トメィト量産工場   作:トメィト

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今回の話、仁慈君は関係ありません。いや、ちょっとだけ関係あります。

また、神様転生等の地雷要素が多分に含まれて居ますので閲覧する際にはご注意ください。


誰も知らない男の物語

 

 

 

 

 我輩は転生者である。

 名前は田中太郎。

 何が原因で死んだのか皆目検討がつかぬ。ただ、気が付いたときにはピカピカと発光する球体が目の前で土下座(自称)を繰り出していた。

 球体曰く手違いで我輩を殺してしまったから別の世界に転生させてくれるらしい。

 そんじょ言葉に二言もなく飛びつき我輩はチート能力を貰って新たな世界へ転生した。

 

 

 ――――田中太郎の冒険はこれからだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………嘘です。ごめんなさい。

 前世の名前は田中太郎ではありません。普通に記憶がなかったのでなんか金髪で車椅子で浮かべる表情がとっても怪しいラケルという人に付けられた仁というのが僕の名前でした。

 一応目の前に光の球体(自称神)が居ますけど、チート能力なんて頼んでいません。異世界転生も望んでいません。

 元々住んでいた世界がアラガミなる化け物が毎日毎日フィーバーして、周囲の人々を喰っていく世界だったので、樫原信慈という人の記憶にあるような普通の世界に転生したいです。

 

 

 そう、光の球体(自称神)にお願いすると、どうやら叶えてくれるらしく僕の意識は段々と薄れていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「普通ってなんだろうね……」

 

 

 アラガミに食い尽くされる前のようなビルの森とも表現できる都市の中、世間ではクリスマスといって町中がきらびやかなイルミネーションで飾られ、騒がれている12月25日、私は1人呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光の球体(自称神)にあって、新たな人生をスタートさせてからはや17年。もう前世よりも長く生きた私の人生はある意味アラガミ溢れた世界でラケル先生の下から逃げ出し、ストリートチルドレンとして生活してきた時よりも色々ひどかった。

 まず、生まれてから二年後、両親が事故に巻き込まれて他界。両親から前世では感じることが出来なかった愛情と名前を貰うことが出来た。でも泣いた、一日中。

 その後特に親戚も居なかったため孤児院に出されることとなり、ある一組の夫婦が私を引き取った。彼らは貧乏だったが、直向に働く真面目な人たち――――というわけではなく、中学生くらいの子どもを働かせてその金を巻き上げるクソ最低な人たちだった。一応同い年くらいの子どももいたが、ろくに世話もしていなかった。

 毎日毎日その中学生の子どもの負担を減らすためと同い年くらいの子どもの世話を二歳という極小ボディで出来る限り頑張った。

 その光景がクソ夫婦の心を打ったようで、四歳になった時………今まで世話していた子どもと共に詐欺をはじめた両親の手伝いをさせられた。幻滅した。

 しかし、その稼ぎで何とか中学生くらいの子も学校に行けていたようなのでそこだけよかったと思った。

 

 

 そんな日々の中、高校生になった一番年上の子は放浪癖が付き、たまに三日四日帰らないことが増えた。何をしているのかと聞いても「俺を呼んでいる声が聞こえるんだ」としか言わなかった。

 同い年くらいの子もある時期はすごく落ち込んでいた時期もあったが、しばらくすると元気になり、幼稚園にも通っていた。時々貧乏ということでいじめられていたらしいのでその度に慰めたりもしていた。

 

 

 ちなみに、私はひたすら詐欺商法を繰り返す両親の手伝いをしていた。時々同い年くらいの子と一緒に行い、「いいかい?子どもだから相手は油断するんだ。だから、頑張るんだよ♥」ととんでもなく駄目なことをのたまっていた。

 

 

 そんな人間のゴミクズのようなやつらだったがためか、同い年くらいの子が小学生になるかならないかというときについに私は売られた。詐欺商法で稼いでいるくせに、その倍はパチンコや競馬で使い潰したらしい。ホントに死ね。

 

 

 黒スーツに、顔に無数の傷をつけた鬼いさんたちにドナドナされたのだ。小学生で。

 流石にこのままでは死ぬと思った私は、何かと高かった身体能力を生かして脱出し、素敵な1人暮らし(家なし)をすることとなった。

 

 

 中学生くらいの年になるまでは、色々と無理があったがある程度体も成長し、食生活の割には体格にも恵まれたので色々と無駄にクズたち教え込まれた知識からバイトをはじめた。

 あの手この手を使い部屋も手に入れ、ようやく安定した生活を今日まで送ってくることが出来た。

 

 

 しかし、朝、ポストに言ってみると自分のところに見覚えのない手紙が入っていた。

 その中を開けると私の名前名義で送られてきた借金請求の紙切れ。その総額は六千万円。下のほうには、『生きているって分かったから君の名義で借りちゃった♪』と見覚えのある字で書かれたものがあった。

 ……思わず握りつぶした。

 

 

 「これが届くということは、既に居場所が割れているということだ……」

 

 

 きっと今も鬼いさんたちがこちらに向かってきているであろう。六千万のお金を回収するために。

 私は最低限の荷物を持って今まで住んでいた部屋を飛び出した。

 

 

 

 そして、あの呟きにつながるのである。

 

 

 職場のほうにも一応足を運んでみたが、既に鬼いさんたちが向かっていたようで、私の顔を見たとたんに帰れ疫病神と言われた。超泣きたい。

 ついでに、あの屑どもは私の容姿をリークしているようで、街中で数回追いかけられたりもした。リアルファイトにも発展し、何とか逃げたものの足とか腕とか頭とか色々やられてなんかもう危険。というか、詰んでるんじゃないかな、これ。

 

 

 「はぁ……」

 

 

 というか、あれ?

 なんかふらふらしてきた。

 

 おかしいと思いつつ頭に手を当ててみるとそこには血がべったりとくっついていた。返り血?いいえ違います自前です。

 自分の傷を確認したのが致命的だったのか、私の意識はそこでふっと途切れた。

 

 

 

 

 

 

               ―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 「いや、本当にありがとうございました。お嬢様」

 

 

 「ふ、フン。これから、払ったお金の分だけしっかり働くんだぞ!」

 

 

 黒塗りのベンツという明らかに金持ちが乗りそうな車の中で、常日頃から不幸な目に遭っていそうな少年と、いかにもツンデレですと外見から分かるような少女の会話が繰り広げられる。

 そんな彼らの会話を聞きながら、同じ車に乗っているメイドさんは噛み合っているようで噛み合っていない2人の会話を若干呆れながら聞いていた。

 

 

 少年の名前は綾崎ハヤテ。

 クリスマス・イブに両親に約一億五千万で売られたとても不幸に愛されている少年である。彼は紆余曲折あり、隣に座っているツンデレっぽい少女、三千院ナギの執事として借金を返していくことになった。

 とても親切な鬼おにいさんたちに危うく売られそうになった時に助けてもらったこと、元々は誘拐犯として近付いてしまったことを含めて恩を返さねばとしっかり働くことを決意した。

 そんな決意をしたハヤテはこれから働くことになる三千院の屋敷の前で誰かが倒れているのを発見した。

 

 

 「お、お嬢様!屋敷の前に人が倒れているんですけど!?」

 

 

 「寝てるんじゃないか?」

 

 

 「こんな寒空の下、雪のベットで眠る人なんていませんよ!永眠している人はいるかもしれませんけど!?」

 

 

 「とりあえず、様子を見てみては?」

 

 

 メイドであるマリアの一言で車から降りる一同、そしてハヤテが見つけた倒れている人の様子を見る。

 

 

 「どうやら生きてはいるようですね」

 

 

 「なら、今救急車を手配します」

 

 

 彼らを乗せていた車を運転するSPのうちの一人が携帯を内ポケットから取り出して、救急車を呼ぼうとする。

 しかし、その行動に待ったをかけた人物が居た。ハヤテである。

 

 

 「待ってください。この感じは明らかに間に合いません。助けるには今すぐ処置を施さないと……」

 

 

 「ハヤテ、何故そんな事がわかるのだ?」

 

 

 「頭から思いっきり出血してますし、この寒さの中で倒れてたら凍死します。僕にも経験があるから、こういうのは分かるんですよ」

 

 

 「なかなかブラックな実体験ですわね……」

 

 

 「なぁ、ハヤテ。このまま見捨てるのはどう考えてもダメだよな」

 

 

 「そうですね。この小説的にも人の倫理的にも見捨てたら終わりですね」

 

 

 お互いに頷きあった2人。

 ナギはおろおろとするSPたちに指示を出し、倒れていた人を三千院家の屋敷に入れて治療をした。

 

 

 

 

 

 

 

              ――――――――――――――――――

 

 

 

 

 「………知らない天井だ」

 

 

 目を覚ました私は自然とそんな事を口にしていた。

 自分の体を見渡してみると、しっかりと治療が施されており、包帯等も巻かれていた。体を動かしてみると、部屋の全貌が見えてきた。

 ……どれもこれも最低五十万はくだらないであろう家具だ。何だこの部屋超怖い。

 無駄に大きいベットから何とか這い出ると、外の様子を眺めてみる。どうやら、朝のようでまぶしい光が窓から差し込んできていた。

 助けてくれた人たちにお礼を言ったほうがいいだろうと考え、私はその部屋を出る。

 

 

 廊下は物凄く広く、所々に高価な絵や像、花瓶が置かれていた。薄々気付いていたけたけれど、この屋敷は物凄い金持ちの家なんだろう。

 そんな事を思いつつ、廊下を歩くと唐突にズガンという物音が聞こえた。

 

 

 その音を聞いて、まずはじめに思いついたのは強盗である。この屋敷はパッと見た限りでも高価なものが沢山ある。盗みに入ればかなりの金額が手に入ることは容易に予想が出来る。

 一応、覗くだけ覗いておこうかと、物音が聞こえた部屋のドアノブを回してドアを開けると、目の前には大量のミサイルが迫っていた。

 

 

 ―――普通ってなんだっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

               ―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 彼がミサイルの嵐に巻き込まれる直前、昨日行き倒れていた少年を助けることに協力した綾崎ハヤテは三千院家の執事長であるクラウスが呼んだ介護ロボ、エイトと執事勝負をしようとしていたのだが、ナギの暴言にエイトがブチ切れ介護ロボのはずなのに戦うというわけの分からない状況に陥っていた。

 対処方法としてとりあえずぶっ壊しておけといわれたため、しぶしぶながらも相手をしようとするハヤテに対してエイトはミサイルで攻撃していた。

 

 

 「クソ、介護ロボの癖に何でミサイル撃つんだよ……!」

 

 

 介護する気があるのかとツッコミを入れるハヤテ。全うなツッコミを行ったからミサイルの雨が止むわけではなく、今も容赦なくハヤテを狙っている。

 同じ部屋の中にはナギやマリアもいるため、避け方は十分に考えなくてはならず、そろそろ限界も近かった。

 

 

 そして、回避したミサイルがこの部屋の扉へと向かった瞬間、昨日助けた少年が扉からひょっこりと顔を覗かせた。

 

 

 「――――ッ!ま、まて!」

 

 

 思わず叫ぶも、既に発射されたミサイルが止まることはなく、無情にも顔をひょっこりと出した少年諸共、部屋の扉を粉々に粉砕した。

 ハヤテたちの戦いを見ていたナギ、マリア、クラウスの三人も少年がミサイルに巻き込まれるところをばっちりと見てしまっていたため、顔を青くする。

 誰もが少年の身を案じる中、一番案じなければいけない自称介護ロボが高笑いと共に動きを止めたハヤテに向けてその腕を伸ばした。

 

 

 『フハッハハハ、シネェェェエ!』

 

 

 ガシッ!

 

 

 しかし、その腕がハヤテを捉えることはなかった。エイトの鉄の拳は、ハヤテの目の前にいつの間にか立っていた少年によって受け止められていたからである。

 その少年の姿をみたハヤテは目を見開いた。

 

 

 『ナ、ナンダ!?』

 

 

 

 「何だはこっちのセリフなんですけど。いきなり、ミサイルなんて飛ばしてきて……何ですか?最新型のASIM〇?」

 

 

 「微妙に伏字になってませんよ。後、違います」

 

 

 そう、ハヤテがツッコミを入れたのは先程、扉と一緒に爆発四散した少年と同じ人物であった。

 

 

 「それより、貴方は先程ミサイルに巻き込まれて死んでしまったはずでは……」

 

 

 「………………残念だったな、トリックだよ……。いや、冗談ですけどね。あいにく、ミサイル打ち込まれたくらいで死ぬような人生送っていないので」

 

 

 ――――どんな人生だ。

 

 ハヤテへの返答の時間も気になるが、ナギ、マリア、クラウスの考えはこれに尽きた。

 しかし、ハヤテだけは何か通じるところがあったのかうんうんと頷くと同時に仲間を見つけたような表情を浮かべていた。

 

 

 「何故、ハヤテはしきりに頷いているのだ……」

 

 

 「親に一億五千万円で売られちゃうような子ですから……ハヤテ君にも似たような経験があるのではないでしょうか?」

 

 

 大体あってる。

 

 

 「ならアレはなんなんですか?ASIM〇じゃないんでしょう?」

 

 

 「アレはこの三千院家の抱え込み企業が開発した介護用ロボットらしいですよ」

 

 

 「……介護?ミサイル飛ばすのに?思いっきり死ねとか言っていたのに?」

 

 

 「気持ちは分かります。むしろ正しい反応です。しかし、事実です」

 

 

 「ミサイルはないですね。ミサイルは。あれ作った人なに考えているんですかね?」

 

 

 『好き勝手言いやがって……!喰らえ』

 

 

 2人の会話に切れたエイトは再びミサイルを放つが、二人はあわてた様子もなく、ミサイルに向き合っている。何故なら彼らが居る場所はナギとマリアを巻き込まない位置に立っているからだ。すなわち、遠慮がいらない。

 

 

 2人は最低限の動きでミサイルを回避すると、エイトに接近していく。ミサイルが効かないと思ったエイトは即座に腕を伸ばすことで応戦するが、それを逆手に取られ、少年に引き寄せられてしまった。

 そして、そのまま

 

 

 「ハヤテ!」

 

 

 「お任せください!――――飛べ!」

 

 

 『グボォ!?』

 

 

 ハヤテの放った蹴りにより、エイトは火花を散らしながらボロボロになった部屋の窓から外へぶっ飛んでいった。ナギはハヤテが勝った事で喜び、クラウスはエイトが敗れたことに唖然とし、マリアは部屋の惨状を見てどうやって後片付けをしようかと考えていた。

 

 

 「いや、ありがとうございます。なんか助かりました」

 

 

 そして、エイトを倒したハヤテは協力してくれた少年にお礼を言っていた。それに対して少年は気にするなと答える。

 

 

 「………でも、何で僕の名前を?僕、名乗りましたっけ?」

 

 

 「あー……忘れちゃったか……ハヤテ、あの屑どもは元気にしているか?」

 

 

 「――――!?僕の両親をそう呼ぶのは……まさか……『おにいちゃん』?」

 

 

 ハヤテの言った言葉にバラバラのことを考えていたナギ、マリア、クラウスは一斉にハヤテに視線を向ける。そして、全員で叫んだ。

 

 

 『お、おにいちゃん!?』

 

 

 三千院家にそんな叫びがこだました。

 

 

 ここから、少年。

 綾瀬雅の第二の人生が本格的に始まることになるとは、本人も含めて誰も思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




綾瀬 雅(あやせみやび)

仁慈が生まれる前、彼の体の本来の持ち主である仁という人格の生まれ変わり。
前世が既に色々世紀末決まっていたので平凡な世界への転生を望んだ。
その願いが叶えられ、普通の現代社会に転生するも環境に恵まれず、ある意味前世よりひどい日常を送ることに。
二歳のときに綾崎家に引き取られだめ親を罵倒しながら彼らの息子の面倒をなるべく見ていた。特に小さい頃ハヤテは彼にべったりだった。

売られてからはハヤテの両親から教えられた無駄知識で何とか食いつないだりして今日までを生きてきた。
行き倒れていたところを彼らに拾われて紆余曲折を経て彼らの屋敷で働くことになる。
職業は庭師。練馬の65%を占める屋敷の庭ってどうすればいいんだと日々苦悩している。


戦闘力というか、身体能力が高いのは前世の名残と、ハヤテの両親の無茶振りに付き合ったから。



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