのだ。 世界の終焉に関する権能など、必要ないし関係もないのである。

 

 というより、やっかいごとを引き寄せるだろうという予感が凄まじい。

 

 なんとかしたいのだが、アポクリフを始めとした世界の終焉に関する権能を明確に持つ特地の神がいないのである。

 さらに前述の理由もあり、特地では自分こと八眼童に世界終焉の神としての権能が付与されかかっている。

 おまけに地球でもネットを中心に、異なる世界同士を結びつけ、死者の安寧を守護する神として世界中で有名になってしまっていることから何か異変があれば八眼童に関係してるんじゃねとか言われる始末。

 特に日本の『彼等』にいたってはいつものをやらかしている。

 別に押さえつけるつもりはないし、むしろそういうことをすれば逆に燃え上がるのが目に見えているのでよほど酷いのでない限りスルーしているが(時々面白いのがあるのが複雑な気分)。

 

 

「(ままならんなぁ……)」

 

 

 影の霧を重ね、束ね、纏め、連ねて括り。

 

 曝して梳かし、撓めて縒りあげる。

 

 そうして編み上げたソレを振り、界へと織り込んだ。

 

 

 

 

 

「ふむ、偉大なりしは政教分離か。 それにしてもここまで神様に力があるとはな」

 

 

 どっかりと椅子に座り込んだ嘉納は、手元の資料をめくると小さくつぶやく。

 そこには現在の世界政治情勢、そして各宗教組織の動向について記されていた。

 

 最大勢力の一神教をはじめとした各主要宗教組織の連盟による、特地への不干渉宣言。

 そしてそれは実質的に、八眼童が特地と地球を結ぶ唯一の二つの世界をまたぐ実在する神であるという事を、各宗教組織が肯定する宣言ということでもある。

 それは『門』についての諸問題が八眼童の動向次第で大きく左右されるという状況を生みだし、結果的に『門』についての決定権の多くを日本が明確に所持することが可能になっていた。

 さらに一部のメディアが、どうやったのか特地での現在の帝国の所行を報道。

 民意は悪逆非道の帝国への自衛隊の実力行使に肯定的へと傾き始めてもいる。

 八眼童により『門』の開閉が保証されたことも相まって自衛隊が特地へと駐屯し続け、連邦政府へと軍事的協力を行うことも可能になろうとしていた。

 

 

「さぁて、これであとは連邦が帝国と決着をつけれるようになるまで自衛隊の抑止力が有効であってくれれば、帝国からの大規模な作戦行動はないんだろうがなぁ……」

 

 

 書類を机に投げ、滑る書類の横にある別の報告書を眺める。

 その報告書には帝国軍に様々な不審な動きがあること、そしてそれが示す最悪の未来予想図についてが記されていた。

 まるで『塹壕』のような大きな溝の構築。 数万の兵を投入した、大規模かつ広範囲のゲリラ戦術。 森林地帯に潜伏していた飛竜による、上空から大網の投下によるヘリの撃墜。 重火器の集中運用でなければ倒せない完全武装のオーガの運用。

 その他、『こちら側(地球)の戦術』が応用されている形跡多数。

 

 

「やっぱり一筋縄じゃいかねぇよなぁ……」

 

 

 その報告書を通してみえる(大国の思惑)に、嘉納は大きなため息をついた。




今年中にもっかいぐらい更新したいなぁ……。

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