「誰?」
「今の声って……」
唐突に現れた謎の黒龍に二人は呆気に取られていた。
士道はそれでも黒龍から響いた声が千花の声だったことですぐに気を取り直す。
「どうなってるんだよ、その姿は一体?」
「ん?これは……うん。私だよぉ!」
「いや、答えになってないし……」
士道の問いに千花(黒龍ver)はドヤ顔(龍だからよくわからない)で返答する。
しかし、そもそも戦闘中なわけで呑気に会話をしている余裕はなく、
「おりゃぁ!」
零奈は手に銃を形成させて発砲し、千花が尾で叩いて弾く。
「士道君、話したいことは多そうだけど、それは後でねぇ。今はこっちが先だしぃ」
「……あぁ、わかった」
何故か千花に諭されて士道はなんだか納得がいかないが、とりあえず意識を戦闘に切り替える。というよりも、千花に聞いてもはぐらかされる気がしていた。
零奈はどうでもよくなったのかさして気にしていなかった。
「なにがなんでも邪魔をするんだね?」
「ああ、人類殲滅なんてやらせないよ」
「そうだよぉ。そもそも私たちの目的はそれなんだからねぇ」
「そう……なら、もう加減はしない」
零奈の銃が形を変え、一振りの剣を手に持つ。それと同時に零奈の後ろに霊力が収束して龍の形を形成する。霊力で編まれた龍が先行して士道に向かい、それを千花が相手取る。
「士道君は零奈をお願いねぇ」
「ん、了解。無茶はすんなよ」
「わかったぁ。あと、そっくりそのまま士道君に返すねぇ」
言って、千花は尾で龍の胴を巻き付けて上空に飛んで行く。これで士道は零奈のみに専念することが出来る。
士道はとっさに後ろから何か来るのを感じ、横に移動すると、士道がいた場所を何かが通り過ぎた。それは霊力で編まれた機雷というかビットだった。龍を生成した際に一緒に生成していたようだった。ビットは零奈のそばを浮遊し、分裂して二つになる。
「さて、不意打ちされたし、こっちもやるか」
士道は一人そう呟いて本腰を入れ、<絶滅天使>を顕現させる。<絶滅天使>をビットに向けて飛ばしつつ、いくつかの<絶滅天使>を足場にして、零奈に接近して<鏖殺公>を振るう。零奈は剣の腹で受け止めると力を込めて士道を押し返しにかかり、士道も負けじと手に力を込める。そこから横、縦、斜めと様々な角度から振るうが零奈はそれらを全て剣の腹で受け止める。何発か打ち合うと、零奈はただ受け止めるのを止めて、剣の腹でいなしてそのまま士道にカウンターを行う。
攻撃直後の士道に回避する術はなく、士道は<鏖殺公>を腹の前に移動させてガードすると、<鏖殺公>が真っ二つに斬られてそのまま腹の辺りを斬られてしまう。
傷口を炎が舐めるが、零奈はそのまま連撃を繰り出し、士道は瞬間的に風を起こして零奈の攻撃を回避して距離を取る。
「はぁ、はぁ、これはまずいかな?」
「じゃぁ、諦めたら?」
「それはパスだな」
「あっそ」
零奈はそう吐き捨てると、剣を振るい斬撃を飛ばす。士道は<灼爛殲鬼>を顕現させて受け止めると、そこからさらに数発飛んで来て<灼爛殲鬼>は砕かれた。
「えっ!?」
斬撃自体は<灼爛殲鬼>を砕いたところで消滅したが、まさかの事態に士道は驚きの声を漏らす。零奈はさらに数度振って斬撃を飛ばし、士道はそれらを回避し……
「……あっ、やばっ」
士道は重力に従って落下した。霊力が尽きたのか風が起きず、このままでは士道は地面に激突することになり、士道は慌てる。
「士道君、大丈夫ぅ?」
「ああ、なんとか」
地面に直撃する直前に士道のそばに千花が飛んで来て、手で士道の身体を掴んで落下を止める。そして、地面に降ろす。
「助かったけど、千花の方はどうなったんだ?あの龍は?」
地面に降ろされた士道はそんな疑問を千花に聞く。龍の相手をして別れて、その後どうなったかわからないから。
「うん、美味しかったよぉ」
「……ん?聞き違いか?もう一回言ってくれ」
「うん、美味しかったよぉ」
「……聞き違いじゃなかったか。それで、どういうことなんだ?」
「質問は追々ねぇ。来るよぉ」
飛んできた斬撃を千花は尾で弾くと、零奈と同じ高さで滞空する。
(美味しかったってことはあの龍を食べたわけで……あっ、霊力でできた龍だから吸収しただけか)
「さてぇ、霊力が尽きて今は顕現装置も使えない士道君はこの後どうするぅ?」
「どうしたらいいんだろうな。というか、俺の出せる天使じゃあの剣に対抗できないしな」
「ふーん。じゃぁ、出来るならまだいけるねぇ」
「?……ああ」
千花の問いに対して若干の疑問があると、千花は士道の後ろに回る。
「じゃぁ、行くよぉ。<
そして、士道の背に触れてそう言うと千花が霊子のようになって士道の周囲に渦巻く。すると、士道の手に黒いグローブが装着され、霊力も一気に回復する。
『さぁ、さぁ、一気に終わらせるよぉ。<
「ん?ああ、わかった」
また、士道の中から千花の声が響き、士道は千花に言われるまま、<鏖殺公>を顕現させる。顕現させた<鏖殺公>はいつもよりも重量があり、完全状態だからだった。
零奈が勢いよく降ってきて剣を振り下ろし、士道は<鏖殺公>で迎え撃つと、斬られることはなくその場でぶつかり、衝撃で地面がえぐれる。
(これならいけるか?)
「ふーん、ちょっとは強くなったみたいだね。じゃぁ、さらに強く行くよ」
零奈は一歩下がってから再び士道に接近して剣を振るい、士道はそれを弾く。ならばと、零奈は左手にも剣を出して握り二刀流になる。結果、士道は流れるような攻撃に対応しきれなくなり、身体に切り傷を作っていく。このままではじり貧なので、風で一気に跳躍して上空に退避すると、
『ありゃぁ、これはピンチだねぇ。<
「勝手に顕現させて技を発動させるなー」
『文句は言わないのぉ。あと、【
千花が士道の中で勝手に<贋造魔女>を顕現させ、尚且つ【千変万化鏡】を発動させて<鏖殺公>をもう一本作る。士道はツッコむが、今はそんなことしている暇はないので<鏖殺公>を左手で握り、風を解いて追ってきた零奈の攻撃にあわせて振るっていく。千花が言った通り、風を解いても何故か浮いていた。
『戦いながら聞いててほしんだけど、浮いてるのは【
「ほう、これでもまだ生きるんだ」
「まぁ、負ける訳にはいかないからな」
零奈は士道が自分の動きについてきていることに関心すると、さらに攻撃の速度を上げる。士道も対応していくが、初めての二刀流な訳で、動きが不安定だった。
「(やっぱり、付け焼刃じゃ厳しいか?)」
『えー、士道君ならいけると思ったのにぃ……あっ、こういうのはイメージがあれば割となんとかならない?例えば……黒の剣士とか赤服の勇者とかだねぇ』
「頭の中で適当なこと言わないでくれ……」
「なにぶつぶつ言ってんの?」
千花の提案に突っ込んだら零奈はジト目で士道を見る。今が戦闘中で千花の声が聞こえていない零奈的には急に声を出した士道がよくわからなかったりする。
「まぁ、いいや。意識が他所に向いてようが関係ないし」
「じゃ、ちゃんと集中するか」
零奈の攻撃を捌きながら士道はそう言って、一本の<鏖殺公>で二本をガードし、空いたもう一本を零奈に振るう。
しかし、その攻撃は零奈には届くことは無かった。零奈に触れる直前に零奈はそこに霊力で編んだ障壁で弾いてみせたから。零奈は剣を二本とも引いて、別の場所に振るい、士道は後ろに飛んで回避する。
『あー、てすてす。兄様、こっちは完了しましたよ』
そこで、一本の真那からの通信が士道のもとに来た。
本当は零奈の特大の光線は士道一人では回避できなかった。そんな時、いつの間にか三十年前に飛んだ零奈を追いかけて飛んで来てた真那が空間に穴を開けたことで事なきを得ていた。
真那が戦いに参戦できなかったのは、周囲の人間の退避と隣界に飛ばされた零音を精霊になる前に回収していたからだった。そもそも、零音が隣界で長期間気を失ったままそこにいて、霊子を吸収し続けてしまったのが精霊化の原因だから。そして、真那は無事零音を隣界から連れ帰ることに成功したため士道に通信した。ちなみに鞠亜も真那の方に同行していた為途中で千花が顕現装置を駆動させたりする羽目になっていた。原理は不明で製作者だからできたと士道は思っている。
「ん、わかった。これでこっちもちゃんとやれるんだな」
『そう言う訳で、さっさか終らしちゃってくださいな』
『こちらは引き続き被害の軽減及び情報の操作に努めますので』
『そうだねぇ。というか、これで、辺りに気にすること無くできるよぉ』
とりあえず、零音が無事だったので、後は零奈を止めるだけとなった。
だから、千花も奥の手の使用が可能となる。周囲への配慮はそこまでしなくてもいいから。
「ふーん、この辺りに人の気配が感じなくなったし、これで本気を出すのかな?」
「まぁな。そろそろ、終わらせるよ」
『じゃぁ、行くよぉ』
士道がそう言って、千花もそう言うと、
「『<
同時にそう言い、士道の周囲から霊力でできた龍がいくつも生まれ、士道が二本の<鏖殺公>を重ねると、龍はそこに集まる。
そして、士道の手には一振りの片刃の黒い刀が握られる。
「ほう、それが本気と言う訳か」
それを見た零奈はそう言葉を呟くと、一瞬で士道のそばに接近して右手の剣を振るう。
『無駄だねぇ』
千花がそう言い、士道は慌てること無く刀の一本で受け止めると、触れた直後に触れた箇所から消滅して剣が真っ二つになり、形が保てなくなったのか零奈の剣が消滅する。
零奈がハッとすると、士道は刀で零奈のもう一本の剣を斬り、もう一本も斬った箇所から消滅し、瞬く間に消滅する。
「一体、何が?」
零奈は何が起きているのか分からず、困惑すると、士道は零奈に向かって刀を振るう。
零奈は霊力で盾を生成させるが、刀の前では紙も同然で盾の役割を果たすことは無かった。そして、零奈の腹を斬ると、一気に大量の霊力が溢れ出し、零奈は腹を抑えながら慌てて距離を取る。
攻撃をその身で受けたことで、零奈は理解した。
「その刀は霊力を消滅させる力があるんだ。だから、剣は消滅したし、私の場合は傷口から霊力が空気中に溢れたと」
「そういうことだ。この刀は<
『ドヤ顔してるけど、士道君<
千花の呆れた声を尻目に士道は立て続けに刀を振るう。零奈は回避を選択して避けていき、それと同時に霊力のビットを生成して士道に攻撃をする。士道は自身の前に刀を構えると、刃が巨大化してビットが刃に触れて消滅して事なきを得る。
刃を元の大きさに戻して再び攻撃に移るが、剣術に関しては素人な士道の攻撃は零奈には簡単に読めるようで、当たらなかった。
『当たらないねぇ』
「(なんで、そんな呑気なんだよ……)」
『そぉ?いつも通りだけどぉ。とりあえず、手段を変えるよぉ。士道君は普通に刀の腹で横振りしてぇ』
「(ん?……あぁ、わかった)」
千花が何をする気かわからぬまま、とりあえず従って刀を横振りする。すると、また刃が巨大化して零奈が回避できる場所が無くなって迫る。
これなら当たる、と思うと零奈は自身の周囲に霊力爆発を起こして、その余波による風圧で一瞬刀の速度が緩み、その隙に上に回避した。
『えー、今の回避できちゃうのぉ』
「まだだ!」
士道は振り切った刀を振り上げて真下に振り抜くと。零奈は再び霊力爆発を起こす。しかし、今回は遅くなることは無かった。振り抜く刀を<颶風騎士>の風で押して勢いを付加したから。勢いが殺せなかった刀は零奈を殴打し、零奈は地面に一直線に叩きつけられる。
地面に激突した零奈は頭を抑えながら体を起こす。
『当たったねぇ』
「まぁ、当たるだろ」
「いたた」
これで終わらすべく、士道は零奈に接近し刀を振るう。零奈は地面に手を付けて霊力を込めると、地面の一部がえぐれて零奈の手に収束して巨大な岩の剣を形成させる。
零奈はそれで士道の刀を迎え撃つ。
零奈の剣は霊力で土やら岩やらを収束させたもので、刀に触れると霊力が消滅して分解されるが、岩は消滅せずにそのまま振った勢いで士道の方に飛んで行く。士道は岩が消滅しないことに驚きながら、ギリギリで回避する。
「(<
『士道君、何言ってるのぉ?“サマエル”はどっちも生死を操るのが能力だよぉ。だから、岩みたいに無機物は消滅しないしぃ』
「(えっ?でも、霊力は消滅してたし……)」
『霊力は霊子の結合を“殺して”空気中に散ってるだけだよぉ。それと、私の植物は成長させてるだけだしねぇ』
今更知らされる千花の天使の能力。千花は呑気だが、それは使い方によってはとんでもなく危険なものだった。触れればなんでも死なせることが出来るから。
『と言うか、“サマエル”の能力で私生きてたしねぇ』
千花と脳内会話をしながら、零奈に攻撃をするが、零奈は再び回避に専念しつつ、銃やらビットで攻撃を続ける。それらの攻撃を刀で捌いて行くが、時間だけが無為に過ぎていく。
『面倒だしぃ、一気に決めちゃうよぉ』
千花はそんな光景を見てそう言い、士道が刀を振るうとそこから霊力で編まれた龍が出て来て零奈を襲う。零奈は予想外の攻撃に反応が遅れ、龍は零奈の身体に巻き付いて拘束する。
「これで、終わりだ!」
ここに来てできた大きな隙に、士道は残りの力を込めて一気に振るう。その攻撃に対して零奈はビットやら盾やらをありったけ出すが意味が無く、それらを斬り裂いて零奈の身体を斬り裂いたのだった。
千花が龍になっている理由は、元の時間軸に体があって、ここにないからです。あとは、<龍焉の剣>のため?