インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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今回、悪役側にブーストがかかっております。


第115話 学園関係者救出ミッション

 

 誘拐発生から5時間半。

 薙原晶(NEXT)はコロンビアのギジェルモ・レオン・バレンシア空港の貨物取扱いエリアで、IS学園の生徒3名の確保に成功していた。

 1組の生徒ではないため辛うじて顔を知っている程度の相手だが、学園のデータベースと照合し、一致しているので本人である事は間違いない。

 また此処に運ばれたのが3人だけとは限らないため、周囲を入念にサーチ。山積みとなっている他のコンテナに、生体反応が無いかを確認していく。

 

(大丈夫、か。取りこぼしは無いようだな。――――――しかしまぁ、酷い事をする。確かに逃亡防止の手段としては、この上なく有効だが)

 

 そんな事を思いながら、拡張領域(パススロット)から装備を一つコール(呼び出し)。緑色の光と共に実体化した、熱光学迷彩ローブを生徒達に掛けてやる。1着しかないが、3人が寄り添ってくれれば、どうにか全員の体を隠す事ができた。

 何故こんな事をするのかと言えば、彼女達は衣服を全て剥ぎ取られた上で、両手を手錠で繋がれていたからだ。勿論、研修で持ってきた荷物なんてある訳がない。

 つまり生徒達は遠い異国の地で、身分証無し、お金無し、通信手段無し、更に衣服を剥ぎ取られ、1人では行動出来ないようにされていたのだ。これでは一度見失ってしまえば、再発見は極めて困難だろう。

 

(まずは、安心させるべきか)

 

 (NEXT)は震える生徒達の前に跪き、「もう大丈夫」と声を掛けながら、手錠のチェーンを引きちぎっていった。すると彼女達は安堵の余り涙腺が緩んだのか、盛大に泣き出してしまった。

 

(無理もないか)

 

 将来のエリートとは言っても、現時点では年頃の女の子でしかない。いきなりこんな状況に放り込まれたら、誰だってこうなるだろう。

 そして肩を寄せ合って泣く生徒達を見て、安堵すると同時に、危なかったとも思っていた。

 今回、生徒誘拐の連絡を受けたのは、ドイツから日本へ向かう飛行機の中だった。巡行高度(高度約1万メートル)まで上がった後のことだ。そして普通の飛行機は、飛行中のハッチ解放など想定されていない。もし行えば、急激な気圧差で機体が損傷しかねない。よって近隣の空港に着陸した後、Vanguard(V) Overed(O) Boost(B)による超加速でコロンビアに急行したのだ。

 結果間に合ったから良かったものの、空港に到着した時点で、生徒達が閉じ込められていたコンテナはトラックに積み込まれていた。出発直前の状態だったのだ。後数分遅れていたら、見失っていた可能性が高い。

 

(まぁ、無事確保できたから良しとしよう)

 

 晶は意識を切り替え、作戦行動中の仲間達に通信を入れた。

 パワードスーツ部隊もいるため、コアネットワークではなく暗号通信だ。

 

NEXT()から全機へ。繰り返す。NEXT()から全機へ。コロンビアのギジェルモ・レオン・バレンシア空港で学園生徒3名を発見。全員無事だ。だが救出の際は注意されたし。衣服を全て剥ぎ取られていた。他の場所も同様の可能性がある』

『そんな、酷い』

『許せませんわ』

 

 通信で聞えてきたシャルロットとセシリアの言葉は、人として真っ当なものであった。だが次いで出てきたラウラの言葉は、感情よりも軍人としての理性が優先されたものであった。

 

『腹立たしいが、逃亡を防止するには有効な手段だな。クラリッサ』

『全くです。――――――行動中の隊に、タオルケットの準備を指示しました。飛行機に常備されている物なので、問題無いでしょう』

『うむ。よろしい』

 

 2人とも内心で思うところはあるだろう。だがそれを表に出さない。軍人らしい姿と言えた。

 そんな中、晶は全員の状況を確認するため、視界内に簡易化されたリスト情報を表示した。

 現在誘拐発生から5時間半。束から連絡を受け、行動を開始してから1時間半が経過している。

 

 NEXT()

  現在地:コロンビア

  目的地:第1目標のコロンビアには到着済み。

      第2目標はミャンマー。

       現在地からは約17200km。VOB使用で到着まで約2時間9分。

  救助者:3名。この後は日本大使館へ連れて行き保護してもらう予定。

  増 援:カラード

       第2目標であるミャンマーにコンコルドMKⅡで移動中。

       ドイツからミャンマーまで約7800km。

       到着まで残り約2時間24分(全移動時間は約3時間54分)。

  その他:コンテナ(生徒達)がミャンマーに到着するまで、残り約10時間半。

      

 シャルロット

  現在地:フランス上空

  目的地:エジプト

       フランスから約3200km。

       つい先ほどコンコルドMKⅡで移動開始。

       到着まで残り約1時間36分

  救助者:-

  増 援:ランサーズ第一中隊

       シャルロットに同行中。

  その他:コンテナ(生徒達)到着まで、残り約8時間半。

 

 セシリア

  現在地:黒海上空

  目的地:インド

       イギリスから約7300km。

       30分前にコンコルドMKⅡで移動開始。

       到着まで残り約3時間9分(全移動時間は約3時間39分)

  救助者:-

  増 援:ランサーズ第二中隊

       セシリアとは別の便で、フランスからインドへ向けて移動中。

       移動距離は約7300km。到着時間はセシリアとほぼ同じ。

  その他:コンテナ(生徒達)到着まで、残り約10時間半。

 

 ラウラ

  現在地:ドイツ

  目的地:ナイジュリア

       ドイツから約4700km。

       つい先ほどコンコルドMKⅡで移動開始。

       到着まで残り約2時間21分。

  救助者:-

  増 援:黒ウサギパワードスーツ第一中隊

       ラウラに同行中。

  その他:コンテナ(生徒達)到着まで、残り約8時間。

 

 クラリッサ

  現在地:リビア上空

  目的地:中央アフリカ共和国

       ドイツから約5100km。

       30分前にコンコルドMKⅡで移動開始。

       到着まで残り約2時間3分。(全移動時間は約2時間33分)

  救助者:-

  増 援:黒ウサギパワードスーツ第二中隊

       クラリッサに同行中。

  その他:コンテナ(生徒達)到着まで、残り約9時間半。

      

 

 今回幸運だったのは、協力を申し出てくれた黒ウサギ隊とデュノア社のパワードスーツ運用研究部門 第1大隊“ランサーズ”のどちらもが、即応可能な部隊だったということだった(カラードは束博士や更識要求で動く事が多いため、今更である)。

 このため部隊は速やかに空港まで移動し、装備をコンコルドMKⅡに積み込む事ができた。

 なお事件解決後の話になるが、同行した部隊の展開速度に、軍関係者は驚きを隠せなかったという。

 元々ドイツ軍最精鋭部隊として、高い練度を誇る黒ウサギ隊が早い事に不思議はなかった。しかし軍事企業のデュノア社所属とは言え、新設されたばかりの“ランサーズ”が、黒ウサギ隊とほぼ同等の展開速度というのは驚き以外のなにものでもなかったのだ。

 だがこれには、れっきとしたカラクリがあった。

 デュノア社社長のアレックス・デュノアは、初めから“ランサーズ”を束博士やNEXT(薙原晶)に協力させる為の部隊として組織していたのだ。無論建前としては、今後普及していくパワードスーツの運用研究部門で、書類上もそうなっている。だがアレックスの本心としては、娘が2人に重宝される為の手駒であった。このため社としても少なくない費用を掛けて、世界規模で活動する2人についていけるよう、即応体制を整えていたのだ(コンコルドMKⅡは運用・維持に多額の費用がかかる高コスト機だが、アレックスとしてはそれに見合うだけの価値があると思っていた)。

 またカラードや黒ウサギ隊に提供されたコンコルドMkⅡは、フランス政府が一般から徴収したものだ。そのため元々運搬されていた荷物を降ろし、同行する部隊の装備を積み込む、という時間的ロスがあった。しかしそのロスを差し引いても、時速2000kmオーバーという高速性は、後れを取り戻すに十分なものだった。

 何せコンテナ(生徒達)の輸送に使われている機は、コスト面に優れた量産機で時速850km程度なのだ。

 元となる速度が全く違う。

 この分なら、十分に間に合うだろう。

 無論、全くトラブルが発生しないと考えるのは楽観過ぎだ。

 しかし現時点の状況を見る限り、コンテナ(生徒達)の到着まで7~10時間程度の余裕がある。

 余程の事が無い限り、大丈夫だろう。

 この時まで、晶はそう思っていた。

 実際その後の数時間は、順調の一言だった。

 一番初めに保護した生徒3人はコロンビア日本大使館に保護してもらい、晶は何らトラブルなく第2目標であるミャンマーに到着。カラードとも合流し、現地での準備は万端だった。他の仲間達も、無事に各空港に到着して、準備を整えていた。また各輸送機も、衛星を使って個別に追跡できている。例え途中で進路変更をしようと、逃す事は無いだろう。

 つまり後は、コンテナ(生徒達)の到着を待つばかりとなっていた。

 だがこの時、晶達は全く気付いていなかった。

 いや、気付いていたとしても、手の打ちようの無い罠に嵌まり込んでいたのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 場所は変わり、アメリカの某ホテル。

 とあるニュースを見ていたスコールは、ワイングラスを片手に、ニヤリと笑みを浮かべていた。

 悪女という言葉が相応しい、邪悪な笑みだ。

 

(フフッ、そうよね。助けるなら、貴方達が直接動くわよね。他人に任せたら、絶対に間に合わないもの)

 

 速報として流されたニュースは、IS学園の専用機持ち数名が何らかの特殊ミッションを行っている、というものだった。詳細までは放送されていないが、これはそうなるように、小出しに情報をリークした結果だ。暫くしたら、一般大衆が望むような報道が増えてくるだろう。

 そしてこの時点で、今回彼女(スコール)が仕込んだ計画は、その目的をほぼ達成していた。

 

(でも、気付いているのかしら? 救出行為そのものが、こちらの意図したものだって)

 

 全く痕跡を残さずに誘拐を成功させる――――――他の組織ならいざ知らず、亡国機業の組織力と資金力をもってすれば、決して難しい仕事ではなかった。にも関わらず、今回はあえて痕跡を残し、追跡できるようにした。

 何故か?

 更なる混乱の為に必要だったからだ。

 まず世間一般に、“誘拐された教員や生徒達が衣服を剥ぎ取られ、コンテナ詰めにされて紛争地域に送られる”等というニュースが流れたらどうなるだろうか?

 紛争を抱えているような治安の悪い国であっても、何らかの対応を見せなければ、国際社会から袋叩きにされるだろう。

 国内にそれほどの凶悪組織がいるのに、何もしないのか、と。

 だがもしかしたら、様々な事情により、何の対応も見せない国があるかもしれない。

 国際社会からの圧力と言っても、その気になれば抜け道など幾らでもあるのだから。やろうと思えば無視出来なくもない。

 しかし、だ。

 生徒達を取り返しに来たのが、あの束博士(天災)オーダー(命令)を受けたNEXT(薙原)(と、その仲間)となれば話は変わってくる。

 あの2人は敵対者を叩き潰すのに、躊躇も加減もしない。過去ドイツがどんな目にあったかは、表でも裏でも、未だに語り草になっているほどだ。(加えて言えば表には出ていないが、過去にNEXT(薙原)は、本当にとある基地を物理的に消滅させている)

 そんな人間が最新鋭ISを持つ代表候補生達と共に、現地に直接赴いて救出活動を行っている。

 当人達がどう思っているかなど関係なく、現地の人間(役人)は、気が気ではないだろう。

 だから当然働く自己防衛本能として、色々と調査命令を下す。そんな時に、証拠が見つかればどうなるだろうか?(勿論、予め用意された理想的なダミーの悪役組織だ)

 先進国であったなら、普通に捜査して、逮捕して、司法の裁きを受けさせる、という普通の流れで終わりになっただろう。

 だが世界最悪レベルの紛争を抱える国々では違う。

 先進国ほど司法の整っていない国では、手柄こそが権力への最短ルートだ。

 そこに「未来あるいたいけな少女達の衣服を剥ぎ取り、コンテナ詰めにして送るような凶悪な犯罪組織」という分かりやすい悪役組織を、撲滅させられる証拠が手元に転がり込んできたとしたら? 役人の野心を刺激するには十分な代物だ。

 加えて今回動いているのは、束博士(天災)の命を受けた世界最強の単体戦力(NEXT)と、デュノアの姫君(シャルロット)イギリスのセカンドシフトター(セシリア)ドイツの冷氷(ラウラ)と、いずれも知名度抜群の存在たち。

 必然的に、世界からの注目度も高い。

 上昇志向のある者なら、このチャンスを逃すまいと全力で動き――――――結果、警察や軍の大規模な動員へと繋がっていく。

 何せここで上手く協力して成果を上げられれば、またとない手柄となる。コネクションでも得ようものなら、その後の権力闘争において、一歩抜きんでる事ができる。頑張らない訳がなかった。

 そしてこれが御伽噺なら、分かりやすい悪党が一掃されてハッピーエンドだ。

 

(でも世の中、そんなに簡単じゃないのよね)

 

 唯でさえ政情の不安定な国で、警察や軍を大々的に動員したらどうなるだろうか?

 人も組織も1つの物事に集中すると、他が疎かになるのは変わらない。

 なので犯罪組織や反政府組織は、その隙を突こうと活動を活発化するだろう。

 

(そこに武器商人を通じて、大量の武器を流し込む)

 

 結果紛争は拡大し、さぞかし楽しい光景が生まれるはずだ。

 しかしそんなモノは、只の通過点に過ぎない。

 今回の計画の最後の仕上げは、大動員で出来た隙を使って、ダーティボム(汚い核爆弾)を各国に持ち込むことだ。

 それを使い、紛争国の農地や工業基盤を汚染する。

 

(結果、食料自給率は激減。工業基盤を失い経済はガタガタ。紛争による政情不安も重なって、各国で一気に大量の難民が発生する)

 

 加えて今回選んだ紛争国は、全て陸続きで他国に繋がっている。

 つまり発生した難民は周辺国に流入し、周囲を巻き込んで治安は悪化の一途だ。

 ここまで進めば、もう止められる者はいない。

 無尽蔵に発生する難民は国の体力を奪い、戦争ビジネスで利益を上げる企業の力は強まる。

 オペレーション“ピース・クラッシュ(平和砕き)”の前段階としては、十分過ぎる戦果だろう。

 スコールはそんな事を思いながら、ワイングラスを傾けるのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 場所は変わり、ミャンマー。

 コンテナ(生徒達)の到着予定時刻まで1時間を切った頃、晶は考え事をしていた。

 

(このまま行けば、何とか全員救出出来そうかな?)

 

 既にラウラ、クラリッサ、シャルロットからは救出成功の報告が来ている。後、残るはセシリアのいるインドと、ここミャンマーを残すのみとなっていた。

 

(………しかし、分からんな。何で今回の犯罪を実行した奴らは、衣服を剥ぐなんて面倒な事をしたんだ?)

 

 これまでに救出された教員や生徒達は皆、衣服を剥ぎ取られた上で手錠を嵌められていた。

 晶も男であるので、美人教師や美少女な生徒達の裸体に興味が無い訳では無い。いや、むしろ見たい。

 だがそういう事は一端横に置いて、合理性という点で考えると、不自然さが拭えないのだ。

 これが1人だけ衣服を剥ぎ取られて暴行された、というなら実行犯の暴走と考えられるのだが、全員となると、明確な目的があるはずだ。

 

(逃亡防止のためか? いや、それだけが目的なら、こんな面倒な事をしなくていい。両手両足に手錠と猿轡で十分なはずだ)

 

 悩む晶。

 だがそこまで考えたところで、通信が入った。カラード(元IS強奪犯)―――ハウンド2(ユーリア)―――からの通信だ。

 

『社長。ちょっといい?』

『どうした?』

『な~~んか、不自然な感じがしない?』

『お前もか。どんな違和感を感じているんだ?』

『上手く言えないけど、強いて言うなら、上手く嵌められた時の感じかな。上手くいっているのは仮初めで、実は手の平で踊らされているって感じ』

 

 悪人は悪人を知る、という事だろうか?

 適切な表現では無いかもしれないが、この言葉に、晶は自身の疑念を強めた。

 そして何となく吐かれた次の言葉が、ある意味で決定的だった。

 

『あとね、役人がやたらと親切で気持ち悪い』

『ハハッ、確かにお前達の経歴なら、役人が親切なのは――――――』

 

 気持ち悪いだろうな、と続けようとして、晶はふと思った。

 

(そうだ。気持ち悪いんだ。今回俺たちは他国にこれだけの戦力を持ち込んでいる。にもかかわらず親切って、おかしいだろう。役人気質から考えれば、煙たがられても仕方がないはずなんだ。なのに、全てが俺たちにとって都合良く進んでいる)

 

 空港への戦力受け入れ、現地政府の協力、普通なら入念な下準備と根回しが必要なはずだ。にも関わらず、全てがアッサリと片付いている。

 今回動いているメンバーの知名度や、IS学園で動いてくれている織斑先生の努力の結果と言えば、それまでかもしれない。しかしそれにしても、上手く行き過ぎていないだろうか?

 急速に疑念が膨らんでいく。

 

『社長?』

『………』

『社長ってば』

『………………』

『ねぇ、ちょっとどうしたの、急に黙り込んで!!』

『………………………ちょっと待て、今凄く嫌な考えが浮かんだんだが』

『へぇ、どんな? 元悪党(元IS強奪犯)が聞いてあげる』

『元とか言うな。今もだろうが』

『自分の部下を悪党呼ばわりって酷くない? こんなに忠実に尽くしているのに』

『それだよ、それ。仕事で出向いた先々で、忠実な部下アピールするのは止めろ』

『イ・ヤ・よ。私達が生き延びるための大事な処世術だもの。あんな事やこんな事をして、しまいには組み伏せて。そうしないと生きられないようにしたのは何処の誰さんよ』

『卑猥な言い方するな。パワードスーツの模擬戦で、ちょっとボコって組み伏せただけだろう。それも、お前から申し込んできた模擬戦な』

『どこがちょっとよ。御丁寧に装甲ボコボコにして、挙句パイロットに修理をやらせるなんて、どんな罰ゲームよ』

『お前の模擬戦に付き合うと、メカニックから必ず残業申請が出るんだよ。だから、経費削減な』

『ケチくさい男は嫌われるわよ』

『好かれなくて結構。残業したくないなら、頑張って被弾を減らすんだな』

『ちょっと!! 社長相手にそれって、難易度高すぎると思うんだけど』

『ま、頑張れ』

 

 社長と部下の掛け合いを、ハウンドチームの他の面々は苦笑しながら聞いていた。

 どうやらいつものやり取りらしい。

 そうして軽口もひと段落したところで、晶は本題に入った。

 

『――――――で、だ。話を戻すぞ。嫌な考えっていうのは他でも無い。俺達がこの場いる状況そのものが、仕組まれたっていう可能性だ』

『罠なら食い破れば良いだけだと思うけど?』

 

 ハウンド2(ユーリア)の強気な言葉に肯きながらも、晶は続けた。

 

『確かにその通りだ。だが俺が心配しているのは、誘拐された教師や生徒達を救出する事で、完全に罠にはまり込んでしまう可能性だ。お前達もやった事ないか? 対象が動くことそのものがトラップってこと』

『あるわね』

『うん。ある』

『やるなら当然じゃない?』

 

 如何にも悪党らしい返事だった。

 だが今は、それが頼もしい。

 

『だろう? ならこの状況、お前達ならどう使う?』

『金儲け』

『お金よね』

『稼ぐわね』

 

 三者三様ではなく、三者一様の返答。

 

『どういう風に?』

『簡単じゃないかしら?』

 

 と前置きして答えたのは、チームの纏め役、ハウンド1(エリザ)だ。

 

『ISが動いたなら、それも社長や学園の代表候補生みたいなビックネームが動いたなら、現地の人間は多かれ少なかれ、対応に人員と時間を取られるわ。組織体制がしっかりしている先進国ならまだしも、紛争が続いている地域でそんな事になったら、色々な処に綻びが出るでしょうね。――――――で、私が今回みたいな計画を立てるとしたら、反政府組織やテロ組織に、“動員により、人手が薄くなる可能性”という情報を流して、武器を売り捌くわね。勿論相手は半信半疑でしょうけど、こうして実際に社長達が動いているなら、その情報精度自体が今後の取引材料になるわ。加えて言うなら、こういう紛争地域の人間に武器なんて流したら、直ぐに使いたがるもの。だから面白いように火が大きくなるし、武器も沢山売れてお金タップリってこと。簡単でしょう?』

 

 近所に買い物に行くような気軽さだが、世間一般では大悪党と言われる所業だろう。

 そしてハウンド1のこの言葉は、最終目的こそ違えど、今回スコールが立てた計画の一面を、実に正確に言い表していた。

 まさしく悪党は悪党を知る、である。

 

『なるほどな。調べてみる価値はあるか』

『あると思うわよ』

 

 そうして晶は、コアネットワークで束と楯無をコール。繋がった2人に、先程カラードと話していた内容を伝えた。

 すると、まずは楯無が口を開いた。

 

(あら、流石は元IS強奪犯。中々素敵な事を考えるじゃない)

(でもそれが本当なら、ちょっと業腹だね。つまり、こっちを利用したってことでしょう)

 

 次いで束が、少しばかり不機嫌そうに口を挟む。そして晶の気持ちも同じだった。

 

(俺もだ。だから、確認が取りたい。都合良く利用されるのは嫌だからな。もし本当なら、利用料を払わせてやりたいところだ。勿論、罰金付きでな)

(オッケー。そういう事なら、ちょっと調べてみるね。泥棒猫はどうするの?)

(勿論調べるわよ。でも、そうね………先に気になる事を話しておくわ)

 

 そう前置きしてから、楯無は続けた。

 

(紛争国に派遣しているエージェントから、少し前から妙な情報が上がってきているの)

(どんな?)

(武器商人の売買リストに、対NBC装備が載っているらしいのよ。確かに紛争国では過去、BC(生物・化学)兵器が使われた事もあるから、リストに載せる理由も分からなくもないわ。でもそこにN(核)が加わるって、どう思う?)

(普通に考えるなら、売れる見込みがあるから仕入れた、だよな。――――――で、それについて何か調査はしたのか?)

(勿論したわよ。でも不思議な事に、何も分からなかったの。全ての情報がプッツリと途絶えていたのよ)

(更識を動かして、何も分からなかった? 冗談だろう?)

(残念ながら、本当の話よ)

 

 これが他の情報機関が調べて分からなかったというのなら、能力不足を疑ったかもしれない。

 しかし対暗部用暗部の更識家が調べて、分からなかったというのなら話は違ってくる。

 更識家を上回る組織力で隠蔽されたと見るべきだろう。

 そして今回の計画におけるスコール唯一の失敗は、武器商人に対NBC装備の纏まった数の発注を許してしまった事だった。亡国機業が関与した証拠を残さないために、実行犯との間に常に複数の人間を挟んだおかげで、噂レベルの漏れ出た情報までは隠蔽出来なかったのだ。

 本人達は知る由も無い事だが、これが無ければ今回の計画、スコールの完勝で終わっていただろう。

 そして晶の中で、核という情報と、犯罪組織という情報が結びついた時、脳裏に閃くものがあった。

 

(………もしかして、ダーティボム(汚い爆弾)を使おうって奴がいるのか?)

 

 ダーティボム(汚い爆弾)

 TNT火薬のような従来の爆発物に強い放射性物質を加えただけの単純な爆発物で、爆発によって起きる高熱で放射性物質が気化したり霧状になって広範囲に拡散する事を利用した汚染兵器を指す。核爆弾のように高度な技術力を必要としないため、物資さえあれば比較的簡単に作れる。

 そして核物質は旧ソ連諸国の政情が不安定だった時代は管理がずさんで、野に流れている可能性が指摘されていた。

 

(何のために? 紛争国で使ったところで、政府にも反政府組織にも、どちらにもメリットなんて無いわよ。土地が汚染されて使えなくなるんだから。紛争を煽って武器を売るなら、通常兵器の方が扱いやすいと思うのだけど。仮に使うとしても、せいぜいBC(生物・化学)兵器までと思うわ)

 

 楯無の言葉に、晶は素直に思うところを口にした。

 

(俺も確信がある訳じゃない。最悪を考えてみただけだ)

(ちなみにその最悪って、どの程度を考えているの?)

(世界各地の紛争国で一斉にダーティボム(汚い爆弾)を使って、農地や工業地帯を汚染する。この2つを失えば、どんな国でもガタガタになるからな。加えて土地も汚染されて人が住めないとなれば、世界各地で数百万人規模の難民が、一斉に発生する。すると、どうなる? それだけの規模の難民が周辺国に流入したら、治安は一気に悪化。いや、悪化なんてレベルじゃないな。下手をすれば今後百年単位で、その地域から平和って言葉が消えるぞ)

 

 世間一般の普通の感覚で考えるなら、フィクションの中だけでしか存在しないような、馬鹿げた話だ。

 しかし今話している3人は、人の悪意は時として、その馬鹿げた話を現実にするという事を知っていた。

 束が口を開く。

 

(流石にそれは困るかな。それだけの規模の混乱になれば、宇宙開発にも影響がでちゃう。――――――そうだね。前言撤回。ちょっとじゃなくて、全力で調べてみようか。泥棒猫、今まで調べた情報を頂戴)

(分かったわ。こっちも、もう一度調べてみるわね)

 

 今までであれば、話はこれで終わりだった。

 だがどうにも嫌な予感の拭えなかった晶は、念には念を入れる事にした。

 昔では考えられなかった一手だ。

 

(楯無、もう1つ仕事を頼んでもいいかな)

(え、何かしら?)

(フランス、イギリス、ドイツに連絡を取って、紛争国周辺の情報を提供してもらってくれ。多分その方が、より広範囲を高精度で調べられるだろう。今までの貸しがあるから、渋る事も無いはずだ。後、情報量ならアメリカだけど、そっちに伝手はあるかな?)

(今回みたいに急ぎで、かつ精度の高い情報となると、ちょっと厳し………いえ、あるじゃない。以前見逃した(第77話)米第七機動艦隊の艦隊司令)

(ああ、ヤツか。確かに、少し小突けば色々と喋ってくれそうだ。――――――で、得られた情報を束にも流してくれ)

(了解よ。貴方はどうするの?)

(もどかしいけど待機だ。そっちの調査結果が出るまでは、下手に動かない方が良いだろう)

(そうね)

(なら2人とも、頼む)

 

 こうして通信を終えた直後、束から改めて通信があった。

 

(あれ、どうしたんだ?)

(晶。万一の可能性を考えて、アレの起動コードを渡しておくね)

(アレの? そこまで必要か?)

(万一、本当に万一ダーティボム(汚い爆弾)が実際にあって、もしも起爆を許してしまったら、アレで汚染物質もろとも全てを消し飛ばして。周囲一帯は更地になるけど、汚染で恒常的に人が住めなくなる事態は防げるから)

(分かった。そんな事態にならない事を祈るよ)

(本当にね。じゃあ、気をつけてね)

(ああ、ありがとう)

 

 こうして、束と楯無が事件の裏側を探り始めた。

 並大抵の事件であれば、ほどなくして全てが暴かれ、無事解決へと向かっただろう。

 だが今回は違う。

 事件発生からダーティボム(汚い爆弾)という可能性に行きつくまでに要した約10時間。その間にスコールの本命(ダーティボム)は、紛争国へと運び込まれていたのだった――――――。

 

 

 

 第116話に続く

 

 

 




如何でしたでしょうか?
スコールさんの本命は、IS学園の生徒誘拐という大事件、そして主人公勢を事件で動かす事で世界の注目を集め、その隙にダーティボムを紛争国に持ち込む、というものでした。
起爆まで持っていけるかは次回以降ですが、現状ではまだスコールさん有利な状況です。

お楽しみ頂けたなら、幸いです。

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