「ん……」
翌朝、七罪が目を覚ますと、部屋の中にいいにおいが漂っていた。
体を起こすと、においは部屋の中心にある机のうえからしているようで、その机の方を向く。机の上には朝食が乗っており、そばにある椅子に座って本を読んでいる真那がいた。
七罪が起きたことに気づくと、栞を挟んで本を閉じる。
「おや、起きましたか。おはようございます、七罪さん」
「ん、おはよう。で、なんでいるの?」
七罪は挨拶を返したが、すぐに真那に聞いた。
「一緒に食べようと思いまして、朝食を持って来たんですけど」
『ピンポン』
真那の回答に、昨日おいて行ったウソ発見機が反応した。
「……付けっぱなしでしたか。でも、信じてはくれますよね?」
「なんで、そんなことするわけ?昨日も夕飯出たし。少し抜く分には問題ないでしょ?」
「いえ、監禁ではなく手当とか保護なので、三食出ますよ。とりあえず食べません?」
そう言って、朝食を食べるように促す。
七罪は頭を掻くと、椅子に移動する。
「……」
しかし、七罪は朝食に手を付けなかった。
「毒は入ってねーですよ」
『ピンポン』
「……うるさいんで、消しますね」
真那はなんで七罪が手を付けようとしないのか分かっているので、パンを食べながらそう言い、ウソ発見機の電源を切った。
真那が普通に食べているのを確認すると、七罪も朝食に手を付ける。
「……美味しい」
七罪は、ぼそっとそう呟いた。
「ところで、あなたたちの目的ってなんなの?」
「ん?ここの目的は精霊の保護らしいですよ。まぁ、私自身信用していませんが……」
七罪の質問に、パンを食べていた真那は飲み込んでから答えた。
「そう……というか言っちゃっていいの?」
「いいんじゃねーですか?口止めはされていませんし。他に聞きたいことありますか?わかる範囲でなら答えますが」
「ふーん。じゃぁ、私いつここから出られるの?」
「うーん。それは分かんねーですね。それを決めるのは、ここの人ですからね」
真那は部屋の隅のカメラに目を向けると、牛乳を飲んだ。
「まぁ、もうしばらくは、いてもらうことになりそうですが」
「そう」
「では、食器を片付けますか。行きますよ、七罪さん」
朝食を食べ終えると、そう言って真那は食器を持ち上げた。
「え?なんで?私は部屋出ちゃダメなんじゃ?」
七罪は真那の発言と行動に疑問を持つ。
「問題ねーですよ。ここは出口が一つしかないので……。それに、部屋に籠っているのも体に良くねーですし少しは歩きません?」
「そう、まぁいいわ」
七罪も食器を持つと立ち上がり、一緒に部屋を出る。
「少し歩きますか。私から下手に離れると、ここの人が捕まえようとするので」
食器を食堂?に返すと、歩きながら真那が伝えた。
「ふーん。まぁ、ついて行くわ。いまいち、ここの位置も分からないし」
「そうしてもらえると助かります」
二人は適当にぶらついて回った。
そして、特に何もない廊下を歩いている時だった。
「ここですね」
「どうしたの?」
真那がある部屋の前に立つと立ち止まり、ドアを開けると中に通された。
「目的の部屋に着きましたよ」
「ここは……」
「はい。お風呂です」
そこは、何処かの銭湯のような脱衣所だった。
「七罪さん、昨日お風呂に入っていないと聞いたので、朝来る前に頼んでおきました」
「ちなみに断ったら?」
「お風呂はなしで、部屋に戻されますね」
「はぁ、わかったわよ。入るわよ」
「そうですよ。それに挿絵はねーので、そのあたりの配慮もなされています」
真那はそう言って服を脱ぎ出したので、七罪も渋々服を脱ぐと、二人は浴室に入った。
十人は普通に入れそうな浴場だった。
「あ、二人ともおはよぉ」
そして、何故か湯船には千花がいて、リラックスしながら手を振っていた。
「なんでいるの?」
「ん?お風呂があって、気持ちよさそうだったからぁ?あとはちょうど私の家の菜園で作業してたからぁ」
「ただ単に、見張りの目を増やしただけよ」
疑問に疑問で返す千花に、七罪の後ろから琴里が入ってきてそう言った。
「体洗っちゃいましょう」
「まぁ、いいや。浴びよ」
真那は真那でシャワーを浴び始める。七罪もそう言って、隙を伺っている千花に警戒しながら、シャワーを浴びた。
身体を洗い終えると、七罪は湯船に浸かりながら呟く。
「ふぅ、疲れが取れる気がする」
「まぁ、あれだけ警戒していれば、それは疲れるでしょ」
「こんな大きなお風呂はいつ振りでしょうか」
「あぁー、毎日入りたい気分だねぇ」
四人は湯船に浸かって、落ち着いていた。
「ねぇ、琴里だっけ?私はいつになったら、ここを出れるの?」
「そうね。あなたの傷が完治して、安全が確立した時かしら?」
「つまり、未定、か」
「まぁ、近いうちに出られるよぉ」
七罪の質問に琴里が答えたが、七罪の望む答えではなかった。千花は千花で、希望的観測を言った。
その後、無言の時間が続いた。
「私、もう出ますね」
「もう、無理ぃ。のぼせるから出るねぇ」
「あ、私も出る」
「そう。じゃぁ、私も出ようかしら」
四人が浴室から出ると、身体を拭いて服を着た。
カサカサに乾燥気味だった七罪の肌は、だいぶ元に戻っていた。
どうやら、美白とか、肌を潤わせるとかの効能があったようだった。
「じゃぁ、行こぉ」
「どこに?」
「とある部屋よ」
千花に聞くと、琴里が答えた。
歩くこと数分。目的の部屋に着いたようで三人が部屋の前で止まる。中に入ると、七罪は部屋を見渡す。壁には大きな鏡があり、そこに向き合う形で大きな椅子があった。
「ここは……?」
「美容室だよ」
椅子の近くには士道がいて、その隣には黒髪の長い女性がハサミなどを準備していた。
士道が言った言葉に混乱した七罪。
「ちょっと待って何で、美容室?――」
そこで、ハッとすると、士道たちの狙いに気付いた。
「は……ははっ。そういうことね。勘違いブスの滑稽な姿を笑おうって事ね?いい趣味しているわね、あなたたち性根が……」
「ていっ!」
「いたっ」
七罪の言葉の途中で、琴里がチョップを食らわした。
七罪は思わずうずくまり、抗議の目を向ける。
「なにするのよぉ!」
「これは、ネガティブと被害妄想を何とかしないといけないわね。とりあえず座りなさい。この後も予定があるから」
「嫌よ。なんで笑われるってわかっていてそんなことを。どうせ笑いものにする気でしょ?」
「そんなつもりねーですよ」
『ピンポン』
「「「「「……」」」」」
唐突に響いた、最近聞いた音。
音源の扉を見ると、ウソ発見機を持った千花が立っていた。
「でも、後から笑う可能性があるわよ。未来はそれでは測れないんでしょ?」
「うん、そうだねぇ。未来は変えられるねぇ」
『ピンポン』
千花は嘘をつくことなく言った。そして、士道は頭を掻く。
「じゃぁ、俺たちは今日、七罪に考えられるだけの『変身』をさせる。それで、七罪が納得したら俺たちの話を聞いてほしい。もし、失敗したら七罪の好きにしてもらう」
「……どういうこと?」
「そうだな。おまえがここを出られるってとこか?」
「……!」
士道の言葉に驚いた。琴里も意外だったのか、
「ちょっと、士道」
「いいだろ?無理強いするのもかわいそうだし。どうだ、七罪。悪くない話だと思うけど」
「……」
士道の腹を探るように目を細めた。
(どうせ、もう逃げられるけど、霊力を封印された精霊二人に魔術師一人を振り切るのは難しい。だったら、この話に乗って安全に出た方が……。どうせ向こうに勝機は無いし)
七罪は逡巡する。
「……わかった。それならいいわ」
「そうか。――じゃぁ、椅子に座ってくれ。椎崎さんお願いしますね」
七罪の答えに士道がそう言うと、髪の長い女性、<
「えぇ、任されました。とりあえず、切りますね。その枝毛や、多くなった髪は切らないと、髪が痛みますよ?」
そう言いながら、ハサミで髪を切っていく。
数十分すると、枝毛だらけの七罪の髪が、きれいに整えられていた。
「うそ……すごい」
「ふぅ、切るのはこんなところでしょうか」
椎崎はそう言うと、ドライヤーと櫛で、七罪の髪をブローしていく。
すると、寝癖だらけの髪が信じられないくらいふわりと軽くなっていた。
「椎崎、お疲れさま。助かったわ」
「いえ、お役に立てたのなら何よりです」
そう言うと、椎崎は本来の仕事に戻って、部屋を出た。
「さて、次の部屋に行くわよ」
次の部屋、七罪は眉をひそめた。
「じゃぁ、いきますか」
真那が七罪の手を掴むと、そのまま歩き出す。
七罪も渋々ついて行く。
その後ろに琴里と千花もついてくる。
士道はここの片づけをしていた。
次の部屋には、たくさんの服やスカート、ズボン、帽子などがあった。
いわゆる、セレクトショップと呼ばれる店に似ていた。
「じゃぁ、着せる服選ぼうかぁ」
「真那はあまり、選り好みしないんですけどねー」
「さぁ、あなたも選びなさい。早くしないと着せ替え人形にされるわよ」
そう言って、千花と真那は服を物色し始める。
琴里もそう言って、服を見始めた。
「これは、どうかなぁ?可愛いよねぇ」
千花がとったのは、フリルの多い服だった。
「いえ、動きやすさも重視するべきです」
真那は、いつも着ているようなシャツやパーカーを手に取っていた。
「でも、今の時期には少し寒いんじゃないの?」
そう言って、琴里は上着を手に取る。
「まぁ、冗談はこれくらいにして、これかなぁ?」
千花はさっき持っていた服を戻して、長めの紺のスカートを手に取り、
「とりあえず、この辺の着てみるのはどうですか?」
そう言って、三人が持っていたのを七罪に渡した。
「え……でも……」
「うん、やっぱりさっきのもいいよねぇ」
七罪の煮え切らない態度を、違う服がいい、と受け取った千花はフリルの服を手に取った。
「……」
七罪は無言で服を持って、更衣室に入る。流石にフリルの付いた服は着たくなかった。
「はぁ、なんでこんなことに……」
七罪は来ている服を脱いで、シャツとスカート、その上に上着を羽織った。
「まだぁー」
「渋っているなら、強硬策を」
千花と琴里の声が聞こえてきた。
七罪も覚悟を決めて、そろそろとカーテンを開けた。
「う……」
七罪は目をきゅっと瞑り、奥歯を噛みしめた。やがて、三人の嘲笑めいた声が――
「いい感じですかね」
「うーん、もう少し、明るい感じの方がいいかしら?」
「似合ってはいるけど、確かに明るい色の方がいいかなぁ」
――聞こえてこなかった。
「……ん?」
七罪が恐る恐る目を開くと、真剣に七罪の服を考えている三人がいた。
「えっと……」
反応に戸惑っていると、千花が白いロングスカートを持って来た。
「次これねぇ。それとも七罪ちゃんも選ぶぅ?」
「えっと。うん」
「では、選びましょう」
それから、一時間ほど七罪の服選びが行われた。
「こんなところでしょうか?」
「いいんじゃない」
「うん、これだねぇ」
三人が納得したように言った。
今の七罪は、オレンジのT‐シャツの上に黒いパーカー、紺のスカートという恰好をしていた。
すると、扉が開き令音が入って来た。
「琴里、悪いが後はみんなに任せて、こっちに来てくれ。DEMに動きがあったようだ」
「そう。……じゃぁ、後は任せたわ。何かあったら、連絡してね」
「わかりましたよ。任せてください」
真那がそう返すと、琴里は部屋を出た。
「じゃぁ、最後の部屋に行こうかぁ」
そして、千花がそう言った。
「一体何が……?」
そう言いながら、最後の部屋に行った。
そこは七罪が元々いた部屋だった。
そして、長い髪を四つ葉のクローバー型のヘアピンを付け、首にチョーカーを付けた少女がいた。
「よく来ましたね。ここが最後の部屋です」
「何をするのよ」
「それは――私のメイクで変身させます」
そして、少女が七罪にリップグロスを突きつける。
「そんなんで、変身できるわけ……」
「いえ、できますよ。ね、兄様」
七罪が否定しようとしたのを、さらに真那が否定した。
「何言って……ん?兄様?まさか、士道君?」
少女を凝視する七罪。
なんとなく士道の髪が伸びたら似ている気がした。
『いえ、私は士織です』
『ブッブー』
「……」
少女が否定したが、それをウソ発見機が否定した。
「……そうだよ。士道だよ」
『ピンポン』
士道は首に付けていたチョーカーを取ると、自棄になって言い、ウソ発見機の電源を切った。
「へ、変態……ッ!?」
「……」
「おお、兄様が傷ついています」
「まぁ、否定はできないよねぇ。一人でやったわけだしぃ」
二人はそんなことを言っていた。
『ふぅ、士道に頼まれたとはいえ面倒ですね』
若干呆れながら、鞠亜の声が響き、テレビがついて現れた。
「あぁ、そうだな、鞠亜。とにかく、俺の技術なら、男を女と誤認させるレベルになった。だから、七罪に自信を持たせることが出来る!」
「まぁ、いいわ。でも、私が納得できなかったら、あなたたちの負けだからね」
「ああ、分かっているよ」
「とりあえず、その姿でその声出さないで……」
「……」
士道は無言でチョーカーを首につけた。
「始めるぞ」
女っぽい声になり、七罪のメイクが行われていった。
「ふぅ、こんなところだな」
少し時間が経つと、士道がそんなことを言った。
「もう完成なの?あっさりしているのね」
「ん?だって、元がいいんだから、そんなにする必要は無いからな。それに完璧だ!ほら」
「なによ」
七罪が振り向くと、真那と千花と鞠亜が驚いたような顔をしていた。
「な、なんなのよ?」
動揺した声で、七罪が言うと、千花が部屋にあった鏡を指差した。
鏡を見て、七罪は驚いた。
「これが、私?」
「はい、間違いなく七罪さんですよ」
「うん可愛いねぇ」
『私もそう思います』
皆も、肯定した。
「どうだ?七罪?」
(これが私?可愛いと思う。でも、こんなの嘘よ。……そう、これは夢なんだ。だから、私が可愛くなったんだ。うん、そうだ。これは夢。よし、一回外の空気を吸おう)
「……う、あ、あぁぁぁー」
すると、何が何だか分からなくなり、頭がパニックして、七罪は大声を上げて部屋の外に走っていった。
~☆~
あの後、七罪は部屋を出てすぐ、パニックしていたこともあって転び、頭を壁に打ち付け気を失った。
「ん……」
ふと目を覚ますと、七罪はベッドに寝ていたが、今日あったことを思い出した。
「夢じゃないの、か」
七罪は辺りを見回す。
壁際には、簡易の机があり、いつ起きても食べられるように、パンが置いてあった。
「本当に何がしたいのやら。ん?」
一人呟くと、七罪は立ち上がり、自分の身体を見ると傷が完治していることに気付いた。
「もう、ここにいる必要もないよね?裏切られる前に出よう」
七罪はここからの脱出を決心すると、行動に出た。
「<
ベッドにぬいぐるみを詰めて変わり身を作ると、<贋造魔女>でロックされた扉を鍵のない扉にして、七罪は部屋を出た。
機関員が、七罪がいなくなったのに気付いたのは、翌日の朝のことだった。
タイトルの通り、九巻のあれを今いるメンバーたちでやるという回でした。(マッサージの部分は文量の問題でカットというか、お風呂の部分ということで)