という訳で、千花アフターです。
時系列は【終わった世界と続く世界】の一年半後です。
『ちょっとぉ、そこは寝ている少女に襲い掛かるとこでしょぉ。もう、君は分かってないなぁ』
『私は士道君のこと好きだからねぇ』
『色々あるけど、皆をちゃんと助けてくれてありがとねぇ。私だけじゃ、精霊皆を助けることはできなかったからさぁ』
『これは願掛けだよぉ。と言う訳で、じゃぁねぇ』
~☆~
「何だったんだろうな、あの夢は」
高校二年の十二月二十三日。冬休みに入ったから学校はもう無く、士道は千花との約束で近くにある児童公園にいた。ちなみに、二人は付き合っておらず、今日はクリスマスパーティーの買い出しに出かけるだけ。
本来ならどっちかの家の前で待ち合わせればいいのだが、千花がここで集まりたいと提案し、士道としても拒む理由は無かったためここに集合した。千花と再会したこの場所で。
そして、待っている間に士道は考えていた。今朝見た変わった夢。幼馴染ではない千花と出会い、何故かギャルゲ主人公よろしく女の子を落していく、戦闘ありデートありの謎の夢。そして、最後の方はやたらとバトってて、最後は千花と別れてしまう夢。
ただの夢にしてはやたらとリアルで、鮮明に思い出せる。それ故にずっと引っかかっていた。
「士道君、待ったぁ?」
「いや、俺も来たばっかだから問題ないよ」
「そっかぁ。なら良かったぁ~」
しかし、考えているうちに千花がパタパタと走ってやって来たので、士道は考えるのを止める。あれはただの夢なのだということにして。千花の服装は、厚手の黒いコートに、白のロングスカートといういつもの恰好だった。そもそも、冬場はこのコートを着ている訳だし、ロングスカートを好んでいるのだが。
約束の時間は十時で、今の時刻は九時五十分。士道が来たのはその数分前なので、千花に対して嘘は言っていない。仮にだいぶ待っても、たぶんそう言うのだが、その場合は少々面倒なことになる。
「じゃぁ、行くか」
「うん、レッツゴォー」
予定より少し早いが、二人はそう言って目的地の駅前のショッピングモールに向かうのだった。
~☆~
「で、なんで買い出しに来たのに俺たちは水族館の前にいるんだ?」
「ん?だって、買い出しなんて昼過ぎからでも十分できるでしょ?」
ショッピングモールに来た二人。今日の目的は買い出しのはずだったのに、何故か隣に併設された水族館前にいた。その水族館は最近できたばかりなので士道は来たことが無かったりする。
「だから、遊ぼぉ!」
「午前中から待ち合わせた目的はこれかよ」
「行くよぉ」
「はいはい」
士道は千花のここに来た理由に対して、手を顔に当てて呟く。千花のこれは今に始まったことじゃないが、マイペース過ぎて士道が巻き込まれてきたのは数知れず。それ故に、士道はもう諦めた。
千花は士道の手を取るとグイグイ引張り、二人は水族館の中に入った。
「士道君、ペンギンだよぉ」
「ペンギンだな……」
水族館をどう回るかを千花に任せて歩いていると、たどり着いたのはペンギンコーナーだった。大体の水族館にペンギンがいるからさほど驚きはないと思っていたが、一点においてツッコみどころがあった。
「多すぎないか?」
エリア内にいるペンギンの数が普通のそれではない。フンボルトペンギン、ケープペンギン、コウテイペンギン、マカロニペンギンなどなどたくさんの種類がいて、一種類あたりの数が十から二十いる事で、そうとうな数になっていた。
「まぁ、ペンギンに力を入れてるみたいだねぇ」
「そんなもんか」
「そんなもんだよぉ。ここの口コミにそう書いてあったしぃ」
「って、人伝かよ!」
千花は呑気にそう言う。公式情報じゃなくてレビュー情報なので本当かはわからないが。
「じゃぁ、次行こぉ」
「ん?もういいのか?」
「うん。まだまだこの水族館で見る動物はいるからねぇ」
二人はペンギンエリアを出ると、道すがら魚やクラゲといった水生生物を見て行き、アシカやイルカが順番に何かをやるショーを見て、一通り水族館を回った。ショーはアシカの器用な芸やイルカの大ジャンプなど普通に楽しめ、ペンギンを押しているという情報は事実だったらしく、水族館内をペンギンの着ぐるみが歩いていて、子供たちに囲まれていた。その後、二人は御土産屋さんで物色した。千花はぬいぐるみコーナーでイルカとペンギンどちらを買うか悩んでいた。
「士道君、どっちがいいかなぁ?」
「千花の好きな方でいいんじゃないのか?」
「どっちも甲乙付けがたいんだよぉ……どっちがいい?」
士道的には千花の好きな方を選べばいいと思ったのだが、選べないらしく千花がぼやきながらペンギンのぬいぐるみを抱き寄せて、ぬいぐるみの頭の上に顔を乗せる。そして、今度は上目遣いで士道に聞く。
「うーん。ペンギンかな?他の水族館に比べて凝ってる気もするし」
「りょうかーい。じゃぁ、こっちでぇ」
士道はドキッとするも、なるべく悟られまいと平静を装ってそう言うと、千花はそれで納得したのかペンギンの方を選び、士道は士道で家への御土産にクッキーを買った。
こうして、士道も千花も久しぶりだった水族館を十分楽しんだのだった。
~☆~
「士道君、いざ勝負ぅ!」
水族館を出て、士道たちは本来の目的地だったショッピングモールに来た。時間的には昼食にしたかったところだが、どの店も混んでいたから時間をずらすことに決めて、ショッピングモールを見て回っていた。そして、千花がゲームセンターにあるエアホッケーに興味を持って、そう提案した。
「ん?まぁいいぞ。でも、なんでホッケー?」
「そこにあったからぁ。勝者はお昼の場所決めれて、敗者はお昼奢りねぇ」
「山があった風に言うなよ。あと、しれっと罰ゲーム付けるなよ。まぁ、いいけど」
承諾すると、荷物を置いて筐体にコインを入れてスタートさせる。エアホッケー自体はゲームセンターに行くと偶にやっていたので、負ける気は士道に無い。ただ、千花がどういうプレイをするかの予想がつかない問題があったが。
「ほっ。たぁ」
しかし、士道の心配は杞憂だったようで普通にゲームは進んで行く。点を取れば取られてを繰り返す形で。しかし、残り時間が半分を切った辺りからおかしくなり始める。飛んできたパイを返すとどういう訳か千花のもとに吸い込まれるように飛んで行くという事態が起こる。わざと変な方向に飛ばしても、謎のカーブをして千花のもとに行く。そのせいで一向にポケットに入らない。
ただし、そこまで早くないから士道も普通に返せる訳で、点が動くことも無いのだが。
「……千花、何したんだ?」
「パイに謎の回転をかけて、打ち返したら私のもとに来るように打ってるだけだよぉ」
「何処のゾーンだよ、それ」
しかし、千花にツッコミを入れたことで士道は打ち方を誤り、千花目掛けてど真ん中のコースに返してしまった。千花がゾーンを止めて本気で撃てばおそらく終わってしまう絶好のチャンス。
「もらったぁ!」
カコンッ
打ち返されたパイは一直線に士道のポケットに入り、それと同時にタイムアップになった。
「私の勝利ぃ。と言う訳で、次の場所にレッツゴォー」
結果千花の勝利に終わると千花は士道の手を握りそのまま何処かへ引っ張るのだった。
~☆~
「士道君、次どこ行くぅ?あぁ、ふわふわぁ~」
「そろそろ、ちゃんと目的果たさないか?」
あの後、ゲームセンターでプリクラを撮ったり、シューティングゲームをしたりして過ごし、今はショッピングモール内にあった猫カフェにいた。千花がここに入りたいと言い、空いていたからここに入った。一応ホッケーの勝者だからというのもあるが、士道的には別にそれが無くてもここに入っていた。
料理を注文してから来るまでの待ち時間に千花は猫を触ったり遊んだりして待っており、そうとう癒されている様子だった。そのせいか、千花が本来の目的を忘れているのではないかと士道は危惧してそう言う。今のところ遊んでばかりだから。
「そうだねぇ。とりあえずお昼食べたらねぇ」
「あっ、これまた逸れるやつだ」
「ご注文のニャンニャンケーキとオムライスです」
「あっ、どうも」
注文の品が来たことで、千花は猫と遊ぶのを止めて戻って来る。士道が注文したのはケチャップで猫が描かれているオムライスで、千花は猫の形をしたパンケーキ。
二人は来たことで早速食べ始める。そうして食べ進めていると、千花は士道の食べているオムライスをしーっと見る。
「ん?どうしたんだ?もしかして少し食べてみたいのか?」
「うん。ちょっと食べてみたいなぁって」
「そっか。なら、はい」
千花が欲しがっているのを察した士道がそう聞くと、千花も正直にそう答えて、士道は皿を千花の方に寄せる。しかし、千花は士道のその対応に首を振り、
「あーん」
「……マジか」
口を開けて“あーん”を強要した。士道はその行動に小さく呟くとどうしたものか逡巡し、スプーンですくうと千花の口に運ぶ。
「ん~、おいしい」
千花はお気に召したらしくニコニコしてそう言うと、自分のパンケーキを小さく切り、
「はい、あーん」
士道に対して“あーん”をしようとし始めた。
「いや、普通に食べさせてもらえればそれでいいんだけど?」
「あーん」
「いや、だから」
「あーん」
「はぁー」
“あーん”以外の選択肢が無いらしく、士道はため息をつくと、パクッと食べた。いつもなら士道はこんなことしないのだが、千花が引かないことが分かっていたのと、周りにちょうど人がいなかったからできただけで、もしいれば絶対にやらなかった。
「間接キスだねぇ」
「……考えないようにしてたのと、千花のフォークには触れてないからセーフだからな」
「うーん」
千花は士道を慌てさせたかったようだったが、こうなることは目に見えていた為、士道はパンケーキだけ食べてフォークには触れないようにしていた。だから、士道は慌てることは無く、そう返して自分のオムライスをまた食べる。
「ちなみに、私は士道君のスプーンごといっちゃったぁ」
「あっ……」
~☆~
「ここ寄って行かない?」
「神社だな。まぁ、参拝してくか」
猫カフェを出た後は、洋服店に行ったり、雑貨屋さんに行ったりして過ごした。洋服店では何故かミニスカサンタがあったからって千花が試着したことで士道がドキッとしたり、あまり着ない服を着たことでギャップを感じたりしていた。
そして、だいぶ陽が暮れて二人は家に向かって歩いていた。結局、パーティー関係の物はすでに他のメンバーが買ってたり持っていたりしたため、買うものは特に無かった。あえて言えば、食べ物系も明日買えばいいということで、結局ただ単に千花が士道と一緒に出かけたかった口実だった。
神社の前に差し掛かると、千花がそう提案し、士道も乗る。
「いつまでも平穏な日々が続きますようにぃ」
「いつまでも普通な生活が送れますように」
「「ぷっ」」
神社で祈ると、何故か二人は似たようなことを願っていた。特に打ち合わせていた訳でもないのに願いが似ていたことで、二人して噴き出す。しかし、そういう普通の願いが二人のいつも通りだから、こんなことが起きてもそれくらいで、あまり驚きは無かった。
二人は参拝が終わると神社を後にし、再び家に向かって歩き出す。
「士道君、家に戻る前に一か所寄っていい?」
「千花、家に戻る前によりたい場所があるんだ」
二人は同時に似たようなことを言った。士道は最後に行きたい場所があったのだが、千花まで行きたい場所があるとは思っておらず、それは千花も同様だった。
「もちろんいいけど、どこ行くのぉ?」
「俺はいいけど、千花はどこに行きたいんだ?」
「児童公園だよぉ」
「俺もだ」
「なーんだぁ。士道君も同じだったんだぁ。なら、行こぉ」
二人の行きたい場所は同じだったことで、児童公園の方に二人は足を向ける。
「ふぅ、朝ぶりだねぇ」
「そうだな」
児童公園のベンチに座った千花は足をパタパタさせてそう言う。士道はその隣に座って頷く。
この児童公園は、士道にとっては二人が再会した大事な場所。千花にとっては士道と初めて会った大事な場所。
「さてぇ。引き延ばすのは私の性に会わないからここはズバッと言っちゃうよぉ」
千花はそう前置きをして、士道の方を見る。いつもの声音から少し落ち着いたことで、真面目な話をするつもりなのだと士道は察した。
「私、木野千花は士道君のことが好きぃ!付き合ってください!」
そして、千花の口から発せられたのは士道に対する告白だった。一度離れ離れになって一年前の春に再会した、凜祢とは少し違う幼馴染。千花からはそこまで好意を感じていなかったから、ただの幼馴染という認識でしかないのだと士道は思っていた。
「士道君。答えを聞かせて欲しいなぁ。あっ、フッても今まで通りに接するつもりだから、その辺は軽い気持ちでいいよぉ」
「流石に今まで通りって訳にはいかないだろ……。っと、俺も千花のことが好きだ。付き合ってくれ!」
だから、士道の一方的な片想いだと思っていた。
「あれぇ?士道君もそうだったのぉ!そこまで意識されてないとばかり……でも、うれしい。これからもよろしくね。士道君」
「ああ。俺の方こそ。それで、俺のどこがいいんだ?」
「えー。それ、聞いちゃうのぉ。まぁ、言うけどぉ。まず、誰に対しても優しいことかなぁ。私も、みんなもそのやさしさに救われてたからぁ。あと、家事万能なところぉ。やっぱり、このスキルはいいよねぇ」
「それだと、家事ができて優しければ誰でもいいように聞こえるけど?」
「えー。そうなっちゃうのぉ。じゃぁ、はっきり言うよぉ。士道君だからいいのぉ。士道君の全てが好きなのぉ」
千花は言いたいことを言い終えたのか満足そうな顔をし、直後いきなり顔が真っ赤になる。
「うぅ。やっぱり、面と向かって言うと恥ずかしいぃ。士道君はどうなのぉ?私のどこが好きなのぉ?」
「んと、まずは好きなことに一直線なとこかな?確かにそれで大変な目には遭ったけど。あと、他には……」
「やっぱいい。恥ずかしいからぁ!」
士道が千花の好きなところを一個挙げただけで、千花はストップをかけた。でも、普段振り回されているせいか、いまは士道の方が優勢なことで
「他にも、そののんびりとしたところかな?なんというか一緒に居るだけで落ち着く」
「言わなくていいよぉ!」
千花は士道を止めようとぽかぽかと叩くも、士道は止まらない。
「あとは……」
「もぉ!」
そして、士道がさらに言おうとしたが、それ以上は言えなかった。あまりの恥ずかしさに千花が士道の言葉を止めるためにキスをして無理やり止めたから。
目の前に広がる千花の顔に士道の体温も上昇し、直後脳裏にたくさんの記憶が巡る。
それは、前の世界の千花と過ごした九ヶ月の記憶。その中にはさらに前の世界の、折紙を救うために過去に飛ぶ前の世界の記憶も含まれていた。
「あっ!」
千花が口を離して小さく声を漏らす。しかし、士道はそれよりもこの記憶で気にならなかった。というか、気にする余裕が無かった。でも、わかったこともあった。今朝の夢はこの記憶の一部だったこと。そして、
「千花、もしかして……記憶あるのか?」
もしかしたら、千花はこの記憶を持っているのではないかと。今日行った場所は、あの時に出かけた場所を巡っていた。まるで、あの時をやり直すかのように。
「あはは。ばれちゃったかぁ。もちろん、私は持ってるよぉ。ただいま、士道君」
「そっか。おかえり、千花」
記憶が戻ったことで、千花はそう言った。だから、士道もそう返す。
「さて、記憶が戻っちゃったわけだけど、私は士道君が好きぃ!この気持ちはあの時からずっと変わらないよぉ」
「ああ。あの時のこともあるけど、今まで過ごしてきたこの時間も本物だ。だから、俺も変わらない。千花の事が好きだ!」
「良かったぁ。記憶が戻っちゃったならみんな事が好きな可能性もあった訳だからぁ」
千花は変わらず好きと言ってもらえて安堵する。そして、千花は士道の目をじーっと見る。
「さっきは勢いでしちゃったけどぉ、ちゃんとしたいかなぁ?」
「ああ。そうだな」
そして、二人は短いキスをしてすぐに離れる。
「これからもよろしくな、千花」
「うん。士道君、これからもよろしくねぇ」
これでパラレルIFの番外編も終了かな?シチュ思い付かないし。
では、またいつの日にか。ノシ