インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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第23話 クラス対抗戦(後編)

 

「行くよ!!」

 

 セシリアが2機の無人IS(α1とα2)を抑えている間に、(シャルロット)が手負いの1機(α3)を落とす。

 ごく自然に、そんな役割分担。

 識別コードα3は一夏が入れたダメージで、もう殆ど移動出来ない。代わりにアリーナ外周にポジショニングして固定砲台化。おかげで射撃精度が高い。

 

(本当なら、機動力で撹乱しながら削るところだけど――――――)

 

 ハイパーセンサーが、2対1にも関わらず敵を封じ込めている、セシリアの姿を捉える。

 

(――――――あんな無茶が長く続くはずが無い。やるなら、速攻で決めないと)

 

 高速切替(ラピッド・スイッチ)で右手にガトリング砲、左手にバズーカを呼び出す。

 この際、少々の被弾は仕方が無い。

 時間を掛ければ掛けるほど、こっちが不利になってしまう。

 なら最短の時間で終わらせる。

 両手のトリガーを引き絞り、弾幕を張りながらブーストダッシュ。

 この時僕が考えていたのは、α3を接近して撃破。と同時に距離を取ったα1と2に対して、ラファールの遠距離戦における要の一つ。多弾頭多連装ミサイルを撃ち込むというもの。

 近距離戦じゃ使いづらい兵器だけど、この状況なら!!

 近付く程に濃密になるα3の迎撃。

 だけど湧き上がる恐怖心は、トレーニングを思い出せば耐えられた。

 

「ショウの攻撃は、もっと怖かったよ!!」

 

 右にワンステップ。

 コンマ1秒前まで居た空間を、腕部ビーム砲が貫いてくいく。

 今度は左に。肩部ビームマシンガンがエネルギーシールドを掠めていく。

 もう一歩左に。避わし切れなかった腕部ビーム砲が、エネルギーシールドを削っていく。

 ゲージがイエロー表示に。

 でも、ここまで踏み込めば!!

 前方に向かってジャンプ。近付いたα3に対してトップアタックを――――――すると見せかけてPIC制御。勢い良く跳び上がった慣性をキャンセルして垂直降下。

 この瞬間、フェイントに引っかかったα3の上体は完全に開いていた。

 両腕も、顔も、僕が本来居たであろう位置に向けられている。

 やるなら、今!!

 

 ―――瞬時加速(イグニッション・ブースト)!!

 

 本当なら隠しておく気だった切り札。

 一瞬でトップスピードに到達。左手のバズーカをリリースしながら腕を引き絞る。

 そうして懐に潜り込んだ瞬間。

 

「コレは、一夏のみたいにキレイに切れる訳じゃないからね」

 

 盾殺し(シールド・ピアース)

 人間で言うところのわき腹から心臓に向かう角度で放った鉄杭が、エネルギーシールドを貫き、無人ISに根元まで突き刺さる。

 やった!!

 

 ――――――この時、シャルロットの選択は決して間違っていなかった。

 本人が知る由も無い事だが、この一撃でα3は機能の大半を喪失。

 戦闘能力など、もう“ほとんど”残ってはいなかった。

 だが彼女にとって不幸だったのは、残った部分に再起動システムが含まれていた事。

 損傷がボディに集中していた為に、ビーム砲のあるアームユニットが無事だった事の2つ。

 そんな無人ISを前にして、彼女がとった行動は――――――

 

 僕は突き刺した盾殺し(シールド・ピアース)を、その場で引き抜き180度旋回。

 と同時に崩れ落ちるα3。

 両手に持つ武器をリリース。

 次に使う武器を拡張領域(パススロット)から呼び出す。

 出現するのは、デュノア社の傑作兵器の一つ。

 手持ち型の多弾頭多連装ミサイル。

 外見はロケットランチャー(M202 FLASH)のように、長方形の箱にグリップ用アームと照準用センサーが付いているだけの無骨な代物だけど、その性能は折り紙付きだ。

 1発につき、6発の小型ミサイルに分裂。それが片方だけで4発。つまり24発。それを両手に持っているから計48発のミサイル攻撃。

 ロック――――――オン!!

 

「セシリア!!」

 

 トリガー。と同時にBT(ブルーティアーズ)が離脱。

 放たれたミサイルが、それぞれ分裂。

 α1と2が迎撃を始めるけど、もう遅い。

 そのミサイルは、ランダム回避を繰り返しながら目標に迫るっていう、凶悪な代物だよ。

 

 ―――システム再起動。

 

 ―――自己診断プログラム開始・・・・・終了。

 

 ―――エネルギー回路バイパス。

 

 ―――10秒の限定起動時間確保。

 

 ―――ターゲット。ラファール・リヴァイヴ・カスタムII

 

 僕は全弾発射後、すぐに手持ちミサイルをリリース。

 次に呼び出すのは、120mmアンチマテリアルキャノン。

 全長3mを越える取り回しの悪さに加え、ISの性能を持ってしても、両手を使わなければ押さえ込めないという強烈な反動。

 使い辛い事この上ない兵器だけど、そんなものが専用機に組み込まれている理由はたった一つ。

 

「コレは、痛いじゃすまないよ」

 

 腰だめに構え、ミサイルに追い立てられて機動が単調になったα1を照準。

 FCSがロックオンの完了を告げる。

 この時、僕はもっと注意するべきだった。

 今までは盾殺し(シールド・ピアース)の一撃が入る事は、勝利と同義だった。

 だから今回もそうだと、心のどこかで思ってしまっていたんだ。

 その油断がα3の再起動を、その初動を見落す事に繋がってしまった。

 

 ―――形状特性から120mmアンチマテリアルキャノンを確認。

 

 ―――攻撃有効箇所検索・・・・・終了。

 

 ―――弾倉部を確認。

 

 ―――射線クリア。

 

 ―――照準。

 

 ―――右腕ビーム砲エネルギーチャージ。

 

 ―――充填率36%

 

 ―――発射。

 

 気付いたのは、ビームが放たれた瞬間だった。

 咄嗟にキャノンを手放したけど、出来たのはそこまで。

 120mm弾頭が最大装填されている弾倉が爆発。

 そこで、僕の意識は途切れたんだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 多弾頭多連装ミサイルに追い立てられる無人機を見た(セシリア)は、勝利を確信していました。

 この後、敵が反撃するチャンスなんてもうありませんもの。

 私の多角同時攻撃と、彼女(シャルロット)の砲撃でThe End。

 (薙原さん)が来る前に片付けられる。

 そう思っていました。

 直後に聞こえた、予想外の爆発音。

 振り返れば、吹き飛ぶ彼女の姿。

 

「え?」

 

 思わずそんな言葉が漏れてしまう程、その光景が理解出来ませんでした。

 何故、吹き飛んでいますの?

 盾殺し(シールド・ピアース)が突き刺さったのは、ハイパーセンサーで確認していました。無人機が崩れ落ちたのも確認していましたわ。なのに、何故?

 1秒にも満たない思考の空白。

 でも2対1という状況において、それは致命的でした。

 ましてBT(ブルーティアーズ)という、常に思考制御を要求するものを扱う私にとっては。

 

「!? しまっ――――――」

 

 制御下を離れ、停滞したビットが無人機に撃ち落される。

 1、2、3機も!?

 慌てて再制御。それ以上の被害を防ぐ。でも純粋に火力が減ってしまった今、敵の行動を抑制出来ない。

 距離を取ろうにも、アリーナという閉鎖空間に加えて2対1という数的不利。

 どうにかして自分の距離を、距離さえ取れれば――――――。

 でも敵が、それを許してくれるはずもありませんでした。

 数の利を生かし、1機は頭を抑え、もう1機が私を追い詰める。

 高度が徐々に奪われ、逃げる空間を潰され、残っていたビットも撃墜され、最後はスナイパーライフルにも被弾。

 武器を失い、気付けば吹き飛んで倒れている彼女(シャルロット)の所にまで、追い詰められていました。

 すると無人機は、憎たらしいほど機械的で冷徹で合理的な判断。

 射撃武器を持たない私に対して両腕を向け、エネルギーチャージ。

 避わせば、倒れている彼女に直撃。避わさなければ、当然私に直撃。

 そして反撃手段は有りません。

 でも友人を見捨てるなど、オルコット家の人間がする事ではありませんわ。

 なら、取るべき行動は一つ。

 そう覚悟を決めた時でした。

 ハイパーセンサーが、桁違いのエネルギー反応を感知したのは。

 上?

 私が見上げると同時に、無人機達は攻撃を中断して回避機動。

 直後、アリーナに突き刺さる6本の光の柱。

 放たれた圧倒的なエネルギーの奔流は、一番初め、無人ISが上空の大出力エネルギーシールドを貫いたのとは、比較にならない大爆発を引き起こす。

 余りに衝撃に、アリーナ全体が震えるのが分かりました。

 そんな爆炎と爆風が吹き荒れる中、ゆっくりと降下してくるNEXT。

 背中に見える新しい武装が、どうしようもなく天使という言葉を連想させる。

 それも只の天使ではなく、暴力を持って敵を駆逐する黒色の破壊天使。

 

「――――――セシリア。良く持たせてくれた。後は俺に任せて、シャルロットを頼む」

 

 オープン回線で聞こえてきた彼の声に頷いた私は、彼女を抱き抱えてピットに下がりました。

 この至近距離ですら、リアルタイムで捕捉出来ないNEXTをレーダーに見ながら。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「――――――セシリア。良く持たせてくれた。後は俺に任せて、シャルロットを頼む」

 

 振り返らずに、努めていつもと変わらない口調で言った(薙原晶)は、内心で安堵と、そして歓喜していた。

 安堵は、言うまでも無い。

 仲間が無事だったから。

 データリンクでシャルロットのバイタルデータが乱れた時、そしてセシリアが追い詰められていると分かった時、速いはずのNEXTの移動速度が、どれだけ遅く感じた事か。

 そして歓喜は、この黒い感情をぶつける相手が、まだ生き残ってくれていた事に対してだ。

 誰にだってあるだろう?

 ストレートに暴力をぶつけたくなる事が。

 そして敵に、反撃を許す気は無かった。

 つまりここから先は戦闘じゃない。

 只の蹂躙戦だ。

 OB(オーバード・ブースト)の起動と同時にQB(クイック・ブースト)、狭いアリーナの中で超音速領域に突入。

 しかし壁面にぶつかるような事は無い。

 強化人間の反応速度とAMSの制御能力があれば、例え超音速領域だろうとミリ単位で機体をコントロール出来る。

 そして視界の先では、無人機共が回避機動に入ろうとしていた。が、遅過ぎる。

 04-MARVE(アサルトライフル)063ANAR(アサルトライフル)のダブルトリガーで、α1を照準。

 シールドの上から容赦無く弾丸を叩き付け、引きちぎり、本体に風穴を開けながら接近。

 辛うじて四肢が繋がった状態のα1の懐に飛び込み、設計時から近接打撃が考慮されている04-MARVEの銃身を突き刺す。ここでOBを停止し、前進しようとする慣性をQT(クイックターン)で遠心力に転化。

 敵を地面に向かって叩き落とし、再びダブルトリガー。弾丸の豪雨が、今度こそα1を蜂の巣にする。

 そうして1機目を粉砕したところで、α2は腕部ビーム砲を、セシリアが入って行ったピットへと向けた。

 普通ならここは、「何て卑怯な」と怒るところかもしれない。

 でも俺みたいな捻くれた人間にとって、その手の行動は分かり易過ぎる。むしろ戦闘中に弱っている敵を狙うなんて常識だ。

 だから怒りもしないし卑下もしない。

 むしろ無人ISの戦闘プログラムを組んだ人間は良く分かっている。

 でも、それが届く事は無い。

 読めてるという事は、先手が取れるという事なんだから。

 先んじて俺は、両手の武器をリリース。高速切替(ラピッド・スイッチ)で呼び出すのは、全武装中最高の弾速を誇る武器。

 

 ―――RG01-PITONE(レールガン)

 

 ロックオン。トリガー。そして着弾までがほぼ同時に行われ、α2は攻撃を放つ事無く、衝撃で体勢を崩される。

 ここで俺は、再び手持ち武器をリリース。と同時に再度OB(オーバード・ブースト)起動。

 よろけたα2の懐に潜り込む。

 そうして次に呼び出したのは、KB-O004。

 束博士曰く、「真っ当な天才集団(オーメル)の中にも、こういう“素敵な”ものを作れる人がいるんだね」と大絶賛でお気に入りの一品。

 引き絞った腕を全力で打ち込むと、圧縮によって杭という形を成していたエネルギーの塊が、敵本体の中で拡散。瞬く間に脆弱な内部機構を焼き尽くし、余りの高熱に全身が赤熱化。ついには内部爆発を引き起こして、跡形も無く消滅する。

 この間、僅か1秒弱。

 当たれば、まさに必殺と言える威力だった。

 一瞬KB-O004でこれなら、本家本元最強のパイル(KIKU)なら、どうなるんだろうかと思ってしまった。

 が、それを考えるのは後で良いだろう。

 今は――――――と思考を切り替えようとしたところで、更識から通信が入った。

 

「依頼は片付けたよ。ところで一つお願いがあるんだけど、良いかな?」

「内容による」

「そんなに難しい事じゃないよ。単に、今私が鹵獲した無人機の解析を、篠ノ之束博士に依頼したいんだ。取次ぎを、お願い出来ないかな?」

「鹵獲? よく出来たな」

「空にいたとは言っても海の上。引きずり込めばどうとでも出来るよ」

「怖い話だ。敵には回したくないな」

「君にそう言ってもらえるとは光栄だね。で、取次ぎはしてくれるの?」

「無人機のデータは俺も欲しいからな。取次ぎはしてみる。しかし博士が受けるかどうかは――――――」

 

 分からない。

 と答えようとしたところで、博士から通信が入った。

 

「いいよ薙原。私も興味があるから、その話受けようじゃないか」

「聞いていたのか?」

「勿論。状況は全て把握しているよ」

「分かった。ならすぐに鹵獲機を運ぼう」

「うん。よろしく。――――――と、そうだ。えーと、さらしき、サラシキ、更識? に、ちょっと繋いでくれる」

 

 他人にコンタクトを取るなんて珍しいと思いながら、言われた通りに通信を繋いでみる。

 すると博士は、予想もしていなかったような事を言いだした。

 

「ご褒美は、お金以外はあげないからね。彼を使って何かしようとするのは、許さないよ」

 

 ・・・・・これは、俺はどう反応すれば良いのだろうか?

 少し固まっていると、更識からの返答。

 

「あははははは。了解了解。博士の愛しい愛しいガーディアンに手を出すような真似はしませんよ。でも――――――」

 

 彼女は1度言葉を区切り、分かり易くゆっくりと言葉を続けた。

 

「――――――お仕事で近付く分には、仕方ないですよね? 束博士」

 

 ちょっ!? そこで何挑発しているんですか!?

 原作の更識 楯無(さらしき たてなし)を知っている俺からすれば、遊んでるって分かるけど、人付き合いそのものが殆ど無い博士が、「人たらし」とまで言われる彼女の言葉に振り回されずに済むだろうか?

 多分・・・・・無理だろうなぁ。

 何故だか一難去ってまた一難な気がしてならないのは、気のせいだろうか?

 いや、気のせいだと思いたい。ぜひともそう思いたい。

 2人とも大人だから、困った事にはならないはずだ。

 そんな希望的過ぎる考えで問題を先送りにしながら、俺は鹵獲機の回収に向かうのだった。

 通信機から聞こえてくる声は、聞こえないフリをしながら・・・・・

 

 

 

 第24話に続く

 

 

 

 


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