諸事情により一部改稿しました。
終わった世界と続く世界
サマエルが隣界を消滅させたことで、精霊という存在、概念が無くなり、それによって生じる空間震、精霊がいないのでASTも<ラタトスク>も存在せず、DEMもただの企業となっていた。
零音は一年程経った頃に真哉と出会い、それから付き合い始めて、数年の時を経て結婚し、三人の子供が生まれた。
そうして十数年の年月が経った。
四月一日、午前七時半。
「兄様、起きてください!」
崇宮家の二階の士道の部屋に真那の声が響いた。しかし、士道は一向に目を覚ます気配が無く、真那はカーテンを開けて日の光で起こしにかかる。
中日の光か士道の顔を照らすと、士道はもぞもぞと動いて布団の中に潜ってしまう。
「起きてくださいな。姉様が起こしに来ますよー。あるいは凜祢ちゃんが起こしに来ますよー」
「うぅ、休みなんだからもう少し寝かせてくれ……」
「兄様、今日の予定お忘れじゃないですよね?」
「……ん~」
しかし、士道は起きる気配が全くなかった。真那はなかなか起きない士道にどうやって起こそうか悩み、考え込む。そして、
「たぁー」
「グフッ!!」
真那はためらうこと無くその場で跳躍して士道のお腹の上で着地した。いわゆるドロップキックは士道のお腹にクリーンヒットして、士道は飛び起きる。真那は急に足場が不安定になったことで後方に倒れ込み、
「よっと」
軽い身のこなしで床に着地した。士道は腹をさすりながら、真那にジト目を向ける。
「朝っぱらからドロップキックは命に関わるからやめてくれ……というか、なんでそんなことしたんだ?いつもは揺すってたのに……はっ!まさか反抗期が!」
「考えた結果ですよ。起きねー、兄様がわりーんです。起きたので、先に降りてますよ~。あと、約束を忘れずに~」
真那は言うだけ言うと、士道に何か言われる前に逃げていった。士道は「はぁー」とため息をつくと、寝間着から普段着に着替え始める。着替えている間に、そう言えばドロップキックで起こされたことが昔にもあったような気がした。
しかし、真那が以前にドロップキックで起こしたことは無かったため気のせいだと思うと、階段を下りてリビングに行く。リビングにはすでに朝食が出来ているのか料理のにおいが漂っていた。
「おはよー、士道。よく眠れた?」
「おはよう。寝起き以外は問題なかったよ」
「ふーん、どんな起こされ方したの?」
「おにーちゃん、だいじょうぶ?」
「ああ、二人も来てたのか。あと、大丈夫だ。ちょっと、腹が痛いだけで」
キッチンから皿に乗せられたトーストを運びながら、澪は挨拶をする。ちなみに真那は何食わぬ顔で皿を運んでいた。そして、キッチンには凜祢もおり、凜緒が士道の心配をして駆け寄って来る。士道は凜緒の頭を撫でて大丈夫と伝えた。
テーブルに朝食が全部並ぶと五人は椅子に座り、食べ始めるのだった。
崇宮士道は春から高校一年生になり、真那は中学一年になる。士道の上には大学一年になる姉――澪がおり、五人家族なのだが、士道が中学に入学する頃には、零音と真哉は仕事で家を空けることが増え、三人で生活するのが多くなった。家事は当番制にしており、今日は澪が朝食の担当のため士道は起きるのが遅かった。
そして、士道と同じく高一になる凜祢と小一になる凜緒は崇宮家の隣に住んでおり、幼い頃からの付き合いだった。二人の両親は仕事の都合で遠くに赴任し、澪たちがいれば大丈夫だろうといった感じで二人は家に残された。本来ならば凜緒は連れて行くつもりでいたらしいが、凜祢にべったりで離れることを拒んだため、こうなった。近所づきあいからか、よく崇宮家に来ていて朝ご飯を一緒に食べるといったことは多々あった。
前までは凜緒のおままごとに付き合った際に士道が父役をけっこうな頻度でやったことで“パパ”と呼び、何故か凜祢のことも“ママ”と呼んでしまっていたが、何度も直そうとした結果、“おにーちゃん”、“おねーちゃん”呼びで定着した。
「士道、そう言えば今日の約束忘れてないよね?」
「ああ、もちろん。買い物の荷物持ちだろ?」
「確かに荷物持ちっぽくなるけど……」
士道は最後の一口のトーストを口に入れると、凜祢は士道が約束を忘れているかもと心配して確認する。士道は覚えていたのでそう返すと、何処か不満そうな表情をした。
「士道、そこは買い物に行く、だけでいいんだよ。もしかしたらそんなに買わないかもなんだから」
「それもそうだな。でも、女子の買い物って多いイメージだし」
「兄様、それは偏見ですよ」
真那も最後の一口を口にすると士道にジト目を向けてそう言った。士道も言ってから全ての女子に当てはまる訳でもないかと思った。真那と買い物に行っても、真那は必要なものしか買わないからそこまで大荷物になった試しは無かったから。
すると、テレビの番組は音楽紹介のコーナーになる。そこに映っているのは士道と同い年ぐらいの少女だった。
「あっ、誘宵美九って新曲出すんだ」
「みたいだな」
「これはまた期待できるかな?」
「澪姉は相変わらず誘宵美九の曲好きだな。次のライブ行くのか?」
「もちろんだよ。去年のは受験で泣く泣く断念したんだから」
「まぁ、確かにそんなこともあったね。本人に頼めば確実にライブ行けるんでは?」
「だめだよ、そういうのは。私は私の力でチケットを勝ち取るしね」
澪はあまりにも好きすぎてテンションが上がり、凜祢はその頃のことを思い出して苦笑いを浮かべる。
そして、朝ご飯を食べ終え、少しゆっくりしてから買い物に出た。
~☆~
「おにーちゃん、こっちー」
「ちゃんとついて行くから、そんなに引っ張るなって」
士道と真那と凜祢と凜緒は駅前のショッピングモールに来ていた。澪は大学の用事とかでこの場にいない。今日の買い物は新しい服や新生活の為の日用雑貨などで、間違いなく大荷物になる予感があったから、朝の発言も間違っていない可能性もあった。
「というか、なんで俺と来たんだ?別に友達と行けばよかっただろ?」
「それに関しては、七罪と四糸乃は運悪く都合が悪かったんで。それに、みんなと一緒に出かけたかったですし」
「はぁー。まぁ、いいけど」
「ほらほら、立ち止って喋ってないで、中入ろ?」
真那のテンションの高さに士道は疑問を持ちながらも、よくわからないので考えるのを諦める。そうこうしているうちに、駅近くのショッピングモールに四人は入り、早速真那は洋服店に足を向ける。
「兄様、これはどうですか?」
「そうだな……もっと女の子っぽい恰好にしないか?」
「士道、これ凜緒に似合うかな?」
「うーん、着た姿を見ないとどうかはっきり言えないかな?あと、凜祢も服買わないのか?」
「凜緒のを選んだらね」
真那がいくつか興味を持った服を手に取って試着室に入り、凜祢も凜緒に似合いそうなのを見繕って試着室に入って行った。そして、二人とも早速一着目を着て出てきた。真那の恰好は青いブラウスに白のロングスカートという真那にしては珍しいもので、いつもは一つに括っている髪も下ろしていた。凜緒は桃色のワンピースを着ていた。
「えーと、どうでしょうか……」
「おにーちゃん、どう?」
「……」
「士道?」
真那は落ち着かなそうな様子で頬を赤らめて俯いていて、凜緒は士道の感想を聞きたそうにしていた。二人とも似合っており、士道は少しの間見惚れていた。
すると、反応が返ってこない為か、凜祢が士道の方に視線を向けて声をかけると、それで士道はハッとした。
「あっ、いいんじゃないか?二人とも似合ってるぞ」
「ほっ、そうですか……でも、なんか落ち着かねーんで着替えて来ますね」
「お、おう」
「凜緒、次はどれ着よっか」
「うーん」
三人はが試着室に引っ込んで行くと、士道は「ふぅー」と息を吐く。
(なんで、俺こんなにドキドキしてるんだろ?別に髪を下ろしてるのは家でも見るのに。あんな格好は見ないけど、制服は制服だし。それに、真那の恰好は何処かで見たような?)
「夕弦、今日こそはっきりさせるぞ!」
「愚問。耶倶矢はもう少し自分を知った方がいいですよ」
すると、橙の髪の双子の同年代ぐらいの少女が洋服店に現れ、何か言っていた。喧嘩か何かかと思い士道は耳を澄ませて聞いてみる。
「今日こそ、我が選んだ服を着てもらうぞ」
「反論。それは私のセリフです。今日こそは」
「次はこんなのどうでしょうか?」
「士道どう?」
「あぁ……って、凜祢も着替えてたのか。うん、三人とも似合ってるし、可愛いぞ」
しかし、聞く限り、喧嘩というよりはお互いに似合う服を選びあっているだけのようだった。そして、試着が終わったのか、試着室のカーテンが開いて三人が出てきた。次に着た真那の恰好は黒いワンピースに、紺のカーディガンを羽織っていて、凜緒は青色のTシャツに青っぽい色のスカート、紺のパーカーを着ていて、凜祢は肩の部分がぱっくり開いた黒い服に黒のスカートを穿いた恰好をしていた。
真那の恰好は相変わらず似合っているが、何処かで見たことのあるような気がしていた。凜緒はさっきとまたイメージが変わったが、凜緒のかわいらしさは健在で似合っていた。凜祢は普段はおとなし目の服ばかり着るからか、いつもよりも露出が多い服を着ていてギャップがあった。
士道は先ほどの真那の恰好にも既視感があったが、どこで見たのかは思い出せないでいた。
「兄様、どうかしましたか?」
「いや、なんかその恰好何処かで見た気がしてな」
「あっ……いえ。そうなんですか?」
「そうなの?私は見た気がしないけど」
「りおも、まなおねーちゃんのはじめてみたー」
既視感を真那に伝えると真那はよくわからないのか首を傾げ、凜祢と凜緒も見た記憶は無さそうだった。
それから、三人はいくつもの服を試着していき、時間が過ぎた。
~☆~
士道たちは洋服店で何着か服を買い、続いて士道が書店によりたかったので寄っていた。凜祢と凜緒はなんでもちょっと行きたい場所があると言って別の場所に行っていた。
「なんで、ここで買ったんですか?」
「ああ。コンビニで買うよりこっちで買った方が安く済むし」
「なんというか、あれですね」
「まぁ、こういう地味な節約が大切だからな」
士道の目的がブラストを安く買う為という何とも言えない理由に真那は呆れた表情を浮かべる。二人は喋りながら歩いていると、画材コーナーから二人の真那と同い年の少女と士道より少し年上の女性が出て来て、ぶつかりそうになる。
「あっ、すみません」
「いえ、こちらこそ。すみません」
「「「あっ」」」
士道が謝ると女性も謝り、他三人は顔を見合わせて驚いたような声を漏らした。二人はどうしたんだろ?と同時に首を傾げて見ると、少女たちに見覚えがあった。一人はエメラルドのような緑の髪の少女で、もう一人はサファイアのような青の髪の少女だった。
「あっ、七罪ちゃんと四糸乃ちゃんか」
「どうも」
「こんにちはです」
二人は真那と同じ小学校で中学も同じの友達だった。何度か顔を合わせたこともあったのですぐにわかり、向こうも挨拶をする。すると、真那はポンと手を打つ。
「用事がアシスタントなら言ってくれればよかったのに」
「うん、まぁ。それを理由にするのも悪いしね」
そして、二人の用事を察したのか真那は納得していた。しかし、士道には何の話か分からず首を傾げるしかなかった。
「ああ、なるほど。なるほど。ミーの弟君ね」
すると、女性も何故か独りでに納得していた。士道は何が何やらと困っていると、真那が説明を加える。
「この人は本条二亜さん。漫画家で孤児だった二人を引き取って育てている人です。それで、二人は恩返しでアシスタントしてるんです。二人とも器用なんですよ」
「そうなのか。俺は崇宮士道です」
「あたしは本条蒼二。漫画家だよ。君の事は遊びに来たマッチと昔からミーに聞いてるよ」
「マッチ?ミー?本条蒼二?今真那は本条二亜さんって」
「ええ。シルブレの原作者です。困ったことに人に変なあだ名をつける変わった人です」
真那は呆れた様子で二亜を見る。それで、マッチが真那のあだ名なのだと士道は分かった気がした。
「おお、それはあたしのシルブレを連載しているブラストじゃないか。なになに、少年は読者なの?」
「まぁ、読んでますね。真那、この少年って俺のことなのか?」
「たぶん」
「いやー、名字呼びだとマッチも反応しそうだし、下の名前を呼ぶのもあれだからね。だから、少年だよ」
少年呼びの理由が何というかで微妙な空気が流れる。すると、近くでいきなり大音響が響く。
「みなさーん、今日は最高のライブにしちゃいますよー」
『『『うおぉぉ』』』
「なんだ?いや、何処かで聞いたことがあるような」
「あっ、しまった!なっつん、よっしー。ここは後で戻るとして、行くよ!」
「はぁー、いきなり本来の目的を忘れてる……」
「こっちも目的じゃないの?」
すると、三人は反応し、大慌てで今の声と歓声の元に去って行った。
「なんだったんだ?」
「さぁ?」
「行ってみるか。凜祢たちと落ち合うまでまだ時間はあるし」
「ですね」
二人は顔を見合わせると、二亜たちが去って行った方を追いかけた。たどり着いた場所はこのショッピングモールの吹き抜けにあるイベントスペースでステージには一人の少女が立っていた。
「あれって、誘宵美九だよな」
「ですね。ゲリラライブでしょうか?」
それは誘宵美九であり、真那が言った通りゲリラライブのようだった。偶然居合わせた客たちは足を止め、美九だと分かるとステージの前に集まり出す。
「あ、二人とも、こんなところにいたんだ」
「いたー」
「おっ、二人も来たのか」
「いきますよ。まずは一曲目ー」
二人が吹き抜けからライブを見ていると、凜祢と凜緒がやって来て声を掛けた。どうやら、騒ぎを聞きつけてやってきたようだった。
そして、真那は反応を示さずに美九のライブに集中しているのかと思われたが、真那の視線はステージ最前列を見て、呆れたような困惑したような表情をしていた。
「兄様。真那には謎です」
「ん?どうした?」
「「「あっ」」」
真那はそんな様子で呟き三人も真那の見ている方に視線を向けると、同時に声を漏らした。
最前列にはさっきまでいた二亜たち三人がおり、その隣には、
「なんで澪姉がいるんだ?」
「ファン故の勘かな?」
「みおおねーちゃん、すごーい」
何故だか澪もいた。サイリウムを持って。
ゲリラライブのはずなのに、この場に居ること。サイリウムを持っていることなど謎が多かった。というか、大学の用事で今日は一緒に来なかったのにこの場にいるという点も謎ではあった。
~☆~
ライブを全部見てから澪に会うと、どうやら午後から用事が本当にあるらしく、午前中に別れたのは何処かから入手した美九のライブを見るためのようだった。だったら、一緒に行けばと思うが、行き先がここではないと思っていた為言わなかったらしかった。そして、澪はパタパタと去って行った。
そして、四人は続いて雑貨屋に来ていた。ここでは筆記用具やらの必需品の購入が目的だった。
「あれ、みるー」
「凜緒、一人で行かねーでください」
「思ってたより安いな」
「まぁ、新学期セール中だからね。やっぱり、家計を管理してるとこういう事考えちゃうよね」
「だな。俺と澪姉で最近は管理しているような状態だし」
「そうだね。士道のとこ最近出張多いもんね。高校生になるのにこんなに家計のことを考えないといけない私たちって……」
凜緒がたくさんの商品に目を輝かせて一人で見に行ってしまい、真那はそれを追いかけていった。雑貨屋は大きくなく、真那が追いかけて行ったから大丈夫だろうと思い、二人も売っている商品を見て行くと、どれも他の店と比べると安く、士道と凜祢は家計のことを考えないといけない事に対して苦笑いを浮かべる。
「士道、ケーキを五等分にするケーキカッターっだって」
「これ、五人家族じゃないと使うこと無いだろうし、うちは二人ともいないことが多いからいらないかな?」
「そうだね。それに澪姉なら目算で綺麗に切れちゃうか。あっ、これは?」
凜祢は変わった商品を見つけると手に取って士道に聞くが、なんだかんだで買う気配は無かった。そんなやり取りを何度か繰り返して、凜祢は“通常よりも強度のある傘”という、どれくらいの強度なのかが曖昧な傘を手に取っていた。
「いや、普通の傘でいいんじゃないか?」
「そうかな?まぁ、安いし買っておこうかな?」
凜祢はそう言って傘も籠に入れると、再び物色しながら歩き始める。
「あっ」
「おっと……ごめん、前見てなかった。怪我はない?」
「あっ、うむ。むくの方こそすまぬなのじゃ」
「六喰ー、何処行ったー?」
「ではなのじゃ」
すると、商品棚の角から現れた少女とぶつかり、士道が謝るとその少女も謝り、少女も謝った。そして、少女の友達が探しているようで、声を聞くと少女は声の主の元へ戻って行った。
「さて、そろそろ凜緒たちも見つけないとな」
士道はとりあえず気を取り直して凜緒たちを探すことにする。商品棚が地味に高いから二人を見回すだけでは見つからなかった。
「まぁ、真那も一緒に居るからすぐ見つかるだろ?」
「うん……あっ、いた」
二人の心配をよそに真那と凜緒はあっさりと見つかった。二人がいたのは文房具関係がわんさか置いてある場所で、真那は二つの籠を持っていた。そして、一方の籠の中に買い溜めの為かたくさん入っており、もう一方にはキャラ物の文具が入っていた。
「ん?どんだけ買うつもりなんだ?」
「いえ、こっちは凜緒が欲しがったもので、こっちは真那の方ですよ。ここは安かったので買いだめしておこうかと」
「真那まで家計の事考えちゃってるし……」
「凜緒、これが欲しいんだね」
「うん!」
最初は二つとも真那のだと思ったが、凜緒の欲しい物を籠に入れていただけのようだった。士道は納得すると共に中学生の真那まで家計のことを考えてしまっている現状に頭を抑えた。その隣では、凜祢が凜緒の欲しい物を確認していた。
そうして、商品をレジに持って行き購入すると店を出たのだった。
~☆~
「さて、お昼を食べに来たわけだが、なんでここなんだ?」
「凜緒が行きたがったからね。それと、兄様が凜緒のお願いに負けましたし」
「それは真那もだろ?」
士道たち四人はなぜだか猫カフェに来ていた。本来ならここに入るつもりは無かったのだが、前を通った際に凜緒が興味を示し、なんだかんだで入店した。凜緒は真っ先に猫に触りに行き、凜祢も追いかけて行き、士道と真那は荷物を席に置いて椅子に腰かける。
「真那も猫触りに行っていいんだぞ」
「いえ、問題ねーですよ……ほら」
離れた位置で猫を撫でている二人を見て真那に促すと、真那はその場を動かずにいた。すると、真那の元に猫が寄って来る。真那はなんとなく寄って来ることが分かっていたから動かなかったようだった。そして、士道も猫を触ると、二人が戻って来る。
「ん、もういいのか?」
「ううん、メニューを一度注文しちゃおうかと思ってね」
「それもそうか。料理が来るのを待ってる間にも触れるしな」
「ねこちゃん、ふさふさー」
二人が戻って来た理由が分かると、端に置いてあった一覧を見る。そして、四人はメニューを決めて注文すると、再び席を離れていった。
そうして過ごしていると、猫カフェのドアが開き三人組の少女が入って来た。黒の長髪の少女と、闇色の長髪の少女、白いショートカットの少女の三人だった。すると、周囲の猫達が黒髪の少女の方に殺到する。凜緒たちが触っていた猫以外は全員行ったようだった。
「ここで大食いメニューがあるというのは本当だな?」
「ええ……しかし、猫カフェに来て、大食いの方が目的というのはいかがなものかと思いますけどね」
「まぁ、楽しみ方は人それぞれ」
猫に殺到されていない少女が猫を触っている少女に妙なことを聞くと、二人は呆れた様子で返答していた。士道は大食いメニュー?と疑問を思うと、厨房の方に、
“大食いチャレンジ 二十分で食べきればタダ!”
とめちゃくちゃ大きめなオムライスの写真と共にそう書かれていた。この猫カフェはどこを目指しているのかと思っているうちに少女たちは席に座り、入る前から決めていたのか、
「ニャンニャンケーキ二つとそちらのオムライスを」
「え?本当にやるんですか?」
そんな注文をし、店員は聞き間違いじゃないのかと聞き返していた。士道だって聞き返すと思うが、少女は頷いていた。
注文が終わると凜祢たちが猫を抱き上げて戻って来る
「なになに?何かあったの?」
「大食いチャレンジだとさ」
「このカフェそんなことやってるんだ……」
凜祢も同じことを思ったようで困惑していた。そして、士道たちが頼んだ料理が運ばれてくると、厨房の方が騒がしくなる。大食いメニューの調理が佳境を迎えているようだった。
二人は猫を降ろすと、猫はとてとてと戻って行くと見せかけて、猫に懐かれている少女の元へ向かった。結果としてこのカフェの猫は一人の少女の元に集まっている構図になる。少女はそれぞれの猫に平等に撫でていた。
四人はそんな様子を見ながら、各々頼んだ猫型のホットケーキやら、オムライス(通常サイズ)などを食べ始める。
「ご注文のニャンニャンケーキ二つと、DXオムライスです。では、カウントを始めます」
店員は緊張の面持ちでテーブルに置くと、タイマーをセットする。
「うむ。頼む」
「では、スタートです!」
少女は静かに頷くとスプーンを手に取り、何時でも始めていい状態になる。そして、カウントが始まると同時に少女の手がまっすぐ下に降りてオムライスをすくった。
そんな少女を横目にもう少女二人もケーキを食べ始めており、士道たちは本当に食べきれるのかという疑問を持ちながら食べ進めたのだった。
士道たちは食べ終えると三人は猫を触りに行き、あの三人組の少女はカフェを出て行った。
「それにしても本当に食べきってたね」
「だな。しかも十分足らずで食べきってたし」
「その割に美味しそうに食べてましたね」
「りおもがんばる!」
「凜緒はやらなくていいからね」
~☆~
「まなおねーちゃん、つぎはあれであそぶー」
「はいはい。そんなに慌てなくても遊具は逃げませんよ」
家への帰り道。とある児童公園の前を通ったところで、またしても凜緒が興味を持つと同時に遊具で遊びたがり、まだ時間的に余裕があるからと公園に入った。
凜緒に連れられ真那は遊具の方に走って行き、そんな二人をベンチから眺めていた。
「ねぇ、士道あれなんだろ?」
しばらく喋りながら眺めていると、凜祢がある方を指差して士道に問うと、士道はそっちに目を向ける。
そこには、ベンチで寝ている少女がおり、その周りで不良七人がたむろしていた。
「完全にあれだな」
「あれ……なのかな?」
このままだと少女は不良の手にかかりそうで、士道は凜祢に荷物の番をしてもらい、少女のそばに寄る。凜祢は士道の考えを察して、特に何も言わずに頷く。
「何をしているんですか?」
「ん?あんたには関係ないことだな」
「寝ている人に対して一体何を?変なことはしない方がいいんじゃ?」
「だから関係ねぇっつってんだろ!」
士道は話し合いで解決を図るが、唐突に現れた士道に不良たちは聞く耳を持たず、いきなり武力行使で来て殴り掛かってきた。士道はさっと躱すと、「正当防衛だよな?」と判断して、殴りかかってきた一人の腕を掴み、背負い投げて地面に叩き付ける。
「このっ!」
士道に投げられた不良を見て他の不良たちは怒り、三人同時に殴りかかって来る。物騒な世の中なので、みんなを護るためにも、そういった術を士道は持っていたが、別に喧嘩慣れしているわけでもない。だから、絶対に勝つ自信がある訳ではないのだが……
「たぁー」
「(ちょっ。飛び蹴りって……)」
いつの間にか騒ぎを聞きつけて凜祢の元に戻って来ていた二人は凜緒を凜祢に任せて真那が横から飛び蹴りで飛んできた。真那も澪も勝手に自衛出来てしまうのが現状な訳で士道は別にそこまで力を持つ必要は無かった。真那の飛び蹴りを喰らって転倒させると、飛び蹴りをした真那に内心ツッコミながら、殴りかかって来るもう一人の腕を掴んで背負い投げをして無力化する。
そして、三人目は、
「えい!」
いつの間にか来ていた凜祢が手刀を首にやって気絶させた。凜緒は離れた位置で荷物の隣に座っていた。
「あと三人だな」
「うん」
「ですね……あれ?」
あと三人相手にすればいいと思い、目を向けると、そのうちの一人の姿が無く、いつの間にか凜緒の元に向かっていた。おそらく、士道たちと一緒に居るのを見たから人質にでもしようと考えたようだった。
その瞬間、三人は怒った。凜緒に危害を加えようとしていることに。
三人は引き返そうとするが残った不良と凜祢が倒した以外の三人の計四人が進路に立って邪魔をすし、残り一人は寝ている少女の身体に手をかけようとしていた。
そうしているうちに凜緒の元に接近され、
「えい!」
凜緒がバックから出した傘を開きながら前に出すと、開いた勢いで不良の腹に当たりのけ反った。
そして、
「なにやっとるんじゃー」
何処からともなく現れた黒髪の少女がのけ反った不良にドロップキックを食らわせて吹き飛ばす。それに遅れて少女と似た顔立ちの白髪の少女が駆けてくる。
「いきなり走り出してどうしたんですか?」
「ん?いや、なんかこの子を護らなきゃいけない的な電波が」
「なるほど……ダメじゃないですか、こんなことしたら」
白髪の少女は納得すると転倒している不良に手を差し伸べ、不良は差し伸べられた少女の手を握り、
「外傷が残ったら傷害になるんですから」
そこから瞬く間に組み伏せて気絶させられた。
そんな様子を見ていた二人。凜祢は慌てた様子で凜緒のもとに駆けよる。
「ごめんね。凜緒、少し離れたばかりに怖い目に合わせちゃって」
「ううん、りおはへいきー。このおねえちゃんたちが、たすけてくれたから」
「ありがとうございます。妹を助けてもらい」
「いや、気にしなくていいよ。こんな小さい子を狙うなんてね」
「どういたしましてです。では、私たちは用事がありますから」
「そうね」
凜祢は二人にお礼を言うと、たいしたことはしていないかのような反応をしていた。そして、手を振って去って行った。
ちなみに、士道たちを囲んでいた四人は瞬く間に撃破されていた。触れてはいけないものに触れてしまったため四人とも気絶していたのである。そして、そういえば残り一人は?と思うと、さっきまで寝ていたはずの少女は残り一人を組み伏せていた。
「のんびり寝てたんだから、そのまま放置しといてよぉ」
少女はそう言って、ずるずると不良を引きずり、瞬く間に気絶した不良の元に連れて行き、そこで待つように言うと水道のそばにあったバケツに水を汲み、
「えいー」
なんのためらいもなく気絶している不良に水をかけた。結果、不良たちは目を覚まし、
『すんませんでしたー』
「じゃぁねぇ……あっ、なんか助かりましたぁ」
不良たちは逃げていった。少女はそれを、手を振って見送ると士道たちにお礼を言う。
少女は青いブラウスに黒のロングスカートという恰好で、茶色の髪をポニーテールにして、黒の眼鏡をかけていた。
「あれ?」
「はて?」
そして、二人は少女の顔を見ると、何処かで会ったことのあるような既視感を感じた。しかし、思い出すことが出来ず思い出そうと必死に思考していると、不良が逃げていった方から金髪の少女が歩いてきた。
「ん?何事?もしかしてまた不良狩りでもしてたの?さっき逃げていったけど」
「万由里ちゃん、違うよぉ。寝てただけだよぉ」
万由里と呼ばれた金髪の少女はどうやらこの少女の知り合いのようで呆れた顔をしていた。そして、少女は伸びをしてから、
「それにしても相変わらず仲良いねぇ、二人ともぉ。いや、この場合は四人ともかなぁ?久しぶりぃ、と言うのも変かなぁ?どう思う?」
「もしかして……千花なのか?」
唐突に四人にそう聞くと、士道は少女が誰なのか思い出した。士道が千花と口にしたことで、凜祢と真那も思い出したようだった。
「千花ちゃん?」
「千花ちゃん、戻って来てたの?」
木野千花。この世界において士道と凜祢と同じ小学校に通っていて、中学に進学する際に親の都合で遠くに行ってしまった少女。凜緒はその頃は生まれて間もなかったから覚えておらず、首を傾げていた。
「あっ、千花の知り合いなんだ。私は万由里。向こうでの千花の友達でこっちの方に興味があったから来た感じだけどね。あっ、向こうで千花から話は聞いているからなんとなく知ってるよ」
「ちなみに今年から万由里ちゃんと一緒に来禅高校に入学するよぉ」
「えっ?そうなのか?じゃぁ、また一緒に過ごせるんだな」
「おお、やっぱり二人もあそこだったんだねぇ。じゃぁ、よろしくねぇ」
「よろしく」
「うん」
すると、万由里は四人が千花から聞いていた人なのだと分かり納得して自己紹介をした。そんでもって、二人が来禅高校に入学すると知り、士道と凜祢はまた一緒に通えるからと喜んだ。
「そう言えば、千花は帰ってきたんだから、挨拶はしなくていいの?」
「あっ、そうだねぇ。私帰ってきたもんねぇ」
すると、万由里はそう言えばみたいなノリでそう言うと、万由里の言葉を聞いた千花は納得し、四人の顔をしっかりと見る。凜緒は首を傾げていたが。
それで、三人も疑問を脇に置いて千花を見る。
「ただいまぁ」
「ああ!おかえり」
「うん!おかえりなさい」
「はい!おかえりなさいです」
これは、千回繰り返して紡がれた
これでパラレルIFは完全に完結です。およそ、一年半+αの間お読みくださり、ありがとうございました。
そんな感じで、ノシ