kuzuchi さん、黒祇式夜 さん
誤字報告、ありがとうございます!
彼らにとって『ソレ』は便利で、頼りたくないモノだった。
「こちらランサー、命中。 次のポイントへ向かう」
ごく小さな声で咽頭マイクに報告すると、彼は次のポイントへと移動を開始する。
仲間を殺され、彼の移動した後の場所へ銃を向けた敵の眼前を蛍のような光がすいっと横切り。 つい引き寄せられた視線の先に不自然な影を見つけてビクリと全身を一瞬硬直させた。
直後にその敵は彼の仲間に頭を撃ち抜かれ、夜の闇に紅を撒き散らす。
その光景を視界の端にとらえつつ、彼はポイントに到着。 膝を突いて射撃体制を取り。
『ナニカ』に気を取られて無防備にさらされた敵の頭部に照準をあわせ、発砲。 紅い花を咲かせる敵を見ることもなく次のポイントへ移動し、再び射撃体勢を取り、ナニカに気を取られて動きを止めた敵の頭部を弾けさせ、次のポイントへ移動する。
特殊部隊並の練度である敵に一瞬とはいえ動きを止めさせるほどのナニカ。 スコープ越しに見えた、ナニカをみた敵の恐怖にひきつる表情を振り払いつつ彼はポイントへつき、射撃体勢を取り、敵の命を終わらせて。
次のポイントへ移動しつつ、彼は祈る。
せめて、魂は死者の信仰する神の下へ召されることを。
蒼い燐光、『ウィル・オ・ウィスプ』の漂う森で。
皆が午前一杯の短い休暇を満喫し、集合して向かった山海楼閣にて。
温泉で命の洗濯をし、女性陣が酒盛りに突入。 男共を引きずり込んでさらに騒ぎ、ほとんどがぶっ倒れたあと。
「ふふっ、ひどいわよぅ。 こんなに戦士の魂がいるのにエムロイの御許へ召されることもないなんて蛇の生殺しよぉ。 どうしてくれるぅ?」
「いや、どうしてくれるっていわれてもな」
自分たち亡霊集団は山海楼閣を目指して侵入してくる3つの国の特殊部隊と日本の特殊作戦群が戦っている(もちろん特殊作戦群に協力中)際に発生する死者の魂をロゥリィから遠ざけつつ、部屋の片隅で新しい人形に正座をさせて気配を殺していた。
最近できるようになった思考分割。 これでロゥリィが伊丹を誘惑するのをわくわくして正座待機しながら、特殊作戦群の隊員達に協力する亡霊達をまとめつつ、招かれざる客を『歓迎』している亡霊達を応援できるようになった。
今は視界を4つで行動が1つが限界だが、この調子で強化が進めば分霊までできそうなほどである。
正直昨日の国会騒動でここまで強化されるとは思わなかったが、将来的には冗談抜きで祟り神になれそうなのが何ともいえない。
「ふんっ」
「危なかったぁ……」
なんて考えてたらお米の国の圧力で日本は特殊作戦群を撤退させるようだ。
ちょいと遠いし縁も弱いんで『アイサツ』程度になるだろうけども、イラッときた護国の鬼さん達を大統領にけしかけておこう。 早めに発散してもらわないと総理の方に突撃しそうだし。
鬼さん達を見送った後であらためて特殊部隊達をみれば、すでに3チームとも半分近く召されているようだ。
それでも特殊作戦群が撤退したのを察知したのだろう、3チームともが前進を開始した模様。 あきれ果てた敢闘精神である。
「さぁ、いくわよぅ。 はやくしなさいねぇ?」
「…………(袖を引かれて立ち上がらされる)」
「えーと、どちらに?」
なんてひとりうなずいてたらロゥリィが臨戦態勢な件について。
ひょいと部屋の隅に置かれていたハルバードと一緒に抱えあげられるのをなんとかかわそうとし、結局捕まってロゥリィが肩に担ぐハルバードの柄に座らされた。
以前の市松人形より関節数が多くて自由度が高い分、操作が複雑でまだ十分に慣れていない新しい人形では1mの高さからの着地も怪しい。
浮かせるとはいかずとも落下速度の軽減ができればいいのだが、物を浮かせるのには力が足りない。 せっかく手に入れた新しい人形だ、入手早々に壊したくはないのである。
「くるんでしょう? しっかり歓迎して差し上げなくちゃねぇ。 ふふっ!」
「…………(伊丹に手を振る)」
諦めて上機嫌なロゥリィにドナドナされつつ、亡霊仲間に呼びかけて力を借りるとする。
それにロゥリィは自分から襲撃者達へ向かっていくようだし、近くにいた方がロゥリィに魂をとられないようにするのは楽なのだ。
正直ロゥリィに近づけないようにするより、おいしく『魂喰い』でもして自分の力に変えてしまった方が楽なのだが。 それをやるとTさんに今度こそ浄化されてしまうのでできないし。
なにやら襖をスパーンとあけて走り出したロゥリィが向かう先で、ちょうど3チームが鉢合わせするように軽く誘導しておこう。
鬼さんこちら、手の鳴る方へ。
なんてね。
彼らは、高度に訓練された精鋭の工作員である。
そして当然ながらあらゆる状況下において成果を持ち帰ることができるよう、様々な状況を想定した訓練を積んでいた。
その血のにじむような訓練はこれまでの工作活動において彼らを裏切ったことはなく。 常に一定の成果と自信を与えてくれていた。
そう、これまでは。
侵入中に日本の特殊部隊に捕捉され。 一人、また一人と殺されていった仲間達はすべて、なにか恐ろしい物を見たような凄まじい形相をして死んでいた。
当然限界まで警戒を強めたが、それでも仲間は死んでいく。 死の直前にナニカを見つけてしまったように硬直し、無防備に頭を撃ち抜かれて。
それでも『上』の取引によって日本の特殊部隊が撤退した後は季節外れの蛍以外にはなにもなく、ターゲットの宿泊する旅館へと到達していた。
彼らは、高度に訓練された精鋭の工作員である。
しかし、血のにじむような彼らの訓練には想定されていない要素があった。
それはすなわち、
「ふふっ、鬼さんこちら、手の鳴る方へ♪」
「ぐぎぇっ!?」
「くそっ、化け物め、化け物めぇっ!!」
地球の人間ではあり得ない身体能力をもつ亜神を相手にすること。
そして。
「クソガキッ、そこをどげぇっ!?」
「…………」
姿を視認するだけで甚大な影響を及ぼし。 発狂、衰弱させてやがては死に至らしめるだけの力を持つ亡霊を相手にすることである。
まるで踊るように工作員達の中心へと踏み込み、ハルバードをふるって惨殺死体を量産するロゥリィ。
戦場となった旅館の庭の石灯籠に腰掛け、逃げようとした工作員から優先して二度と覚めない悪夢へと誘う亡霊の憑いた人形。
季節外れの蛍のような蒼い燐光が舞い飛ぶ中。 ハルバードによりばらばらにされ、誰の物ともしれない銃弾で撃ち殺され、蒼い燐光に触れて発狂死し。
最後の一人が冷たくなるのには、そうたいした時間はかからなかったのだった。
そしてこれ以降、日本で活動する工作員は付け焼き刃の亡霊対策講習を受けることとなる。 が、当然付け焼き刃程度では何の意味もなく。
本格的な亡霊対策を講じるまで、日本での工作員達は襲い来る心霊現象群に悩まされ続け。 ノイローゼによる多数の再起不能者と自殺者をだすこととなる。
あとちょっと、あともうちょっとで書きたいシーンがやってくる……!
そして原作をある程度大きく改変します。
そのシーンを書きたいがために続けてるのは内緒(小声)。