「士道君に悪戯していいのは、私だけよぉー」
橙と黒の服を纏い、緑色の髪に魔女の帽子をかぶった××が叫ぶ。
「ありがと、士道」
真っ黒な衣装が真っ白な衣装に変わり、××は笑みを浮かべる。
「……はー、そういうことね。私たちは、遠回りをしていたのね」
「嘆息。どうやら、そのようですね。
拘束具のような衣装を纏った×××と××はため息をつく。
「たく、通信は切れるわ、この天気のせいで居場所はわからなくなるわ、なんなのよ。それで、見つけたらピンチになってるし」
和装のような衣装を纏い大きな戦斧を持った××が毒づく。
「士道さんは私のことを認めてくれるんですね。そっか、士道さんにとって私は化け物じゃないんだね」
緑のうさ耳のレインコートを纏った×××はほっとした表情をする。
「にっしし、悪戯成功!」
修道女のような衣装を纏った××は、いたずらな笑みを浮かべてそう言った。
「しまった!この後仕事ライブの事後処理あるから行かないと……うわっ」
ベンチから立ち上がった××はよろけた。
「とーう」
士道は背後から××にドロップキックをくらわされた。
「霊力切れなのじゃ。というか、こんな大きなものの流れを閉じたその日に開けるのは無理みたいなのじゃ」
××は罰が悪そうな表情でそう言う。
「見ないでくださいまし」
××は士道に見られるのが嫌になり、顔を士道の服にうずめる。
~☆~
「ん……」
窓から入ってくる光で、小さな声を発しながら目を覚ました。
頭がボーとした感覚が強く、徐々に感覚が戻っていく。
「……なんだろ?今の夢は?」
見慣れた壁、床、天井に家具と、いつもの士道の部屋。
長い夢を見ていたような感覚。
ただ、どんな夢だったかはあまり覚えていない。
とりあえず、ベッドを下りると、部屋のカーテンを開けて外を見る。
そこに広がっていたのは、見慣れた天宮市東天宮の住宅街だった。右方に目をやるとマンション。
まぁ、いつもの景色だな、と思うが士道は何か違和感がある気がした。
「まぁ、いいか」
しかし、違和感がなんなのかわからないのでそのままにして、ベッドにある電子時計に目をやる。
十二月二十四日 午前八時。
今は冬休みだった。
休みなので学校は無いが、いつもはもう起きている時間なのでリビングに行く。
両親は海外出張中であり、妹の真那も部活で学校に行っているだろうからリビングには誰もいないだろうと士道は思いながらリビングのドアを開ける。
「おはよーございます、兄様」
しかし、士道の予想とは裏腹に真那がリビングにいた。
「おはよう、真那。あれ?真那も部活あるんじゃ?」
士道としては、部活に行っていると思っていた真那が家にまだいる理由は謎だった。
体調が悪くて休んだのかとも思ったが、見た限り体調は悪くはなさそうではあるが。
「インフルエンザの連絡が何件かあって今日の部活がお休みになったんです。ウイルス持ってる人がいたら感染するからって」
「それで真那が家にいるわけか。真那は具合悪くないんだよな?」
「もちろん。真那がウイルスに負けるわけありません」
真那は胸を張ってそう言う。
実際、真那はこれといった体調不良もして学校を休んだことも無いのだが。
「というわけで、暇なので出掛けてましょう」
「接続しおかしくないか?」
「いいんです。小さいことを気にしていたらモテねーですよ」
「そうなのか?」
「そうなのです。真那準備してくるので、兄様も準備しといてくださいねー」
真那はそういうやふらーっと自分の部屋に行ってしまった。
まだ、士道は出かけることに同意していないのにもかかわらず。
「まあ、いっか」
ただ、特にやることがあるわけでもないから断る理由もなく、士道も荷物を取りに部屋に戻るのだった。
~☆~
「ところでクリスマスイブにぼっちの兄様」
「その枕詞なんなんだ?」
「いえ、高校生なのに彼女も作らず、一人ぼっちの兄様なので」
「それ言ったら真那だってぼっちだろ」
二人がやってきたのは最近オープンしたショッピングモール。水族館も併設されていて、休みもあってか人は多め。
クリスマスイブだからカップルや親子連れなどなど。
「真那はまだ中学生なので。それよりも真那はここに来たことある気がします」
「そうなのか?最近できたばかりだし初めてだと思うけど。一人で来たのか?」
「うーん。一人でわざわざここまでは来ないんですよね」
「デジャブってことか」
真那の発言に首をかしげる。
士道自身ここに来るのは初めてで、真那が一人で来るかといえば怪しい。真那なら買い物があれば家の近くや駅前で済ます性格であるが故に。
「どうなんでしょうかね?とりあえず、中に入ったら思い出せる気がします」
「……ただ単に入りたいだけだろ」
「いえいえ、決して真那はそんなこと考えてないですよ」
「じゃあ、水族館は入らなくていいな」
「いえいえ、それとこれとは話は別です。さあ、さあ」
「わかった、わかった」
真那に背中を押されて二人は水族館の入場列に並ぶ。
ショッピングモールに併設されていることもあってか、大きさは他の大型のところほどではなさそうだった。それでも、イルカやペンギンなどなどはいるのだが。
「で、これは一体?」
「なんでも、これがここの名物らしいです」
水族館の入館料を支払い中に入って、最初の魚のゾーンを抜けるとそこには不思議な景色が広がっていた。
通路を歩いているペンギンがいた。
周りの人たちはゆったりと歩くペンギンの写真を撮っており、真那は事前情報を仕入れていたのかそこまで驚いた様子はないが、士道は全く知らなかったので少し驚いた。
すると、一羽のペンギンが士道のそばにやってくる。それに対して真那は慌てた表情をする。
「兄様、退避を」
「え?」
「ここのペンギンの一部は人に近づく子がいるのですが、誤って触ってしまうと賠償金が発生します」
「なんでだよ」
「ペンギンの身に何かあったら一大事なので」
「だったら、通路歩かせるなよ!」
謎の水族館ルールにツッコミを入れながら移動すると、なぜかペンギンはそれでもついてくる。
そして、そのペンギンにつられて他のペンギンもついてくる。
真那はちゃっかり士道から離れそこから声をかける。
「ちなみに、二羽に触れると二羽分請求されるそうです」
「だからなんでだよ!」
「ペンギンが階段で躓いて怪我したら危ないということでスロープにバリアフリーされているのがこのフロアの特徴とのことです」
「どんだけ請求させたいんだよ!」
「ちなみにこちらの100円で買えるお魚をペンギンプールに投げると一目散にそちらに向かい難を逃れられるそうです」
「それが目的か!」
水族館の闇の一端への士道のツッコミがフロアに木霊したのだった。
~☆~
「ふぅ。とんでもない目にあった」
「真那もあそこまで大惨事になるとは思ってませんでした」
水族館を出た二人はショッピングモールの中にいた。
追いかけてきたペンギンは魚を購入して難を逃れようとしたが、一匹では足りず何匹も買う羽目になった事で長期戦になり、よくあることなのか周りの人はシャッターチャンスとばかりに写真を撮っていた。真那も触らぬ神に祟りなしとばかりに士道から距離を取っていたのも原因だが。真那が魚を購入していれば幾分かは士道も楽できたことだろう。
ペンギンを乗り越えた後は普通に展示の魚などを見たのだが、イルカのショーで水しぶきがかからないはずの位置にいたのに水しぶきが舞うタイミングで風が吹いて水しぶきを食らったり、お昼に買ったパンを空を飛んでいた鳥に奪われたりと何かと不幸に苛まれた。
そんな士道に真那は同情の目を向ける
「まあ、過ぎたことは仕方ねーんで切り替えていきましょう」
「いや、それは不幸な目に逢い続けた俺が言うことであって、隣でそれを見ていた真那が言うのは違くないか?」
「真那だって兄様の隣にいたせいで水しぶき食らいましたし、鳥に奪われないように慌ててパン食べる羽目になったんですから。というわけで、続いてはクリスマスセールしてることですし服買いてーですね」
ショッピングモールのお店を眺めて歩きながら真那は目についたお店を指さす。
そこにはクリスマスセールと大々的に書かれていた。
「珍しいな、真那が服買いたがるなんて」
「兄様。真那は女子なんですよ?女子はおしゃれをしないと死んじゃうのです」
「お、おう」
「なので、真那にクリスマスプレゼントをください」
「……誰かに影響されたのか?」
「この前やっていたドラマのヒロインがそう言って服をたかっていました」
「たかるって……」
基本ファッションに興味がそこまでない真那が珍しく服に興味を持ったかと思えば、ただ単にドラマに影響されただけ。
士道的には真那がドラマに影響されたとはいえファッションに興味を少しでも持ったならいい傾向だろうと思う。
そんなわけで、真那が指さしたお店に入ってみたのだが。
「なあ、明らかにここハロウィンの在庫処分かなんかだろ」
「そんな気がしてきました」
入り口には普通の服が合ったのだが、すぐに魔女のような服や、猫耳パーカー、うさ耳レインコート、チャイナ服、ゴスロリ、巫女服などのコスプレ衣装が多めになっていた。
明らかにこのお店のメインはコスプレ衣装感が漂っている。
「というわけで、他のお店行きましょう」
「ん?このお店で買うんじゃかなったのか?」
「何でですか!」
真那は普通の服がないから他のお店に行こうとしたが、士道的には面白くない。
ペンギンに追いかけまわされている時も面白がって士道を助けようとしなかった仕返しもしようかなという意地悪心で。
「ほら、この猫耳パーカーとかどうだ?」
「真那にそんなの似合うわけないじゃないですか!」
「じゃあ、このゴスロリ」
「それは論外です。なんというか拒否反応が。だったら猫耳パーカーの方がましです」
「そんなに嫌なのかよ」
なぜか真那はゴスロリに対して異常な拒否反応を示す。
昔、ゴスロリを着た誰かに何かされたのか、あるいは誰かに無理やり着させられた過去でもあるかのような。
というわけで、なぜかふざけて猫耳パーカーを進めたら、本当に買うことになり、それからは普通にショッピングモールの中のお店をウインドウショッピングしたり、必要なものを買ったりして過ごしたのだった。
精霊がいなくなり、精霊だった少女たちと出会わなかった世界のお話〜