ふみふみメインの話が書きたかった。
若干のキャラ崩壊、百合成分が含まれるかもしれないので注意。

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初投稿です。


美優「仁奈ちゃん、よしよし」 文香「私も義理の娘が欲しい……」

近年その人気と共に市場規模を拡大し続けるアイドル業界。芸能界最大手のプロダクションである346プロもまた多くのアイドルを抱えている。

 

所属するタレントの数はアイドルだけでも200人弱に達し、事務所も相応の大きさを誇る。都心の一等地に構えた巨大なビルは遠目からも目立つ上に、広い敷地内には中庭や噴水広場、カフェなども存在する。

 

そんな346プロのアイドル部門ではアイドルに対して職員の数が少ないということもあり、まだ年齢的に幼いアイドルの面倒を年上のアイドルが見るというケースが日常的に発生していた。

 

世話好きなアイドルや子ども好きなアイドルは積極的に年少組と交流を持ち、また年少組もそんな彼女らに心を開いて甘えてみせる。時には年少組が普段のお礼に料理やマッサージをすることもあった。

 

 

 

双方が相手を思い遣る関係は美しくどこか家族のようでもあるが、だからこそ時として傍から見ている第三者に嫉妬や羨望の念を抱かせてしまうことは止めようがないのだろう。

 

 

 

鷺沢文香の中に生まれた欲求は、三船美優の膝を枕にして眠る市原仁奈を目撃したところから始まった。

 

 

「おはようございます……」

「あ、文香ちゃん。おはよう」

「美優さん……と、仁奈ちゃんだけですか」

「うん。さっきまで二人で遊んでたんだけど疲れて寝ちゃったの。文香ちゃんなら大丈夫だろうけど起こさないように静かにしててあげてね」

「はい、元々レッスンの時間まで本を読もうと思っていましたから……大丈夫です」

 

 

普段から仕事のある日は事務所で読書することが多い文香だが、周りがどれほど騒がしくても本の内容に集中できるという密かな特技を持つ。

そのためあまり騒がしさを気にしたことはないが、静かな方が好ましいことは確かなのでむしろこの状況はありがたかった。

 

二人とは対面のソファに腰掛け、文香は持参した本を読み始める。

時折ページをめくる音が室内に響く他は静寂が保たれていた。

 

 

 

しばらくして文香は目を休ませようかと顔を上げる。ふとした瞬間に視線が安らかに眠る仁奈へと引き寄せられた。

 

「ムニャ……日暮熟睡男の気持ちになるですよ……」

 

幸せそうに寝言をつぶやくその姿は大変に愛らしく、目線を外せなくなるほどに文香を惹きつける。

仁奈の頭を優しく撫でる美優からは母性が溢れ出し、強烈な憧れを抱かせた。

 

 

「……なんだかそうしていると、美優さんと仁奈ちゃんが親子のようですね」

「そう? 私の歳だとちょっと大きい子な気もするけど……。でも確かに、仁奈ちゃんみたいな娘がいたら毎日がもっと楽しくなりそう」

「少なからず仁奈ちゃんも、美優さんを母親のように慕っていると思います」

「そうだったら嬉しいわ。思わず可愛がりすぎちゃいそうね」

「私が一人っ子で、今は親元を離れているからかもしれませんが、お二人を見ていると家族が欲しい気持ちになってきます……」

「家族かあ。私たちはアイドルだから恋人も作れないし、結婚して子どもを産むとなると当分先の話かしら」

「……そう、ですね」

 

 

そこで話は途切れ、会話が再開されることのないまま時間が来た文香は一言別れを告げレッスン室へと向かって行った。

 

 

 

 

(家族……結婚、出産……。私は恋人が欲しいのでしょうか)

 

(……いえ、人は恋しいですが恋人とは違う気がします。そもそも、アイドルとして励む間は恋愛をする余裕がありません)

 

(しかし美優さんと仁奈ちゃんの関係に憧れたのは確かです。私はあの二人のようになりたいのでしょう)

 

(……二人の関係を端的に表すなら、そう……)

 

 

 

 

レッスンの翌日。文香はとあるプロジェクトをきっかけにユニットを組んだ橘ありすと共に雑誌の取材を受けていた。

今は仕事を終えてあとは帰宅するだけなのだが、休憩がてら事務所で雑談を交わしている。

 

 

「というわけで、私も義理の娘が欲しいのです」

「寝言は寝て言ってください」

 

 

己の欲望を明かした文香に対するありすの返事は一刀両断と言っていいものだった。

 

 

「待ってください。ちゃんと話を聞いてください、ありすちゃん」

「何を言い出すかだいたい読めるので聞く必要はありません」

「せめて話だけでも……」

「どうせ私に娘役をやらせたいんでしょう?」

「違います……私はただ、家族を作るのが現実として難しいので、ありすちゃんを擬似的な娘にしたかっただけで……」

「何も違わないじゃないですか! 嫌ですよそんなの。大して歳も離れていないのに子ども扱いしないでください!」

 

大声で叫ぶありすの様子は憤慨という言葉がよく似合っていた。

しかし文香も引き下がるつもりはなく、気圧されつつもしっかりとした口調で反論する。

 

「……ありすちゃんを子ども扱いしているわけではありません。親子関係は、年齢に左右されませんから……いくつになっても親は親ですし、娘は娘です」

「う……。まあ、確かにそうですけど私が言いたいのはそういうことじゃ」

「私は私ですし、ありすちゃんはありすちゃんです……」

「そこですよそこ! さらっと親と娘に私たちを代入しないでください! 私が文香さんの娘になるのはおかしいって言ってるんです!」

「そんなことを言わずに……。私の人恋しさを、ありすちゃんの体で慰めてほしいんです……」

「スキンシップがしたいってことですよね! 紛らわしい表現をしないでください」

「……やはり駄目ですか」

「駄目です」

 

 

二人の口論は押し問答のまま一向に進展しなかった。

このままではいけないと考えた文香は切り口を変えありすを説き伏せることにする。

 

 

「……わかりました。ありすちゃんが娘になるかどうかは一旦置いておきましょう。その上で改めて相談させてください」

「一旦ではなく永久に捨て置きたい話題ですが……まあ、文香さんは大事なパートナーですし相談に乗るくらいなら」

「ありがとうございます。では、どうしたら私の目的を達成できるか、一緒に考えてもらえないでしょうか」

「その目的が義理の娘を作ることなら不可能です。諦めてください」

「いえ……ありすちゃんの反応でそれは難しいことが理解できましたから、今日のところは、膝枕をするくらいで……」

「膝枕ですか。それくらいなら仁奈ちゃんとかこずえちゃんがよくしてもらってますし、どちらかに頼んだらどうですか?」

 

 

ありすが至極現実的な案を出す。実際のところ、この二人ならば頼めば膝枕くらいのことは嫌な顔もせずむしろ喜んで承諾してくれるだろう。

だが一度は諦めた素振りを見せたものの、文香の内心ではありす以外眼中にない。そのため文香はありすの提案を却下する必要があった。

 

 

「それは……できません」

「? 特に問題はないと思いますけど」

「……仁奈ちゃんとこずえちゃんに問題はありません。問題があるのは、私です。私には……母性が足りません」

「母性、ですか」

「はい。母性や父性は大事なものです。特に両親以外の大人が子どもと接するときに、これが欠落していると……ただの不審者です」

「二人は文香さんのことを知っていますし不審者にはならないです」

「……私の膝枕をしたいという気持ちは、自分本位な感情が由来です。邪な気持ちを上回る母性がなければ、二人を不快にさせてしまうかもしれません……」

「つまり、母性を身に付けたいということですか」

「はい……」

 

 

文香の話は提案を断るための建前ではあるが、同時に事実でもあった。

 

鷺沢文香は母性と呼ばれるものに著しく乏しい。もし母性を数字で測ることができたなら、文香の値は世の女性の平均を大きく下回るだろう。

それは本の世界にばかり没頭して人との関わりが少なかったからでもあるし、成人前の文香が未だに子どもの自分から抜け出し切れていないことも理由に挙げられる。

 

先ほどありすに拒絶されてしまったのも、やはり母性が不足しているために下心ばかりが目立ってしまった結果と言えるだろう。

 

文香には母性とはどんなものなのかがわからなかった。

 

 

「母性が欲しいなら、他の人を参考にしたらどうでしょうか。それこそ美優さんの真似をしてみたりとか」

「真似、ですか……。美優さんのように振る舞うのは、ハードルが高い気がします。年齢故の包容力という面もありますし、簡単には真似できないでしょう」

「そんなこと言ったら大人組はみんな参考にできませんよ」

「……いえ、大人組でなくても母性のある方はいるはずです」

「文香さんと年齢の近い人なら……亜里沙さんとか、保奈美さんあたりでしょうか」

「確かにお二人とも、母性の溢れる方々です……。私が真似できるところというと、何でしょうか……」

「うーん。亜里沙さんならピアノと……パペット?」

「……ピアノは弾けません。パペットは、本が読めなくなりますね」

「読まなきゃいいじゃないですか」

「亜里沙さんは普段からウサコちゃんと一緒なので、真似するなら私も常に片手がふさがるということに……」

「じゃあ保奈美さんはどうですか? 性格もありますけど、保奈美さんはファッションもお母さんっぽいと思います」

「わ、私には似合わないです……。保奈美さんのようにスタイルも良くありませんし……」

「文香さんもスタイル良いですけど……強いて言うなら、細過ぎて経産婦には見えませんね」

「……中々難しそうですが、一応パペットとファッションについては、留意しておくことにします」

 

 

自分が団地妻やセレブマダムのようなファッションに身を包み、右手に動物のパペットを装着した姿を想像する文香。

服装とアイテムのミスマッチもさることながら、それをしているのが自分ということが大きな違和感を生み出していた。

普段の自分と差がありすぎるためイメージも曖昧なものだがそれでも何かが違うのはわかる。

実現したところで効果を発揮しそうにないアイデアを、文香はそっと諦めた。

 

 

「あ、じゃあ響子さんはどうです? 料理とかの家事なら母性もわかりやすいですよ」

「料理……食にはあまり、関心がないのですが」

「私も料理には一家言持っていますからね! よければ力になりますよ」

「ありすちゃんの料理……イチゴパスタ…………む、娘の手料理だと思えば」

「やっぱり力にはなれないです」

「いえ……! やります、娘のためなら失敗した料理くらい、食べてみせます。……耐えきれば、ご褒美にありすちゃんを膝枕できる権利はもらえるんですよね?」

「あげませんよそんな権利! あと私の料理は罰ゲームじゃないです!」

「そんな……それではわざわざ劇物を口にする意味が無くなって……」

「料理の、話は、終わりです!!」

 

 

半ば暴言と化している文香のイチゴパスタに対する評価だが、ありすの作るこの料理に関してはこれで間違っていない。

世の中には美味なイチゴパスタも存在する。しかしそれは橘ありすのイチゴパスタではない。

ただそれだけの話だった。

 

 

「ファッションもダメ、料理もダメとなるともう他に思いつく人がいませんよ」

「いえ、あと一人だけいます……」

「文香さんはまだ心当たりがあるんですか?」

「……きらりさんです」

「ああきらりさんですか……えーと、確かに母性的な一面もありますね。それ以外のインパクトが強くて忘れてましたが」

「ありすちゃんに教えてもらった『いんたーねっと』で、事務所の皆さんを調べたことがあるのですが、きらりさんはファンの方々から『大聖母』と呼ばれているそうです……」

「それは意味がズレている気が……まあいいです」

「……大聖母、母性を表すのにこれ以上の形容は存在しません。きらりさんは母性の象徴、参考にする相手としては、最もふさわしい方と考えられます」

「何か違う気も……間違ってはないのかな」

「何より、きらりさんにはとても真似しやすい特徴があります……」

「…………一応聞いてあげます」

 

 

 

「パワーです」

 

 

 

「門限があるので帰ります」

「以前ありすちゃんのご両親は、門限を気にしない方々だと聞きました……!」

 

 

席を立とうとするありすに、それを阻止しようと上から押さえつける文香。

体勢の有利を加えても、12歳のありすに対し全力を出してやっと力が拮抗するというのは非力としか言いようがない。

 

しかしありすを家に帰さなければいけない時間が近づいているのも確かなので、文香は最終手段として腕力に訴えたのだった。

 

 

「ちょ……離してください! 今日はもういいでしょう。明日また話を聞きますから!」

「い、嫌です……!」

「なんでそんなに頑固なんですか! いつもの文香さんならもっと聞き分けがいいはずです!」

「パワーです……!」

「意味がわかりません! そんな原始的な手段で解決できたら人間は文明を築いていないんですよ!」

「それは、違います……! 原始的な動物の世界でも、人間が原始的な生活をしていた時代でも、母親は存在していました……。つまり、母性とは本来、もっと原始的な力なのです……!」

「だからってそのままの意味で力に頼ってどうするんですか! さすがにこれ以上続けるなら嫌いになりますよ!」

「エディプスコンプレックスという、言葉があるように、子どもは同性の親を嫌うものです……! つまり、私を嫌いになったありすちゃんは、もはや娘も同然……!」

「真面目な言葉を使って馬鹿なことを言わないでください! ……くっ!」

「ふう……っ、ふぅ……」

 

 

長時間に及ぶ競り合いの結果、かろうじて力比べは文香へと軍配が上がった。

体力を大きく消耗したありすは立ち上がりかけていたソファに再び身を沈め脱力する。

 

先ほどまでは論理性の欠片もない文香の言に対して反発していたが、気が抜けると次第にその気持ちも溶かされてしまった。

ここに至っては、文香の望みを叶えた方が早いのではないか。そんなことを考え始めるありす。

娘に云々は論外としても、膝枕くらいなら別に構わない気もする。さっきまで取っ組み合いをしていたのに今更膝枕を恥ずかしいとも思わないし、もうさっさと済ませてしまおう。ありすはそう決断した。

 

 

原始的なパワーを用いた結果、文香の大勝利である。

 

 

「はあ……もう私の負けでいいです。文香さんの目的は膝枕ですよね? それをしたら今度こそ私は帰りますから」

「……!! 本当ですか……!」

 

途端に顔を輝かせる文香。早速ありすの隣へと腰を下ろし、催促するように自分の膝を叩き始めた。

 

「ありすちゃん、いつでもどうぞ……!」

「もう、これじゃどっちが子どもなんだかわからないですね」

 

はしゃぐ文香の膝にありすが恐る恐ると頭を下ろす。自然に、見下ろす文香と見上げるありすの視線が合わさった。

 

思いがけず気恥ずかしくなったありすは誤魔化すように目を閉じる。膝枕は本来寝るための行為なのだから目をつむってもいいはずだと、自分に言い聞かせるように。

 

 

「あ……」

 

 

ふいに、文香に頭を撫でられた。

そっと前髪を梳くように、幼子を寝かしつけるようなゆったりとした手付きで。

そこには文香が足りないと自嘲していた母性がわずかだが芽生えていた。

 

たどたどしい動作が幾度も繰り返される。それはありすを安心させるための行為でもあり、文香が安心するための行為でもあった。

 

 

 

 

 

いつしかありすは夢の世界へと旅立ち。

文香はその寝顔を静かに見守っていた。

 

身近なアイドルを見習おうと試行錯誤した文香だったが、結局母性とはどんなものなのか完全に理解したとは言い切れない。

それでも今日一日ありすと触れ合うことで、一つの答えを出すことはできた。

 

 

「……やはり、力こそ正義。母性=パワーなのですね……」

 

 




デレステやってて思いついた話。
徹夜して書き上げた一晩クオリティですがここまで読んでくださってありがとうございました。

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