「なぁ、七罪はこの後暇か?」
「ん?私は暇だよ。何?誘っているの?」
「いや、この後、特にすることもないし。七罪が暇だったらと思って、どうせだし、このままどこかいかないか?」
「仕方ないなぁ。士道君が行きたいのなら、一緒に行ってあげよう」
あの後、ケーキショップを出た後、二人とも暇だったこともあって、なんとなく七罪を誘って、一緒にショッピングモールへ行った。
今は、その中の一つの店に二人はいた。
「うーん。犬にするか、猫にするか。ねぇ、士道君はどれがいいと思う?悩むよねー」
七罪は犬と猫のぬいぐるみを持って、どちらにするか悩んでいた。
「そうだな。俺的には猫の方がいいと思うな」
「そう?じゃぁそうしようかな?」
七罪はそう言って、犬のぬいぐるみを棚に戻すと、黒猫のぬいぐるみをギュッと抱いた。
士道は七罪を見ていて気が付いた。
正確にはぬいぐるみについていた三千円のタグを見て。
「ところで、七罪ってお金持っているのか?さっきのケーキはペア券でタダにできたけど……」
「ん?あ、こんなにはお金ないや……諦めよ」
タグを見て、お金が足りないことに気付いた七罪は渋々戻そうとした。
「じゃぁ、俺が買うよ。なんだかんだケーキをタダで食べれたし」
士道が七罪にそう提案すると、七罪はうれしそうに目を輝かせる。
「え!本当!?」
しかし、すぐにハッとなり、士道を警戒するような目をする。
「何が目的なの?これを買うことを交換に何をするつもりよ」
「いや、ケーキのお礼だけど……」
「そんなの信じられないわ」
そう言って、黒猫のぬいぐるみを戻すと七罪は店を出て行った。
「やっぱ、人間不信、か」
士道も七罪を追いかけて店を出た。
~☆~
次に七罪に追いつくと二人はゲームセンターに入った。
「ところで何やるの?」
「そうだなぁ、あれはどうだ?」
士道が指差したのは、流れてくる音符を太鼓で叩く音ゲーだった。
「ふーん。私はやったこと無いけど、やってみようかな?」
そう言って、二人は太鼓の前に立ち、曲を選択する。
選択した曲はアニソンで、七罪は知っていたのか、躊躇うことなく難易度を鬼にした。
「あの、七罪さん?初めてやるのでは?」
疑問に思った士道が聞くと、
「ん?そうだけど、人間ができるゲームなんだからなんとかなるわよ」
とのことだった。
そして、音楽が始まった。二人はタイミングよく叩いていき、時々ミスりながらも続けていった。
曲が終わると、スコアが表示され、士道が僅差で勝った。
「ふー、久々にやったけど、結構勘は残っていたな」
「えぇ、意外と難しいわね」
二人はそう言って太鼓から離れて、士道は七罪に聞いた。
「七罪、うまかったな。次は七罪が選んでくれるか?」
「そうねぇ、じゃあ、あれで」
七罪が指差したのは、シューティングゲームだった。
内容は、襲いかかってくるゾンビをハンドガンで倒していくというもので、二人プレイができるようだった。
「じゃ、やるか。これでスコアが高い方が、次のゲームを選ぶってことで」
「それでいいわ。次は負けないから」
そう言って、ゲームが始まった。
最初はゾンビの数が少なく、ヘッドショットでスコアを稼いでいたが、だんだんゾンビの数が増えてきて、ダメージを受けながらも倒していく。
七罪の方もそんな感じだったが、反射神経が良いのか、ゾンビから受けるダメージが少なく、スコアも稼いでいた。
「なかなかやるな。まぁ、ここからだが……」
士道がそう言うと、ステージボスの大きなゾンビが現れる。
このボスはいくら撃っても倒れる気配がなく、雑魚のゾンビもどんどん現れるので、このゲームをクリアできる人は少ないらしい。
士道も時々、殿町とやっているが倒せたことがない。
どんどんボスゾンビの身体を撃っていくが、あまりダメージが無く、やはり倒せる気がせず、ダメージをもろに喰らってゲームオーバになる。
「うーん。やっぱクリアできないか。七罪の方は……」
ゲームオーバになった士道が、七罪の方を見るとまだやられておらず、体力も半分以上残っていた。
「この、この」
そう呟きながら、どんどん攻撃していく七罪。
雑魚的が現れると、ヘッドショットで瞬殺していき、ボスに対してもヘッドショットでダメージを食らわしていく。
どうやら、頭が弱点らしいが、普通はここまで当たらないはずだった。しかし、七罪は冷静に撃っていく。
そして、ついにボスゾンビが倒れ、ゲームクリアになった。
「た、倒しただと……」
ゲームがクリアされたことで、驚愕する士道。
「ふー、いいストレスの発散になったぁ」
額の汗を拭うようなそぶりをしながら、七罪はそう言った。
心なしか、七罪の表情もよかった。
しかし、士道の視線に気付くと、七罪が何かに気付いたかのように、士道に視線を向けた。
「あっ。……意気揚々とゾンビを倒してしまう女子って気持ち悪いわよね。さすがに引いてるわよね」
士道の視線を引いていると、七罪は勘違いして、暗くなっていった。
「いや、すごいなぁ、と思ってたんだが。それにかっこよかったぞ」
「そう?まぁ、引いてないならいいか」
そう言って、シューティングゲームから離れる七罪。
その後も色々なゲームをして、七罪はクレーンゲームの前で足を止めた。どうやら、一台のクレーンゲームの中にある景品を見ているようだった。
その中の景品はさっきの店のぬいぐるみを小さくしたサイズので、猫やら犬やらがあった。
「これが欲しいのか?」
「い、いや。そんなわけない、じゃない」
七罪が物欲しそうに見ていたから、士道が聞くと、七罪は慌てて否定した。
しかし、七罪の目はちょくちょくクレーンゲームの方に向いていた。
「そっか」
そう言って、士道はクレーンゲームの筐体にお金を投入する。
「何してるの?」
「ん?取れそうだからなぁ」
そう言いながら、アームを操作していく士道。
士道の狙いは、一番取りやすそうな位置にあった黒い猫のぬいぐるみだった。
ぬいぐるみの首の部分にアームが引っ掛かり、そのまま持ち上がる。
「おっ」
そして、ぬいぐるみが排出口に落ち、近くにあった白い猫のぬいぐるみを巻き込んで、排出された。
景品のぬいぐるみを取り出すと、両方とも七罪に渡した。
「はい、七罪。取ってから気づいたんだが、男が持つ物じゃないな」
「え?いいわよ。それで何をするのが目的なのよ」
しかし、警戒して受け取らない七罪。
「いや、特に何もないんだが。あえて言えば、今日の思い出ってところか?」
「はぁ、分かったわよ。黒い猫だけもらうわよ」
しかし、士道が本当に売らなくそう言っているのだと察して、諦めて七罪は黒い猫の方だけ受け取った。
~☆~
二人はショッピングモールを出て、初めて千花に会った時の児童公園のベンチに座っていた。
「ふー、今日はなんだかんだで、楽しかったよ」
「そうだな、俺も楽しかったよ」
士道は歩き回ったことで、だいぶ疲れたし眠くなっていた。
士道はそんな状態で空を見ながらそう答えると、隣に座っている七罪が姿勢を正したので、七罪の方を向く。
「ねぇ、私のこと可愛いと思う?」
「そうだな。可愛いと思うぞ」
士道は七罪の言葉を聞いて、七罪を見てそう答えた。
すると、七罪の顔がだんだん暗くなっていった。
「そうだよね。この姿は可愛いよね。ねぇ、士道君。やっぱり、この私といるのは楽しいんだよね?」
「ん?なんのことだ?確かに楽しいけど……もしかして、この前会った時の姿だと、こうはならなかったとか思っているのか?」
士道は七罪の考えていることは、なんとなくわかったし、下手なことは言わず、思ったことをそのまま言う。どうせ、取り繕った言葉じゃ、嘘だとばれるはずだから。
「……そうだよ。私はね、あの本来の姿じゃ誰にも相手にされなかったんだ。だから、私は正体を偽ってこの姿になる。士道君も本来の姿で誘ったら断ったでしょ?」
「そうか?たぶん、断らなかったし、一緒にケーキショップに行ったぞ。それに、姿は違っても結局、七罪ということには変わりはないだろ?」
「そんな考えをするのは士道君だけだよ。あの姿で街に居ても、誰も気にかけない。現に、今日この姿で街にいただけでナンパされた。だから、見た目が全て、そういうことだよ」
七罪は淡々と言った。
確かに、この七罪は女子高生の平均身長より少し高く……うん大きい。
でも、別に本来の七罪の姿は守りたくなる感じだし、可愛いと思うけどなぁ、とか士道が思っていたら、七罪の顔がみるみる赤くなる。
(まさか、途中から声漏れてた?)
「士道君……ロリコン?」
七罪は顔を赤くしながら聞いた。
「いや……別にロリコンじゃないぞ。うん」
士道は内心慌てながら、冷静を装って、そう返した。
「そっかぁ、士道君は私のことをそう思ってくれるんだ。うれしいなぁ、って言えば満足する?で、あれは何?」
士道の言葉を聞いてか、暗かった七罪の表情は明るくなっていたが、途中から目を細めて士道の後ろの方の空を指差す。
振り返って、指差した方を見るとASTがこっちに向かって飛んできていた。空間震警報も鳴っていないのに来たということは、どこかで七罪の霊力が観測されてしまったようだった。
「見た感じ、AST……か。つまり、士道君はASTの尖兵で、周りに被害の出ない場所に私を連れて来るのが目的かな?そう考えれば、前会った時のこともつながるね。じゃぁ、あの二人も尖兵かな?」
「違う。俺たちはASTとは関係ない」
「いいよ。そんな嘘つかなくて。じゃぁ、これは何?」
七罪はそう言いながら、何もない所を掴む。
何も無いと思ったが七罪の指の間には小さな機械があった。
「見た感じは小型カメラかな?これも士道君の仕業?喜ぶ不細工を見て後で笑おうってとこかな?」
七罪は掴んだ小型カメラを見ながら、士道を問い詰める。
よく見たら、<ラタトスク>の小型カメラだった。
「いや、知らないよ……って、言っても信じてくれないんだろうな」
「うん。だってこれが飛んでいたの、気づいていたでしょ?」
そう言って、七罪は小型カメラを捨てる。
確かに、士道はケーキショップを出た後から視線は感じていたが、気のせいだと思っていた。そもそも、琴里たちには連絡していなかったし。
「ごめんな。気のせいだと思っていたんだ」
「ふーん。そうなんだ。……せっかく友達になれるかな?と思っていたのに、結局こうなるんだ」
七罪はうつむきながら、そう言って、立ち上がり、
「じゃぁね。もう会うことは無いと思うけど……」
「そうか?……でも、さっきの俺の言葉は本音だからな。じゃぁな」
「あっそ」
無感情な声音で七罪はそう言って、霊装を纏い、箒にまたがって飛んでいく。飛んできたASTは七罪を追いかける。
七罪の飛んでいく後ろ姿を見ながら、さっきまでは楽しかったんだけどなぁ、なんてことを考えて、一人呟いた。
「監視をするなら、ばれないようにしてくれよ。いや、俺が止めさせるべきだったか?」