トメィト量産工場   作:トメィト

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ダンジョンに神機使いがいるのは間違っている

 

 

 

 

 仁慈とティオナの勝負から五日後。

 冒険者のクエストや、ダンジョンの出入りなどを管理しているギルドにヘルメスの姿があった。彼と対峙しているのはギルドでも中々権限のある役職についているものたちである。ここギルドの主神、ウラノスは君臨すれども統治せずを行っているため、主神を説得するよりこうしたほうが速いのである。

 

 

 「今回は何の御用でしょうかヘルメス様。団員のレベルアップ報告ですか?」

 

 

 「いやいや、ウチの連中はなかなかレベルアップしなくてね。今回は別件さ」

 

 

 用意されたお茶を口に運びながらヘルメスは笑った。

 その笑みがギルドの重役を不安にさせる。

 

 

 「ここ最近、噂になってる異世界人がいるだろ?彼を特別にダンジョンにもぐれるようにして欲しいんだよ」

 

 

 「あの、神の恩恵なしでもレベル5相当の実力を持つと、神々が言った異世界人のことですか?」

 

 

 ギルドの重役はそう聞き返す。ヘルメスは笑顔で頷いた。嫌な予感がした。

 

 

 「しかし、いくら強いといっても神の恩恵を受けていないので……」

 

 

 「………多くの神から彼に対する処置を迫られているんじゃないかな?」

 

 

 ヘルメスが言った一言にびくりと反応する。

 ……実は、異世界人である樫原仁慈がロキファミリアのレベル5である大切断(アマゾン)ティオナ・ヒリュテを下したという噂が彼女と模擬戦をした翌日にオラリオ内を駆け巡ったのである。

 このことは瞬く間に広がり、ロキファミリアの団員が本人に確かめてみたところ、本人もこれを肯定。

 こうして、異世界人樫原仁慈の名前はその実力と共に大衆へと広まることとなった。ここで危機を覚えたのは弱小ファミリアの神々である。唯でさえ自分たちを駆逐できる能力があるにも関わらず、二流冒険者も斬って捨てることができる存在となれば排除しに動こうとするのも納得する。

 ギルドには正式に討伐許可を要請する声がいくつか届いていた。

 

 

 「…………」

 

 

 「ダンジョンに入れれば、自分達で手を下すまでもなくそのまま死ぬとは思わないかい?」

 

 

 レベル5を倒した。それは事実だが、ダンジョンでは何が起こるかわからない。いくら強くても、人とモンスターを相手にするときはまた違う。異世界人ということと彼が持っている能力からいって、彼とパーティーを組んでくれる相手もいないと推測されダンジョンにはソロでもぐる可能性が高い。

 それならば、ダンジョンで勝手に死んでくれるんじゃないか。ギルドの重役にそんな考えが廻るが、ここでもう一人が口を開いた。

 

 

 「ヘルメス様。その件については既に許可が出ています」

 

 

 「えっ?」

 

 

 「………何だって?」

 

 

 ヘルメスが離しかけていた重役もヘルメス自身も、そう発言したギルド職員のほうに視線を向ける。

 特にギルドの重役なんて、どうして俺知らないの?話通してくれなかったの?俺結構な役職だよ?とクエスチョンマークを浮かばせまくっていた。

 

 

 「実はつい昨日、同じようなことをおっしゃった方が居るんです。そのときに対応した職員が既に許可を出したようで、今日の昼頃には公になるかと」

 

 

 「ちなみに、それを言って来たのは誰かわかる?」

 

 

 「フレイヤ様です」

 

 

 フレイヤ―――その名前が入ってきた瞬間ヘルメスは頭を抱えた。

 そもそも、ヘルメスはこの噂をおかしいと思っていた。どうしてあんなに早く仁慈とティオナの戦いのことが公になったのか。

 あの場にはロキファミリアの幹部と自分、仁慈、アスフィしかいない。ロキファミリアの面々は特に言いふらす理由も見当たらないし、ロキに限っても仁慈が余計危険視されるような噂は流さないだろう。自分は流してダンジョンに突っ込ます気満々だったが未遂に終わり、仁慈本人もアスフィもこんなことを言いふらしたりはしない。というか仁慈に限ってはこの話をする相手すら居ない。

 ならば、残っているのは仁慈曰く、戦いを覗いていたフレイヤのみである。

 

 

 「(俺と同じことを考えていたとは……)」

 

 

 彼女らしい手段とも言える。

 自分の欲しいものを手に入れるためには神の力を使うことも他の男神を利用することだって厭わない女神だ。このくらいは想定して然るべきものであった。

 

 

 「(しかし、彼女は彼をダンジョンに入れてどうしようというのだろうか?まさか本気で彼を殺すつもりじゃあないだろうし)」

 

 

 だが、フレイヤが興味を持つというのは十中八九仁慈の魂にだろう。ということは、別に殺しても問題ないといえなくもない。

 

 

 「(………まぁ、いいか。彼女が何を考えていようと俺には大して関係ない。俺は唯、仁慈の異世界人が起こす変化を影響を見てみたいだけだし)」

 

 

 呼び出したギルドの重役とフレイヤのことを教えてくれたギルド職員に礼を告げてからヘルメスは来客用の部屋を後にした。

 扉を閉める瞬間、重役が職員に詰め掛けている姿を見たような気もしたが、気のせいで済ませた。

 

 

 

 

 

 

            ――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 「と、言うわけで今日から遠慮することなくダンジョンに潜って来ていいよ!」

 

 

 「いや、いやいや」

 

 

 「待ってください、ヘルメス様。なんかもう、色々と怪しいでしょうそれ」

 

 

 ギルドの職員の話を聞いた仁慈とアスフィはそのまま笑顔でダンジョン入りを進めてくるヘルメスに意義を申し立てる。まぁ、仕方もないことだろう。何故ならフレイヤのくだりも全て彼らに説明したのだ。ぶっちゃけ、何か厄介ごとに遭遇するのは目に見えている。

 

 

 「?何が?」

 

 

 「フレイヤ様のことです。彼のことを監視していた件もあり、確実に何かあることが確定しているじゃないですか!」

 

 

 「あー………彼なら大丈夫じゃないかな?」

 

 

 「その適当な反応止めてください。ほら、貴方も何か言ったらどうですか?」

 

 

 「何時も通りなので、問題ないです」

 

 

 「もと居た世界でもこんな扱いなんですか!?」

 

 

 仁慈の洩らした言葉に反応するアスフィ。この適当な扱いがデフォルトってどういうことだ、この人実は自分よりも職場環境悪いんじゃないのだろうか?アスフィはそんな事を考えた。大体あってる。

 

 

 「それに、俺だって何もしないやつを置いておくほどお人よしじゃないぜ?」

 

 

 「それは……そうですが……。いいのですか?そんな事言ってロキファミリアに移動でもされたらどうするんですか」

 

 

 「流石にそれはありませんよ。ここ一週間分の宿とこの世界の知識、その他与えられた分の恩はしっかりと働いて返します」

 

 

 聞かせてやりたいそのセリフ。

 自分で作った貸しを平気で踏み倒す、最低の冒険者達とヘルメスファミリアの団員達に聞かせてやりたいセリフだった。アスフィは涙した。

 ここまで普通の人間性を兼ね備えた人物にここ最近で出会ったことがあっただろうか?いや、ない(反語)

 あの比較的まともな冒険者、ベル・クラネルでさえこの町に来てダンジョンにもぐるのは出会いを求めてやってきたらしい。別にそれが悪いというわけではないのだが、なんかこう……あるだろう、とアスフィは思っている。

 

 

 「………分かりました。ただし、私も行きますからね。ついでにモンスターの解説もします」

 

 

 「ありがとうございます。情報は重要ですからね。………マジで」

 

 

 最後に付け足された言葉には万感の想いが込められている。

 そう、雰囲気から感じた2人であった。

 

 

 

 

 

             ――――――――――――――――

 

 

 

 

 「このモンスターはキラーアント。その外皮は鎧のように頑丈で、今まで出てきたゴブリンなどのモンスターとは一線を画する堅さを誇っています。その攻撃もなかなかに強力なこととピンチに陥ると仲間を呼ぶフェロモンを出すことから『新米殺し』とも呼ばれているのですが………貴方には関係ありませんでしたね」

 

 

 「まぁ……戦いに関しては素人ではありませんしね。冒険者としては新米ですが」

 

 

 

 お前のような新米冒険者がいるか、とはアスフィの心の声である。

 現在ダンジョンの7階層で戦闘を終えた仁慈は魔石というモンスターの核となるものを抜かれて灰になったキラーアントを眺めていた。

 

 

 「核を失って消えるのはアラガミと似てますね……魔石食わせたらオラクルとか回復しないかな……」

 

 

 「止めてくださいね」

 

 

 手に取った魔石をマジマジと見つつ割とガチトーンで呟く仁慈から魔石をアスフィがかっぱらう。

 無駄のない動きでそれをしまうと、彼女は改めて周囲を見渡した。

 

 

 「それにしても、今日はモンスターの沸きが悪いですね。何時もならもう少し遭遇するものなのですが……ここに来るまで戦闘したのが三回ほどだなんて……」

 

 

 「そうですよね。いくらなんでも、元々居た世界みたいに十分その場に立っていればあっという間に囲まれるというレベルはないと思ってましたが、これは少なすぎますね」

 

 

 「貴方の所は多すぎです。後、出来れば比較とか止めてもらえませんか?聞いているこっちが絶望してきますので」

 

 

 「ですよねー」

 

 

 オラリオに来てから一週間が経ち、ここの状況もある程度把握してきた仁慈は自分の居た環境がどれだけサツバツとしているかを自覚していた。魔法などという摩訶不思議なものがない代わりに、圧倒的な科学力から作られた魔法にも劣らない兵器でも対抗が難しいアラガミが複数で襲ってくるなんてどう考えてもおかしいに決まっている。

 

 

 どこか微妙な空気になりつつも足は止めずどんどんダンジョンの奥深くへと潜っていく。

 すると、ばさばさと翼を羽ばたかせ、上から降りてくる竜が現れた。

 

 

 「インファント・ドラゴン……」

 

 

 「強いんですか?」

 

 

 「上層では最も強いですね。それにレアモンスターでもあります」

 

 

 「へぇー……なんか、正統派ドラゴンって感じですね」

 

 

 「………ちょっと、何武器構えているんですか?私達なら逃げ切れますから、相手にする必要はないんですよ?」

 

 

 「あ、そうなんですか?………もう向こうはやる気満々ですけど」

 

 

 「えっ」

 

 

 指をさした方向には口を開き、炎を蓄えた状態でスタンバイするインファント・ドラゴンの姿があった。

 その姿はどこか怯えているように見えるのはアスフィの見間違いであると本人は思っていたいようだが、そんな事は関係ないと放出されるブレス。そのブレスに神機を化け物のような口に変形させて突撃をかます仁慈、その表情はそれはそれは嬉しそうだったという。

 

 

 ――――樫原仁慈の戦いはこれからだ!

 

 

 

 

 

 

               ―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 「いやー、インファント・ドラゴンは強敵でしたね………」

 

 

 「どの口が言うんですかね」

 

 

 得意のブレス攻撃は全て神機に飲み込まれていき、尻尾や爪を使った攻撃はヒラリヒラリと回避される。

 全ての攻撃方法が効かないとわかったらすぐさま尻尾を巻いて逃げ出そうとしていましたからね。初めて見ましたよ。インファント・ドラゴンの逃走なんて。

 …………まぁ、逃げ切れませんでしたけど。

 

 

 翼を喰われ、地面に落ちたインファント・ドラゴンの姿がそれはもう涙を誘う光景でした……。

 

 

 樫原仁慈という存在の不条理さとか理不尽さとか意味不明さを改めて思い知らされるような出来事もありつつ、歩みを止めることなく進んでいく。

 もう少しで十八階層にあるリヴィラに着こうとしている段階で、私の前を行く仁慈さんが急に歩みを止めた。

 

 

 「どうしました?」

 

 

 「……………」

 

 

 質問には答えず、近くにおいてあった小石を拾い上げると、急に振り返ったのち、後方に向かって小石を投擲した。

 神の恩恵を受けていてもそう出せないであろう速度で飛来するそれはまっすぐ曲がることなく飛び、途中で両断される。

 

 

 「……!?」

 

 

 「さっきから尾行してた奴、でてこい」

 

 

 彼の一言で観念したのか、彼曰くずっとこちらをつけていた人物が姿を現す。私はその人物を見て思わず声を洩らしてしまった。

 

 

 「猛者(おうじゃ)オッタル……ッ!」

 

 

 姿を現した人物は、このオラリオにおいて知らない人など居ないくらいの冒険者。

 オラリオ最大にして最強のファミリア、フレイヤ・ファミリアの中で最も主神の信頼を受け、このオラリオにおいて最強の名を欲しいがままにする。

 

 

 そんな化け物とも呼べる存在がそこに立っていた。

 私、今日死ぬかも。

 

 

 仁慈さんとオッタルが睨み合う中、ちょうどこの2人の中心部分に立っている私は思わずそう思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




仁慈「…………(ヴォルカニックバイパーとか使いそう)」
オッタル「…………」
アスフィ「………キリキリ(胃がッ……!)」

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