亡霊、彼の地にて斯く祟れり   作:餓龍

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今回は早く書けました。
自分にびっくり。

今回と次回は主人公(と亡霊仲間)無双になります。
次回も早めに投稿できそうです。

それと評価と感想ありがとうございます!
とても励みになります。
これからものんびりにはなると思いますが、頑張って楽しく書いていきたいと思いますのでこれからもまたよろしくお付き合いいただけますようお願い申し上げます!


街と森の娘と亡霊

 どうしてこうなった。

 

「あらぁ、だいじょうぶイタミィ?」

「早急に横にするべき。 揺らしてはだめ」

「扉の向こう側ぐらい確認してあけなさいよ! あぁあ精霊が嘆いてる! お願い静まって!」

 

 イタリカという街へ翼竜の鱗を売りに行くレレイとテュカ、送り届けるついでに商取引などの情報収集をおこなう伊丹達、そしてなぜかついて行くロゥリィとその腕に抱えられた人形こと自分。

 道程は何事もなく順調に進み、目的地たるイタリカの街がどうみても戦争中なので情報収集のためいつもの三人娘と伊丹が門の前まで近づいて。

 勢いよく開いた扉に激突した伊丹がぶっ倒れたのだ、が。

 

「ひっ、こっこれはだな、ぴぃっ!?」

 

 戦場に満ちる怨嗟と諦観と哀悼の想念にあてられて不安定になっていたところにお気に入りの伊丹が倒されたことでつい暴発。 扉の向こう側へ亡霊仲間が殺到してしまったのだ。

 結果直接扉を開いて伊丹をノックアウトしたThe.姫騎士な少女はアワレ亡霊の群に取り憑かれ、強引に波長をあわされた結果亡霊の姿がある程度見えるようになってしまった模様。

 こちらから見せようとするならある程度姿を整えられるが、直接認識なんてしようものなら。

 

「ひ、姫、どうされましたか? 尋常ではない様子ですが」

「おぉおまえ達には見えんのか!? し死体が、顔が溶けた化け物が、あ、あぁあああ……!!」

「姫、どうされました? 姫!?」

 

 あまりみせられたものではない姿を認識してしまうのである。

 とりあえず、なにやら仲間らしい少女騎士とおじさん騎士に落ち着かされている姫騎士から亡霊仲間を呼び戻して街に満ちている怨恨と怨嗟を集めてきてもらおう。 そしてほかの亡霊仲間にもしばらく姿を隠してもらうしかないだろうな。

 更にいうなら、この街に満ちる想念はざっとみたかぎりそのほとんどが無念や恐怖のものばかり。 つまり襲撃者には殺される際に満足して死ぬという異常者がそれなり以上の数おり、更に街の様子を見る限り襲撃もまだ終わっていない模様。

 実にめんどくさいことこの上ない状況に、街の想念に当てられてヤバイことしそうな亡霊仲間を引き留めつつ大きなため息を吐きたい気分だった。

 

 

 

 

 

 テュカにとってソレラはよくわからないものであり、そして精霊を騒がせるよくないものであった。

 緑の人と共にあるそれらは時に幻覚や幻聴を見せてくるが、その本質は未だ見えていないのではないか。 そしてその本質はみてはいけないものではないかと感じている。

 膝枕をしたイタミの顔に水筒の中身をやつあたり気味にぶっかけながら、周囲に満ちる『よくないもの』から必死に視線を逸らす。 それを見れば何かが終わってしまうような予感がして。

 

「姫様、なにもおりませんから大丈夫です。 それよりも……」

「ほんとうか? いないのか? というかわ、妾か? 妾なのか!?」

 

 よくない何かに怯える精霊達に必死に呼びかけて矢除けの加護を維持することに集中しているうちに、イタミに扉をぶつけ、昏倒させてよくないモノ達の敵意を買ってしまった女性騎士が立ち直っていた。

 周囲の部下達にうながされ、狼狽しつつも何事かと集まってきた野次馬達を散らしはじめる。

 そのうち膝の上のイタミが口に入った水にせき込みながら目を覚まし、状況を確認し始めた。 それをみるともなしにみつつ、いつのまにかどこかへいっていたよくないものの気配に大きく息を吐く。

 それがどういう意味ででたものか。 なんについての安堵なのか。 それらから目をそらして女性騎士へと抗議の声を上げ始めるテュカへ、ロゥリィの流し目が向いていた。

 

 

 

 

 

 どうしてこうなったテイク2。

 

 あのあと姫騎士こと帝国皇女ピニャ殿下から、元連合軍の盗賊集団からイタリカの街を守護する要請を受けた伊丹達は、一度突破された南門の守護を任されたそうな。

 そして一度突破されたということは死者がでたのもその大半が南門周辺であり。 例によって霊はほとんどいないが残留思念がすごいことになっていた。

 とんでもない規模の嘆きやら怨みやらで暴走しそうになるのを何とか押さえてはいるが、亡霊仲間も俺ももう限界が近い。

 正直、一時期調子に乗って悪霊やってたら寺生まれのTさんにぶっ飛ばされたのがトラウマなので、できるならザ・悪霊な感じで目立ちたくはない。

 それにこの世界には神がいる。 不浄な亡霊は滅せねばならないとかいって問答無用で浄化してくる神官が出てこないとも限らない。 今度こそ浄化されて消滅するかもしれないのだ。

 死んで、死後の世界があることを知った。 だからといって魂が浄化されるのが怖くないなんてことはあり得ない。 消滅は、死は二度と体験したくない絶対の恐怖なのだから。

 

「ねぇ、あなたはなぜここにあるのぉ? そしてどこへいくのかしらぁ。 これからなにをしていくのかしらねぇ?」

「…………」

 

 そして夕日を浴びながら城壁に座っていたら、伊丹となにやら話をして上機嫌になったロゥリィがこちらにも質問してきた件について。

 ふーあーゆー、だっけか。 難しいことを聞く。

 

 何の意味もなく、あっけなく死んで。

 

 なぜか家族も知り合いもいない平行世界の日本で幽霊になっていて。

 

 まともに会話ができるほど理性の残っている亡霊達に仲間にしてもらい。

 

 亡霊仲間の未練解消ツアーとか企画してたらいつのまにかリーダーになっていて。

 

 成仏して、すり減って消滅して、仲間が減って。

 

 浮遊霊やら地縛霊やらを未練解消ツアーに勧誘して、仲間が増えて。

 

 それなりに長い時間を亡霊やってきたけど、なんの夢も目的もなかったことに今更気づく。

 にもかかわらず成仏も消滅もしていないのは何とも不思議だ。

 だが、まぁ。

 とりあえず、だが。

 

「…………(街へ振り返り、歩き出す)」

「あらぁ? どこへ、いく、のぉ……?」

 

 今までどおり、未練解消ツアーを続けようと思う。

 元々ゲートのこっちにまで乗り込んできたのは銀座事件の被害者の未練を解消するため。 アルヌスの丘へ異世界軍が侵攻してきた時に自衛隊が豪快に撃退した際、大半の霊は成仏して地球側へ還っていったから、次の行き先に迷っていたところだったのだ。

 この異世界では霊はすぐに神の下へ召されるけど、残留思念や呪詛なんかはそのまま残っている。

 このままなら何の影響もなく消滅するだけだが、自分たち亡霊はソレを力にすることができる。

 なら、なにもなせずに成仏した彼らの代わりに自分達がそれらを相手へ送り届けてあげよう。

 しっかり包装して、お届け先へ一直線に。

 

 あつめてもらっていたものを仲間から受け取って、すくい上げて、飲み干した。

 

 

 

 

 

 からん、ころん。 くすくす、うふふ。 きちち、きいきい。 あはは、えへへ。 くるる、ちちち。 くちゃくち、ずぅるずり。

 

 下駄の音。 囁き声。 さえずり。 摩擦音。 錆びた音。 鳴き声。 滴り。 溶けて、灼けて、削れて、千切れて、潰れて。

 

 わたしのなかまはみんな、みんなひかりがだいすきだ。

 

 命は明るくて、暖かくて、世界は暗くて寒すぎる。

 

 なのにあなたたちはさむくなりたいっていう。

 

 ころして、ころされたいっていう。

 

 なら、ね、いらないなら、ね。

 

 ソレ、ちょうだい?




主人公、亡霊です。

亡霊です。

仲間も亡霊です。

あとはわかるな?

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