インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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大変お待たせ致しました。
更新が遅れて申し訳ありません。
今回は研修の裏側で行われていた、カラードVS黒ウサギ隊の模擬戦がメインのお話しです。



第113話 1年次実地研修(中編)

 

 IS学園1年次実地研修2日目。ドイツ研修班。

 晶達1年1組第2班と他クラスの班員達は、訪れた基地の格納庫で研修を受けていた。

 黒ウサギ隊の隊員が武装を取り外したノーマルなIS(黒ウサギ隊が保有する3機目の機体)を動かし、その時々の確認事項をクラリッサが説明していくという形だ。

 

「――――――という訳で格納庫でのパイロットの役割としては、機体を確実にハンガーに固定すること。IS着脱前に周囲にいる人間を、データベースで検索、不審者がいないかの確認などがある。何を今更、と思う事ばかりだろう? だがこれらの事は、とても大事なことだ。何故だか分かるか? そうだな。相川清香。答えてみろ」

「わ、私ですか!? ええっと………ハンガーに固定されていないと整備中に倒れてきたら危険だし、不審人物の確認は万一の強奪を防ぐ為に必要だからです」

「その通り。いずれも基本的な事だが、人間とはミスをする生き物だ。そして今まで起こった事故原因を分析していくと、殆どがヒューマンエラーに行き着く。つまり日頃の安全確認こそが、事故を起こさない特効薬ということだ。その他にも―――」

 

 こうして現場を知る者の言葉に、生徒達は肯き、メモを取り、ISについての理解を深めていく。

 またクラリッサはパイロットとメカニック間の話として、相互理解が如何に大切かを、実際にあった失敗例を交えながら話すことで、生徒達が独りよがりの独善的なパイロットとならぬように気を配っていた。

 

「――――――とまぁ、私から話せるのはこのくらいか。何か質問のある者はいるかな?」

 

 数人の生徒が手をあげ、クラリッサが順番に答えていく。そんな中で、とある生徒の質問が注目を集めた。

 

「1つ気になったのですが、人物照合を行うデータベースがクラッキングを受けていた場合は、どうなるのでしょうか」

「良い質問だ。そんな時の為に、先ほど話したパイロットとメカニックの緊密な関係があるんだ。往々にしてスパイというのは、人間関係の隙間を狙ってくるからな」

 

 また次の質問も、世界情勢を良く見ている質問だった。

 

「今のお話と直接関係はないんですが、1つ良いでしょうか?」

「私で答えられることなら」

「最近、ISパイロットはパワードスーツの指揮をする、という話を良く聞きます。現場ではどうなんでしょうか?」

「ふむ、そうだな………」

 

 クラリッサは数瞬言葉を選んだ後、答えた。

 

「全てのパイロットに求められている事では無いが、確かにそう言う傾向はあるな。ただ、今の君達が気にする必要は無い、と言っておこう」

「何故でしょうか?」

「現場における指揮というのは、責任を負う事と同じだからさ。確かに天性の才能や人柄で指示を出すのが上手い者もいるだろう。だが現場で指揮をするという事は、その場で起きた事に対して責任を負うということだ。そしてISが出動していて、尚且つパワードスーツの指揮を執る現場というのは、往々にして人命の掛かった場面が多い。分かるかな? 自分の判断1つで、救える命が救えなくなる可能性がある。その判断を下すのが指揮をするということだ。故に指揮を行う者には、それ相応の教育が求められる。だから、今の君達が気にする必要は無い、という事だ」

「ありがとうございます」

 

 こうして2日目の研修は進んで行き、その日の夜。

 宿舎に戻った晶達第2班の大部屋では――――――。

 

「ねぇ。今日の話、どんなレポートにする?」

「うーん。どんな感じにしようか、まだ固まってないんだよね」

「そーだよねー。色々話してくれたけど、纏めると教科書的になっちゃうもんね。ねぇ、晶くんはどんな内容にするの?」

 

 班員達が提出用レポートの内容に頭を悩ませていた。そんな中で話を振られた晶は、手にしていた缶コーヒーをテーブルに置きながら答えた。

 

「そんなに捻った内容は書かないかな。折角実例を交えて話してくれたんだし、教科書に書いてあるのは、こういう理由だから大事だと学べた、とでも書いておくさ」

「正攻法だね」

「正攻法が一番無難だからね。ラウラはどうするんだ?」

 

 話を向けられたラウラは、開いていたノートPCから視線を上げ、皆の方に振り向いた。

 

「大筋は薙原と同じだな」

「というと、少し捻った内容にするのか?」

 

 晶の問いに、ラウラは肩を竦めながら答える。

 

「元黒ウサギ隊の隊長としては、基本的な内容でもそれなりの内容にしなければ沽券に関わるからな」

「大変だな」

「全くだ。が、もう終わった」

「早いな」

「書類仕事も隊長の大事な役目だ。お手の物だよ。それに部隊から面白いデータが送られてきて、そちらに時間を割きたかった」

 

 その言葉に、晶はピンとくるものがあった。

 

「あれ、それってもしかして?」

「ああ、カラードと黒ウサギ隊の模擬戦データだ。お前の方には届いてないのか?」

「勿論届いてるさ。中々面白い対戦だったな」

「なんだ。もう目を通したのか。見所は何処だったと思う?」

「そうだな――――――」

 

 こうした学生ではあり得ない会話に、他の班員達が興味を示した。そしてまずは、好奇心旺盛な相川清香が2人の会話に入って行った。

 

「ねぇ、何の話をしてるの?」

「ん? ああ。昨日の夜、カラードと黒ウサギ隊の模擬戦があってね。その戦闘報告が俺とラウラに届いてたからさ。それについてね」

「へぇ?、ねぇ、それって私たちも見れる?」

「そうだな………」

 

 晶は暫し考えた。

 模擬戦内容は(手の内を晒していないという意味で)教科書的なもので、機密指定という訳ではない。

 カラード側としてはデモンストレーションの域を出ないと言える。が、黒ウサギ隊としてはどうだろうか?

 

「ラウラ、黒ウサギ隊としてはこの模擬戦データをどう扱いたいんだ?」

「それについてはクラリッサの意見が添付されていた。広く公開されるのは望ましくないが、私の監督下で、PCをスタンドアロンにして見る分には許可する、だそうだ」

「寛大だな」

「こちらもそちらと同じく、手の内を晒している訳では無いからな」

「気づいてたか」

「当たり前だ。あんな教科書的な正攻法、気づかない方がどうかしている。悔しいが教本に乗せても良いレベルだ」

 

 この発言に晶は驚いたが、班員達の驚きはそれ以上だった。何せラウラという少女は元軍属という経緯から、戦闘に対する考えはとてもシビアだ。その彼女をして教本に乗せても良いレベルとは、どれ程のものだろうか。

 

「私、見てみたいです。多分、色々参考になる事が多いと思うので」

 

 ここで、今まで黙っていた四十院が口を開いた。

 

「参考に? 一応、理由を聞いても良いかな」

「カラードの皆さんがIS学園に来ていなければ、私も興味を持たなかったと思います。ですけど、カラードの皆さんはIS学園に教えにくるパイロット達を、振るいにかける役割を務める実力者達。その動きに見るべき点は多いと思いまして」

「なるほど。他の皆もそうかな?」

 

 晶が周囲を見渡すと、班員達が肯いている。

 

「分かった。なら今日の分のレポートを終わらせたら、皆で見ようか」

 

 そうして1年1組第2班の面々は、全員で協力してレポートを終わらせた後、普通の学生では見る事の適わない、カラードVS黒ウサギ隊の模擬戦データを閲覧したのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 時間は、昨日の夜にまで遡る。

 黒ウサギ隊基地。

 

「さて、奴らは来るかな?」

 

 隊長室で自身の椅子に腰掛けるクラリッサは、スラリとした長い脚を組みつつ、隣に立つ副官に問い掛けた。

 

「言葉は疑問形ですが、その顔、隊長は来ると思っていますね?」

先ほど(前話で)お前が言った通りの奴らなら、仕掛けて来るのは今日か明日だろう。そして薙原晶(社長)がドイツにいる間に休暇を楽しみたいなら、今日の可能性が高いだろうな」

「自分で言っておいてなんですが、理由としては不純も良いところですね」

「世の中の全ての人間が、合理性で動いている訳ではないさ。むしろ元犯罪者らしいと思うがね」

「確かに。ですが、腕の方は油断ならない連中かと」

「事の経緯はどうあれ、薙原晶(NEXT)が手足として使うくらいだ。腕が悪いはずないさ。それに情報部が出した、カラードの分析結果はみたか?」

「勿論です。普段は社長(薙原)に媚びを売っているところばかりが目立ちますが、高い依頼達成率と低い損害率は、流石元IS強奪犯、と言うべきですか」

「ならお前は、どう来ると思う?」

「行動原理はどうあれ、彼女らはプロフェッショナルです。ならばこちらの反撃を許さず、最速で殺りにくるでしょう。そして部隊規模の大きくないカラードが、正規軍である我々黒ウサギ隊と正面切って戦えば、すり潰されるだけです。従って彼女ら(カラード)の勝ち目は、恐らくパワードスーツを囮にしてこちらの戦力を誘い出し、ガンヘッドを使った砲撃戦しかないかと」

 

 副官の答えに満足したクラリッサは、眼前に空間ウインドウを呼び出した。

 表示されているのは、基地周辺のMAPデータだ。

 

「お前もそう考えるか。しかし今現在において、カラードが警戒網に引っかかった形跡はない。普通なら、「まだ来ていない」と考えるところだな」

「普通なら、でしょう。しかし奇襲は奴らの十八番(オハコ)。何せ元IS強奪犯。何もない静けさを装う事など、造作もないでしょう」

 

 ここでクラリッサは、ニヤリと笑って言葉を引き継いだ。

 

「だが、他の場所ならいざ知らず、ここは我々のホームグラウンドだ。警戒ラインに引っかかっていないという事実だけで、ある程度の行動は読める」

「はい。そして仮にガンヘッドの砲撃が本命だったとしても、向こう(カラード)には懸念材料があります」

「初弾の命中精度だな。砲撃である以上、避けては通れない問題だ」

 

 誘導兵器は強力だが、その分対抗手段も多く確実性に欠ける。

 よってカラードが勝ちを狙うなら、(ペイント弾だが)砲撃による直接打撃の可能性が高かった。

 ミサイルは、あったとしてもおまけだろう。

 

「はい。どのような手段を使って命中精度を上げてくるかは分かりませんが………オーソドックスに初弾を観測砲撃として、次弾が本命でしょうか?」

「どうかな。少数で戦う以上、常に時間との勝負だ。悠長に1発無駄弾を使うとは、少し考えづらいな」

「確かにそうですが、それはもう、相手の出方次第ですね」

「そうだな」

 

 そうして隊長と副官の会話が一段落したところで、隊長室の内線がコールされた。

 

『隊長、来ました』

『出現ポイントは?』

『基地北西の森を高速で移動中。数は1』

『1機か。間違いなく囮だな。スクランブルは?』

『たった今出撃しました。このままですと、後120秒程でエンゲージします』

『よろしい。私も指令室に入る』

『了解。お待ちしています』

 

 内線を切ったクラリッサは立ち上がり、足早に歩き始めた。

 そして、後ろに続く副官が口を開く。

 

「それにしても、森を突っ切って来るとは強気ですね」

「腕に自信があるんだろうな。しかし、こうも見え見えの囮だと? 一体何を考えて――――――」

 

 この時、クラリッサの脳裏にとある閃きが走った。余りの大胆さに理性が否定材料を探す。だが同時に直感は確信となり、肯定材料を探し始めていた。

 

「隊長?」

 

 歩きながら考え始めたクラリッサに、副官が声を掛ける。だが彼女は応えない。思考の海に沈み、あらゆる可能性を検討していく。

 そうして司令室に入ったクラリッサは、早々に命令を下した。

 

「現在捕捉している敵機が爆発兵装(音響と塗料を撒き散らすペイント弾だ)を使ったら、電波探知を厳に。ガイドビーコン(座標特定用の発信機)を紛れ込ませている可能性がある」

「了解!!」

 

 オペレーター達の返事を聞きながら、指揮官用の椅子に腰かける。

 そうしてスクランブルしたパワードスーツ部隊がエンゲージした後、クラリッサの読みは当たった。

 敵機が多弾頭ミサイルを発射。回避行動を強制させる事で、敵のフォーメーションを崩し数的不利を(一時的にでも)無くす。この行動自体は、間違いとは言えない。至って常識的な戦闘オプションの1つだ。

 それ故にクラリッサが読んでいなければ、誰一人カラード側の真意には気付かなかっただろう。

 だがここに居るのは、ドイツ軍最精鋭部隊を率いる才媛。そして“ドイツの冷氷”とまで言われたラウラに、認められた軍人であった。

 オペレーター達の報告が上がってくる。

 

「ビーコン探知!! 発信位置特定しました。数は3、いえ5です」

「他の機影は?」

「警戒網に、未だ反応ありません」

「チッ」

 

 クラリッサは思わず舌打ちしてしまった。

 だがこれは、他の機影が見つからない事への苛立ちでは無かった。

 何故なら、彼女にはすでに予想がついていたからだ。

 攻撃が始まった今現在においても警戒網に引っ掛かっていないという事実こそが、何よりも雄弁にカラードの位置を教えている。

 ドイツ軍IS配備特殊部隊、シュヴァルツェ・ハーゼ。

 通称「黒ウサギ隊」は、伊達や酔狂でドイツ軍最精鋭と言われている訳では無いのだ。

 同部隊が駐留する基地は、常に奇襲・強襲といった事態を想定して、警戒網が組まれている。

 素人目に見て鉄壁、職業軍人の視線で見ても、攻略の難しい基地だ。

 だがこの警戒網には、“頑張れば潜り込めそうな穴”というのが数か所用意されていた。

 自分達の想定を超える玄人が基地を狙ってきた時、隙を狙わせる事で、少しでもその行動を誘導するためだ(無論、潜り込んだ先には厳重な警戒網が敷かれている)。

 しかし今ここで、発見されていないはずの他の機体に攻撃を行えば、この基地の警備レベルを相手に教える事になる。それは唯の模擬戦以上の情報を、カラードに与える行為だった。

 

(相手は元IS強奪犯。出来れば、その類の情報は渡したくない。だが………)

 

 今回の模擬戦は、国内の関係各所も注目している。

 そして黒ウサギ隊はドイツ軍の職業軍人。対して相手は元犯罪者。

 一般的な国民感情で言えば、軍人が勝って当然だろう。また国や軍の面子としても、勝利が望まれているのは間違いない。

 

(今攻撃を行えば、与えたくない情報まで与えてしまう。だが行わなければ、ガンヘッドの攻撃で基地への損害判定は確実だろう)

 

 何せカラードが運用しているガンヘッドの砲撃戦能力は、既存の戦車や自走砲の良いとこ取りだ。そして今回の模擬戦で装備は明らかにされていないが、フランスでの生物テロ鎮圧時は、クラスターミサイル、120mm無反動砲などを装備していた。

 情報部の分析結果を見る限り、移動目標である生物兵器に対しても、かなり高い命中率を誇っている。ならば固定目標である基地への砲撃を外す、と考えるのは愚か者のする事だろう。

 

(どうする?)

 

 この時クラリッサには、明確に未来が見えていた。

 ある意味で、究極の二択だ。

 面子を守って情報を与えてしまうか。

 固定目標(レーダーサイトや格納庫など)を破壊されたという屈辱と引き換えに、情報を守るか。

 

(クソッ、ISが使えれば砲弾やミサイルを切り払うといった選択肢もあるのだが、パワードスーツや他の通常兵器群でそんな真似は出来ない)

 

 数瞬の間に考えを巡らせた彼女は、前者を取った。

 理性的に判断するなら、間違いなく後者を取るべきだろう。

 しかしドイツ軍最精鋭部隊が(有名とは言え)一介のPMCに負けたとなれば、今後の部隊行動に支障が出かねない。

 世の中の人間が皆、戦術的な判断が下せる訳ではないのだ。

 

(業腹だが、仕方がない!!)

 

 ギリッ、と才媛らしからぬ歯ぎしりをした後、クラリッサは命令を下した。

 

「ポイントNW67、NW89、SE89に対地攻撃」

 

 この時、副官の脳裏に「何故?」という疑問が浮かんだ。

 北西(NW)への攻撃指示は分かる。先ほど指示されたポイントは、意図的に警戒が緩められ、かつ隠蔽が行い易い場所だ。地の利が無いカラードの面々にとっては、さぞかし絶好の潜伏ポイントに見えただろう。

 だが南東(SE)の指示は何故だろうか? その場所は遮蔽物に乏しく、それなりに水深のある川が流れているため、機甲戦力の隠蔽や運用には適さない場所のはずだが………?

 

「疑問が顔に出ているぞ」

「失礼しました。隊長の意図が読み取れなかったもので」

南東(SE)への攻撃指示についてか?」

「はい」

「簡単だ。あそこが最も機甲戦力の展開に適さない場所だからだ。――――――既存の、という但し書きが付くがな」

「どういう意味でしょうか?」

「世界でまだ誰も行った事の無い作戦だから、見落としてしまっても仕方がない。ガンヘッドのカタログスペックは頭に入っているな?」

「勿論で………あっ!?」

 

 副官は、クラリッサの言わんとしている事に気付いた。

 

「分かったようだな。ガンヘッドは、川の中程度なら行動可能だ。加えて言えばSE89は、先ほど捕捉した囮(森から飛び出したパワードスーツ)の進行方向と一致する。馬鹿正直に追い回したら、ガンヘッドの正面に誘い出されるぞ」

 

 ガンヘッドの正面火力は、パワードスーツの比ではない。

 情報部の分析によれば、カラードが好んで装備しているのは頭部20mmチェーンガン、5.56mmマシンガン、75mm(ソフトリコイル)キャノン、これに状況によって、クラスターミサイルや120mm無反動砲、対地・対空ミサイルなどを追加していく。

 迂闊に正面に飛び込もうものなら、一瞬で撃墜判定を貰ってしまうだろう。

 

「では隊長は、川に潜んでいると?」

「高確率でな。――――――しかし、撃たせんよ。ガイドビーコンのサポートを受けたガンヘッドなら、先制を許せば、ほぼ確実に損害判定が出てしまう。人目を気にしなくていいなら、攻撃された後に反撃、という真っ当な手順を踏むのだがな」

 

 この言葉で、副官はクラリッサの意図を正確に理解した。

 

「なるほど。職業軍人が、しかもドイツ軍最精鋭たる我々が、一介のPMCに対して損害判定を受ける。我々の権限拡大を面白く思わない輩にとっては、恰好の口撃材料ですね」

「我ながら馬鹿らしい判断だと思うが、仕方がない。今身内に足を引っ張られる訳にはいかんし、そんな様を博士や()に見せるなど論外だ」

「戦場以外の事情を考慮しなければならないなど、面倒ですね」

「全くだ」

 

 こうして副官とクラリッサが話している最中、指示された攻撃は、予定通りの地点に着弾しようとしていた――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 副官とクラリッサが話しているほぼ同時刻。

 川底に潜むガンヘッドのコクピット。

 

「へぇ、黒ウサギさんは面子を取ったのね」

 

 元IS強奪犯の1人、エリザ・エクレール(ハウンド1)は、そんな言葉を漏らしていた。

 モニターには、闇夜に紛れた偵察用ドローンが捉えた映像――――――黒ウサギ隊基地からの対地攻撃が映し出されている。

 映像から行われた弾道計算では、攻撃目標はガンヘッドが潜んでいる川と、ネージュ(ハウンド3)が今現在隠れている森、そしてユーリア(ハウンド2)が潜伏していた場所だ。

 

(………黒ウサギ隊の今の隊長は、クラリッサ・ハルフォーフと言ったかしら。実力はあると思っていたけど、想像以上じゃない)

 

 潜伏地点3か所を全て看破されるとは、正直なところ思っていなかった。

 それ故に、エリザは残念に思った。

 

(そこまで見通せるなら、この攻撃が愚かしい一手だと分かっているでしょうに)

 

 正規軍最精鋭部隊VS民間軍事企業(PMC)

 対等ではない二者。あらゆる状況において必勝が求められる最精鋭部隊という肩書き()が、この攻撃を行わせた事は想像に難くなかった。

 ガンヘッドを全速で攻撃範囲から離脱させつつ、エリザは考える。

 実際この攻撃のお陰で、カラードの戦術的不利は確定的なものになった。

 ガイドビーコンの敷設までは成功したが、対地攻撃を避わしながらの砲撃では、命中精度は著しく下がってしまう。加えて時間をかければ、ユーリア(ハウンド2)を追っている黒ウサギ隊との戦闘に巻き込まれる。かと言って散開したなら離脱できるかと言えば――――――。

 

(不可能ね)

 

 既に補足されている今、単機で基地からの対地攻撃を避わしながら安全圏まで離脱など、ISでも無ければ不可能と言えた。

 また作戦開始前は、ガンヘッドを自律モードで突っ込ませて、離脱の為の時間稼ぎをする、という案もあった。が、それは補足されていない状況でこそ有効な手段だ。今自律モードに切り替えてガンヘッドから降りたところで、降りたところを直接狙われるだけだろう。

 

(………まぁ、今回は外部協力者の優秀さが分かっただけ良しとしましょう。負けたら特別ボーナスは出ないでしょうけど、こんなところで「全力を出せ」というほど、物分かりの悪い社長でもないしね)

 

 こうして考えを纏めたエリザ(ハウンド1)は、チームに通信を繋いだ。

 

『全員、聞こえる。今回は適当なところで切り上げるわよ。各自、後は好きになさい』

『こちらハウンド2(ユーリア)、了解。正規軍の実力を味わったら終わりにするわ』

『こちらハウンド3(ネージュ)、こっちは白旗上げるわ。ウォーモンガー(ユーリア)と違って、お金にならない仕事はしないの』

『ハッ、さっきの対地攻撃を避わせなかった言い訳? データリンクで、機体にダメージ判定が出てるのは分かってるのよ』

『五月蠅いわね。ロケット弾とクラスターミサイルの面制圧よ。仕方ないじゃない。ISなら楽に避わせるのに』

『はいはい。2人ともそこまで。じゃれ合いは帰ってからね』

『『じゃれてない!!』』

 

 2人の声がハモッたところで、エリザは通信を切った。

 そうしてこの模擬戦は、程なくして黒ウサギ隊の勝利で終わる。

 だが決着後、顔を合わせた両者達の表情は対極的であった。

 勝利したはずの黒ウサギ隊の表情は硬く、敗北したはずのカラードは晴れやかな笑顔であったという――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 場所と時間は変わり、IS学園実地研修2日目の夜。

 1年1組第2班の面々は、黒ウサギ隊VSカラードの模擬戦データを見終わっていた。

 

「………スゴッ、これが本物同士の戦闘」

 

 相川の言葉は、班員全員の思いでもあった。

 本来、唯の学生であれば閲覧の適わない模擬戦データ。

 その内容の濃さは、授業や実習などでは決して学べないものだ。

 

「うん。凄いね」

 

 晶とラウラを挟んで右の反対側にいる鷹月が、やや呆然としながら答えた。

 

「私達は将来、こういう人達の上に立つのですか?」

 

 その背後にいる四十院が、力無く言う。

 

「無理だよぉ~」

 

 左隣にいる谷本が泣き言を言う。

 

(これは、見せたのは失敗だったか?)

 

 班員達の態度を見て、晶は内心でそんな事を思う。

 しかし、皆の弱気をラウラが一喝した。

 

「お前達、何を言っている。今見た模擬戦は、およそ現状考えられる最高のメンバーで行われたものだぞ。例えるならオリンピック代表選手だ。未だヒヨッ子のお前達が、こいつらを指揮する事を考えるなど、思い上がりも甚だしい」

「でも将来、ありえるんだよね?」

 

 心配で堪らないといった表情で、谷本が言う。

 が、ラウラはそれを一蹴した。

 

「黒ウサギ隊はドイツ国内の最精鋭。カラードは元IS強奪犯。言わば両者共に、暴力のプロ中のプロだ。他の指揮官やパイロットが同じレベルにあると思ったら、大間違いだぞ」

「そ、そうなの?」

 

 相川が恐る恐る確認する。

 ここで、晶が口を開いた。

 

「本当だ。黒ウサギ隊には色々と力を貸してもらっているが、未だ損害を出した事がない。カラードについても、IS強奪に成功した事のある連中だと言えば、腕の程は分かって貰えるかな? ――――――だからまぁ、何が言いたいかというとだな。高すぎる頂上を見て、諦める必要は無いってことだ。むしろ今見れてラッキー、くらいに思ってくれれば良い。何よりアレより上じゃなきゃ失格というなら、殆どの者が失格扱いだ」

 

 この言葉で、班員達はようやく落ち着きを取り戻し始めた。

 四十院が、安堵の息を吐きながら言う。

 

「良かった。では、色々と参考にさせてもらいます」

「それが良い。――――――っと、もうこんな時間か。明日も研修だし、そろそろ寝ようか」

 

 晶が時計を見ると、既に夜半を回っていた。

 

「えっ、本当だ。早く寝ないと!!」

 

 ベッドに飛び込む相川。

 

「お休みなさい」

 

 何事も無かったかのように横になる鷹月。

 

「わ、私、まだシャワー浴びてないのに」

 

 取り残される四十院。

 

「先に寝てるね。お休み!!」

 

 そそくさとベッドに入る谷本。

 

「さて、寝るか」

 

 ノートPCを片付け、さっさと横になるラウラ。

 

「じゃあ俺も、お休み」

 

 こうして研修2日目が終わり、生徒達は3日目の朝を迎えるのだった――――――。

 

 

 

 第114話に続く

 

 

 




如何でしたでしょうか。
模擬戦は、試合に勝って勝負に負けた、的な内容となりました。
楽しんで頂けたなら幸いです。

次回は他の研修班のお話しが出て………火種を仕込もうかな。(ゲヘヘヘヘ)


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