鎮守府の床屋   作:おかぴ1129

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一人前のれでぃーvs海の向こうから来た日本人

「ちょっと! 私はヤパーネリンじゃないわよ!! れっきとしたどいっちゅよ!!」

「嘘つけ!! 生粋のドイツ人が『わらび餅が食べたいわ……あのねっとりとした感触が官能的よね……』とか言うわけ無いだろうが!!」

「梅干し食べて『故郷ドイツのグロスムター(おばあちゃん)を思い出す味ね……私艦娘だからグロスムターなんていないけど』とかわけわかんないコメントを残すドイツ人なんていないクマッ!!」

「ちょっと! ビス子の相手はこの暁よ!!」

 

 演習場に入ってきてトーナメント表の自身の名前を見るなり、ビス子たちが俺に噛み付いてきた。いいねぇ。暁ちゃんもビス子もやる気満々で大変結構。言われっぱなしは癪なので言い返したが、その心意気や良し。ちなみにこの煽り文句を考えたのは俺だ。中々の仕上がりになったと自負している。

 

『さて、選手入場も終わったところで、そろそろはじめるよー』

 

 北上の声でアナウンスが入る。突貫のイベントの割に結構本格的だなぁ。鎮守府全域放送をここで行うのもけっこう大変だったろうに……なんてことを思いながら、互いに戦闘意欲満々のビス子と暁ちゃんをのほほんと眺める俺。あの二人、俺を奪い合うために戦うんだよなぁ……いいなぁ……お姫様ってなんだか楽しいなぁ……

 

『ルールは簡単。一対一の夜戦演習を行って、相手が大破判定、もしくは相手に“まいった”“ごめんなさい”“こんな格好イヤだぁ”的な降参をさせると勝ちです』

『制限時間が過ぎても決着がつかなかった場合は、損小具合の低い方が勝ちになるよ!』

『艤装は装備できる物なら何を使っても自由。それで勝てる自信があるなら爆雷やソナー、ドラム缶やおにぎりで戦ってもいいよ-』

『あと北上、あんた明日の昼戦演習で張り倒す』

『降参の言葉に“早く修理したーい”も付け加えます』

『分かればよろしい』

『まぁ戦っても負ける気しないけどね』

『いい根性してるじゃないか北上ぃ』

 

 新たに勃発した北上と隼鷹の遺恨を尻目に、今、一人前のれでぃーこと暁ちゃんと、ドイツから来た日本人ことビス子の、血沸き肉踊る戦いが始まるのだった……!!

 

「ビス子……勝ってハルに膝枕してもらうのは暁よ!!」

「負けられないわアカツキ……たとえ親友のあなたにでも、譲れないものはある!!」

『じゃあはじめるよ。やっちゃってー!!』

 

 北上の合図と同時に、演習場の照明が落とされた。と同時に演習場全域は暗闇に覆われ、比較的明るいこっちの観覧席からは、演習場の様子が分からない。

 

『やぁあ!!』

『ふぉいやー!!』

 

 ただ、時々演習場の中で『ボン』という砲撃音と共に光が一瞬だけ輝き、二人の姿がちらっと見える瞬間がある。恐らくその時、二人が砲撃しているのだろう。加えて、時々水柱が上がっているからなのか、こちらにまで海水が飛んでくることがあり、おかげで俺は水も滴るいい女になってきた。ここまで水しぶきが飛んで来るってすげぇな。

 

 それにしても……演習とはいえ戦闘をはじめて見ているわけだが……こんなに迫力あるとは思わなかった。実戦もこんな感じだとすれば、時々妖怪アホ毛女が大怪我して帰ってくるのもうなずける。音だけでも、艦娘の戦いって凄まじいってのがよく分かる。

 

『一人前のぉぉおおお!!!』

『れでぃぃいいいいい!!!』

 

 二人ともまけんな。がんばれ!

 

「ハル」

 

 いつのまにやら、提督さんがコーヒーと皿いっぱいのシュークリームを持って俺の傍らに来ていた。どうやらお姫様である俺に、試合観戦中のおやつみたいなものを作ってきてくれたようだ。なるほど。これはちょっとしたマリー・アントワネットな気分だ。試合が楽しければシュークリームを食べればいいじゃない、的な。……違うか。

 

「ぁあ、提督さん。塞ぎこんでるって聞いたから心配してましたよ」

「心配かけてすまん。一通り泣いたあとな、みんなのためにシュークリーム作ってたんだ」

 

 そう言って演習場を眺める提督さんの目は、少し赤く腫れていた。正直そんなことで大の大人が目を赤く腫らすほど泣くってどうなのよ……と思ったが、それは黙っておいたほうが良さそうだ。

 

「……ん、うまい。やっぱさすがっすね提督さん」

「ありがと。で、状況はどうだ?」

『今んとこ五分五分だねー。夜戦だからお互い相手の攻撃喰らったら一発大破だし、二人とも慎重に動いてるみたい』

「へー……そんなもんなの?」

『そうだよー。夜戦になれは、私だってビス子を一発で倒せるからねハル兄さん』

「こんなところでいちいち自分の有能さをアピールせんでよろしい」

 

 そうして俺達が高みの見物をしている間にも、暁ちゃんとビス子の戦いは続く。『ドカン!!』というハデな砲撃音と同時に暁ちゃんの『もう許さないんだからぁあッ!!』という雄叫びが聞こえたところで、北上のアナウンスが入った。

 

『ストップ。暁が大破しちゃったんで、ここで試合終了ー』

 

 直後、照明が演習場を照らした。その時演習場には、海面にぺたんと女の子座りしている暁ちゃんと、その暁ちゃんに向かって砲塔を向けて立っているビス子の二人が照らしだされた。

 

「ぐーやーじーいー!!!」

「やったわ!! これで一人前のレディーに一歩前進ね!!」

 

 勝者にも敗者にも、平等に賛辞は贈られるべきだ。二人共、お疲れ様。

 

「でもアカツキ……さすがね。何度もヒヤリとさせられたわ。いくら私が夜戦が得意だと言っても、やっぱり貴方達には敵わないかもしれないわね」

「……んーん。やっぱりビス子は一人前のレディーよね。この暁に勝ったんだから、ちゃんとハルの膝枕と耳掃除をゲットするのよ?」

「ええ! 約束するわアカツキ!!」

 

 うん。戦いのあとはお互いを讃え合う……素晴らしい精神だ。賞品が俺の膝枕と耳掃除っつーのがなんとも哀しいというか情けないというか……かくして第一試合終了。勝者は日本から来た青い目の日本人・ビス子となった。

 

「ヤーパンから来たヤパーネリンってそのままじゃない! 私はどいっちゅだって言ってるでしょ!!!」

 

 


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