亡霊、彼の地にて斯く祟れり   作:餓龍

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すでに書いておりますが、地震直撃でした。
なんとかやっております。
気晴らしにもなりますのでこの続きは書いていく所存です。


感想、評価ありがとうございます!!
とても励みになっています。


黒祇式夜 様、誤字報告ありがとうございます!
とても助かりました!


亡霊と隊長

 

 これはひどい。

 

 まさに襤褸雑巾と化している伊丹の姿に亡霊仲間が激高し、突撃しそうになるのを押さえながらの感想である。

 怪談オンパレードの百鬼夜行で盗賊集団にカチコミをかけ、自衛隊がワーグナー流しながらやってきたのに爆笑しながら空襲をやりやすいように逃げる奴から優先して処理するようにして。

 掃討完了したところで自衛隊とピニャ殿下が協定を結んで。

 自衛隊の本隊が先に空路で撤退し、伊丹達と一緒に陸路で帰還を始めて。

 帰還途中で薔薇騎士団とやらに捕まり、伊丹が一人残って皆を逃がして。

 捕虜輸送という名の虐待にぶちぎれた亡霊仲間が暴走しようとした瞬間に伊丹の一声で『縛られ』て。

 で、ピニャ殿下が激高する亡霊仲間に卒倒。 起きあがると同時に薔薇騎士団の隊長さん達につかみかからんばかりに詰め寄っている、と。

 元々市松人形は伊丹の提案で自衛隊が地球から持ち込んだもので、ほかにも色々と便宜を図ってくれていた、んだけども。

 その際に伊丹が「おとなしくしてくれ」とか、「これあげるから暴れないでくれ」とか言っていて、それを聞いて自分たちは受け取り、利用していたわけだ。

 このときに効力は弱いけれど契約のようなモノが結ばれていたらしい。 一瞬とはいえ亡霊達の動きをたった一言で妨げてみせたのだから。

 そして動きを止めたという事実により、伊丹の声には亡霊達を縛る力が宿ってしまった。

 つまり。

 

 伊丹はこの異世界において現状唯一、亡霊達をある程度コントロールできる存在になってしまったということ。

 

 亡霊達が伊丹に愛想を尽かして離れていけば効力を失う程度の緩い束縛ではあるが、初めて自分以外に亡霊に言うことを聞かせられる人ができたというのはとてつもない衝撃だった。

 それはもう、この場は全部伊丹だけでいいかなと偵察隊の許にある市松人形にいこうとするぐらいには。

 そしてきびすを返そうとすると、見えないはずの自分の方をしっかりとみて懇願するような視線を送ってくる伊丹。

 これはあれだよね、やって良いってことだよね?

 伊丹が止めたから皆を引き留めてたんだし、イラッとした分脅かすぐらいなら構わないよね?

 

 苦情なシね?

 

 やっちゃうヨ?

 

 セーの、

 

 ばぁ。

 

 

 

 

 

 伊丹は本気で神様とやらを呪いたくなっていた。

 薔薇騎士団とやらからの不遇な扱いでもなく、貧乏くじを引きまくる自分でもない。 自分に憑いているどう考えてもヤバイ亡霊達を成仏させずにこの世に残している地球の神様を、である。

 薔薇騎士団の宝塚なお嬢様方へナニカが向かうのをみて咄嗟に制止し、実際に止めてしまったからだろう。 伊丹には自身の周囲に漂うソレ等の姿がある程度明確に見えるようになってしまっていた。

 旧日本軍のような兵士。 背に旗指物をした鎧武者。 座敷童子にしかみえない子供。

 病人服を着た男性。 モンペにハチマキな少女。 平安時代な貴族服の男性。

 五徳を逆さにかぶって牛の刻参りスタイルな老婆。 眼や腕、足などの身体の一部しか明確な姿を持たないナニカ。 エトセトラエトセトラ。

 そしてソレ等を率いる、ナニカとしか表現のしようのないヒト。

 もはや男なのか女なのか、はたまた子供か老人なのかすら判別のつかないソレはしかし、明確な意志を持って伊丹をみていた。

 顔どころか眼球も曖昧なのにしっかりと感じる視線に脂汗を流しつつ、伊丹はメイド長と自分付きだというメイド達をみる。 そしてこちらに向ける軽く畏敬を帯びた表情をみてひきつった笑みを浮かべた。

 現実逃避に実にモンスター少女なメイド達から視線を逸らして天井をみつつ、伊丹はため息をつく。

 

 どうしてこうなった、と。

 

 いや、わかってはいるのだ。 自分の軽率な行動が理由の一つだと。

 それでも予想なんてできるかと伊丹は思う。

 亡霊達を率いているソレが、ヤバイ感じになっている亡霊達をおいてどこかにいこうとしたのをみて、思わずおいていかないでくれと視線を送っただけで。

 

 一瞬で部屋が『ホラーハウス』になるだなんて誰が予想できるだろう。

 

 そのとき部屋の照明が一瞬薄暗くなり、明るくなると部屋が一変していた。

 壁はシミが浮き血文字が現在進行形で書き込まれ、窓ガラスはのぞき込むナニカと手形で満たされ、床には血塗れの肉片と大量の長い髪がぶちまけられ、声や悲鳴に破裂音が響き、少女騎士全員をヒトとすら呼べないナニカが取り囲み、のぞき込んでいたのだ。

 まるでリアル福笑いのような頭を至近距離で見せられた少女騎士達は一瞬硬直。 直後に気絶、混乱、失禁と大混乱に陥り。

 我に返った伊丹の一言で再び何事もなかったように部屋は元に戻っていた。

 当然伊丹がやったと勘違いした周囲に丁重に扱われつつ、伊丹は思う。

 

 どうしてこうなった、と。

 

 そしてメイド達につれられて部屋に入ってきた部下達と三人娘+αの姿を見て。 正確にはロゥリィの腕に抱えられた表情固定のはずの市松人形の笑顔をみて、伊丹は再度思う。

 

 どうしてこうなった、と。




次話はすでに半分書けているので、早めに投稿できると思います。

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