鎮守府の床屋   作:おかぴ1129

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ハルの膝は誰のモノか

「な……なんか緊張するね……」

 

 晴れてトーナメントも終わり、演習場は今急ピッチで片付けに入っているそうな。その間優勝者の川内は、賞品である俺の膝枕での耳掃除を堪能するってことらしい。

 

『まー大丈夫だと思うけどさ。傷心の球磨姉はこのまま片付けが終わったら夜間の哨戒任務に行かせるよ。あとは私に任せて、川内の方をよろしくー』

『ハルを球磨型軽巡洋艦にする球磨の野望がァアアア?!!』

 

 北上のこの一言で、球磨はそのまま急遽夜間の哨戒任務の担当となった。まぁこの場にいたら、あの妖怪アホ毛女は余計な騒動を起こしかねんからな。肝試しの時の理不尽な振る舞いは忘れん。

 

 というわけで、今俺と川内はバーバーちょもらんまに戻ってきて、いつもなら北上が寝転がってる長ソファに二人で座っている。道具は準備してあるから、あとはいつでも始められるわけだが……

 

「そういうこと言うから、逆に緊張しちゃうんだと思うぞ?」

「そ、そうかな……」

 

 優勝者にして稀代の変態、そして俺の救世主の川内は俺の左隣でガッチガチに緊張していた。おい。さっきまでの伸び伸びとした変態具合はどこいったんだ川内。

 

「とりあえず寝っ転がってみたらどうだ?」

 

 自分の膝をポンと叩いて自己アピールしてみる俺。だから顔真っ赤にするのやめろって……耳まで真っ赤にされると、こっちまで恥ずかしくなってくる……。

 

「……」

「……」

「……んー……っ!」

「?」

「じゃあ……失礼しますッ!」

 

 ついに観念したのか、川内は俺の膝に頭を預けてきた。んー……まだちょっと緊張してる? まぁいいか。

 

「んじゃいくぞー」

「よしこい! これも夜戦ッ!!」

 

 そんなこと考えてると、自分の中に眠る変態夜戦女の血が騒ぎ出すぞ……。まぁいい。おれを艦娘化という未曾有の危機から救ってくれた英雄だしな。気合を入れて耳掃除してやるとしよう。

 

 いつものように最初は耳の中の汚れ具合を観察した後、川内用の耳かきで耳の中をかきかきして差し上げる。

 

「せんだーい」

「んー?」

「ありがとなー。さっきは」

「んっく……何が?」

「川内が妖怪アホ毛女を撃退してくれなかったら、今頃俺は球磨型軽巡洋艦六番艦・ハルになってるとこだったよ……」

「それもちょっと見てみたかったけどねー。……んっく」

「不吉なことを言うのはよせ」

 

 左が終わったら右。川内。はんたーい。

 

「はーい……」

 

 川内の緊張もだいぶほぐれてきたみたいだ。この時間帯にしては珍しく落ち着いた声をあげる川内を見て、なんだかそんなことを考えた。

 

「ねー。んっく……ハル?」

「んー?」

 

 俺の腹に顔を向けている川内が、顔を動かさず、目だけ俺の方に向けた。耳掃除をやってる側としては、時々川内が身をぐっとよじらせるのが恐ろしいが……幸いなことに、まだ痛い部分を耳かきで突いたりはしてないらしい。

 

「球磨にもさ。いつもこうやって耳掃除やってあげてるの?」

「だな。あいつは言い出したら聞かんから……」

「目に浮かぶよ。でもさー」

「ん?」

「球磨だけ……んっ……特別扱いかー……」

「特別扱いっつーか厄介払いみたいなもんだな」

「またそういう照れ隠しを……んっく」

「どこらへんが照れ隠しやねん……そういや川内は別に耳掃除が目当てじゃなかったよな?」

「まぁ半分は夜戦が目当てだったけどね。でも」

「ん……」

「んくっ……もう半分は、ハルの膝枕にちょっと興味があったからかな」

「マジかい……」

「うん……」

 

 そら光栄というか何というか……でもこんな野郎の膝でええんかい……。

 

「でも今日はお姫様だったんじゃんハル」

「だな。そればっかりは否定できんわ」

 

 右耳も耳かきでかきかきし終わったら、今度はローションを浸した綿棒で両耳を拭いていく。

 

「もうやり慣れてるだろうけど、ちょっとひやってするかもしれんぞー」

「はーいりょうかいぃぃぃいいいいいい!!?」

「あ、すまん。痛かったか?」

「いや、そうじゃなくて……ッ!?」

「ならよかった」

 

 俺は別段特別なことをしているわけじゃないし、川内だって俺の耳掃除が初めてなわけじゃないんだが……

 

「んんんんん……んんー……ッ」

「大丈夫か?」

「だいっ……じょうぶ……だから……ッ」

 

 とこんな具合で、終始体をこわばらせていた。左耳をやるときなんかは、わざわざソファと俺の足の間に手を突っ込んで、なんかギューって俺の足にしがみついてたし。

 

 そんな見慣れない様子の川内の両耳も、丹念にふきふきし終わった。川内。お疲れ様でしたー。

 

「ふぃ~おわったー……」

 

 終わった途端に川内は全身から力を抜き、俺の膝枕からどかないまま、仰向けに寝転んでいた。初めて耳掃除した時の球磨みたいにクタッとはしてないけど、なんだか耳掃除する前より疲れてるような……まぁあれだけ体をこわばらせてたんだ。仕方ない。

 

「よかったですか? お嬢様?」

「うん! ありがとう! ……あーそれから」

「?」

「次耳掃除してもらうときは、私は散髪台のシートでいいや」

「そうしてくれ。やっぱ野郎の膝枕で女の子の耳を掃除ってのはな」

「んーん。そうじゃなくて……」

 

 ん? 川内は何が言いたいんだ?

 

「あ、あとさ。明日は球磨が哨戒任務から戻ってきたら耳掃除してあげなよ。多分せがんでくるから」

「分かった。妖怪アホ毛魔王の耳も明日綺麗にするよ」

「そうしてあげて!」

 

 そういい、いつもよりも若干赤みがかったフラッシュライトのような笑顔を向けて俺を見上げる川内は、その後、一向に俺の膝枕からどこうとしない。

 

「ねぇハル?」

「んー?」

「私さ。夜戦の連続でちょっと疲れた……」

「だろうなぁ。あんなに激しい演習してたんだから」

「だからさ。……もうちょっと、寝っ転がってていい?」

「暁ちゃんも俺の膝の上に座ってたしなぁ。大丈夫だろ」

「ありがと」

 

 そんなわけで、俺の膝枕独占タイムを延長した川内は、その後俺と暫くの間、なんでもない話をしていたわけだが……

 

「ハル……」

「ん?」

「ごめ……ねむ……」

 

 と、俺の膝の上でうとうとし始め、完全に落ちてしまうその寸前に……

 

「ヒャッハァァアアアアア!!! どうだーせんだーい!!?」

「ひやぁああッ!!?」

「おーう隼鷹、いらっしゃーい」

 

 突如訪れた隼鷹の雄叫びにびっくりして飛び起きていた。

 

 その後はいつものように酒盛りとなった。いつもと違うところは、提督さんが隼鷹と一緒に来てて、口のところがえらく腫れて、アナゴくんみたいな唇になっているところだ。なんでも、隼鷹から酷い折檻を受けた結果そうなってしまったと、提督さんは涙目で答えていた。

 

 そして翌日……

 

「ハルっ!! 球磨の耳掃除をするクマッ!!!」

 

 深夜の哨戒任務から帰ってきた球磨はアホ毛をまっすぐに伸ばし、帰ってくるなり朝飯も食わずにそう言ってきた。はいはい。今日は貸し切りにしてますよ。

 

「むふー。今日はゆっくり耳掃除をしてもらうクマー」

「昨日は俺を球磨型軽巡洋艦にしようとしてたくせに……」

 

 球磨を店内に招いた後、俺はポールサインの回転を止めて今日の営業が終了したことを告げる。きっとこの妖怪アホ毛女は俺の膝枕で耳掃除中にそのまま寝るだろう。そしたら俺は身動きが取れなくなる。そうなってもいいように、先に貸し切りにしてしまうことにする。

 

「ふわぁ~……ハル、早くするクマっ」

「はいはい……」

 

 自分を窮地に追い込んだ魔王と、自分を助けてくれたヒーロー。その二人の耳を丹念に耳掃除したお姫様なんて、歴史上俺一人だけなんだろうなぁ。そんなことを思いつつ、やっぱり耳掃除の途中で寝てしまった球磨の頭を撫でてしまう俺だった。

 

「ハルの膝は……球磨の膝だ……クマ……スー……」

「何言ってんだか……」

 

 終わり。

 

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